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プロローグ
0:南食堂 11月4日22時24分 ①
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関東の片田舎にある南食堂のテレビは、元号が令和に変わった今も、古き良きブラウン管型である。
口の悪い幼馴染みに「物持ちが良いとか、古いとか、そういうの完全に通り越してるよね。ここまでくると時代の遺産だよね」と評される代物だが、南は気に入っていた。なにせ、自分が幼いころから店に鎮座し続けているのだ。
常連の爺様方にも懐かしいと好評なので、今のところ買い替える予定はない。まぁ、もちろん、壊れなければ、の話ではあるのだが。
それにしても、と。南はカウンターの内側から件のテレビへ視線を動かした。客層に合わせて選ぶことの多い情報番組ではない。毎週金曜夜放送の人気バラエティだ。そうして、背景となっているのは、この店である。
――なんで、こうなったかな、本当。
考えれば考えるほど、謎すぎる。人生とはそういうものなのかもしれないが、人の縁というものは本当によくわからない。
いや、まぁ、テレビが来たのは、俺が取材を了承したからなんだけど。
食堂をぐるりとおさめたカメラワークが、カウンター席に座る男をアップで捉えていく。いかにも芸能人でございといった、華のある顔。
カメラが回っていないあいだも愛想良く振る舞っていたけれど、どうにもつまらなさそうに見えたことを南は覚えている。
カウンター越しに接客をしながら、「隠しきれてねぇぞ、こんな田舎に来たくなかったんですっていう空気」なんてことを考えた記憶があるからだ。
ついでに、さっさと終わって帰ってくれねぇかなぁ、とも思っていた。だが、その余裕は、にこにこと喋っていた男が黙り込んだことで霧散することになる。
正に今、テレビ画面に映っている自分だ。
一口かじったおにぎりと代わる代わるに凝視され、居たたまれなかったことも記憶に新しい。
愛想笑いを吹き飛ばした真顔が、ずいと身を乗り出す。改めてテレビで見ると、カウンターを挟んでいるとは思えないほど距離が近かった。対人距離近すぎだろ。
「ねぇ、ちょっと、南さん。俺と結婚してくれない?」
「死ね」
ブラウン管から響く自分の返答とひとりごとが、それはそれはきれいに重なった。勢いよくテレビを消せば、カウンター席から情けない声が上がる。
「ちょ、ちょ、南さん! なんでそんなに冷たいの! 俺だよ? 世間のアイドル、時東はるかのプロポーズだよ?」
「アイドルなのか、おまえ」
「いや、ごめんなさい。違います。ミュージシャンです」
「そのわりにはバラエティばっかり出てるよな」
べつに見ているわけではないが。南の言葉に時東の顔がぱっと華やいだ。
「見てくれてるの?」
「いや、見てねぇって。というか、俺の部屋、テレビないし」
自宅の居間にはあるが、つけることはめったとない。稼働しているのは、この「南食堂」の店内だけだ。
「南さんが冷たい」
「そりゃ、おまえは客じゃねぇからな」
閉店時間は二十一時で、現在時刻が二十二時半。外のガラス戸には「閉店」の札がかかり、のれんも店内に引っ込めてある。
よって、営業時間を大幅に過ぎて押しかけている上に、メニュー外の有りものの野菜炒めに目を輝かせているこの男は客ではない。
「というか、なんで総集編でまで流すんだ。嫌がらせか。嫌がらせだろ」
「いや、受けが良かったからじゃない? ちなみにね。俺は南さんと一緒にテレビで見れて大満足」
店に入るなりテレビをつけてくれとごね倒した男は、幸せそうな顔で白米を頬張っている。
「バラエティ企画とか死ねよって思ってたけど、このロケだけは行ってよかった。この町に来てよかった」
やっぱり思ってたんだな、と呆れつつも、「そうか」とだけ南は相槌を打った。そういう顔してた、と言えば、謎の理論で調子に乗りそうだったからだ。やっぱり南さんは俺のことわかってくれてるんだね、とかなんとか。
「二ヶ月前の俺の決断を俺は褒めたい。だから南さん、俺と結婚」
「するわけがない」
カメラも回っていないのになにを言い出すか、この男は。
真顔で空いた茶碗を差し出した時東の軽そうな頭をカウンター越しに叩くと、想像と違わない軽い音がした。
このチャラついた頭の中には、果たしてなにが詰まっているのだろうか。南凛太朗は考える。
