409 / 484
第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 16 ①
しおりを挟む
[16]
この学園に入ろうと決めた理由の半分以上は意地だった。
ここに入ってなにかを学びたかったというわけではない。ただ、ごく当然と受験して合格したアルファの兄のように、自分も同じようにできると証明してみたかったのだ。
行人の父はアルファで、母はオメガだ。ふたりはいわゆる「運命のつがい」というやつで、ごく当然と愛し合っていて。アルファである兄とオメガである行人を差別することなく、ごく当然と愛してくれていた。
けれど、「お兄ちゃんみたいにできなくてもいいのよ」と宥められるたびに、オメガだからできなくてもしかたがないのだと言われているみたいで。それがどうしようもなく嫌で、だから、背伸びをした受験をした。
――でも、よかったな、背伸びして。
夜の寮の部屋で机に向かいながら、ふと行人はそんな昔のことを思い出していた。
もちろん、背伸びをしたせいで、受かってからも勉強についていくことは本当に大変だった。今も大変だ。
けれど、積み上げた学力は必ず自分のためになるはずだと行人は信じている。だから頑張っていきたいと思っているし、学生寮で過ごした時間も、自分にとって必要なものだったのだと思っている。
――それは、まぁ、嫌なこともたくさんあったけど、でも、たぶん、ちょっとは大人になれたと思うし。
ひとりでも生きていける、なんて。尖ったことは、必要以上にはもう思わなくなった気がしている。
もちろん、自分ひとりで生きていくことのできるだけの力はつけたいと思っている。ただ、それがイコール誰も頼らないことではないのだということが、ようやく少し腑に落ちたのだ。
――でも、それって、完全に、俺個人のことだしなぁ。
いや、まぁ、交流が増えて、そう思うことができるようになったわけなのだから、高藤のおかげと言えばおかげなのかもしれないけれど。
白紙の用紙を前に唸る。真面目に悩めば悩むほどわからなくなってきて、行人は、はぁと深い溜息を吐いた。
そもそもの発端は、数日前。立会演説会で応援演説をすることになっている荻原に、せっかくだから、榛名ちゃんもちょっと考えてみない、と誘われたことだった。
もちろん、俺が責任持って文章はまとめるけど、榛名ちゃん、選挙活動すごく頑張ってたでしょ。プライベートの部分を一番見てるのも榛名ちゃんだと思うし、その上で、なんで高藤を推したいのか言語化してみてよ、と。そう言われたのだ。
参考にしたいし、と荻原は言っていたけれど、そのあとに言っていた、榛名ちゃんにとっても言語化するのはいいことだと思うよ、という部分が本音である気がしている。
――本当、お節介だよな、荻原って。
わかっていても断ることができなかったのは、やってみてもいいかなという気持ちが少し湧いたからだった。
自分のことを誰かに伝えることは苦手だ。もっとそもそもで言うと、コミュニケーション自体がうまくない。
でも、苦手という旗を掲げて、避け続けるわけにはいかないのだと、最近ようやく思うことができたのだ。
……だから、絶対、今日、なんとしてでも書かないと。
三年生たちと話をしてくるから、と言って、部屋を空けている今夜が、立会演説会までの時間を考えても、ラストチャンスだ。
そう言い聞かせて、行人はペンを握り直した。
はじめて会ったとき、あぁ、アルファだな、と思ったことを行人は覚えている。
優秀で、きっと自分にはなにも勝てるもののない、アルファの中でも、たぶん優れたアルファ。
それなのに、態度の悪い自分に気を悪くするでもなく、声をかけてくるのだ。性格まで良いときたら、勝てるものなど本当になにもない。
ここぞと劣等感を刺激してくるアルファ。だから、行人は高藤が嫌いだった。
この学園に入ろうと決めた理由の半分以上は意地だった。
ここに入ってなにかを学びたかったというわけではない。ただ、ごく当然と受験して合格したアルファの兄のように、自分も同じようにできると証明してみたかったのだ。
行人の父はアルファで、母はオメガだ。ふたりはいわゆる「運命のつがい」というやつで、ごく当然と愛し合っていて。アルファである兄とオメガである行人を差別することなく、ごく当然と愛してくれていた。
けれど、「お兄ちゃんみたいにできなくてもいいのよ」と宥められるたびに、オメガだからできなくてもしかたがないのだと言われているみたいで。それがどうしようもなく嫌で、だから、背伸びをした受験をした。
――でも、よかったな、背伸びして。
夜の寮の部屋で机に向かいながら、ふと行人はそんな昔のことを思い出していた。
もちろん、背伸びをしたせいで、受かってからも勉強についていくことは本当に大変だった。今も大変だ。
けれど、積み上げた学力は必ず自分のためになるはずだと行人は信じている。だから頑張っていきたいと思っているし、学生寮で過ごした時間も、自分にとって必要なものだったのだと思っている。
――それは、まぁ、嫌なこともたくさんあったけど、でも、たぶん、ちょっとは大人になれたと思うし。
