パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 10 ⑤

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 ――そう思うと、篠原先輩の「誰でもできる」も、めちゃくちゃハードル高い気がしてきたな。

 総合値のやたらと高い先輩基準の「誰でもできる」なのだとしたら。だが、まぁ、しかし、やると決めた以上は足を引っ張らないように努力するしかない。

 ……あと、そのせいで、勉強の成績落とすってことも、絶対ないようにしないと。

 高藤に、ほら見たことかという顔をされる予感しかしない。午後からの授業は寝ないようにおのれに言い聞かせていると、「そういえば」と四谷が再び話を振ってきた。

「知ってる? 水城の話」
「水城の話?」

 これも交友関係の差というやつなのかもしれないが、四谷は昔からいろいろなことを知っている。
 噂話なんてくだらないという気持ちは今もあるものの、そういったものの中に重要なことが紛れていることもわかるようになった。
 そうして、四谷が話してくれるもののほとんどは、自分か、あるいは高藤にとって有益と判断したものだと気がついたので、最近の行人は、ありがたく耳を傾けるようにしていた。

「なんか、前と違って、けっこう最近はひとりで行動してることが多いんだって。べつに、それは、俺はどうでもいいんだけどさ。ちょっとやばい感じらしいよ」
「やばい感じ? ……え、なに。また、なんかやってんの?」

 一学期中にあったもろもろを思い返して、思わず顔をしかめた行人に、うーん、と微妙な表情で四谷が首をひねった。

「やってるっていうか、逆っていうか」
「逆?」

 問い重ねた行人に、周囲を気にするように四谷が声のボリュームをさらに落とす。

「実際、なに考えるのかは俺は知らないけど、新学期入ってから、やけに大人しいのは事実らしいし。楓寮は、ほら、いろいろあったからさ、前の寮長のこととか、さすがに責任感じてるんじゃないのかな、みたいな」
「……」
「ことを言ってる人は、それなりにはいるかも。まぁ、俺は、そんなことに責任感じる性格はしてないと思うんだけどねぇ。どっちかって言うと、なんでだって逆切れしてるほうが想像しやすいっていうか」

 たしかに、行人のイメージするところの水城もそんな感じだ。苦笑ひとつで頷く。

「とりあえず、よくわかんないけど、ひとり行動が増えたことは事実らしくて。前はさ、けっこうがっちり親衛隊みたいなアルファが周囲を固めてたから、近づこうにも近づけなかったじゃない? でも、今なら簡単に近づけるって思ってる連中もいるってこと」

 近づける、と思わず行人は語尾を繰り返した。言いたいことは、わかる。でも――。

 ……なんか、やだな。それ。

 これも、一学期の話だ。あれほどオメガであるということを主張して、水城はなにかあったらどうする気なのだろう、と高藤に聞いてみたことがある。
 同じ性を持つ者として、水城の行動は理解しがたくて、でも、同時に気にかかってもいたからだ。一種の仲間意識というやつなのだろうか。
 高藤は、変なところで人が良い、みたいな顔をしていたけれど。

「だから、危ないってことだよ。実際、ちょっと危ない目に遭いかけたこともあるらしいよ。……ま、今までの思わせぶりな言動を思えば、自業自得っていう感じもしなくはないけど」

 言葉も表情も選べなくて、曖昧に頷く。四谷も、それ以上批判を含まらせることはなかった。だから、とあくまで忠告の調子でこう続ける。

「そういう状況らしいからさ。前とは違う意味で近づかないほうがいいよ。うっかり巻き込まれたりなんて、したくないでしょ?」
「……まぁ、それは」
「でしょ。それだけ。余計なお節介かもだけど、なんか、ほら、前も一回ばったり会ったとき、水城、やたら榛名に愛想良くしてたから。ちょっと気になって。なに言われても、というか、困ってるって泣きつかれても、絶対、甘い顔しないほうがいいよ」

 うん、と頷いたところでチャイムが鳴った。じゃあね、と軽く手を振って四谷が自分の席に戻って行く。
 義務的に教科書を取り出しながら、行人はやるせなく息を吐いた。
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