パーフェクトワールド

木原あざみ

文字の大きさ
463 / 484
第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅣ 6 ③

しおりを挟む
 誰もいないところでひとりでサボってて、なにかあったほうが、俺は嫌だからね。そう、なんでもないふうに続けて、そこでようやく四谷は行人を見た。

「どうするの?」
「どうするって……」
「だから、俺の行き先はわかったでしょ。教室に戻りたかったら戻ったらいいし、生徒会室にでも行きたかったら行けばいいじゃん。榛名にはサボる場所あるでしょ」

 なんだか、それは、自分には戻る場所があるだろう、と言われているみたいだった。自分の考えすぎかもしれないけれど。
 行人にとって、四谷は嫌いな人間だった。嫌味で、自信があって、その自信を笑われない程度の能力があって、自分と同じように小柄で「かわいい」と評される容姿をしていて、けれど、それを卑下することなく自分のために利用して、自分の立場を確立させている。
 たぶん、水城とも、少し似ている。自分が苦手だと感じるタイプ。でも、今はそうじゃない。そういう目につく苦手だけではないところを知って、もちろん、やっぱり相容れないなぁと思うこともあるけれど、それも含めて、友達だと思っている。少なくとも、行人は。
 足元に落としそうになった視線を堪え、行人は希望をはっきりと言葉にした。

「俺は、……四谷と話したい」
「そう」

 自分にはない、と切り捨てられたなかったことにほっとしたものの、四谷の視線はするりと行人から逸れていった。保健室の扉を見つめたまま、答える。

「じゃあ、一緒に来る? 頼んだら、たぶん、相談室くらい貸してくれると思うけど」

 思っていた以上にすんなりと受け入れられた状況に、「え」と行人は目を丸くした。その反応に構うことなく、四谷は慣れた調子で扉を引く。
 なんだ、今日は、朝から来たのか、と笑う穏やかな声と、いいでしょ、べつに、と応じる拗ねたような声。四谷が選んでここにいたのだということのわかる雰囲気を、敷居を踏み越えないまま眺める。養護教諭と言葉を交わしていた四谷が、ちらりと廊下に立ち尽くしている自分を見やった。

「ちょっと話したいんだけど、相談室貸してくれない? ――はぁ? いや、喧嘩とかしないから。なんだと思ってるの、俺のこと」

 あいつも十分すぎるほど気ぃ強いから、と指を指され、視線の合った養護教諭にぺこりと目礼を返す。行人だって、喧嘩をするつもりはない。……まぁ、自分に思うところがあるのであれば、言葉なんてきつくてもいいからはっきり教えてほしいと思っているけれど。

「ほら、鍵借りたから。行くよ、隣」
「あ、……うん」

 やりとりを終え戻ってきた四谷に、以前のような口調で誘われ、慌てて行人は首を縦に振った。保健室のすぐ隣にある相談室の鍵を回し、四谷が中に入る。そのあとに続いて、そっと扉を閉める。
 机を挟んで向かい合う椅子があるくらいの、なにもない小さな部屋。奥の椅子を引いた四谷は、鞄を床に置いた。そうして、扉を閉めたところで立ち止まっていた行人に声をかける。

「座れば?」
「……うん」

 ぎこちない返事を繰り返して、行人は正面の椅子に腰をかけた。四谷とこんなふうに静かに話すのは、本当にひさしぶりかもしれない。なにを言おう、なにを話そう、なにを聞こう。いろいろと考えていたつもりだったのに、頭の中が真っ白で、行人はぎゅっと膝の上で拳を握った。そっと息を吐き、真正面から四谷を見つめる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

運命よりも先に、愛してしまった

AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。 しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、 2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。 その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 8/16番外編出しました!!!!! 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭 4/29 3000❤️ありがとうございます😭 8/13 4000❤️ありがとうございます😭 12/10 5000❤️ありがとうございます😭 わたし5は好きな数字です💕 お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

【完結】初恋のアルファには番がいた—番までの距離—

水樹りと
BL
蛍は三度、運命を感じたことがある。 幼い日、高校、そして大学。 高校で再会した初恋の人は匂いのないアルファ――そのとき彼に番がいると知る。 運命に選ばれなかったオメガの俺は、それでも“自分で選ぶ恋”を始める。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

処理中です...