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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅣ 0 ⑤
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――この学園に入るために、たぶん、いや、絶対、すごい努力をしたんだろうに。
外部から編入するための壁は高い。突破するだけで難関だが、おまけに水城は入試トップの特待生だ。だったら、あとはここでふつうに過ごして、ふつうに卒業して、自由に進路を選べば、それでよかったのではないだろうか。
そうすれば、おそらく、ふつう以上の人生を歩めたはずだ。それでは駄目だったのだろうか。
――それなのに、他人の本性を見ることが楽しい、か。
そんな、皓太からすれば理解のできない理由で、水城はここをめちゃくちゃにしようとしたのだろうか。溜息を呑み込んで、皓太は教室の後方の扉を引いた。
この最近と変わらない、教室の空気。そのことにほんの少しほっとした気分で、おはよう、と声をかけてきたクラスメイトに挨拶を返す。
「高藤、選挙よかったな。おめでとう。まぁ、大変なのはこれからだろうけど」
「あぁ、うん。ありがと……」
「高藤くん」
教室の前方からかかった柔らかな高い声に、視線を向ける。目が合った水城が、いつもの集団から離れて一歩こちらに踏み出した。
その顔に害意なんてひとつもなさそうな笑みが浮かぶ。天使のよう、とよく評されているそれ。
ただ、春にはじめて会ったときから、ずっと違和感のあるものに、皓太には見えていた。
「やっぱりすごいね、高藤くんは」
「うん、ありがとう」
先ほどクラスメイトに返したものと同じ微笑を、皓太も浮かべた。
特別な相手からの賞賛でもなんでもない、ただのクラスメイトから受けた、普遍的な祝いの言葉なのだと暗に示したそれにも、水城は変わらなかった。にこ、とほほえむ。
「おめでとう。高藤くんなら通るかなぁとは思ってたけど、それでも本当に通るんだから、すごいよね」
だって、と水城が言う。
「どんなアクシデントが起こるかなんて、わからないものね。本当によかったね、なにも起こらなくて」
「そうだね。よかった」
「本当に。でも、それも、高藤くんが路線を引き継いでくれる未来を喜ぶ、先輩たちの力なのかな」
「否定はしないけど」
自分たちを注視しているクラスメイトの視線を感じながら、皓太は頭を振った。
「あの人たちがつくったここを望んでいる人が、それだけ多かったってことじゃないかな」
「そっか」
納得半分という顔で頷いてみせてから、ゆっくりと水城は切り出した。以前にこの教室で相対したときと同じ、自分が他人に見られていることを存分に意識した、芝居がかった仕草で。
「僕はそうは思わないけど、でも、つまり、高藤くんはそう思っているっていうことで、これから先は、高藤くんが、会長たちと同じことをしていくってことでいいのかな」
その瞳を見返して、皓太ははっきりと答えた。水城だけでなく、この場にいる人間に聞こえるように。改めて宣言するつもりもあった。
「そのつもり。俺は今のここが好きだから」
「そっか」
同じ調子で相槌を打って、水城がほほえむ。
「やっぱり、変わらないんだね。すごく残念。僕、高藤くんとは仲良くしたいって今も本当に思ってるんだけど。でも、しょうがないよね」
口ぶりだけは残念そうだったものの、声音はどこか楽しそうにも聞こえた。そうだね、となんでもない返答を皓太も選んだ。
思想が違うことは、あたりまえのことだ。それを他人に強要さえしなければ、誰かに害を成しさえしなければ、なにも責められることではない。もう一度、水城がほほえんだ。
「じゃあ、これからは、僕が僕を主張する相手は、きみになったっていうことでよかったのかな」
よろしくね、と無邪気とも取れる表情のまま、右手を差し出す。握手を求めた状態で、にこりと水城が笑う。
「わかってもらえないのは寂しいから。僕、わかってもらうために、一生懸命がんばるね」
外部から編入するための壁は高い。突破するだけで難関だが、おまけに水城は入試トップの特待生だ。だったら、あとはここでふつうに過ごして、ふつうに卒業して、自由に進路を選べば、それでよかったのではないだろうか。
そうすれば、おそらく、ふつう以上の人生を歩めたはずだ。それでは駄目だったのだろうか。
――それなのに、他人の本性を見ることが楽しい、か。
そんな、皓太からすれば理解のできない理由で、水城はここをめちゃくちゃにしようとしたのだろうか。溜息を呑み込んで、皓太は教室の後方の扉を引いた。
この最近と変わらない、教室の空気。そのことにほんの少しほっとした気分で、おはよう、と声をかけてきたクラスメイトに挨拶を返す。
「高藤、選挙よかったな。おめでとう。まぁ、大変なのはこれからだろうけど」
「あぁ、うん。ありがと……」
「高藤くん」
教室の前方からかかった柔らかな高い声に、視線を向ける。目が合った水城が、いつもの集団から離れて一歩こちらに踏み出した。
その顔に害意なんてひとつもなさそうな笑みが浮かぶ。天使のよう、とよく評されているそれ。
ただ、春にはじめて会ったときから、ずっと違和感のあるものに、皓太には見えていた。
「やっぱりすごいね、高藤くんは」
「うん、ありがとう」
先ほどクラスメイトに返したものと同じ微笑を、皓太も浮かべた。
特別な相手からの賞賛でもなんでもない、ただのクラスメイトから受けた、普遍的な祝いの言葉なのだと暗に示したそれにも、水城は変わらなかった。にこ、とほほえむ。
「おめでとう。高藤くんなら通るかなぁとは思ってたけど、それでも本当に通るんだから、すごいよね」
だって、と水城が言う。
「どんなアクシデントが起こるかなんて、わからないものね。本当によかったね、なにも起こらなくて」
「そうだね。よかった」
「本当に。でも、それも、高藤くんが路線を引き継いでくれる未来を喜ぶ、先輩たちの力なのかな」
「否定はしないけど」
自分たちを注視しているクラスメイトの視線を感じながら、皓太は頭を振った。
「あの人たちがつくったここを望んでいる人が、それだけ多かったってことじゃないかな」
「そっか」
納得半分という顔で頷いてみせてから、ゆっくりと水城は切り出した。以前にこの教室で相対したときと同じ、自分が他人に見られていることを存分に意識した、芝居がかった仕草で。
「僕はそうは思わないけど、でも、つまり、高藤くんはそう思っているっていうことで、これから先は、高藤くんが、会長たちと同じことをしていくってことでいいのかな」
その瞳を見返して、皓太ははっきりと答えた。水城だけでなく、この場にいる人間に聞こえるように。改めて宣言するつもりもあった。
「そのつもり。俺は今のここが好きだから」
「そっか」
同じ調子で相槌を打って、水城がほほえむ。
「やっぱり、変わらないんだね。すごく残念。僕、高藤くんとは仲良くしたいって今も本当に思ってるんだけど。でも、しょうがないよね」
口ぶりだけは残念そうだったものの、声音はどこか楽しそうにも聞こえた。そうだね、となんでもない返答を皓太も選んだ。
思想が違うことは、あたりまえのことだ。それを他人に強要さえしなければ、誰かに害を成しさえしなければ、なにも責められることではない。もう一度、水城がほほえんだ。
「じゃあ、これからは、僕が僕を主張する相手は、きみになったっていうことでよかったのかな」
よろしくね、と無邪気とも取れる表情のまま、右手を差し出す。握手を求めた状態で、にこりと水城が笑う。
「わかってもらえないのは寂しいから。僕、わかってもらうために、一生懸命がんばるね」
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