422 / 484
第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 17 ⑧
しおりを挟む
なんで寄りにもよって、自分を一発でオメガだと見破った、アルファの男に聞いているのだろう。自分でも、わからなかった。
わからないことばかりが、馬鹿みたいに増えていく。そんな自分が嫌で、必死に取り繕っていたはずだったのに。
いやに長いように感じられた沈黙のあとで、向原が口を開いた。
「見えるもなにも、おまえはおまえだろうが」
それ以外になにがあるのかと心底呆れていることがわかる、明瞭な返事だった。あまりのあっけなさに、どうしようもなくて、苦笑がこぼれる。
この、向原の公平さも、ある種での潔癖さも、持って生まれた強いアルファ性ゆえのものだと、ずっと思っていた。今もそう思っている。そういう地盤があるからこそ、持ち得るものなのだと。でも。
――向原にとって、そうであることは事実なんだよな。
アルファだなんだと自分が色眼鏡で見続けていたというだけで、向原にとっては、そうなのだ。
――頭から決めつけてやるな、か。
それも本当に、幾度となく言われていたことで、けれど、ずっと認めることができなかったもの。ふっと成瀬は笑った。
「……そっか」
「そうだろ。なんでもかんでもややこしく考えすぎなんだよ、おまえは、昔から」
そんな簡単なことではないだろうと思うのに、どこまでもあっさりとしているから、腹立たしいもなにもかも通り越して、笑えてきてしまった。
「そうなのかもな」
本当に、いったいなんだというのだろう。本心でそういうふうに思うことのできる自分だったらよかったのに、とも思っている。
――でも、向原は、そうなんだよな。
実際がどうであろうとも、自分がどう思っていようとも、向原にとっては、そうであるらしい。そのことに、なぜか、ほっとした。
この学園に入って、六年近い時間をかけて、築いた関係があって、その上で、そう断言してくれる相手がいる。
その事実が、急にすとんと胸の真ん中に入ってきた気がしたのだ。
向原は向原だ。それで、自分たちの関係は、自分たちが六年かけて築き上げてきたものだ。それ以外の、なにものでもない。
アルファだから、だとか。オメガだから、だとか。そういったことがまったく関係がないとは言わないけれど、それだけでもない。絶対に、ない。
――ちょうどいい相手がいるじゃない。
その言いように反発を覚えたのは、そんな括りで縛られたくなかった、ということも一因だったのかもしれない。
築いてきたものを大事にしたい。真正面から見つめられて、同じ視線を返せない自分でいたくない。同じように、向き合いたい。
対等でありたいというのなら、きっとまずはそうしなければならなかった。改めて、しっかりと視線を合わせる。窓の向こうからは、寮生の楽しそうな声が響いていた。
アルファでも、オメガでも、ベータでも、誰でも関係がなく笑って過ごすことができる世界をつくってみたかった。まだまだ未完成で発展途上でしかない。でも、理想が引き続かれていけば、いつか。本当に、そんな日が来るのかもしれない。わからないけれど。
「おまえがいてよかった」
そう言いながら、なぜか泣きそうになってしまった。泣いたことなんて、もうずっとなったはずなのに。うつむいて、表情を隠す。気がつかれていたような気はするけれど、向原はなにも言わなかった。でも、どこにも行かなかった。
わからないことばかりが、馬鹿みたいに増えていく。そんな自分が嫌で、必死に取り繕っていたはずだったのに。
いやに長いように感じられた沈黙のあとで、向原が口を開いた。
「見えるもなにも、おまえはおまえだろうが」
それ以外になにがあるのかと心底呆れていることがわかる、明瞭な返事だった。あまりのあっけなさに、どうしようもなくて、苦笑がこぼれる。
この、向原の公平さも、ある種での潔癖さも、持って生まれた強いアルファ性ゆえのものだと、ずっと思っていた。今もそう思っている。そういう地盤があるからこそ、持ち得るものなのだと。でも。
――向原にとって、そうであることは事実なんだよな。
アルファだなんだと自分が色眼鏡で見続けていたというだけで、向原にとっては、そうなのだ。
――頭から決めつけてやるな、か。
それも本当に、幾度となく言われていたことで、けれど、ずっと認めることができなかったもの。ふっと成瀬は笑った。
「……そっか」
「そうだろ。なんでもかんでもややこしく考えすぎなんだよ、おまえは、昔から」
