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縁とは異なもの味なもの
2:時東はるか 11月18日23時32分 ②
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南食堂から町道に出てすぐの丁字路を左に折れる。車が行き交うことは難しいレベルの細い道だ。バイクを押しながら、緩やかな傾斜を上ること数分。
南の足が止まったのは、木造の二階建て家屋の前だった。田舎らしい庭付きの一軒家。ほかにも家族が住んでいるような雰囲気だったが、屋内の電気は点いていない。
「あの、南さん」
門扉を開けずんずんと進んでいく背中に、時東は思わず声をかけた。
「俺が言うことでもないと思うんですが、こんな時間にやってきて大丈夫だった?」
「あー、俺ひとりだから大丈夫」
「ご旅行?」
「いや、もう、俺ひとり」
南が建てた家ではないだろうから、実家であることは間違いないだろう。ということは、両親は諸事情で別居をしているか、あるいは、もういないか、だ。
判断しかね、時東は曖昧に相槌を打った。自分が介入する話ではない。玄関の明かりを灯した南が、ようやく時東を振り返った。
「おまえ、案外、真面目というか、常識あんのな」
「それ、芸能人のくせにって言ってます? だって、俺、二世ちゃんとかじゃないもん。つい五年前まで普通の学生だったんだし、あたりまえじゃん」
「いや。いい家で育ったんだろうなって思っただけ。食べ方もきれいだし」
思いがけず褒められて相好を崩しかけた時東だったが、続いた言葉に口を尖らせる羽目になった。
「まぁ、片道二時間かけてこんなところに押しかけてる時点で、馬鹿だろうとは思ってたけど」
「ちょっと、南さん?」
「バイク、そのへんに置いといて」
玄関を開け広げにしたまま、南は家の中に入っていく。遠ざかる廊下の軋む足音を耳に、指示された場所にバイクを停めた。
店の外で会うことははじめてだが、店で会った回数も両手の数を超えていない。だというのに、南の態度は気心の知れた友人に対するもののようだ。嬉しくないわけではないけれど、どこかこそばゆく、少しだけ落ち着かない。
「南さん? 入るよ」
玄関の土間で一声かけると、奥から応えがあった。時東からすれば、信じられない不用心さだ。先ほども感じたことだが、これが田舎の距離感というやつなのだろうか。そんな偏見を抱きつつ、玄関の鍵をかける。さすがに開けたままにはしておかないだろう。たぶん。
声のした方向に向かって廊下を進む。足先から伝わる冷たさが、田舎の祖父母の家に遊びに行ったときの感覚を時東に思い起こさせた。
――そうそう、マンションとかに比べて、一軒家って底冷えするんだよな。
年末に顔を出すと、居間の炬燵で顔を突き合わせ他愛もないことを話したものだった。連想して浮かんだ記憶に、ふいに懐かしくなった。
はじめて来た場所なのになぁ、と内心で苦笑しつつ、開いていた襖の先に顔を出す。どうも、ここが居間のようだ。しかし、肝心の家主が見当たらない。
来たばかりの廊下に視線を戻すと、ちょうど南が入ってくるところだった。
「あ、南さん」
「適当に座ってたらいいから。ほれ、上着」
手を差し出され、時東は慌てて上着を脱いだ。いまさらだが、ちょっと図々しかったかもしれない。
「なんかいろいろとすみません……」
「なにをいまさら」
あ、やっぱり、いまさらだった。へらりと眉を下げた時東の上着をハンガーにかけた南が、座卓のほうを指差した。
「汚くはないから。適当に座布団使って」
「あ、うん」
ありがとう、と頷くと、南はまた居間を出て行ってしまった。
テレビと座卓、そうして作り付けの本棚に飾り棚。ひとりで暮らすには十分すぎる広さの座卓の前におずおずと座り、時東は部屋を見渡した。
懐かしい家の匂いがする。怒られても困るので口にはしないが、祖父母の家のような温かさ。必要最低限のものしかない、時東のマンションとはまったく違う。
