パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 16 ①

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[16]


 この学園に入ろうと決めた理由の半分以上は意地だった。
 ここに入ってなにかを学びたかったというわけではない。ただ、ごく当然と受験して合格したアルファの兄のように、自分も同じようにできると証明してみたかったのだ。
 行人の父はアルファで、母はオメガだ。ふたりはいわゆる「運命のつがい」というやつで、ごく当然と愛し合っていて。アルファである兄とオメガである行人を差別することなく、ごく当然と愛してくれていた。
 けれど、「お兄ちゃんみたいにできなくてもいいのよ」と宥められるたびに、オメガだからできなくてもしかたがないのだと言われているみたいで。それがどうしようもなく嫌で、だから、背伸びをした受験をした。


 ――でも、よかったな、背伸びして。

 夜の寮の部屋で机に向かいながら、ふと行人はそんな昔のことを思い出していた。
 もちろん、背伸びをしたせいで、受かってからも勉強についていくことは本当に大変だった。今も大変だ。
 けれど、積み上げた学力は必ず自分のためになるはずだと行人は信じている。だから頑張っていきたいと思っているし、学生寮で過ごした時間も、自分にとって必要なものだったのだと思っている。

 ――それは、まぁ、嫌なこともたくさんあったけど、でも、たぶん、ちょっとは大人になれたと思うし。

 ひとりでも生きていける、なんて。尖ったことは、必要以上にはもう思わなくなった気がしている。
 もちろん、自分ひとりで生きていくことのできるだけの力はつけたいと思っている。ただ、それがイコール誰も頼らないことではないのだということが、ようやく少し腑に落ちたのだ。

 ――でも、それって、完全に、俺個人のことだしなぁ。

 いや、まぁ、交流が増えて、そう思うことができるようになったわけなのだから、高藤のおかげと言えばおかげなのかもしれないけれど。
 白紙の用紙を前に唸る。真面目に悩めば悩むほどわからなくなってきて、行人は、はぁと深い溜息を吐いた。

 そもそもの発端は、数日前。立会演説会で応援演説をすることになっている荻原に、せっかくだから、榛名ちゃんもちょっと考えてみない、と誘われたことだった。
 もちろん、俺が責任持って文章はまとめるけど、榛名ちゃん、選挙活動すごく頑張ってたでしょ。プライベートの部分を一番見てるのも榛名ちゃんだと思うし、その上で、なんで高藤を推したいのか言語化してみてよ、と。そう言われたのだ。
 参考にしたいし、と荻原は言っていたけれど、そのあとに言っていた、榛名ちゃんにとっても言語化するのはいいことだと思うよ、という部分が本音である気がしている。

 ――本当、お節介だよな、荻原って。

 わかっていても断ることができなかったのは、やってみてもいいかなという気持ちが少し湧いたからだった。
 自分のことを誰かに伝えることは苦手だ。もっとそもそもで言うと、コミュニケーション自体がうまくない。
 でも、苦手という旗を掲げて、避け続けるわけにはいかないのだと、最近ようやく思うことができたのだ。

 ……だから、絶対、今日、なんとしてでも書かないと。

 三年生たちと話をしてくるから、と言って、部屋を空けている今夜が、立会演説会までの時間を考えても、ラストチャンスだ。
 そう言い聞かせて、行人はペンを握り直した。

 はじめて会ったとき、あぁ、アルファだな、と思ったことを行人は覚えている。
 優秀で、きっと自分にはなにも勝てるもののない、アルファの中でも、たぶん優れたアルファ。
 それなのに、態度の悪い自分に気を悪くするでもなく、声をかけてくるのだ。性格まで良いときたら、勝てるものなど本当になにもない。
 ここぞと劣等感を刺激してくるアルファ。だから、行人は高藤が嫌いだった。
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