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光あるところ(4)
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「俺だけだ」
自分だけのものだと傲慢な台詞を吐き、口づけを繰り返す。触れそうな距離で細められる瞳にあるのは、「しかたない」と戯言を許容するものでしかなく、ああ、本当に愛にあふれているのだと幾度目とも知れないことを思い知る。
だが、こんなことを言うのは、こういう夜だけと決めていた。
「ん、っ、あ……」
離れた舌が寂しく、濡れた唇をじっと見つめれば、いつかの夜と同じ様にハルトの手のひらが銀糸を撫でつけた。こめかみに触れる優しく温かな温度に、ごく自然と表情がとろんでいく。
変化を見とめたハルトの顔に、うれしいような困ったような、そんな複雑な笑みが浮かんだ。
「外でそういう顔してない? やめてよ。してるって言われたら、さすがに妬きそう」
「……妬く?」
おまえが、と言わんばかりの問いかけになる。子どものわがままのようなことを言われた覚えはあっても、そんなことを言われた覚えはなかったからだ。
「妬くよ。そういう集まりに行かないでって言いたくなるくらい」
「言わないだろう」
「大人になったんだよ」
「子どものころからそうだった」
「そうかな」
エリアスの肌を暴きながら、睦言の延長線上のような声で、ハルトが呟く。
「でも、ずっと、大人になりたいと思ってたよ、俺」
大人。もう何年も前。大人にしてしまったと悔やんだ、子ども。この場で抱くべきでない罪悪感に蓋をし、キスをするために頭を浮かせた。べつに、何度でも聞くけど、謝るくらいならありがとうって言ってもらったほうがうれしいし、なんならキスしてくれてもいいんだよ、と。冗談めかせて笑ったのはハルトだ。
付き合っているとは言え、日常生活でキスはどうかと思ったものの、勝手な罪悪感を謝罪でぶつけられても辛気臭いばかりだろう。そう納得できたので、こういった場面では積極的に活用することにしている。
触れるだけのキスを受け止めたハルトが、首筋に唇を寄せた。鎖骨に吸いついたそれに胸の尖りを噛まれると、期待と疼きで甘い声がこぼれる。
「早く大人になりたいって思って、だから、大人になって戻ってきた」
「っ、ぁ」
「俺にとって、ずっと師匠は特別だったから」
ハルトが戻ってきてから、何度も聞いた台詞だった。たぶん、とエリアスは思う。たぶんではあるものの、きっと間違ってはいないこと。たぶん、ハルトは、エリアスの中にまれに顔を出す不安に気がついているから、こうしてたびたび言葉にするのだ。
「元の世界に戻っても変わらなかった。それが俺の気持ちのぜんぶ」
オイルを纏った指がぐるりと内側を掻き回し、気持ちの良いところを探り当てていく。前立腺を押しつぶされると、一際高い声が口をついた。甘くむず痒い感覚。腹の奥が覚えたもどかしさに眉根を寄せれば、熱を帯びた声が笑った。
「ね、もっと?」
「ん……、も、っと」
欲しい、と明け透けに応じて、前をくつろげてやる。だが、硬くなった性器を撫でた手は苦笑まじりにいなされてしまった。
「あんまり触られると出ちゃいそうだから」
困るでしょ、なんてことを言いながら、ハルトが下着を脱ぎ捨てる。宛がわれた熱にごく自然と背筋が震え、そっと息を吐いた。恐れでも緊張でもあるわけがなく、ただの期待だった。切先がゆっくり中に入り込んでくる。どうしたって覚える圧迫感に、エリアスはハルトの背中に縋りついた。
「ハル、ん…っ」
「あ、……ちょっと、きつ……」