他人の家に――それもはじめて訪れた家だ――ひとり取り残されている状況だというのに、なんだか妙に落ち着く感じがして。それがどうにも不思議だった。
南の足が止まったのは、木造の二階建て家屋の前だった。田舎らしい庭付きの一軒家。ほかにも家族が住んでいるような雰囲気だったが、屋内の電気は点いていない。
「あの、南さん」
門扉を開けずんずんと進んでいく背中に、時東は思わず声をかけた。
「俺が言うことでもないと思うんですが、こんな時間にやってきて大丈夫だった?」
「あー、俺ひとりだから大丈夫」
「ご旅行?」
「いや、もう、俺ひとり」
南が建てた家ではないだろうから、実家であることは間違いないだろう。ということは、両親は諸事情で別居をしているか、あるいは、もういないか、だ。
判断しかね、時東は曖昧に相槌を打った。自分が介入する話ではない。玄関の明かりを灯した南が、ようやく時東を振り返った。
「おまえ、案外、真面目というか、常識あんのな」
「それ、芸能人のくせにって言ってます? だって、俺、二世ちゃんとかじゃないもん。つい五年前まで普通の学生だったんだし、あたりまえじゃん」
「いや。いい家で育ったんだろうなって思っただけ。食べ方もきれいだし」
思いがけず褒められて相好を崩しかけた時東だったが、続いた言葉に口を尖らせる羽目になった。
「まぁ、片道二時間かけてこんなところに押しかけてる時点で、馬鹿だろうとは思ってたけど」
「ちょっと、南さん?」
「バイク、そのへんに置いといて」
玄関を開け広げにしたまま、南は家の中に入っていく。遠ざかる廊下の軋む足音を耳に、指示された場所にバイクを停めた。
店の外で会うことははじめてだが、店で会った回数も両手の数を超えていない。だというのに、南の態度は気心の知れた友人に対するもののようだ。嬉しくないわけではないけれど、どこかこそばゆく、少しだけ落ち着かない。
「南さん? 入るよ」
玄関の土間で一声かけると、奥から応えがあった。時東からすれば、信じられない不用心さだ。先ほども感じたことだが、これが田舎の距離感というやつなのだろうか。そんな偏見を抱きつつ、玄関の鍵をかける。さすがに開けたままにはしておかないだろう。たぶん。
声のした方向に向かって廊下を進む。足先から伝わる冷たさが、田舎の祖父母の家に遊びに行ったときの感覚を時東に思い起こさせた。
――そうそう、マンションとかに比べて、一軒家って底冷えするんだよな。
年末に顔を出すと、居間の炬燵で顔を突き合わせ他愛もないことを話したものだった。連想して浮かんだ記憶に、ふいに懐かしくなった。
はじめて来た場所なのになぁ、と内心で苦笑しつつ、開いていた襖の先に顔を出す。どうも、ここが居間のようだ。しかし、肝心の家主が見当たらない。
来たばかりの廊下に視線を戻すと、ちょうど南が入ってくるところだった。
「あ、南さん」
「適当に座ってたらいいから。ほれ、上着」
手を差し出され、時東は慌てて上着を脱いだ。いまさらだが、ちょっと図々しかったかもしれない。
「なんかいろいろとすみません……」
「なにをいまさら」
あ、やっぱり、いまさらだった。へらりと眉を下げた時東の上着をハンガーにかけた南が、座卓のほうを指差した。
「汚くはないから。適当に座布団使って」
「あ、うん」
ありがとう、と頷くと、南はまた居間を出て行ってしまった。
テレビと座卓、そうして作り付けの本棚に飾り棚。ひとりで暮らすには十分すぎる広さの座卓の前におずおずと座り、時東は部屋を見渡した。
懐かしい家の匂いがする。怒られても困るので口にはしないが、祖父母の家のような温かさ。必要最低限のものしかない、時東のマンションとはまったく違う。
他人の家に――それもはじめて訪れた家だ――ひとり取り残されている状況だというのに、なんだか妙に落ち着く感じがして。それがどうにも不思議だった。
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