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京都でのお茶会
ストーリー24
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私の話を聞いた後、奏多さんは何も言わずに何かを考え込むような表情をしていた。
少し沈黙が続き、気まずい空気が私達を包む。
「……仕事なら仕方ないか。分かった。母さん達にも桜さん今日帰るって言うとくわ」
そう言って奏多さんはクルッと反対を向き、お茶会の方へ歩き出す。その後ろを私もついて行く。
俯き加減で黙々歩きながら、時折奏多さんの後ろ姿をチラッと見る。何だか話しかけにくい雰囲気……奏多さんは今、どんな顔で何を考えているのだろう?
それから茶会に戻った私は、真那さんの痛い視線を浴びながらも、結局奏多さんの隣にいる事になり、参加者達と話をしながらこの日の茶会は終了した。
「もっとゆっくりしていったらええのに」
お茶会後、お弟子さん達と後片付けを済ませ部屋で帰る支度をしていると、奏多さんのお母さんが声をかけてきた。
「今日はお茶会に参加させて頂きありがとうございました。部屋も用意してもらった上に着物までお世話になりまして」
「そんなん気にせんと、もっと桜さんと色々話したかったわ。また絶対京都に来てな」
「はい。その時はまたよろしくお願いします」
私が微笑みながらそう言うと、奏多さんのお母さんも笑顔を返してくれた。
「桜さん、タクシー到着しました」
障子の向こうから奏多さんの声がする。私は荷物を持ち、奏多さんのお母さんに一礼して障子を開けた。
そこには紋付袴姿から一転、ラフな私服に着替えた奏多さんが立っている。
「荷物持ちます」
「大丈夫です」と言ったけど、奏多さんはニッコリして私の荷物を持ち、玄関に向かって廊下を歩き始める。
それから外に出るまで奏多さんは一言も喋らなかった。
外に出て周りに誰もいないのを確認すると、私の前を歩いていた奏多さんはピタッと立ち止まって振り返り、真剣な眼差しを私に向ける。
「桜さん、京都に来た事……後悔してませんか?」
何故、奏多さんはそんな事を聞いてくるのだろう。
「後悔なんてしてません。むしろ茶会で勉強させてもらって有難いと思ってます」
「茶会じゃなくて、二人っきりになった夜の方なんですけど」
月の光に照らされ、抱きしめられてキスしたあの夜……完全に思い出してしまった私は一瞬で顔が熱くなった。きっと顔が赤くなっているんだろうな。
「どうしてそんな事聞くんですか?」
「なんか茶会の時、態度が変というか少し距離を置かれた気がしたので……」
奏多さんは自分の前髪に手を当て、私と同じく昨日の夜の事を思い出したのか、何だか照れたような表情をしながら私を見ている。
「失礼な態度を取ってしまっていた事は申し訳ないです。ただ、奏多さんと一緒にいると真那さんの視線が痛くて」
「真那? 何でそこに真那が出てくるん?」
想定外の回答だったのか奏多さんはキョトンとして、話し方がさっきまでの標準語からまた素に戻っている。
「だって真那さんは奏多さんと結婚する方なのでしょう? だから私が奏多さんの隣にいると気にするのではと思って」
奏多さんは何故か不思議そうな表情で私をジッと見る。
「俺が真那と結婚? 誰かがそう言ったん?」
「はい、真那さんからそう聞きましたけど。それに再会した時に浮気しなかった? とか聞かれてたし」
私の話を聞いて奏多さんは笑顔を見せる。
「それは真那が桜さんを揶揄ったんちゃう? だって別に俺と真那は付き合ってないし、まして結婚なんてないわ。あと浮気も何も俺には彼女も居ないのに浮気しようがないやん」
私が気づかなかっただけで関西特有のノリだったのかな。
「俺な、大学生の弟がおるんやけど、真那はその弟の同級生で幼なじみなんや。真那から見たら、俺は幼なじみのお兄さんって感じやろな」
本当に彼女じゃなかったんだ。でも真那の表情や言い方からはとても冗談には聞こえなかった。やっぱり真那さんは奏多さんの事……
「後悔してないなら良かった。茶会の前にあの夜の事は嫌じゃなかったって桜さんは言うてくれたけど、ほんまは気にしてるんちゃうかと思って」
奏多さんは私の頭に手をポンと乗せて安心したような笑みをした。そして待たせているタクシーの所まで歩き始める。
「じゃあ……気をつけて帰ってな」
タクシーのドアが開き、私は奏多さんに「はい」と言って後ろの席に乗り込む。
離れ難い……でも私はそれを言ってはいけない立場だ。自分の想いを必死に閉じ込めて、奏多さんに向かって微笑んだ。
少し沈黙が続き、気まずい空気が私達を包む。
「……仕事なら仕方ないか。分かった。母さん達にも桜さん今日帰るって言うとくわ」
そう言って奏多さんはクルッと反対を向き、お茶会の方へ歩き出す。その後ろを私もついて行く。
俯き加減で黙々歩きながら、時折奏多さんの後ろ姿をチラッと見る。何だか話しかけにくい雰囲気……奏多さんは今、どんな顔で何を考えているのだろう?
