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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 16 ④
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「……でも、気になるよな」
「そうなんだよねぇ。まぁ、俺もまたうざがられない程度に聞いてみるよ。榛名ちゃんもいろいろ忙しいのに、気にしてくれてありがとう」
「いや、……うん」
にこりとほほえまれて、罪悪感が爆発しそうになってしまった。どうにか堪えて、こくこくと頷く。
ほんの少し、まともな人付き合いができるようになった気がしていたけれど、ぜんぜん駄目なままだったな、と自分自身に呆れながら。
「談話室戻ろっか。まだもう少し時間あるし」
その提案に頷いて、ふたりで食堂を出る。階段のあたりですでに同級生の声が聞こえていて、これはたしかに三年生のところまで聞こえているのかもしれないなぁ、と思う。
「でも、本当、なんだかんだであっというまだよね。もう来週には演説会でしょ。俺も人前で喋るのそこまで好きじゃないんだけどなぁ」
「フロア長の仕事もちゃんとしてるのに」
「できると好きは違うんだって。ほら、会長とか寮長はできるし好きなんだろうけど、高藤はできるけど、べつに好きじゃないでしょ。それと一緒」
なるほど、と小さく笑う。言われてみると、そういうものかもしれない。階段を上って、一年生の談話室に入る。在室していたのは、ここ最近のお馴染みのメンバーばかりで、やはり四谷の姿はなかった。
罪悪感がおさまらなくて、行人は四谷と親しい人間を探した。中等部にいたころから四谷とずっと仲が良いのは、岡と朝比奈だ。
「朝比奈」
「なに?」
そっと声をかけると、嫌がるふうでもなく朝比奈が振り返った。四谷と似たタイプの小柄でかわいらしいベータだ。
もともとの自分の交友関係ではまったくないが、四谷と話す機会が増える中で、行人も喋ることが増えた。友達とまでは言えないものの、同じ寮の同級生として、以前よりは付き合えているつもりである。
「えっと、その、四谷なんだけど」
「部屋にいると思うけど」
これには参加しないって言ってたし、とあっさりと朝比奈が言う。行人が言い淀んだことが伝わったのか、困ったふうに苦笑を返されてしまった。
「だって、こんなこと、榛名に言うのもなんだと思うけど、あの子の気持ち考えたら、参加しなくてもしかたなくない?」
「……」
「あ、いや、責めてるわけじゃないけど。その、気持ちを汲んであげてってこと」
「…………」
「えっと、説得したかったらしたらいいと思うけど。うまくいくとは限らないんじゃないかなぁ。それに、今まで榛名なにも言わなかったでしょ。それなのに、いまさら言っても」
最近ピリピリしてるし、と、また少し困った顔で笑われてしまって、そっか、と小さく呟く。
――また、自分のことしか考えてなかったな、俺。
「まぁ、ほら、榛名はクラスも一緒なんだからさ、日中にふつうに声かけてあげたら、それでいいんじゃない? むしろ、それはしてくれたらありがたいなぁって思ってるし」
「うん」
気まで使わせてしまった事実に、さらなる罪悪感を抱え込みながら、そうする、と行人は首肯した。
自分のような人間が、そんなにすぐに変わっているはずがなかったのだ。
……ちょっと、調子に乗り過ぎてたかも、俺。
気をつけようと自制しつつ、声をかけたときと同様に、そっと朝比奈のもとを離れる。
おまけに、その姿が憐れだったのか、荻原にまで慰められてしまった。
「ごめんね、榛名ちゃん。俺が言ったから気にしてくれたんだよね」
「いや……」
ある意味では、そうではあるのだけれど。自分の中の罪悪感に負けたというもっと身勝手な理由でしかないというか。
こそりと話しかけられて、行人も小さく頭を振る。ただ、これも本当にいまさらではあるのだけれど、罪悪感とはべつの部分で、少し思ってしまったのだ。
「その、……いまさらなんだけどさ。四谷、こういう大人数でなんかするの、けっこう好きなイメージがあって」
