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第二章 お魚マウント舞踏会
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「ハハハ、アハハ、ハーッハッハッハ! ……やれやれ」
父上が突如大笑いし始めたかと思うと、溜め息を吐いて首を振る。
今、フーデマン公爵家はやっと平穏を取り戻しつつあった。
それもこれも、厄介な我が妹、イリスをこの国から排除できたおかげである。
十歳年下の妹が生まれた時、ちょうど王室にも王子が誕生した。
その時には運命だと思ったものだ。王子と妹を娶せることにより、オレは王子の義理の兄となる。
そうすることで国王にも匹敵する権力を手中に収めることができると当時十歳だったオレは既に理解していた。
だから幼いながらにオレは父上に働きかけ、母上をけしかけ、あらゆる手を使って我が妹イリスを王子の婚約者の座に据えたというのに、だ。
あのトンチキチキチキな妹は、縦横無尽にオレたちの企みを蹴散らしてくれた。
思い出すだに腸が煮えくり返る。
オレの計画をズタズタに引き裂いてくれた、愚かな妹。
幸いもう妹はもう一人いて、こちらは随分とまともで扱いやすかった。
だからすげ替えることにした。
誰一人としてオレの企みに異を唱える者はいなかった。むしろ王子はノリノリだった。オレの計画にまったく気づいていなかったとは思えないが……。
まあ……苦労、されていたのだろうなあ……。
いずれ妹の外戚としてその権力を呑み込んでやろうと思っていた王子ではあるが、あの妹を婚約者にしてしまったことについては、大変申し訳ないことをしてしまったと反省している。
「どうしたのですか、父上? それはイリスに関する報告書では? またあの子は何かをやらかしてくれたのですか?」
「いや何。どうやらイリスの世話は相当辛いらしくてな、パウラの妄想が綴られているのだが、それがおかしくてなあ」
「妄想? 油断してはいけませんよ、父上。こちらが妄想だと思いたくなるような悍ましい問題をイリスが起こしたのかもしれませんよ」
そうだ、一瞬たりとも気を抜いてはならない。
オレはイリスの存在からそれを学んだのだ。
「イリスが帝国唯一の王子アルトに見初められて今度の建国祭のパートナーに選ばれたと書いてあるのだよ、ハインリヒ」
「あ、それは妄想で間違いありませんね、父上の仰る通りです」
「だよなあ。ハハハ。おかしくて何度読んでも笑いがこみ上げてくる」
「オレは笑えませんね。確かにイリスは絶世の美少女ではありますが、あの中身を知れば見初める男などいるはずがない。このようなふざけた報告書をよこしてくるとは、首を切った方が良いのでは?」
「うん? 美少女?」
「はい? どうかしましたか? 父上?」
「……いや、まあ! 色んな価値観があるものな! それはさておき多少の創作は大目に見てやろうではないか。それだけ苦労しているということだ。恐らくは暗に人員の追加を要請しているのだろう。自分一人では手に負えないと」
「ふん。ならばそう書けばよいものを! これが当家で一番の有能なメイドだったとは嘆かわしい。後進の育成に力を入れるべきですね」
「建国祭で帝都に向かった際に一度様子見をして、状況次第でもう一人監視役を追加してやることにしよう」
まったく父上はイリスに甘すぎる!
生まれながらに確固たる謎の主義主張を持ち、それを命がけで通そうとする頭のおかしい我が妹は、どう考えてもフーデマン家に不利益をもたらす存在だ。
確かに顔は可愛いが。
滑らかな茶色の甘そうな髪はふわふわで、青い瞳はきらきらと輝き、ふっくらした柔らかそうな丸い頬は見ているとほだされてしまいそうなほど愛らしく、うっかりオレの覇道の邪魔をしていることすら許してしまいそうにはなるが。
だがッ、しかし!
オレは生まれながらの覇者! 頂点に立つべき存在なのだ!
志の実現のため、情に流されることは許されないッ!!
追加の監視役は、オレが暗殺者にすげ替えておくことにしよう。
我が妹の可愛らしさに惑わされ、手心を加えることのないような冷酷無慈悲な暗殺者をなぁッ!!