ひとりでも生きていける、なんて。尖ったことは、必要以上にはもう思わなくなった気がしている。
もちろん、自分ひとりで生きていくことのできるだけの力はつけたいと思っている。ただ、それがイコール誰も頼らないことではないのだということが、ようやく少し腑に落ちたのだ。
――でも、それって、完全に、俺個人のことだしなぁ。
いや、まぁ、交流が増えて、そう思うことができるようになったわけなのだから、高藤のおかげと言えばおかげなのかもしれないけれど。
白紙の用紙を前に唸る。真面目に悩めば悩むほどわからなくなってきて、行人は、はぁと深い溜息を吐いた。
そもそもの発端は、数日前。立会演説会で応援演説をすることになっている荻原に、せっかくだから、榛名ちゃんもちょっと考えてみない、と誘われたことだった。
もちろん、俺が責任持って文章はまとめるけど、榛名ちゃん、選挙活動すごく頑張ってたでしょ。プライベートの部分を一番見てるのも榛名ちゃんだと思うし、その上で、なんで高藤を推したいのか言語化してみてよ、と。そう言われたのだ。
参考にしたいし、と荻原は言っていたけれど、そのあとに言っていた、榛名ちゃんにとっても言語化するのはいいことだと思うよ、という部分が本音である気がしている。
――本当、お節介だよな、荻原って。
わかっていても断ることができなかったのは、やってみてもいいかなという気持ちが少し湧いたからだった。
自分のことを誰かに伝えることは苦手だ。もっとそもそもで言うと、コミュニケーション自体がうまくない。
でも、苦手という旗を掲げて、避け続けるわけにはいかないのだと、最近ようやく思うことができたのだ。
……だから、絶対、今日、なんとしてでも書かないと。
三年生たちと話をしてくるから、と言って、部屋を空けている今夜が、立会演説会までの時間を考えても、ラストチャンスだ。
そう言い聞かせて、行人はペンを握り直した。
はじめて会ったとき、あぁ、アルファだな、と思ったことを行人は覚えている。
優秀で、きっと自分にはなにも勝てるもののない、アルファの中でも、たぶん優れたアルファ。
それなのに、態度の悪い自分に気を悪くするでもなく、声をかけてくるのだ。性格まで良いときたら、勝てるものなど本当になにもない。
ここぞと劣等感を刺激してくるアルファ。だから、行人は高藤が嫌いだった。
11
あなたにおすすめの小説
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
【完結】それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。
するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。
だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。
過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。
ところが、ひょんなことから再会してしまう。
しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。
「今度は、もう離さないから」
「お願いだから、僕にもう近づかないで…」
いい加減観念して結婚してください
彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話
元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。
2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。
作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。
もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!
めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。
目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。
二度と同じ運命はたどりたくない。
家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。
だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。
普通のβだった俺は
りん
BL
普通の大学生として過ごす白瀬凪が、αの先輩に絡まれる話
凪は普通の大学生だ。βで、容姿も中身も平均値ぐらいだと認識している。ある日、大学でもよく噂されている先輩に声をかけられる。先輩の独特の雰囲気と空気に、次第に巻き込まれていく凪。
書き殴り状態なので少しずつ修正するつもりですです…。
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる