陽炎

王里さつき

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双子

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どうして。

「そう怖がるな」

どうして自分は。

「お前、金あるじゃん」

どうして自分は今、二人の人物にカツアゲされているのだろう・・・。




遡ること20分、ネコと話した後の事だ。
ある程度ギルドを巡回したノアは、三人の集まる場である職員室、もとい集会室へ足を運んだ。
実際の職員室同様、たくさんの教員用机とキャスター付きのイスがお行儀よく配列されていた。
その一角だけに人だかりが出来、一点を覗き込むようにして見物していた。自分も近寄り一緒になって見る。
シエルがドライバーを駆使し、慣れた手つきで分解されたものを原形に戻している。それを興味深く眺めるノア、ヴァン、プリュイ。
最後のネジをゆっくり巻いていく。ドライバーの先端とネジの窪みが合わさる度、金属特有の軽い音を発する。
すぐネジが外れないよう、動かなくなるまで固く締めた。

「よし、直った」

「おぉー」

三人からの拍手にドヤ顔で返すシエル。案外ノリがいい。
直した末に生まれたのは、手のひらサイズの目覚まし時計だった。
電池がはめ込まれていないのでまだ針は動かない。

「今からこれの依頼主である情報屋の所へ行くぞ。ヴァンはギルドの見張りをしていてくれ」





――と、言われたのはいいが、辿り着いたのは狭い路地を進んだ先にある一軒の店だった。
窓ガラスや看板はなく、やっているのか疑いたくなる。
開閉の唯一の目印は扉にかけられた「OPEN」の文字のみ。
情報屋というのは秘密結社でなくてはならない決まりでもあるのだろうか。ならこの先にはサングラスをかけたマフィアがうようよ・・・。

「ほらノア、入って」

「ま、まだ心の準備が・・・」

「何言ってるの、ただのバーだよ」

恐る恐る、警戒心むき出しで足を踏み入れる。
薄暗く、やわらかな明かりが点けられた店内に設置された家具やカウンター、壁などは、全て黒一色に統一されていた。ただ、床だけは赤く、暗く堅苦しい雰囲気を上手い具合に明るく調整する役割を果たしている。
カウンターの奥には数十種類ものボトルが、名称が見える様に並んでいる。その隣では明かりに照らされ、白い輝きを放つグラスが。
アニメやドラマではなく、実際に見るバーはより美しかった。

「「いらしゃいませ」」

阿吽の呼吸で挨拶してくれたのは二人のバーテンダーだった。
黒のベスト、黒のパンツ、黒のネクタイ。純白のシャツは半袖できれいだが、第一ボタンは開けられ、しまっていないためにベストの下からもシャツが顔を出す。ぴっしり着こなしてはいないが、スタイルの良さで全て補われていた。
二人のうち、あからさまに男らしい顔つきをしている人は、短髪で左のこめかみからもみあげにかけて赤いメッシュが入れられ、襟髪だけ長かった。また、左耳に二本のピアス、左手首に黒いリストバンドを着けていた。
対して、女顔だがかっこいい顔つきの人は、そこそこ髪が長く、右側のこめかみからもみあげにかけて赤いメッシュが入れられていた。同じように長い襟髪もある。ピアス、リストバンドはもう一人と対称的に右側に着けられていた。
二人の共通のものである透き通る様な白い髪に、整った顔。まさに美形だった。

「紹介するよ。バーテンダー兼、情報屋の双子、ノルとシュドだ。ちなみに言っておくが、シュドは女だ」

そう言われ反応したのは、女顔の方だった。

「俺がシュドだ。お前が噂の異世界人だな」

「ようこそ、異世界人。俺はノル。以後よろしく頼む」

続いてノルが言った。
二人して異世界人と呼ばれ、間違ってはいないと思うも、どうにもしっくりこない。まるで宇宙人じゃないか。

「僕は異世界人って名前じゃありません。ちゃんとノアって名前があります」

ムスッと口を尖らせながら言うノア。場にいる誰もが機嫌を損ねた子供の様だと思っただろう。

「ごめんよノア。飴ちゃんあるよ」

「すまなかったノア。チョコもある」

バーテンダー二人に頭を撫でられながらお菓子を貰ったノア。

((親子だ・・・。))