父上が突如大笑いし始めたかと思うと、溜め息を吐いて首を振る。
今、フーデマン公爵家はやっと平穏を取り戻しつつあった。
それもこれも、厄介な我が妹、イリスをこの国から排除できたおかげである。
十歳年下の妹が生まれた時、ちょうど王室にも王子が誕生した。
その時には運命だと思ったものだ。王子と妹を娶せることにより、オレは王子の義理の兄となる。
そうすることで国王にも匹敵する権力を手中に収めることができると当時十歳だったオレは既に理解していた。
だから幼いながらにオレは父上に働きかけ、母上をけしかけ、あらゆる手を使って我が妹イリスを王子の婚約者の座に据えたというのに、だ。
あのトンチキチキチキな妹は、縦横無尽にオレたちの企みを蹴散らしてくれた。
思い出すだに腸が煮えくり返る。
オレの計画をズタズタに引き裂いてくれた、愚かな妹。
幸いもう妹はもう一人いて、こちらは随分とまともで扱いやすかった。
だからすげ替えることにした。
誰一人としてオレの企みに異を唱える者はいなかった。むしろ王子はノリノリだった。オレの計画にまったく気づいていなかったとは思えないが……。
まあ……苦労、されていたのだろうなあ……。
いずれ妹の外戚としてその権力を呑み込んでやろうと思っていた王子ではあるが、あの妹を婚約者にしてしまったことについては、大変申し訳ないことをしてしまったと反省している。
「どうしたのですか、父上? それはイリスに関する報告書では? またあの子は何かをやらかしてくれたのですか?」
「いや何。どうやらイリスの世話は相当辛いらしくてな、パウラの妄想が綴られているのだが、それがおかしくてなあ」
「妄想? 油断してはいけませんよ、父上。こちらが妄想だと思いたくなるような悍ましい問題をイリスが起こしたのかもしれませんよ」
そうだ、一瞬たりとも気を抜いてはならない。
オレはイリスの存在からそれを学んだのだ。
「イリスが帝国唯一の王子アルトに見初められて今度の建国祭のパートナーに選ばれたと書いてあるのだよ、ハインリヒ」
「あ、それは妄想で間違いありませんね、父上の仰る通りです」
「だよなあ。ハハハ。おかしくて何度読んでも笑いがこみ上げてくる」
「オレは笑えませんね。確かにイリスは絶世の美少女ではありますが、あの中身を知れば見初める男などいるはずがない。このようなふざけた報告書をよこしてくるとは、首を切った方が良いのでは?」
「うん? 美少女?」
「はい? どうかしましたか? 父上?」
「……いや、まあ! 色んな価値観があるものな! それはさておき多少の創作は大目に見てやろうではないか。それだけ苦労しているということだ。恐らくは暗に人員の追加を要請しているのだろう。自分一人では手に負えないと」
「ふん。ならばそう書けばよいものを! これが当家で一番の有能なメイドだったとは嘆かわしい。後進の育成に力を入れるべきですね」
「建国祭で帝都に向かった際に一度様子見をして、状況次第でもう一人監視役を追加してやることにしよう」
まったく父上はイリスに甘すぎる!
生まれながらに確固たる謎の主義主張を持ち、それを命がけで通そうとする頭のおかしい我が妹は、どう考えてもフーデマン家に不利益をもたらす存在だ。
確かに顔は可愛いが。
滑らかな茶色の甘そうな髪はふわふわで、青い瞳はきらきらと輝き、ふっくらした柔らかそうな丸い頬は見ているとほだされてしまいそうなほど愛らしく、うっかりオレの覇道の邪魔をしていることすら許してしまいそうにはなるが。
だがッ、しかし!
オレは生まれながらの覇者! 頂点に立つべき存在なのだ!
志の実現のため、情に流されることは許されないッ!!
追加の監視役は、オレが暗殺者にすげ替えておくことにしよう。
我が妹の可愛らしさに惑わされ、手心を加えることのないような冷酷無慈悲な暗殺者をなぁッ!!
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