途切れ途切れに震える声が響くと、もう駄目だった。ぞくぞくと腰が震える。悔し紛れに、おまえのせいだろうと詰れば、はっと吐息が耳朶をかすめる。
「だって」
甘えた言い方で詰り返しながら、ハルトは腰を動かした。硬い先で内壁を擦られると、ひ、と情けない声があふれる。
「すぐにでも欲しいっていう顔するから」
「ハ、ルト……ッ、あ」
「ただでさえ遅いなぁって思ってちょっと苛々してたのに、そんなかわいい顔されたら我慢できなくなる」
はぁ、と喉を逸らし、エリアスは喘いだ。晒した喉を噛まれ、ぴくりと踵が跳ねる。既に一度ハルトの手でいかされた身体は敏感で、内からの刺激にも外からの刺激にも馬鹿みたいな反応を示していた。ぐりぐりと突き上げられる快感に、縋る指先に力が籠もる。
「師匠」
快感に熟れた、けれど、揺るぎない愛情に満ちた声。その声が自分を呼ぶことがうれしいのに、どこからか恐ろしさが込み上がる。覚えた不安を隠すように目を閉じた。
そんなことはないのだと信じようと思っている。けれど、子どもの一時の激情である可能性を心のどこかに留め置くことを、エリアスはやめることができないでいた。
「……っ、ふ、あ、…あっ」
身体の奥を揺さぶられるたび、たまらない気持ちの良さとかすかな不安が混ざり合っていく。
それでも、一心に注がれる執着を浴びることは心地が良かった。孤独で構わないと嗤ったはずの心が凪いでしまう。後戻りなど到底できないようなところに。師匠ともう一度呼ばれ、ゆるゆると目蓋を開ける。自分を見つめる瞳の色に、エリアスは震える息を吐いた。
なにも考えなくともよいところに意識を飛ばしたいのに、自分を見つめる愛おしさの詰まった瞳が、大切なものを扱うように触れる指先が、律動が、許してくれない。
過ぎた幸福は恐ろしさを纏うのだということを知ってしまった。腰を掴んで持ち上げられ、結合が深くなる。奥を叩かれるたび、視界が眩む気がした。
「ぅ、あ…」
はくはくと荒い呼吸があふれ、シーツに腕が落ちる。
「…………あ」
見上げた世界の中心が、なぜかじんわりとにじんでいく。シーツを握り、エリアスは喉から細い声をこぼした。
ハルトはこの世界に馴染んでいる。間違いがない。ずっといると言っている。繰り返すが、その言葉を信じていないわけでもない。だが、たまに無性に不安になることがあるのだ。
いつか。いつか、向こうに戻りたいと願う日が来るのではないか、と。ビルモスがその願いを叶えてしまうのではないか、と。
満たされているから、不安を覚えるのだろうか。そうだとすれば、幸福というものも善し悪しだ。以前であれば、エリアスの感情はもっと平らかだった。
「なに考えてるの?」
問いかけの意味を半分も理解できないまま頭を振る。ほとんど反射だった。そのすべてを承知している顔で、嘘、とハルトが笑う。
「なにか考えてる顔してる」
シーツを握っていた手を取られ、ぎゅっと指を繋ぐようにして縫い止められた。
「素直じゃないなぁ」
「っ、誰が、う、あっ、……ああ、あ!」
「違うか。甘えるのに慣れてないんだよね」
いやに知ったふうなことを言う、と思った。だが、そのとおりなのだ。見よう見まねで甘やかすことはできても、自分はそれだけだ。
すべてを曝け出して甘えることがどういうことか、エリアスにはよくわからない。酒が入って、理性がゆるんで、かたちばかりどうにか甘えようとしてみせているだけ。
「いいよ、何度でも俺で覚えて」
絶対に面倒なんて言わないから、とハルトは言う。そんなことは知っている。でも。ごつりと奥を突かれると、性器からまた蜜があふれた。揺り動かされ、ぐずぐずに熱が募っていく。自分だけが欲しいと言わんばかりの瞳の熱。