それから茶会に戻った私は、真那さんの痛い視線を浴びながらも、結局奏多さんの隣にいる事になり、参加者達と話をしながらこの日の茶会は終了した。
「もっとゆっくりしていったらええのに」
お茶会後、お弟子さん達と後片付けを済ませ部屋で帰る支度をしていると、奏多さんのお母さんが声をかけてきた。
「今日はお茶会に参加させて頂きありがとうございました。部屋も用意してもらった上に着物までお世話になりまして」
「そんなん気にせんと、もっと桜さんと色々話したかったわ。また絶対京都に来てな」
「はい。その時はまたよろしくお願いします」
私が微笑みながらそう言うと、奏多さんのお母さんも笑顔を返してくれた。
「桜さん、タクシー到着しました」
障子の向こうから奏多さんの声がする。私は荷物を持ち、奏多さんのお母さんに一礼して障子を開けた。
そこには紋付袴姿から一転、ラフな私服に着替えた奏多さんが立っている。
「荷物持ちます」
「大丈夫です」と言ったけど、奏多さんはニッコリして私の荷物を持ち、玄関に向かって廊下を歩き始める。
それから外に出るまで奏多さんは一言も喋らなかった。
外に出て周りに誰もいないのを確認すると、私の前を歩いていた奏多さんはピタッと立ち止まって振り返り、真剣な眼差しを私に向ける。
「桜さん、京都に来た事……後悔してませんか?」
何故、奏多さんはそんな事を聞いてくるのだろう。
「後悔なんてしてません。むしろ茶会で勉強させてもらって有難いと思ってます」
「茶会じゃなくて、二人っきりになった夜の方なんですけど」
月の光に照らされ、抱きしめられてキスしたあの夜……完全に思い出してしまった私は一瞬で顔が熱くなった。きっと顔が赤くなっているんだろうな。
「どうしてそんな事聞くんですか?」
「なんか茶会の時、態度が変というか少し距離を置かれた気がしたので……」
奏多さんは自分の前髪に手を当て、私と同じく昨日の夜の事を思い出したのか、何だか照れたような表情をしながら私を見ている。
「失礼な態度を取ってしまっていた事は申し訳ないです。ただ、奏多さんと一緒にいると真那さんの視線が痛くて」
「真那? 何でそこに真那が出てくるん?」
想定外の回答だったのか奏多さんはキョトンとして、話し方がさっきまでの標準語からまた素に戻っている。
「だって真那さんは奏多さんと結婚する方なのでしょう? だから私が奏多さんの隣にいると気にするのではと思って」
奏多さんは何故か不思議そうな表情で私をジッと見る。
「俺が真那と結婚? 誰かがそう言ったん?」
「はい、真那さんからそう聞きましたけど。それに再会した時に浮気しなかった? とか聞かれてたし」
私の話を聞いて奏多さんは笑顔を見せる。
「それは真那が桜さんを揶揄ったんちゃう? だって別に俺と真那は付き合ってないし、まして結婚なんてないわ。あと浮気も何も俺には彼女も居ないのに浮気しようがないやん」
私が気づかなかっただけで関西特有のノリだったのかな。
「俺な、大学生の弟がおるんやけど、真那はその弟の同級生で幼なじみなんや。真那から見たら、俺は幼なじみのお兄さんって感じやろな」
本当に彼女じゃなかったんだ。でも真那の表情や言い方からはとても冗談には聞こえなかった。やっぱり真那さんは奏多さんの事……
「後悔してないなら良かった。茶会の前にあの夜の事は嫌じゃなかったって桜さんは言うてくれたけど、ほんまは気にしてるんちゃうかと思って」
奏多さんは私の頭に手をポンと乗せて安心したような笑みをした。そして待たせているタクシーの所まで歩き始める。
「じゃあ……気をつけて帰ってな」
タクシーのドアが開き、私は奏多さんに「はい」と言って後ろの席に乗り込む。
離れ難い……でも私はそれを言ってはいけない立場だ。自分の想いを必死に閉じ込めて、奏多さんに向かって微笑んだ。
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