そんな簡単なことではないだろうと思うのに、どこまでもあっさりとしているから、腹立たしいもなにもかも通り越して、笑えてきてしまった。
「そうなのかもな」
本当に、いったいなんだというのだろう。本心でそういうふうに思うことのできる自分だったらよかったのに、とも思っている。
――でも、向原は、そうなんだよな。
実際がどうであろうとも、自分がどう思っていようとも、向原にとっては、そうであるらしい。そのことに、なぜか、ほっとした。
この学園に入って、六年近い時間をかけて、築いた関係があって、その上で、そう断言してくれる相手がいる。
その事実が、急にすとんと胸の真ん中に入ってきた気がしたのだ。
向原は向原だ。それで、自分たちの関係は、自分たちが六年かけて築き上げてきたものだ。それ以外の、なにものでもない。
アルファだから、だとか。オメガだから、だとか。そういったことがまったく関係がないとは言わないけれど、それだけでもない。絶対に、ない。
――ちょうどいい相手がいるじゃない。
その言いように反発を覚えたのは、そんな括りで縛られたくなかった、ということも一因だったのかもしれない。
築いてきたものを大事にしたい。真正面から見つめられて、同じ視線を返せない自分でいたくない。同じように、向き合いたい。
対等でありたいというのなら、きっとまずはそうしなければならなかった。改めて、しっかりと視線を合わせる。窓の向こうからは、寮生の楽しそうな声が響いていた。
アルファでも、オメガでも、ベータでも、誰でも関係がなく笑って過ごすことができる世界をつくってみたかった。まだまだ未完成で発展途上でしかない。でも、理想が引き続かれていけば、いつか。本当に、そんな日が来るのかもしれない。わからないけれど。
「おまえがいてよかった」
そう言いながら、なぜか泣きそうになってしまった。泣いたことなんて、もうずっとなったはずなのに。うつむいて、表情を隠す。気がつかれていたような気はするけれど、向原はなにも言わなかった。でも、どこにも行かなかった。
12
あなたにおすすめの小説
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
【完結】初恋のアルファには番がいた—番までの距離—
水樹りと
BL
蛍は三度、運命を感じたことがある。
幼い日、高校、そして大学。
高校で再会した初恋の人は匂いのないアルファ――そのとき彼に番がいると知る。
運命に選ばれなかったオメガの俺は、それでも“自分で選ぶ恋”を始める。
もう一度言って欲しいオレと思わず言ってしまったあいつの話する?
藍音
BL
ある日、親友の壮介はおれたちの友情をぶち壊すようなことを言い出したんだ。
なんで?どうして?
そんな二人の出会いから、二人の想いを綴るラブストーリーです。
片想い進行中の方、失恋経験のある方に是非読んでもらいたい、切ないお話です。
勇太と壮介の視点が交互に入れ替わりながら進みます。
お話の重複は可能な限り避けながら、ストーリーは進行していきます。
少しでもお楽しみいただけたら、嬉しいです。
(R4.11.3 全体に手を入れました)
【ちょこっとネタバレ】
番外編にて二人の想いが通じた後日譚を進行中。
BL大賞期間内に番外編も完結予定です。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
時間を戻した後に~妹に全てを奪われたので諦めて無表情伯爵に嫁ぎました~
なりた
BL
悪女リリア・エルレルトには秘密がある。
一つは男であること。
そして、ある一定の未来を知っていること。
エルレルト家の人形として生きてきたアルバートは義妹リリアの策略によって火炙りの刑に処された。
意識を失い目を開けると自称魔女(男)に膝枕されていて…?
魔女はアルバートに『時間を戻す』提案をし、彼はそれを受け入れるが…。
なんと目覚めたのは断罪される2か月前!?
引くに引けない時期に戻されたことを嘆くも、あの忌まわしきイベントを回避するために奔走する。
でも回避した先は変態おじ伯爵と婚姻⁉
まぁどうせ出ていくからいっか!
北方の堅物伯爵×行動力の塊系主人公(途中まで女性)
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
12/10 5000❤️ありがとうございます😭
わたし5は好きな数字です💕
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる