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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 9 ②
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「行人が過度に緊張しない相手ってなると、二年の子たちより篠原のほうがいいかなと思って。あいつ、面倒見良いし、気配りもきくし」
「……まぁ」
「気配りがきくっていう意味では、向原でもべつによかったんだけど。行人が怖がるかなと思って」
「今の向原さんとふたりにされて、怖くない一年いないでしょ……」
「そうかな。水城くんとか喜びそうだけど」
冗談になっていないという無言の抗議はそのままに、視線を手元に戻す。もともと、そこまで冗談のつもりもない。
引き継ぐものがまだ残っているなと残り一月の算段をつけつつ整理していると、あのさ、と皓太がまた話しかけてきた。
「なんか、最近、自分でもすごい疑り深いっていうか、面倒な考え方してる自覚はあるんだけど」
「ん? うん」
「成瀬さん、榛名が入ってきたら、俺にまとわりつかれなくなって動きやすいとか思ってない?」
「思ってない、思ってない」
疑り深いというより、自分に対する信用度の低下のような気もするが。苦笑まじりにそう否定する。
「それより、皓太、行人の話ちゃんと聞いてやらなかったろ。怒ってたぞ。まぁ、かわいかったけど」
「……」
「さっきも言ったけど。皓太が心配してることも本人なりにいろいろと考えた上で、力になりたいって思ってくれてるわけだから。すごくありがたいことだと思うけど」
それは、まぁ、わかってるけど、と言わんばかりの沈黙に、成瀬もまた小さく笑った。
信頼できる仲間をつくるべきとした助言も忘れているわけではないのだろうが。
――小さいときに構いすぎた弊害だな、本当に。
「わかってると思うけど、いつまでもこの体制なわけじゃないしね。それとも、卒業するまで特別顧問みたいな顔して居座ろうか? 俺が」
「やめて」
本気で嫌そうに拒絶を示した皓太が、そこでひとつ溜息を吐いた。
「なんか、成瀬さんは、本当に成瀬さんだね」
「なにが?」
嫌味半分といったふうなそれに、笑ってそう返す。流れた沈黙はそう長くなかった。
「いや、まぁ、よかったなって」
呆れたふうでもあったけれど、安堵の混ざった声。
「とくに、なにも変わりないみたいで。安心した」
その言葉に、そう、と成瀬は笑って頷いた。
「よかった」
自分のことを昔から知っている、聡い幼馴染みの目にそう映っているのなら。本当に良かった。
*
「なにも変わりない、か」
ひさしぶりに足を向けた屋上で、煙草の紫煙を吐いて、成瀬はそっとひとりごちた。
完全にひとりになることができるという点では、寮の自室で過ごせばいいのかもしれないが、それはそれで最近はどうにも落ち着かないし、そうでなくとも、籠り過ぎていると、余計な憶測をされかねない。
そういう意味でも、適当に場所を変えて外で過ごすほうが、いくらか気は楽だった。
生徒会室で言ってみせたとおりで、「まとわりつかれる」こと自体を嫌だとも面倒だとも思っているわけではないものの、そばにいると気は張るし、それに――。
――まぁ、でも、気づかなかったんだから、あのころよりマシだってことだよな。
休暇に入る前のことだ。うっかり目の前でふらついてしまったことがあった。あのころほどのひどさにはまだなっていない。
――それも、あくまで、今は、なんだよな。
次の変調が見られそうになったときのことは、覚悟しておかないとならないのだろう。溜息の代わりに吸いさしを口に運んだタイミングで、めったと開かないはずの屋上の扉が開いた。
視線を向けると、目が合った茅野がわずかに驚いた顔をした。
「入るならドアは開けたままのほうがいいのか? それともいっそ会長の素行不良は見なかったことにして、立ち去ったほうがいいのか?」
「……まぁ」
「気配りがきくっていう意味では、向原でもべつによかったんだけど。行人が怖がるかなと思って」
「今の向原さんとふたりにされて、怖くない一年いないでしょ……」
「そうかな。水城くんとか喜びそうだけど」
冗談になっていないという無言の抗議はそのままに、視線を手元に戻す。もともと、そこまで冗談のつもりもない。
引き継ぐものがまだ残っているなと残り一月の算段をつけつつ整理していると、あのさ、と皓太がまた話しかけてきた。
「なんか、最近、自分でもすごい疑り深いっていうか、面倒な考え方してる自覚はあるんだけど」
「ん? うん」
「成瀬さん、榛名が入ってきたら、俺にまとわりつかれなくなって動きやすいとか思ってない?」
「思ってない、思ってない」
疑り深いというより、自分に対する信用度の低下のような気もするが。苦笑まじりにそう否定する。
「それより、皓太、行人の話ちゃんと聞いてやらなかったろ。怒ってたぞ。まぁ、かわいかったけど」
「……」
「さっきも言ったけど。皓太が心配してることも本人なりにいろいろと考えた上で、力になりたいって思ってくれてるわけだから。すごくありがたいことだと思うけど」
それは、まぁ、わかってるけど、と言わんばかりの沈黙に、成瀬もまた小さく笑った。
信頼できる仲間をつくるべきとした助言も忘れているわけではないのだろうが。
――小さいときに構いすぎた弊害だな、本当に。
「わかってると思うけど、いつまでもこの体制なわけじゃないしね。それとも、卒業するまで特別顧問みたいな顔して居座ろうか? 俺が」
「やめて」
本気で嫌そうに拒絶を示した皓太が、そこでひとつ溜息を吐いた。
「なんか、成瀬さんは、本当に成瀬さんだね」
「なにが?」
嫌味半分といったふうなそれに、笑ってそう返す。流れた沈黙はそう長くなかった。
「いや、まぁ、よかったなって」
呆れたふうでもあったけれど、安堵の混ざった声。
「とくに、なにも変わりないみたいで。安心した」
その言葉に、そう、と成瀬は笑って頷いた。
「よかった」
自分のことを昔から知っている、聡い幼馴染みの目にそう映っているのなら。本当に良かった。
*
「なにも変わりない、か」
ひさしぶりに足を向けた屋上で、煙草の紫煙を吐いて、成瀬はそっとひとりごちた。
完全にひとりになることができるという点では、寮の自室で過ごせばいいのかもしれないが、それはそれで最近はどうにも落ち着かないし、そうでなくとも、籠り過ぎていると、余計な憶測をされかねない。
そういう意味でも、適当に場所を変えて外で過ごすほうが、いくらか気は楽だった。
生徒会室で言ってみせたとおりで、「まとわりつかれる」こと自体を嫌だとも面倒だとも思っているわけではないものの、そばにいると気は張るし、それに――。
――まぁ、でも、気づかなかったんだから、あのころよりマシだってことだよな。
休暇に入る前のことだ。うっかり目の前でふらついてしまったことがあった。あのころほどのひどさにはまだなっていない。
――それも、あくまで、今は、なんだよな。
次の変調が見られそうになったときのことは、覚悟しておかないとならないのだろう。溜息の代わりに吸いさしを口に運んだタイミングで、めったと開かないはずの屋上の扉が開いた。
視線を向けると、目が合った茅野がわずかに驚いた顔をした。
「入るならドアは開けたままのほうがいいのか? それともいっそ会長の素行不良は見なかったことにして、立ち去ったほうがいいのか?」
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