恋をするなら相手はあなたがいいです

春野いろ

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公認デート

ストーリー37

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 食事が終わり車に乗り込む。夜まで時間があるので、水族館へ行く事になった。

「ちょっと寄り道してええかな?」

「はい、どこに寄り道するんですか?」

「さて、どこやろな」

 奏多さんは行き先を言わないまま、どんどん車を走らせる。外の風景を見ると見覚えのある建物ばかりだ。

 っていうか、この道は……もしかして華月家うちに戻ってる?

 奏多さんの顔をパッと見るけど、ニコッと笑顔を返すだけだった。

 そして着いた先は華月家うちではなく、何故か柊木呉服店だ。何か用事かしら? と思ったけど、奏多さんに私も一緒に店に入るように手招きされ、奏多さんの後に続いて店に入った。

「いらっしゃい……って奏多さんと桜?」

 店内にはもちろん蒼志がいて、私と奏多さんが一緒にいるのを不思議そうに見てくる。

「こんにちは蒼志君。少し話がありまして立ち寄らせていただきました」

「……っていうか、何で桜と一緒何ですか?」

 仕事の手を止め、蒼志は奏多さんの前に立つ。にこやかな奏多さんとは対照的に、蒼志は若干睨むような感じで奏多さんを見ている。

「僕達は家元からフラワーパークの招待券を頂いたのでデート中です」

「へぇ、それでここに何の用すか?」

 何だか二人の険悪な雰囲気に私は一人ハラハラしていた。確かに奏多さんは何の為にここに来たのだろう。

「蒼志君には言っておこうと思って……俺と桜、付き合い始めたんでよろしく」

「はぁ?」

 蒼志は視線を私に移し、本当か? と言わんばかりに目で訴えてくる。迫力ある目つきに私は一瞬ビクッとなったけど、コクンとしっかり頷いた。

本気マジかよ。つうかさ、一時の感情に身を任せて付き合い始めていいのか、桜。一年以内に婿養子をとらなきゃいけないんだろ?どうすんだよ」

「そ、それは」

 痛い所を突かれて私は言葉を失い、そのまま俯いた。分かってるけど……

「それは何とかするわ。でもこれだけは言っとく。一時的な付き合いじゃないし俺にはこの先桜と別れる選択肢はない。華月流の跡継ぎ問題もきちんと考える」

 俯いてしまった私の肩を抱き寄せ、奏多さんは私の代わりに蒼志に言った。

「奏多さん、本当はそんな口調なんすね。意外だけど何か親近感が湧くわ。じゃあお手並み拝見といきますか……後でやっぱり無理でしたって言って、桜を不幸にしたら承知しねぇからな」

 ちょうどその時、呉服店にお客様が来店し、蒼志にお前らは早く帰れと店を追い出された。

 今度は水族館に向けて車を走らせる中、私は奏多さんに話しかける。

「どうして蒼志に言ったんですか?」

「蒼志君には言わなあかんやろ。桜にプロポーズしたわけやし。まぁ一発殴られるくらいの覚悟はしてたけど、蒼志君が冷静な奴で良かったわ」

 奏多さんは運転しながら安堵の表情を見せた。

 そして水族館に着き、車から降りる。水族館に来たのは子供の頃以来だ。

 館内に入ると、昔見た景色とは全然違う。鑑賞できる魚の種類も増えているし、薄暗い館内も絶妙なライトアップで幻想的な世界に変わっていた。

 そしてアトラクションも満載で、私は時間を忘れて奏多さんと水族館を楽しんだ。

 夜になってまたフラワーパークへ戻ると、彩られたライトアップで昼間とは全く違う雰囲気に変わっていた。

「綺麗やな」

「そうですね」

「でも冬になるともっと凄いイルミネーションが見れるんやて。楽しみやな」

 冬もまた奏多さんと一緒にここに来れますように……

 私は光り輝く花達に、心の中でそっと願掛けをしてフラワーパークを後にした。

「奏多さん、今日は楽しかったです。ありがとうございました」

「俺もたくさん桜と居れて嬉しかったわ」

 そしてあっという間に華月家に着いてしまった。正直、名残惜しい。

「桜」

「はい」

 呼ばれて運転席の方に顔を向けると、奏多さんは私を引き寄せてキスをした。

 その触れた唇はすぐに離れ、奏多さんは私の手のひらに何かを乗せる。

「……鍵?」

「それ俺の家の合鍵。勝手に家に入っていいから。電話で話すのもいいけどやっぱり会いたくなるし、たまには仕事帰りに家に寄って欲しいかなって。あかん?」

「あかん……くないです」

 私は渡された合鍵をギュッと握りしめてはにかむ。

「何その返し方。めっちゃ可愛いやん」

 奏多さんはそう言って私を抱きしめる。そしてそのまま私の耳元で話し始めた。

「俺、考えてる事があるんや。まだ全部は言えんけど、一つだけ言えるのは多分近いうちに俺は華月の家から出て行く事になると思う」

「え?」

 私はどうして? と思いながら奏多さんの顔を見る。暗くて薄らとしか分からないけど、優しい表情で私を見つめているように見えた。

「俺は桜の側に居られるなら何でもする、そう決めたんや。悪いようにはせんから……俺を信じて待っててな」

 奏多さんは私に顔を近づけて、私のおでこに奏多さんのおでこをコツンと当てる。

「そろそろ帰らなあかんな。おやすみ。またデートしような」

「はい。奏多さんも気をつけて帰って下さいね」

 私は車を降り、帰っていく奏多さんを見送る。

 奏多さん、何を考えているのだろう。それに華月の家から出て行くって一体……。
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