目の裏がチカチカとして、なんだかもうよくわからなくて、だから、いいか、と思った。今であれば、ハルトも熱に浮かされている。そういったタイミングでの戯言なら。
「……、戻らないと誓えるのか」
こぼれた台詞は、自分のものと思えないほど幼かった。黒曜石の瞳が見開かれ、律動が止まる。だが、エリアスは問いを止めなかった。
「おまえはもうここにいる、と。死ぬまでそばにいる、と。そう誓えるのか。俺を選ぶというのは、そういうことだ」
みっともないことなど百も承知だった。愛もなにもわからないと冷めたことを嘯きながら、本当ははじめて覚えた愛情に縋りたくてたまらなかった。返したくなどなかった。
五年越しの、それこそ馬鹿としか言えないようなエリアスの本心に、ハルトはそっと目を細めた。自身を縫い止めていた手が離れ、散らばった銀色の髪に触れる。
「師匠」
年齢にそぐわないほどの、慈愛に満ちた声だった。
「俺は、この世界に戻るって決めたときに、師匠にぜんぶをあげたいって。勝手だけど、そう決めてたんだよ」
「ハルト」
「いつか戻りたいって決めて、……これもぜんぶ俺の勝手だけど、向こうの家族には精いっぱい伝えたよ。理解してくれたとは思わないし、悲しませたとも思うけど、でも、それでも、俺は師匠を取った」
改めて聞かなくとも、随分と重い告白だった。その重さごと受け止めて頷く。安堵なのか、不安なのか、歓喜なのか。判然としない感情で喉が震えた。
銀糸を撫で触っていた指が頬に触れ、囁くようにハルトが言った。
「俺のぜんぶは師匠のものだよ。だから、師匠もぜんぶ俺にちょうだい」
「……もちろんだ」
万感の思いで応え、ハルトの頭を掻き抱く。胸がたまらなくいっぱいで、少なくともこの瞬間のことを幸福と言うのだと知った。善し悪しだなどと言っている暇もなく、唇を合わせる。そうしなければならないような心地だった。
逃げ道を塞ぐように頭を抱いたまま、口づけを交わす。侵入してきた舌にいささか乱暴に舐め回され、エリアスはくぐもった声を漏らした。ハルトが興奮しているのだと思うと、身体が熱くなる。焦れたふうに胸元を押され、キスをするために浮かした頭がシーツについた。
「ハル、――んっ」
再び被さった唇に言葉を奪われ、唾液が伝う。限界まで押し込まれた性器に視界がぱっと白んで、吐き出したことを悟った。息吐く間もなく前立腺を擦られ、射精で敏感になった後ろが性器を締め付ける。
「あ、……や、ば」
いきそう、とキスの合間にこぼす声が、無性に色っぽい。眉を寄せた顔がかわいくて、エリアスは引き寄せた。キスを交わしたまま、性器が脈打つのを感じる。
どちらからともなく唇を離し、長く息を吐いた。どさりと背中をシーツに倒す。いつも以上に満たされた心地ではあったものの、いつも以上に疲れた心地でもあった。
「あー、気持ち良かった」
余韻があるのかないのかわからないいつもの調子で感想を口にしたハルトが、お風呂入る、と問いかけてきた。
「疲れた」
「じゃあ、いいよ。俺がぜんぶやってあげる」
あたりまえとばかりに言ってのけたハルトだったが、立ち上がることなくエリアスのすぐ隣に潜り込む。
「でも、ちょっと、その前に」
背中から抱きしめられ、エリアスはけだるく呟いた。
「なんだ?」
「ねぇ、師匠」
応じる声が、肩胛骨に直に響く。幼いころ、夜の台所で背中に抱き着いた小さなハルトを思い出した。もうずっと遠い、だが、今のハルトに違わず繋がっているもの。
「ずっと一緒にいてほしい」
あのころの延長線のような、祈りじみた声。ただひとつ違っているものがあるとすれば、今のエリアスには、その願いを叶える意志があるということだった。夜に溶ける声で、もちろんだと請け負う。強くなった腕の力が、ただただ愛おしかった。