「あぁ、まぁ、そうかもね。よっちゃんは仕切るのも上手だし。みささぎ祭のときもがんばってくれてたもんね」
だから、高藤も頼めるなら頼みたいって言ってたんだと思うよ、と荻原が言う。
「そうなんだよねぇ。まぁ、俺もまたうざがられない程度に聞いてみるよ。榛名ちゃんもいろいろ忙しいのに、気にしてくれてありがとう」
「いや、……うん」
にこりとほほえまれて、罪悪感が爆発しそうになってしまった。どうにか堪えて、こくこくと頷く。
ほんの少し、まともな人付き合いができるようになった気がしていたけれど、ぜんぜん駄目なままだったな、と自分自身に呆れながら。
「談話室戻ろっか。まだもう少し時間あるし」
その提案に頷いて、ふたりで食堂を出る。階段のあたりですでに同級生の声が聞こえていて、これはたしかに三年生のところまで聞こえているのかもしれないなぁ、と思う。
「でも、本当、なんだかんだであっというまだよね。もう来週には演説会でしょ。俺も人前で喋るのそこまで好きじゃないんだけどなぁ」
「フロア長の仕事もちゃんとしてるのに」
「できると好きは違うんだって。ほら、会長とか寮長はできるし好きなんだろうけど、高藤はできるけど、べつに好きじゃないでしょ。それと一緒」
なるほど、と小さく笑う。言われてみると、そういうものかもしれない。階段を上って、一年生の談話室に入る。在室していたのは、ここ最近のお馴染みのメンバーばかりで、やはり四谷の姿はなかった。
罪悪感がおさまらなくて、行人は四谷と親しい人間を探した。中等部にいたころから四谷とずっと仲が良いのは、岡と朝比奈だ。
「朝比奈」
「なに?」
そっと声をかけると、嫌がるふうでもなく朝比奈が振り返った。四谷と似たタイプの小柄でかわいらしいベータだ。
もともとの自分の交友関係ではまったくないが、四谷と話す機会が増える中で、行人も喋ることが増えた。友達とまでは言えないものの、同じ寮の同級生として、以前よりは付き合えているつもりである。
「えっと、その、四谷なんだけど」
「部屋にいると思うけど」
これには参加しないって言ってたし、とあっさりと朝比奈が言う。行人が言い淀んだことが伝わったのか、困ったふうに苦笑を返されてしまった。
「だって、こんなこと、榛名に言うのもなんだと思うけど、あの子の気持ち考えたら、参加しなくてもしかたなくない?」
「……」
「あ、いや、責めてるわけじゃないけど。その、気持ちを汲んであげてってこと」
「…………」
「えっと、説得したかったらしたらいいと思うけど。うまくいくとは限らないんじゃないかなぁ。それに、今まで榛名なにも言わなかったでしょ。それなのに、いまさら言っても」
最近ピリピリしてるし、と、また少し困った顔で笑われてしまって、そっか、と小さく呟く。
――また、自分のことしか考えてなかったな、俺。
「まぁ、ほら、榛名はクラスも一緒なんだからさ、日中にふつうに声かけてあげたら、それでいいんじゃない? むしろ、それはしてくれたらありがたいなぁって思ってるし」
「うん」
気まで使わせてしまった事実に、さらなる罪悪感を抱え込みながら、そうする、と行人は首肯した。
自分のような人間が、そんなにすぐに変わっているはずがなかったのだ。
……ちょっと、調子に乗り過ぎてたかも、俺。
気をつけようと自制しつつ、声をかけたときと同様に、そっと朝比奈のもとを離れる。
おまけに、その姿が憐れだったのか、荻原にまで慰められてしまった。
「ごめんね、榛名ちゃん。俺が言ったから気にしてくれたんだよね」
「いや……」
ある意味では、そうではあるのだけれど。自分の中の罪悪感に負けたというもっと身勝手な理由でしかないというか。
こそりと話しかけられて、行人も小さく頭を振る。ただ、これも本当にいまさらではあるのだけれど、罪悪感とはべつの部分で、少し思ってしまったのだ。
「その、……いまさらなんだけどさ。四谷、こういう大人数でなんかするの、けっこう好きなイメージがあって」
「あぁ、まぁ、そうかもね。よっちゃんは仕切るのも上手だし。みささぎ祭のときもがんばってくれてたもんね」
だから、高藤も頼めるなら頼みたいって言ってたんだと思うよ、と荻原が言う。
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