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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 17 ⑤
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「それも事実だが、おまえがなにをしていないというほど謙遜することもないだろう。逆に嫌味に響くぞ」
「嫌味って」
「おまえがどう思おうが、おまえが残した意志の結果がこれだろうという話だ」
なにかの意志を残したというほどのことは成していない。そう思ったものの、成瀬は反論はしなかった。
「よかったじゃないか。おまえがおまえ自身を信用していなくても、おまえのかわいい弟のことなら信用できるだろう」
反応に迷って、ふっと小さくほほえむ。皓太が自分と同じ路線を選んでくれたことをうれしく思っていたことは事実だ。
けれど、それは、茅野が思っているよりも、きっとずっと個人的な理由だ。
「実際にどうであろうが、認めまいが、結局は提示された結果がすべてだと俺は思うが」
言い聞かせるというほどの強さもない淡々としたそれに、そうかもしれないな、と頷いた。
目に見える結果がすべてということに関して言えば、そのとおりなのだろう。
「本当に、あともう半年もないんだ。ちょうどいい機会だろう。高藤に引き継いで会長を退いたら、何者でもない一生徒に戻ればいい」
「……そうだな」
それもいいのかもしれない。ほっとしたような、落ち着かないないような、相反した気持ちのまま、もう一度頷く。
少しの間のあとで、まぁ、と茅野が笑った。どこか少しおかしそうに。
「向原は、おまえが思うほど、おまえに何者かであることを期待していたわけではないと思うけどな」
「なんでだよ」
「おまえ、自分が『そう』だから、あいつは自分に興味を持っていると思っているだろう」
なんでそこに話が飛んだのだと言いたかっただけなのに、よりいっそう嫌な方向に膨らまされてしまった。
「その前提が違うんじゃないか。これも、六年近く見てきた中での俺の主観だが」
返事の代わりに、小さく溜息を吐く。その程度で言葉を引っ込める相手ではないとわかっていても、この手の話は好きではないのだ。
「おまえの思うおまえという虚像と、あいつの見ているものが同じだとは限らないだろう」
案の定、変わらない調子の話が続いて、どうだろうな、とだけ成瀬は応えた。
そんなもの、自分にはわからないし、茅野にだってわからないだろう。だから、本人も主観だと言ったのだろうが。気のない態度を気にも留めず、茅野は話を終わらせた。
「とにかく、だ。あまり頭から決めつけて、視野を狭めてやるな」
――狭めてやるな、か。
ひとりに戻った空間で、成瀬は隠すことなく溜息を吐いた。本当に、他人事だと思って、好き勝手ばかり言ってくれる。
どいつもこいつも、と。八つ当たり気味に浮かんだ思考は、けれど、どうにか押し止めた。
そんなふうにさせているのは、自分に原因があると思い直したからだ。認めたくは、なかったけれど。
同時に、でも、とも思う。認めたくはないし、腹は立つが、そういった感情を抜きにすれば、指摘としては概ね正しいのだ。
アルファではない自分に意味などないと思っていたことは、事実だ。そうして、実際に「そう」だった。少なくとも、この学園に入るまで。あの家にいたあいだは。
けれど、それ以降は本当に、そうだったのだろうか。ここに来てからの五年という月日は。
自分はなにも変わっていないのだろうか。
――きみがそこで変わればいいと思っていた。
――実際、きみは変わっただろう。アルファの子たちと触れ合う中で、ただの憎むべき対象ではなくなっていったはずだ。
――それは、きみのなかで向き合った「個」になったからだと思うけどね、僕は。
――いいことだと思うよ。だって。
知ったふうに見透かした声が頭の中で響く。
――きみはいいかげん、自分の足で踏み出さないといけないだろう。
「嫌味って」
「おまえがどう思おうが、おまえが残した意志の結果がこれだろうという話だ」
なにかの意志を残したというほどのことは成していない。そう思ったものの、成瀬は反論はしなかった。
「よかったじゃないか。おまえがおまえ自身を信用していなくても、おまえのかわいい弟のことなら信用できるだろう」
反応に迷って、ふっと小さくほほえむ。皓太が自分と同じ路線を選んでくれたことをうれしく思っていたことは事実だ。
けれど、それは、茅野が思っているよりも、きっとずっと個人的な理由だ。
「実際にどうであろうが、認めまいが、結局は提示された結果がすべてだと俺は思うが」
言い聞かせるというほどの強さもない淡々としたそれに、そうかもしれないな、と頷いた。
目に見える結果がすべてということに関して言えば、そのとおりなのだろう。
「本当に、あともう半年もないんだ。ちょうどいい機会だろう。高藤に引き継いで会長を退いたら、何者でもない一生徒に戻ればいい」
「……そうだな」
それもいいのかもしれない。ほっとしたような、落ち着かないないような、相反した気持ちのまま、もう一度頷く。
少しの間のあとで、まぁ、と茅野が笑った。どこか少しおかしそうに。
「向原は、おまえが思うほど、おまえに何者かであることを期待していたわけではないと思うけどな」
「なんでだよ」
「おまえ、自分が『そう』だから、あいつは自分に興味を持っていると思っているだろう」
なんでそこに話が飛んだのだと言いたかっただけなのに、よりいっそう嫌な方向に膨らまされてしまった。
「その前提が違うんじゃないか。これも、六年近く見てきた中での俺の主観だが」
返事の代わりに、小さく溜息を吐く。その程度で言葉を引っ込める相手ではないとわかっていても、この手の話は好きではないのだ。
「おまえの思うおまえという虚像と、あいつの見ているものが同じだとは限らないだろう」
案の定、変わらない調子の話が続いて、どうだろうな、とだけ成瀬は応えた。
そんなもの、自分にはわからないし、茅野にだってわからないだろう。だから、本人も主観だと言ったのだろうが。気のない態度を気にも留めず、茅野は話を終わらせた。
「とにかく、だ。あまり頭から決めつけて、視野を狭めてやるな」
――狭めてやるな、か。
ひとりに戻った空間で、成瀬は隠すことなく溜息を吐いた。本当に、他人事だと思って、好き勝手ばかり言ってくれる。
どいつもこいつも、と。八つ当たり気味に浮かんだ思考は、けれど、どうにか押し止めた。
そんなふうにさせているのは、自分に原因があると思い直したからだ。認めたくは、なかったけれど。
同時に、でも、とも思う。認めたくはないし、腹は立つが、そういった感情を抜きにすれば、指摘としては概ね正しいのだ。
アルファではない自分に意味などないと思っていたことは、事実だ。そうして、実際に「そう」だった。少なくとも、この学園に入るまで。あの家にいたあいだは。
けれど、それ以降は本当に、そうだったのだろうか。ここに来てからの五年という月日は。
自分はなにも変わっていないのだろうか。
――きみがそこで変わればいいと思っていた。
――実際、きみは変わっただろう。アルファの子たちと触れ合う中で、ただの憎むべき対象ではなくなっていったはずだ。
――それは、きみのなかで向き合った「個」になったからだと思うけどね、僕は。
――いいことだと思うよ。だって。
知ったふうに見透かした声が頭の中で響く。
――きみはいいかげん、自分の足で踏み出さないといけないだろう。
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