自分だけのものだと傲慢な台詞を吐き、口づけを繰り返す。触れそうな距離で細められる瞳にあるのは、「しかたない」と戯言を許容するものでしかなく、ああ、本当に愛にあふれているのだと幾度目とも知れないことを思い知る。
だが、こんなことを言うのは、こういう夜だけと決めていた。
「ん、っ、あ……」
離れた舌が寂しく、濡れた唇をじっと見つめれば、いつかの夜と同じ様にハルトの手のひらが銀糸を撫でつけた。こめかみに触れる優しく温かな温度に、ごく自然と表情がとろんでいく。
変化を見とめたハルトの顔に、うれしいような困ったような、そんな複雑な笑みが浮かんだ。
「外でそういう顔してない? やめてよ。してるって言われたら、さすがに妬きそう」
「……妬く?」
おまえが、と言わんばかりの問いかけになる。子どものわがままのようなことを言われた覚えはあっても、そんなことを言われた覚えはなかったからだ。
「妬くよ。そういう集まりに行かないでって言いたくなるくらい」
「言わないだろう」
「大人になったんだよ」
「子どものころからそうだった」
「そうかな」
エリアスの肌を暴きながら、睦言の延長線上のような声で、ハルトが呟く。
「でも、ずっと、大人になりたいと思ってたよ、俺」
大人。もう何年も前。大人にしてしまったと悔やんだ、子ども。この場で抱くべきでない罪悪感に蓋をし、キスをするために頭を浮かせた。べつに、何度でも聞くけど、謝るくらいならありがとうって言ってもらったほうがうれしいし、なんならキスしてくれてもいいんだよ、と。冗談めかせて笑ったのはハルトだ。
付き合っているとは言え、日常生活でキスはどうかと思ったものの、勝手な罪悪感を謝罪でぶつけられても辛気臭いばかりだろう。そう納得できたので、こういった場面では積極的に活用することにしている。
触れるだけのキスを受け止めたハルトが、首筋に唇を寄せた。鎖骨に吸いついたそれに胸の尖りを噛まれると、期待と疼きで甘い声がこぼれる。
「早く大人になりたいって思って、だから、大人になって戻ってきた」
「っ、ぁ」
「俺にとって、ずっと師匠は特別だったから」
ハルトが戻ってきてから、何度も聞いた台詞だった。たぶん、とエリアスは思う。たぶんではあるものの、きっと間違ってはいないこと。たぶん、ハルトは、エリアスの中にまれに顔を出す不安に気がついているから、こうしてたびたび言葉にするのだ。
「元の世界に戻っても変わらなかった。それが俺の気持ちのぜんぶ」
オイルを纏った指がぐるりと内側を掻き回し、気持ちの良いところを探り当てていく。前立腺を押しつぶされると、一際高い声が口をついた。甘くむず痒い感覚。腹の奥が覚えたもどかしさに眉根を寄せれば、熱を帯びた声が笑った。
「ね、もっと?」
「ん……、も、っと」
欲しい、と明け透けに応じて、前をくつろげてやる。だが、硬くなった性器を撫でた手は苦笑まじりにいなされてしまった。
「あんまり触られると出ちゃいそうだから」
困るでしょ、なんてことを言いながら、ハルトが下着を脱ぎ捨てる。宛がわれた熱にごく自然と背筋が震え、そっと息を吐いた。恐れでも緊張でもあるわけがなく、ただの期待だった。切先がゆっくり中に入り込んでくる。どうしたって覚える圧迫感に、エリアスはハルトの背中に縋りついた。
「ハル、ん…っ」
「あ、……ちょっと、きつ……」
途切れ途切れに震える声が響くと、もう駄目だった。ぞくぞくと腰が震える。悔し紛れに、おまえのせいだろうと詰れば、はっと吐息が耳朶をかすめる。
「だって」
