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案件4.愚者の園
04:探偵と呪殺屋
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「呪殺屋、ねぇ」
相沢の情報をもとに、インターネットの海を探索すること早二時間。行平は乾いた瞳に目薬をさした。二十代も後半に差し掛かると、パソコンの画面を長時間見ることは辛いのだ。まず目が乾く。そして肩が凝る。まぁ、そもそもがアナログ人間であるがゆえに、たまの酷使の反動がひどいのかもしれないが。
プリントアウトしたオカルト関連のスレッドや、地元の人間が集うローカル掲示板。
たしかに「呪殺屋」という名称はそこかしこに踊っているのだが、実際にそのサイトを見たという書き込み者はいなかった。
すべてが「自分の知り合い」や「知り合いの知り合い」の又聞き話で、そうしてまた行平も件のサイトに辿り着けずにいる。
「そもそも、誰かを呪い殺したいって強く思えば、そのページに辿り着けるって。どんな都市伝説だよ。というか、あれか。最近の不可思議は機械にも強いのか」
「なにを馬鹿な独り言を言ってるの。滝川さん。犬がびっくりするでしょう」
本当に唐突に部屋に響いた声に、行平は「うわっ」と情けない悲鳴を上げた。手の中で無残にぐしゃりと潰れた紙に溜息を吐き、恨みがましい視線をソファに向ける。
「呪殺屋、おまえな」
音もなく侵入するのは頼むからやめてほしい。呪殺屋は、何十分前からもそこにいたのような態度で、犬を腹に乗せて寝そべっていた。
「気が付かないほうに問題があるんじゃない? 仮にも元警官で、現探偵なんでしょう?」
猫のごとく目を細めた男に、行平は反論を呑み込んだ。ムキになったら負けだ。負けだ。言い聞かせ、一呼吸。
「ちなみに、仮にあんたが死んで幽霊になったとしても、機械に強くなったりはしないと思うよ。死んだ瞬間、能力アップなんてご都合主義な展開は存在し得ないからね」
「幽霊っているのか?」
喋り口を封じられて拍子抜けした行平が素直に告げた疑問に、呪殺屋はわざとらしく眉を上げた。
「知らない。俺、死んだことはないし」
「身も蓋もねぇな」
「ついでにもうひとつ身も蓋もないことを言うと、本当に誰かを呪い殺したいとまで思う執念があるからこそ、虱潰しに探すなり伝手を伝うなりしてサイトに辿り着くんでしょうよ」
本当に身も蓋もないが、尤もだった。
「なんで知ってるんだ、サイトのこと」
「あんた、数分前までの自分の行動を覚えてないの? ほぼ全部、口から出てたけど」
「マジか……」
「どうせまた、あの二枚舌に誑かされたんでしょ。懲りないね、あんたも。本当に」
この男が二枚舌と称する人物は一人しかいない。行平は溜息ひとつでプリントアウトした紙の束を机に伏せた。
「べつに、それだけじゃない。俺も気になってたから」
「気になってたって、あの子どものこと?」
怪訝な声を上げた呪殺屋に視線を向け直すと、ソファからがばりと身を起こしたところだった。
「もう一ヵ月か。あの子がどうしてるのか。どこかで気になってたのは事実だからな。いいきっかけを貰えて感謝してる」
言い切った行平に、呪殺屋の瞳がゆっくりと細くなる。そして小さく嘆息。
「人の良さもそこまでいくと病気だね」
「おまえも行くか? 助けたのはおまえだぞ」
「行かない」
言い捨てて、呪殺屋が犬の首筋を撫ぜた。視線は行平ではなく、犬に注がれている。
「助けたのは、あんたであって俺じゃない。それに、好きじゃないんだ」
感情の乏しい声だった。
「自分で責任の取れないことをしでかして、悲劇のヒロイン面で嘆く馬鹿な女」
珍しい、と行平は思った。この男にしては、いささか口調がきつい。そして、人を強く糾弾する台詞も。
「神野」
呼びかけに呪殺屋は顔を上げなかった。財布だけ手に取って、立ち上がる。相沢から預かったメモは、財布の中に入っているのだ。
「留守番、頼んだ」
出入り口に向かいざま、ソファの傍らで足を止める。子どもにするように小さな頭を撫でてやると、呪殺屋は憮然とした顔で行平を見上げた。
「ずっと聞こうと思ってたんだけどさ」
「なんだ?」
「あんた、俺のこと、何歳だと思ってるの?」
「何歳って……」
見た目だけで言えば、いいところ大学生か、その年ごろのフリーターとしか思えない。
言い淀んだ行平に、呪殺屋が微笑った。
「次の賭けのネタにあげるよ、滝川さん。まぁ、あんたが思ってるよりはずっと年くってると思うけどね」
