パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 15 ①

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[15]


 少し前の活気のなさが嘘のように、一年生のフロアからは和気あいあいとした声が響いている。
 フロアの談話室で、選挙活動の作業をしているのだろう。漏れ聞こえるほほえましさに、成瀬は階段の踊り場で足を止めた。

 ――でも、こうあるべきだったんだよな。

 みささぎ祭の準備期間を経て、寮の同級生や上級生との距離を縮めていくことが、本来のスタンダードだったのだ。
 学内の雰囲気の悪化に伴い、ギスギスとしたものになってしまっていたのだから、申し訳なかったという思いはもちろん持っている。

 ――一番、気楽に楽しめるはずの時間だったのにな。

 すぐに受験だなんだと違う要因で頭を悩ませることになるのだ。けれど、選挙が問題なく終われば、少しは落ち着いた時間を取ることもできるかもしれない。
 そう思い切って、階段に足をかける。そのタイミングで呼び止められて、成瀬はフロアに続く廊下を振り返った。

「皓太」
「珍しいね、この時間に寮にいるの」
「そんな毎日どこかに行ったりなんてしてないから。皓太こそ、いいのか? 談話室、みんな集まってくれてるんだろ」

 姿が見えたからと言って、わざわざ声をかけに来なくてもいいだろうに。声のするほうに視線を向けると、同じように目をやった皓太が、あぁ、と小さく笑った。どこかうれしそうに。

「もちろん顔は出すけど。最近は、けっこう榛名ががんばってやってくれてるから」
「へぇ、行人が」
「うん。荻原がだいぶカバーしてくれてる気はするんだけど。でも、本当、いろいろ考えてくれてるみたいで、びっくりしたけど、助かってるかな」
「よかったな」

 ひさしぶりに見たような気がする年相応な顔に、成瀬もほほえんだ。自分でやると言ったこととは言え、抱え込みすぎていないか、心配していたのだ。

「まぁ、することいっぱあるけど。ほら、前に、成瀬さん、ちゃんと仲間はつくったほうがいい、みたいなこと言ってくれてたでしょ」
「あぁ、言ったな。休みに入る前だろ」
「そう。そのときも、それはそうだなとは思ってたんだけど。なんていうか、榛名だけじゃないけど、実際に手伝ってもらうとありがたみが増すなと思って」
「そっか」

 それならよかったな、ともう一度繰り返す。

「ほっとした」

 本心だった。同じ寮の一年生全員が同じ気持ちでやっているわけではもちろんないだろうが、それでも、協力してくれる寮生がいるとはっきりわかるだけで、心強くはあるだろう。
 談話室のほうから聞こえた少し大きくなった声に、ほら、と成瀬は背を押した。

「皓太も行ってきな。待ってくれてるんじゃない?」
「そうするけど。……あの」
「ん?」
「向原さん、大丈夫? その、左手。けっこう大きい傷テープ貼ってたけど」

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