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袖振り合うも他生の縁
11:南凛太朗 12月22日8時3分 ②
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ちょうどいい頃合いなのかもしれない。そう思い切って、のれんは新調することにした。店の名前もなにも変わっていないが、自分の店として再出発をしろということなのだろう。
新しい縁ができるということは、変わるということだ。生まれ育ったこの田舎町を出たときもそうであったし、この町に戻る決断を下したときもそうだった。
そのすべてが良いことであったわけではないが、すべて自分が決めて選んだことだ。選ばなかった先にあったかもしれない「たらればの未来」を想像して嘆くほうが時間の無駄と割り切っている。
そういう意味では、春風が言うように自分は前向きにできているのだろう。どこぞの繊細なミュージシャンと違って、物事を深く考えていないというだけかもしれないが。
「まぁ、こんなもんだろ」
青い空の下で、真新しい藍色の暖簾がたなびいている。
年が明けてからにしようかとも考えていたのだが、ぶら下がっていないとどうにも格好がつかない。早いほうがいいだろうと今日に決めた。
「あら、凛ちゃん。新しいのが届いたの。いいじゃない」
「あぁ、おはようございます」
よく知る朗らかな声に振り返ると、愛犬の散歩中らしい春風の母親が手を振っていた。柴犬のポンの尻尾が構ってほしそうに揺れている。
町道に出て、丸っこいフォルムを撫で回していると、春風の母親が声をひそめた。
「大変だったみたいねぇ」
「どうも、お騒がせしてすみません」
「嫌ねぇ。あたしたちはいいのよ、本当に。世の中には困った人がいるものね。今日はお休みなんでしょ。凛ちゃんもたまには遊んでおいでなさいよ」
そういえば、最近はどこにも出かけていなかった。居候がいたせいだが、元来の出不精に拍車がかかった可能性はある。
わふわふと舌を出すポンから手を離し、南は立ち上がった。
――出かけたいところなぁ。
べつに、さしてないのだが、と思考を巡らせたところで、ふと顔が浮かんだ。
「そう、っすね」
だが、しかし。どこにいるのかも知らない相手である。
自分が知っているのは、東京で暮らしているという漠然とした情報だけ。まぁ、そのうち、戻ってくるだろう。そう、南は思い直した。
なにせ、まだまだ居座りますとばかりの荷物が自宅の一室に放置されている。
「いつもお店のことばかりなんだから。まだまだ若いのに。うちの智治も、もう少しでいいから、凛ちゃんの真面目なところを見習ってくれたらよかったのにねぇ」
愚息の話題で締めくくった春風の母親が、じゃあね、とポンのリードを引っ張る。ふりふりと揺れるしっぽを見送って、また近いうちに春風の家に行こうと南は決めた。
自宅で飼ったことはないが、犬は好きなのだ。そのはずが、随分と春風の家も無沙汰をしてしまっている。
――そう思うと、本当に最近、あいつとばっかりだったな。
あいつ。時東はるか。
こんな辺鄙な田舎を気に入って、通い続けている変な芸能人。
なにをしているのだろうと考えてしまうのは、先だって見た音楽番組の姿が頭にこびりついているからだ。
あんなこと、言う必要などなかったのに。本当に、変なところで素直にできてるというか、なんというか。
見覚えのあるバイクが近づいてきたのは、そんなことを考えていたタイミングだった。
新しい縁ができるということは、変わるということだ。生まれ育ったこの田舎町を出たときもそうであったし、この町に戻る決断を下したときもそうだった。
そのすべてが良いことであったわけではないが、すべて自分が決めて選んだことだ。選ばなかった先にあったかもしれない「たらればの未来」を想像して嘆くほうが時間の無駄と割り切っている。
そういう意味では、春風が言うように自分は前向きにできているのだろう。どこぞの繊細なミュージシャンと違って、物事を深く考えていないというだけかもしれないが。
「まぁ、こんなもんだろ」
青い空の下で、真新しい藍色の暖簾がたなびいている。
年が明けてからにしようかとも考えていたのだが、ぶら下がっていないとどうにも格好がつかない。早いほうがいいだろうと今日に決めた。
「あら、凛ちゃん。新しいのが届いたの。いいじゃない」
「あぁ、おはようございます」
よく知る朗らかな声に振り返ると、愛犬の散歩中らしい春風の母親が手を振っていた。柴犬のポンの尻尾が構ってほしそうに揺れている。
町道に出て、丸っこいフォルムを撫で回していると、春風の母親が声をひそめた。
「大変だったみたいねぇ」
「どうも、お騒がせしてすみません」
「嫌ねぇ。あたしたちはいいのよ、本当に。世の中には困った人がいるものね。今日はお休みなんでしょ。凛ちゃんもたまには遊んでおいでなさいよ」
そういえば、最近はどこにも出かけていなかった。居候がいたせいだが、元来の出不精に拍車がかかった可能性はある。
わふわふと舌を出すポンから手を離し、南は立ち上がった。
――出かけたいところなぁ。
べつに、さしてないのだが、と思考を巡らせたところで、ふと顔が浮かんだ。
「そう、っすね」
だが、しかし。どこにいるのかも知らない相手である。
自分が知っているのは、東京で暮らしているという漠然とした情報だけ。まぁ、そのうち、戻ってくるだろう。そう、南は思い直した。
なにせ、まだまだ居座りますとばかりの荷物が自宅の一室に放置されている。
「いつもお店のことばかりなんだから。まだまだ若いのに。うちの智治も、もう少しでいいから、凛ちゃんの真面目なところを見習ってくれたらよかったのにねぇ」
愚息の話題で締めくくった春風の母親が、じゃあね、とポンのリードを引っ張る。ふりふりと揺れるしっぽを見送って、また近いうちに春風の家に行こうと南は決めた。
自宅で飼ったことはないが、犬は好きなのだ。そのはずが、随分と春風の家も無沙汰をしてしまっている。
――そう思うと、本当に最近、あいつとばっかりだったな。
あいつ。時東はるか。
こんな辺鄙な田舎を気に入って、通い続けている変な芸能人。
なにをしているのだろうと考えてしまうのは、先だって見た音楽番組の姿が頭にこびりついているからだ。
あんなこと、言う必要などなかったのに。本当に、変なところで素直にできてるというか、なんというか。
見覚えのあるバイクが近づいてきたのは、そんなことを考えていたタイミングだった。
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