甘えた言い方で詰り返しながら、ハルトは腰を動かした。硬い先で内壁を擦られると、ひ、と情けない声があふれる。
「すぐにでも欲しいっていう顔するから」
「ハ、ルト……ッ、あ」
「ただでさえ遅いなぁって思ってちょっと苛々してたのに、そんなかわいい顔されたら我慢できなくなる」
はぁ、と喉を逸らし、エリアスは喘いだ。晒した喉を噛まれ、ぴくりと踵が跳ねる。既に一度ハルトの手でいかされた身体は敏感で、内からの刺激にも外からの刺激にも馬鹿みたいな反応を示していた。ぐりぐりと突き上げられる快感に、縋る指先に力が籠もる。
「師匠」
快感に熟れた、けれど、揺るぎない愛情に満ちた声。その声が自分を呼ぶことがうれしいのに、どこからか恐ろしさが込み上がる。覚えた不安を隠すように目を閉じた。
そんなことはないのだと信じようと思っている。けれど、子どもの一時の激情である可能性を心のどこかに留め置くことを、エリアスはやめることができないでいた。
「……っ、ふ、あ、…あっ」
身体の奥を揺さぶられるたび、たまらない気持ちの良さとかすかな不安が混ざり合っていく。
それでも、一心に注がれる執着を浴びることは心地が良かった。孤独で構わないと嗤ったはずの心が凪いでしまう。後戻りなど到底できないようなところに。師匠ともう一度呼ばれ、ゆるゆると目蓋を開ける。自分を見つめる瞳の色に、エリアスは震える息を吐いた。
なにも考えなくともよいところに意識を飛ばしたいのに、自分を見つめる愛おしさの詰まった瞳が、大切なものを扱うように触れる指先が、律動が、許してくれない。
過ぎた幸福は恐ろしさを纏うのだということを知ってしまった。腰を掴んで持ち上げられ、結合が深くなる。奥を叩かれるたび、視界が眩む気がした。
「ぅ、あ…」
はくはくと荒い呼吸があふれ、シーツに腕が落ちる。
「…………あ」
見上げた世界の中心が、なぜかじんわりとにじんでいく。シーツを握り、エリアスは喉から細い声をこぼした。
ハルトはこの世界に馴染んでいる。間違いがない。ずっといると言っている。繰り返すが、その言葉を信じていないわけでもない。だが、たまに無性に不安になることがあるのだ。
いつか。いつか、向こうに戻りたいと願う日が来るのではないか、と。ビルモスがその願いを叶えてしまうのではないか、と。
満たされているから、不安を覚えるのだろうか。そうだとすれば、幸福というものも善し悪しだ。以前であれば、エリアスの感情はもっと平らかだった。
「なに考えてるの?」
問いかけの意味を半分も理解できないまま頭を振る。ほとんど反射だった。そのすべてを承知している顔で、嘘、とハルトが笑う。
「なにか考えてる顔してる」
シーツを握っていた手を取られ、ぎゅっと指を繋ぐようにして縫い止められた。
「素直じゃないなぁ」
「っ、誰が、う、あっ、……ああ、あ!」
「違うか。甘えるのに慣れてないんだよね」
いやに知ったふうなことを言う、と思った。だが、そのとおりなのだ。見よう見まねで甘やかすことはできても、自分はそれだけだ。
すべてを曝け出して甘えることがどういうことか、エリアスにはよくわからない。酒が入って、理性がゆるんで、かたちばかりどうにか甘えようとしてみせているだけ。
「いいよ、何度でも俺で覚えて」
絶対に面倒なんて言わないから、とハルトは言う。そんなことは知っている。でも。ごつりと奥を突かれると、性器からまた蜜があふれた。揺り動かされ、ぐずぐずに熱が募っていく。自分だけが欲しいと言わんばかりの瞳の熱。
目の裏がチカチカとして、なんだかもうよくわからなくて、だから、いいか、と思った。今であれば、ハルトも熱に浮かされている。そういったタイミングでの戯言なら。
「……、戻らないと誓えるのか」
