婚約破棄された悪役令嬢は追放されたので好きなものを食べますわ!

山梨ネコ

文字の大きさ
10 / 20
第二章 お魚マウント舞踏会

3

しおりを挟む
「ハハハ、アハハ、ハーッハッハッハ! ……やれやれ」

 父上が突如大笑いし始めたかと思うと、溜め息を吐いて首を振る。
 今、フーデマン公爵家はやっと平穏を取り戻しつつあった。
 それもこれも、厄介な我が妹、イリスをこの国から排除できたおかげである。

 十歳年下の妹が生まれた時、ちょうど王室にも王子が誕生した。
 その時には運命だと思ったものだ。王子と妹を娶せることにより、オレは王子の義理の兄となる。
 そうすることで国王にも匹敵する権力を手中に収めることができると当時十歳だったオレは既に理解していた。

 だから幼いながらにオレは父上に働きかけ、母上をけしかけ、あらゆる手を使って我が妹イリスを王子の婚約者の座に据えたというのに、だ。

 あのトンチキチキチキな妹は、縦横無尽にオレたちの企みを蹴散らしてくれた。
 思い出すだに腸が煮えくり返る。
 オレの計画をズタズタに引き裂いてくれた、愚かな妹。
 幸いもう妹はもう一人いて、こちらは随分とまともで扱いやすかった。
 だからすげ替えることにした。

 誰一人としてオレの企みに異を唱える者はいなかった。むしろ王子はノリノリだった。オレの計画にまったく気づいていなかったとは思えないが……。

 まあ……苦労、されていたのだろうなあ……。

 いずれ妹の外戚としてその権力を呑み込んでやろうと思っていた王子ではあるが、あの妹を婚約者にしてしまったことについては、大変申し訳ないことをしてしまったと反省している。

「どうしたのですか、父上? それはイリスに関する報告書では? またあの子は何かをやらかしてくれたのですか?」
「いや何。どうやらイリスの世話は相当辛いらしくてな、パウラの妄想が綴られているのだが、それがおかしくてなあ」
「妄想? 油断してはいけませんよ、父上。こちらが妄想だと思いたくなるような悍ましい問題をイリスが起こしたのかもしれませんよ」

 そうだ、一瞬たりとも気を抜いてはならない。
 オレはイリスの存在からそれを学んだのだ。

「イリスが帝国唯一の王子アルトに見初められて今度の建国祭のパートナーに選ばれたと書いてあるのだよ、ハインリヒ」
「あ、それは妄想で間違いありませんね、父上の仰る通りです」
「だよなあ。ハハハ。おかしくて何度読んでも笑いがこみ上げてくる」
「オレは笑えませんね。確かにイリスは絶世の美少女ではありますが、あの中身を知れば見初める男などいるはずがない。このようなふざけた報告書をよこしてくるとは、首を切った方が良いのでは?」
「うん? 美少女?」
「はい? どうかしましたか? 父上?」
「……いや、まあ! 色んな価値観があるものな! それはさておき多少の創作は大目に見てやろうではないか。それだけ苦労しているということだ。恐らくは暗に人員の追加を要請しているのだろう。自分一人では手に負えないと」
「ふん。ならばそう書けばよいものを! これが当家で一番の有能なメイドだったとは嘆かわしい。後進の育成に力を入れるべきですね」
「建国祭で帝都に向かった際に一度様子見をして、状況次第でもう一人監視役を追加してやることにしよう」

 まったく父上はイリスに甘すぎる!
 生まれながらに確固たる謎の主義主張を持ち、それを命がけで通そうとする頭のおかしい我が妹は、どう考えてもフーデマン家に不利益をもたらす存在だ。

 確かに顔は可愛いが。
 滑らかな茶色の甘そうな髪はふわふわで、青い瞳はきらきらと輝き、ふっくらした柔らかそうな丸い頬は見ているとほだされてしまいそうなほど愛らしく、うっかりオレの覇道の邪魔をしていることすら許してしまいそうにはなるが。

 だがッ、しかし!
 オレは生まれながらの覇者! 頂点に立つべき存在なのだ!
 志の実現のため、情に流されることは許されないッ!!

 追加の監視役は、オレが暗殺者にすげ替えておくことにしよう。
 我が妹の可愛らしさに惑わされ、手心を加えることのないような冷酷無慈悲な暗殺者をなぁッ!!

しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

第三王子の「運命の相手」は追放された王太子の元婚約者に瓜二つでした

冬野月子
恋愛
「運命の相手を見つけたので婚約解消したい」 突然突拍子もないことを言い出した第三王子。その言葉に動揺する家族。 何故なら十年前に兄である王太子がそう言って元婚約者を捨て、子爵令嬢と結婚したから。 そして第三王子の『運命の相手』を見て彼らは絶句する。 ――彼女は追放され、死んだ元婚約者にそっくりだったのだ。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。

悪役令嬢に転生したけど、知らぬ間にバッドエンド回避してました

神村結美
恋愛
クローデット・アルトー公爵令嬢は、お菓子が大好きで、他の令嬢達のように宝石やドレスに興味はない。 5歳の第一王子の婚約者選定のお茶会に参加した時も目的は王子ではなく、お菓子だった。そんな彼女は肌荒れや体型から人々に醜いと思われていた。 お茶会後に、第一王子の婚約者が侯爵令嬢が決まり、クローデットは幼馴染のエルネスト・ジュリオ公爵子息との婚約が決まる。 その後、クローデットは体調を崩して寝込み、目覚めた時には前世の記憶を思い出し、前世でハマった乙女ゲームの世界の悪役令嬢に転生している事に気づく。 でも、クローデットは第一王子の婚約者ではない。 すでにゲームの設定とは違う状況である。それならゲームの事は気にしなくても大丈夫……? 悪役令嬢が気付かない内にバッドエンドを回避していたお話しです。 ※溺れるような描写がありますので、苦手な方はご注意ください。 ※少し設定が緩いところがあるかもしれません。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

処理中です...