パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 17 ⑧

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 なんで寄りにもよって、自分を一発でオメガだと見破った、アルファの男に聞いているのだろう。自分でも、わからなかった。
 わからないことばかりが、馬鹿みたいに増えていく。そんな自分が嫌で、必死に取り繕っていたはずだったのに。
 いやに長いように感じられた沈黙のあとで、向原が口を開いた。

「見えるもなにも、おまえはおまえだろうが」

 それ以外になにがあるのかと心底呆れていることがわかる、明瞭な返事だった。あまりのあっけなさに、どうしようもなくて、苦笑がこぼれる。
 この、向原の公平さも、ある種での潔癖さも、持って生まれた強いアルファ性ゆえのものだと、ずっと思っていた。今もそう思っている。そういう地盤があるからこそ、持ち得るものなのだと。でも。

 ――向原にとって、そうであることは事実なんだよな。

 アルファだなんだと自分が色眼鏡で見続けていたというだけで、向原にとっては、そうなのだ。

 ――頭から決めつけてやるな、か。

 それも本当に、幾度となく言われていたことで、けれど、ずっと認めることができなかったもの。ふっと成瀬は笑った。

「……そっか」
「そうだろ。なんでもかんでもややこしく考えすぎなんだよ、おまえは、昔から」

 そんな簡単なことではないだろうと思うのに、どこまでもあっさりとしているから、腹立たしいもなにもかも通り越して、笑えてきてしまった。

「そうなのかもな」

 本当に、いったいなんだというのだろう。本心でそういうふうに思うことのできる自分だったらよかったのに、とも思っている。

 ――でも、向原は、そうなんだよな。

 実際がどうであろうとも、自分がどう思っていようとも、向原にとっては、そうであるらしい。そのことに、なぜか、ほっとした。
 この学園に入って、六年近い時間をかけて、築いた関係があって、その上で、そう断言してくれる相手がいる。
 その事実が、急にすとんと胸の真ん中に入ってきた気がしたのだ。
 向原は向原だ。それで、自分たちの関係は、自分たちが六年かけて築き上げてきたものだ。それ以外の、なにものでもない。
 アルファだから、だとか。オメガだから、だとか。そういったことがまったく関係がないとは言わないけれど、それだけでもない。絶対に、ない。

 ――ちょうどいい相手がいるじゃない。

 その言いように反発を覚えたのは、そんな括りで縛られたくなかった、ということも一因だったのかもしれない。
 築いてきたものを大事にしたい。真正面から見つめられて、同じ視線を返せない自分でいたくない。同じように、向き合いたい。
 対等でありたいというのなら、きっとまずはそうしなければならなかった。改めて、しっかりと視線を合わせる。窓の向こうからは、寮生の楽しそうな声が響いていた。
 アルファでも、オメガでも、ベータでも、誰でも関係がなく笑って過ごすことができる世界をつくってみたかった。まだまだ未完成で発展途上でしかない。でも、理想が引き続かれていけば、いつか。本当に、そんな日が来るのかもしれない。わからないけれど。

「おまえがいてよかった」

 そう言いながら、なぜか泣きそうになってしまった。泣いたことなんて、もうずっとなったはずなのに。うつむいて、表情を隠す。気がつかれていたような気はするけれど、向原はなにも言わなかった。でも、どこにも行かなかった。
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