こぼれた台詞は、自分のものと思えないほど幼かった。黒曜石の瞳が見開かれ、律動が止まる。だが、エリアスは問いを止めなかった。
「おまえはもうここにいる、と。死ぬまでそばにいる、と。そう誓えるのか。俺を選ぶというのは、そういうことだ」
みっともないことなど百も承知だった。愛もなにもわからないと冷めたことを嘯きながら、本当ははじめて覚えた愛情に縋りたくてたまらなかった。返したくなどなかった。
五年越しの、それこそ馬鹿としか言えないようなエリアスの本心に、ハルトはそっと目を細めた。自身を縫い止めていた手が離れ、散らばった銀色の髪に触れる。
「師匠」
年齢にそぐわないほどの、慈愛に満ちた声だった。
「俺は、この世界に戻るって決めたときに、師匠にぜんぶをあげたいって。勝手だけど、そう決めてたんだよ」
「ハルト」
「いつか戻りたいって決めて、……これもぜんぶ俺の勝手だけど、向こうの家族には精いっぱい伝えたよ。理解してくれたとは思わないし、悲しませたとも思うけど、でも、それでも、俺は師匠を取った」
改めて聞かなくとも、随分と重い告白だった。その重さごと受け止めて頷く。安堵なのか、不安なのか、歓喜なのか。判然としない感情で喉が震えた。
銀糸を撫で触っていた指が頬に触れ、囁くようにハルトが言った。
「俺のぜんぶは師匠のものだよ。だから、師匠もぜんぶ俺にちょうだい」
「……もちろんだ」
万感の思いで応え、ハルトの頭を掻き抱く。胸がたまらなくいっぱいで、少なくともこの瞬間のことを幸福と言うのだと知った。善し悪しだなどと言っている暇もなく、唇を合わせる。そうしなければならないような心地だった。
逃げ道を塞ぐように頭を抱いたまま、口づけを交わす。侵入してきた舌にいささか乱暴に舐め回され、エリアスはくぐもった声を漏らした。ハルトが興奮しているのだと思うと、身体が熱くなる。焦れたふうに胸元を押され、キスをするために浮かした頭がシーツについた。
「ハル、――んっ」
再び被さった唇に言葉を奪われ、唾液が伝う。限界まで押し込まれた性器に視界がぱっと白んで、吐き出したことを悟った。息吐く間もなく前立腺を擦られ、射精で敏感になった後ろが性器を締め付ける。
「あ、……や、ば」
いきそう、とキスの合間にこぼす声が、無性に色っぽい。眉を寄せた顔がかわいくて、エリアスは引き寄せた。キスを交わしたまま、性器が脈打つのを感じる。
どちらからともなく唇を離し、長く息を吐いた。どさりと背中をシーツに倒す。いつも以上に満たされた心地ではあったものの、いつも以上に疲れた心地でもあった。
「あー、気持ち良かった」
余韻があるのかないのかわからないいつもの調子で感想を口にしたハルトが、お風呂入る、と問いかけてきた。
「疲れた」
「じゃあ、いいよ。俺がぜんぶやってあげる」
あたりまえとばかりに言ってのけたハルトだったが、立ち上がることなくエリアスのすぐ隣に潜り込む。
「でも、ちょっと、その前に」
背中から抱きしめられ、エリアスはけだるく呟いた。
「なんだ?」
「ねぇ、師匠」
応じる声が、肩胛骨に直に響く。幼いころ、夜の台所で背中に抱き着いた小さなハルトを思い出した。もうずっと遠い、だが、今のハルトに違わず繋がっているもの。
「ずっと一緒にいてほしい」
あのころの延長線のような、祈りじみた声。ただひとつ違っているものがあるとすれば、今のエリアスには、その願いを叶える意志があるということだった。夜に溶ける声で、もちろんだと請け負う。強くなった腕の力が、ただただ愛おしかった。
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