隣のチャラ男くん

木原あざみ

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お隣さんの誤算①

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 本格的に風が冷たくなってきたな、と長身を縮めながら、慎吾は白い息を吐いた。
 寒がりの幼馴染みは、随分と前から冬支度を整えていたが、冬本番は十二月にさしかかったこれからである。
 今年ももうすぐ終わるのかと考えると、なんとも言えない感慨が湧いた。あっというまだったような、長かったような。
 地元を離れてからの日々を思い返すにつれ、また白い息がこぼれた。はぁ、ともう一度溜息を吐いて、夢見荘の階段の手前で立ち止まる。
 駄目だ。なんというか、苛々がまったくもって薄れる気配がない。その原因は、ちゃんと理解していたけれど。
 でもなぁ、とぼさぼさと頭を掻きながら、慎吾は首を捻った。あの真白が。マイペースで傍若無人なあの幼馴染みが、自分に対して遠慮するそぶりを見せているのだ。異変だ、としか言いようがない。
 おまけに、心臓に毛が生えていると評判の真白の情緒まで揺らいでいる感じがするのだから、たまらない。
 絶対、おかしい。そこでまずひとつカチンときた。心が狭いなんてことは言われなくてもわかっている。そう、わかってはいるのだ。ただ。

 ――あれだけ俺といんのに、俺じゃなくて、野々村さんに言われたなにかで態度変えるとか、なんなの、本当。

 意味がわからない。というか、わかりたくもないというか、つまり、不満だ。そうして、その不満が苛々に繋がっているのだった。
 どうにかしないとまずいよなぁ、と三度溜息を吐く。八つ当たりしたいわけではないのだ。むしろその逆で、優しくしたい、と。たぶん自分はずっとそう思っている。



  【お隣さんの誤算】



「お、慎吾。このあいだはどうもね。なべごちそうさん」

 足音と一緒に階段から落ちてきた声に、慎吾はもやもやとしていた感情に蓋をした。

「いや、ぜんぜん。いいですよ。これから練習ですか?」

 身体に染み込んだ愛想の良さで、にこりと問いかける。そろそろ二十三時という時間だが、このくらいの夜にギターを担いだ野々村とすれ違うことはよくあることだった。

「そう、これからね。またライブするからさ、よかったら遊びにきてよ。ちびとでもいいし、彼女とでもいいし……って、いないんだっけ、彼女」
「ですね、今は」

 この人にそんな話したっけな、と訝しみつつも笑顔で頷く。真白はライブハウスには行きたがらないだろうけれど。

「あ、じゃあ。あのちびは? 彼女いたことってあったりすんの?」
「なんでですか?」

 質問に質問で返すと、野々村は「いや、実はさぁ」と声をひそめた。

「このあいだ、なんか悩んだ顔してたんだよ。あのなんにも考えてなさそうなのが」

 ひどい言われようである。

「いなかったことはないですよ」

 とりあえず、そう応じる。中学生だったころに、告白されるがままに付き合い、ものの一週間で「真白くんってつまんない」と身も蓋もない理由で振られてはいたが。嘘ではない。

「あー……、じゃあ、興味あってもおかしくはねぇのか。まぁ、あいつも男だもんな」

 そりゃそうか、としたり顔で野々村が頷く。ムカつきを覚えたが、どうにか慎吾は笑顔でやり過ごした。

「どうなんですかね」
「おまえ相手じゃ言いにくいのかもな。だって、ほら、おまえら兄弟みたいなもんだろ? 俺も、兄貴には言えないことってふつうにあるし」

 そう思うと、気持ちはわからなくもないか。そう続いた言葉の後半は、あまり耳に入ってこなかった。兄弟という単語が妙に引っかかってしまったのだ。

「まぁ、でも、もし相談してくることがあったら、笑わないで乗ってやれよ。ちょっと俺も責任感じちゃって。だから頼むわ」

 ぽんと通り抜けざまに肩を叩いて、野々村はカンカンと階段を下りていく。その音が完全に聞こえなくなったところで、慎吾は知らず握りしめていた拳に視線を落とした。ゆっくりと手を解く。
 大人げないことは重々承知している。けれど、自分が一番よく知っていると思っていたい幼馴染みのことを、他人に知ったふうに言われることが、慎吾は昔から嫌いだった。
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