パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅣ 6 ⑧

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 そういうルール違反は見つけたらすぐに言えと茅野は頭の痛い顔をしていたが、必要以上に叱るようなことはしなかった。
 当事者ではなかったので、「だろうなぁ」という感想しかなかったのだが、四谷はほっと安堵した顔をしていた。ちなみに、というほどのことではないのだけれど。茅野は、行人が「なにを盗られたわけでもないので大事にしたくない」と言い張ったときのほうが呆れた顔をしていた。

 ――まぁ、それでも、結局、……なんていうか、俺の嘘ってわかってても乗ってくれるんだから、ありがたい話だよな。

 信用と言い換えてもいいのかもしれないけれど。……いや、でも、あれは、無意味な意地を張ってるって思われていたような気もするな。そう、行人は思い直した。
 高藤が、そういう顔をすることがあるのだ。無駄な意地だし、合理的でもないと思っているけれど、その根幹にオメガという性に対する葛藤があるのであれば、自分が不用意に口を出すべきではないからと呑み込むような顔。まったく真っ当な価値観だと思う。

 寮の五階と四階の踊り場で、行人はそっと溜息を吐いた。茅野に話をしにいくという四谷に着いてきたのだが――自分が部屋の鍵をなくしたことが発端である以上、首を突っ込む権利はあると思ったのだ――、ひとりで話したいことがあると言われてしまったのである。先に一年生のフロアに戻る気になれなくて待っているものの、やっぱり少し落ち着かない。

 ……帰ろうかな、部屋。

 茅野から、待ちたいなら五階の談話室を使えばいい、と許可を受けたものの、さすがに勇気が出なかったのだ。踊り場のほうがまだマシと思っていたけれど、あまり変わらなかったかもしれない。
 どうしようかなぁ、と考えていると、階段を上る静かな足音が響いた。邪魔にならないよう慌てて壁に背をつける。だが、「こんばんは」と言うつもりだった挨拶の代わりに喉からこぼれたのは「あ」という不躾なそれだった。

「向原先輩」

 こぼれ落ちた声を誤魔化すように呼びかければ、相手の足が止まる。無視されなくてほっとしたような、呼び止めておいて続ける言葉がないことに慌てるような。
 いや、でも、きっと、呼び止めてすみません、と一言言えば、話は終わるのだろうけれど。

 ――あ、でも、あれ以来なんだな。

 四谷のことで落ち込んでいて、たぶん、あまりにも目についたからだったのだろうけれど、声をかけられて以来。どうなったのかを話さないといけないと考えたわけではない。興味はないだろうこともわかっていたからだ。
 だから、そういうタイミングだったのだと思う。いろいろと自分に内側に溜まっていて、怖いもの知らずだったタイミング。

「……なんで、引っ掻き回そうとするんですかね」

 四谷は、水城にばらされることが嫌だったのだと言った。知られたくなかったのだと言った。自分の口から先に告白すればいいだけの話だったことはわかっているけれど、無理だったのだと。
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