パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 13 ③

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 薄暗がりではほとんどわからなかったが、明かりの下で見ると気づく程度には、唇の端が切れている。

「腹殴るのも陰湿だと思うけど、顔は顔で目立つ。やめとけばいいのに」
「自己顕示欲だろ、ただの」
「……そこまでわかってて、殴らせてやるのもどうかと思う」

 どこまでもあっさりとした返答に、知らず溜息を呑み込んだ。
 やっていることが、中等部のころから――あるいは、自分が知るより以前の、ここに来る前のころから、なにひとつ変わっていない気がしたからなのだろうか。
 妙な頑なさにもやりとして、口を挟むつもりのなかったことを成瀬は言った。

「ガス抜きって向原はよく言うけど。いいかげん、もうちょっと落ち着いたやり方にしたら?」
「一番手っ取り早いんだよ。こっちも多少は発散になる」
「発散って」

 失笑したところで、それ以上は胸中に留めた。それこそ今の自分がどうのこうのと言うことでもない。
 篠原がやり過ぎだと気にしていると言うのも、さすがに卑怯だろう。

 ……それに、苛立たせてんのも、溜め込ませてんのも、俺なんだろうし。

 そうであるという自覚は、最低限持っていた。

「なぁ」

 逡巡を脇に置いて、呼びかける。

「行ってないと思うけど。さすがにこの時間に、中等部のほうにまで顔出すなよ」

 口を出すことではないが、それでも、やはりこれだけは言っておきたかったのだ。
 本当は、自分のために動いている、なんて、思いたくはない。昔のころと同じ、そうなるほうがおもしろいからやっている、というスタンスのままだと思い込むほうが、ずっと楽だ。でも。
 なにも言わない向原に代わって、成瀬は続けた。

「水城が中等部によく顔出してるって聞いたから」
「茅野?」
「従弟と最後に顔合わせたの、向こうが物心つく前じゃないかなって言ったら、なんとも言えない顔してたけど。そんなに遠いところにも住んでないだろうって。そういうとこまともだよな、あいつ」

 困惑していた表情を思い出して、ふっと小さく笑う。
 見えないところでの苦労はきっとあるのだろうが、それでも。まともな家で育った、まともな感性を持った人間に見えるところが、不思議と成瀬は好きだった。

「へぇ」

 先ほどと同じ、なんの興味もなさそうな返事だった。それだけ、ともう一度笑って、話を終わらせる。
 ほら、やっぱり、とも思う。

 ――だから、俺がなに言っても、聞かないんだって。
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