言い返そうと思って、行平は止めた。結局、「犬に餌、食べさせ過ぎんなよ」とだけ告げて、外に出る。またひとつ、嫌な謎が増えてしまった。
相沢の情報をもとに、インターネットの海を探索すること早二時間。行平は乾いた瞳に目薬をさした。二十代も後半に差し掛かると、パソコンの画面を長時間見ることは辛いのだ。まず目が乾く。そして肩が凝る。まぁ、そもそもがアナログ人間であるがゆえに、たまの酷使の反動がひどいのかもしれないが。
プリントアウトしたオカルト関連のスレッドや、地元の人間が集うローカル掲示板。
たしかに「呪殺屋」という名称はそこかしこに踊っているのだが、実際にそのサイトを見たという書き込み者はいなかった。
すべてが「自分の知り合い」や「知り合いの知り合い」の又聞き話で、そうしてまた行平も件のサイトに辿り着けずにいる。
「そもそも、誰かを呪い殺したいって強く思えば、そのページに辿り着けるって。どんな都市伝説だよ。というか、あれか。最近の不可思議は機械にも強いのか」
「なにを馬鹿な独り言を言ってるの。滝川さん。犬がびっくりするでしょう」
本当に唐突に部屋に響いた声に、行平は「うわっ」と情けない悲鳴を上げた。手の中で無残にぐしゃりと潰れた紙に溜息を吐き、恨みがましい視線をソファに向ける。
「呪殺屋、おまえな」
音もなく侵入するのは頼むからやめてほしい。呪殺屋は、何十分前からもそこにいたのような態度で、犬を腹に乗せて寝そべっていた。
「気が付かないほうに問題があるんじゃない? 仮にも元警官で、現探偵なんでしょう?」
猫のごとく目を細めた男に、行平は反論を呑み込んだ。ムキになったら負けだ。負けだ。言い聞かせ、一呼吸。
「ちなみに、仮にあんたが死んで幽霊になったとしても、機械に強くなったりはしないと思うよ。死んだ瞬間、能力アップなんてご都合主義な展開は存在し得ないからね」
「幽霊っているのか?」
喋り口を封じられて拍子抜けした行平が素直に告げた疑問に、呪殺屋はわざとらしく眉を上げた。
「知らない。俺、死んだことはないし」
「身も蓋もねぇな」
「ついでにもうひとつ身も蓋もないことを言うと、本当に誰かを呪い殺したいとまで思う執念があるからこそ、虱潰しに探すなり伝手を伝うなりしてサイトに辿り着くんでしょうよ」
本当に身も蓋もないが、尤もだった。
「なんで知ってるんだ、サイトのこと」
「あんた、数分前までの自分の行動を覚えてないの? ほぼ全部、口から出てたけど」
「マジか……」
「どうせまた、あの二枚舌に誑かされたんでしょ。懲りないね、あんたも。本当に」
この男が二枚舌と称する人物は一人しかいない。行平は溜息ひとつでプリントアウトした紙の束を机に伏せた。
「べつに、それだけじゃない。俺も気になってたから」
「気になってたって、あの子どものこと?」
怪訝な声を上げた呪殺屋に視線を向け直すと、ソファからがばりと身を起こしたところだった。
「もう一ヵ月か。あの子がどうしてるのか。どこかで気になってたのは事実だからな。いいきっかけを貰えて感謝してる」
言い切った行平に、呪殺屋の瞳がゆっくりと細くなる。そして小さく嘆息。
「人の良さもそこまでいくと病気だね」
「おまえも行くか? 助けたのはおまえだぞ」
「行かない」
言い捨てて、呪殺屋が犬の首筋を撫ぜた。視線は行平ではなく、犬に注がれている。
「助けたのは、あんたであって俺じゃない。それに、好きじゃないんだ」
感情の乏しい声だった。
「自分で責任の取れないことをしでかして、悲劇のヒロイン面で嘆く馬鹿な女」
珍しい、と行平は思った。この男にしては、いささか口調がきつい。そして、人を強く糾弾する台詞も。
「神野」
呼びかけに呪殺屋は顔を上げなかった。財布だけ手に取って、立ち上がる。相沢から預かったメモは、財布の中に入っているのだ。
「留守番、頼んだ」
出入り口に向かいざま、ソファの傍らで足を止める。子どもにするように小さな頭を撫でてやると、呪殺屋は憮然とした顔で行平を見上げた。
「ずっと聞こうと思ってたんだけどさ」
「なんだ?」
「あんた、俺のこと、何歳だと思ってるの?」
「何歳って……」
見た目だけで言えば、いいところ大学生か、その年ごろのフリーターとしか思えない。
言い淀んだ行平に、呪殺屋が微笑った。
「次の賭けのネタにあげるよ、滝川さん。まぁ、あんたが思ってるよりはずっと年くってると思うけどね」
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