目つきが悪い。愛想がない。そこまで高身長なわけでもないのに威圧感が半端ない。とりあえずなんか怖い。そう称されること二十六年。第一印象でモテたことは皆無だった。つい二ヶ月前までは。
口の悪い幼馴染みに「物持ちが良いとか、古いとか、そういうの完全に通り越してるよね。ここまでくると時代の遺産だよね」と評される代物だが、南は気に入っていた。なにせ、自分が幼いころから店に鎮座し続けているのだ。
常連の爺様方にも懐かしいと好評なので、今のところ買い替える予定はない。まぁ、もちろん、壊れなければ、の話ではあるのだが。
それにしても、と。南はカウンターの内側から件のテレビへ視線を動かした。客層に合わせて選ぶことの多い情報番組ではない。毎週金曜夜放送の人気バラエティだ。そうして、背景となっているのは、この店である。
――なんで、こうなったかな、本当。
考えれば考えるほど、謎すぎる。人生とはそういうものなのかもしれないが、人の縁というものは本当によくわからない。
いや、まぁ、テレビが来たのは、俺が取材を了承したからなんだけど。
食堂をぐるりとおさめたカメラワークが、カウンター席に座る男をアップで捉えていく。いかにも芸能人でございといった、華のある顔。
カメラが回っていないあいだも愛想良く振る舞っていたけれど、どうにもつまらなさそうに見えたことを南は覚えている。
カウンター越しに接客をしながら、「隠しきれてねぇぞ、こんな田舎に来たくなかったんですっていう空気」なんてことを考えた記憶があるからだ。
ついでに、さっさと終わって帰ってくれねぇかなぁ、とも思っていた。だが、その余裕は、にこにこと喋っていた男が黙り込んだことで霧散することになる。
正に今、テレビ画面に映っている自分だ。
一口かじったおにぎりと代わる代わるに凝視され、居たたまれなかったことも記憶に新しい。
愛想笑いを吹き飛ばした真顔が、ずいと身を乗り出す。改めてテレビで見ると、カウンターを挟んでいるとは思えないほど距離が近かった。対人距離近すぎだろ。
「ねぇ、ちょっと、南さん。俺と結婚してくれない?」
「死ね」
ブラウン管から響く自分の返答とひとりごとが、それはそれはきれいに重なった。勢いよくテレビを消せば、カウンター席から情けない声が上がる。
「ちょ、ちょ、南さん! なんでそんなに冷たいの! 俺だよ? 世間のアイドル、時東はるかのプロポーズだよ?」
「アイドルなのか、おまえ」
「いや、ごめんなさい。違います。ミュージシャンです」
「そのわりにはバラエティばっかり出てるよな」
べつに見ているわけではないが。南の言葉に時東の顔がぱっと華やいだ。
「見てくれてるの?」
「いや、見てねぇって。というか、俺の部屋、テレビないし」
自宅の居間にはあるが、つけることはめったとない。稼働しているのは、この「南食堂」の店内だけだ。
「南さんが冷たい」
「そりゃ、おまえは客じゃねぇからな」
閉店時間は二十一時で、現在時刻が二十二時半。外のガラス戸には「閉店」の札がかかり、のれんも店内に引っ込めてある。
よって、営業時間を大幅に過ぎて押しかけている上に、メニュー外の有りものの野菜炒めに目を輝かせているこの男は客ではない。
「というか、なんで総集編でまで流すんだ。嫌がらせか。嫌がらせだろ」
「いや、受けが良かったからじゃない? ちなみにね。俺は南さんと一緒にテレビで見れて大満足」
店に入るなりテレビをつけてくれとごね倒した男は、幸せそうな顔で白米を頬張っている。
「バラエティ企画とか死ねよって思ってたけど、このロケだけは行ってよかった。この町に来てよかった」
やっぱり思ってたんだな、と呆れつつも、「そうか」とだけ南は相槌を打った。そういう顔してた、と言えば、謎の理論で調子に乗りそうだったからだ。やっぱり南さんは俺のことわかってくれてるんだね、とかなんとか。
「二ヶ月前の俺の決断を俺は褒めたい。だから南さん、俺と結婚」
「するわけがない」
カメラも回っていないのになにを言い出すか、この男は。
真顔で空いた茶碗を差し出した時東の軽そうな頭をカウンター越しに叩くと、想像と違わない軽い音がした。
このチャラついた頭の中には、果たしてなにが詰まっているのだろうか。南凛太朗は考える。
目つきが悪い。愛想がない。そこまで高身長なわけでもないのに威圧感が半端ない。とりあえずなんか怖い。そう称されること二十六年。第一印象でモテたことは皆無だった。つい二ヶ月前までは。
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