『α』トリオは皆同じことを思っていたが誰も口にはしなかった。


「時計、直したぞ」

シエルはポケットから修理済みの時計を取り出した。

「流石シエルだ。頼りになる」

ノルは左手を時計へかざした。
するとどうだろう、シエルの手にあった時計がノルの手に吸い寄せられた。一瞬で彼らも能力を持つのだと把握した。

「彼らは磁力を使える。ノルが物を引き寄せ、シュドが引き離すことが出来る」

「二人で一つなんだね。磁石みたいだ」

「「俺らは一心同体だからな」」

ノルとシュドの声が見事に重なった。
兄妹の仲の良さに、ノアは少しばかり懐かしさを覚えた。その正体が何なのかまでは分からなかった。
カウンターに皆座り、正面にバーテンダー二人が佇む。
手際よくグラスに飲み物を注ぎ、自分の前に出してくれる。
自分のは金色に輝く炭酸飲料だった。お酒だとしたら自分は未成年だが、飲むべきなのだろうか。
よく考えてみれば、ここは自分の住む世界じゃない。ならば飲んでも問題はないはず。
グラスに唇が触れ、舌の上を冷たく、弾けるような液体が通り、喉を潤す。
生姜のような辛み、色から察するにジンジャーエールだ。
心のどこかで安堵した。

「一区切りついたし、本題に移ろうか」

シュドは低い声で述べた。ノルは静かにグラスを磨く。

「今この世界は崩壊を始めているようだ。ヌケガラ、鬼ともども、日に日に増えている。だが鬼だけは本能の赴くままに、というわけでは無い。そこで鍵となるのがこの細い糸だ」

懐から、昼間ノアも見た細く白い糸を取り出し提示する。

「これ、どこかで見たことないか?」

問いかけるシュドに、ノルが続いた。

「これはただの糸ではなく、丈夫で半透明な糸、テグスに似たものだ。以上の事から推測すると、答えが見える」

まさか、と言わんばかりの顔をする『α』の三人。ノアも大まかには予想出来た。

「そう、操り人形として鬼を操る者がいる。きっとコイツは俺たちにとって厄
介な敵になるだろうな」

「早く見つけ出して止めないと!」

プリュイの発言に一同頷く。
その後、対策や情報提供の流れなどを確認し、短い会議は幕を閉じた。
カウンターにお金を置き、席を立つシエル。続いてプリュイも席を立ち、ノアに帰る様促した。何も言わず帰るのだろうか。
シエルとプリュイに続き、外に出る一歩手前の所でシュドがノアに抱きついた。
女の人に抱きつかれたことなど無いノアは心臓が高鳴るのを抑え、平常心を保つのは苦だった。

「また来いよ。俺とノルがおもてなしするぜ」

「は、はい。また来ます」

高くなった声音に焦りを感じ、ノアは逃げるようにバーを発った。
何故帰るときに無言で出て行ったのか。バー初心者のノアは知らなかったのだが、それが礼儀らしい。他に、おかわりをする際は目で訴えるなどがあるとのこと。
そこは良いとして、シエルに奢らせてしまったのが心残りだった。お金なら自分もポケットにお財布が入っている。この世界に来る前は、買い物に行く為に家を出たのだから。
ノアはズボンの、財布によって膨らんだポケットに手を当てた。

「あれ・・・?」

反対側のポケットも確認してみたが。

「財布がない・・・」

バーにいたときに落としてしまったのだろうか。貴重品故にこのまま放っておくのは不味い。
先行くシエルとプリュイに忘れ物を取りに行くという名目で伝え、急いでバーへ踵を返した。
ゆっくり店内を見渡しながら入ったが、そこに二人の姿は無かった。
自分の座っていたイスの下を隅々まで探したが財布は見当たらない。
どうしたものか。
嘆息しながら腰を上げる。
その時、ノアの前に大きな二つの影が現れた。
二人だろうか。期待を込めて振り返った。
目の前には思った通りノルとシュドの二人が立っていた。
安心して、相談を持ちかけようと、息を吸った。

瞬間。

ものすごい力でカウンターに叩きつけられるように引かれ、吸った息が全て吐き出された。
起き上がろうとカウンターについた手や背中を動かそうと力を入れた。
が。体が動かない。否、カウンターから離れない。完全にくっついてしまっている。


まるで、磁石のように――。


「実はさっきお前にマイナスの電流を流させてもらった。このカウンターにはノルのプラスの電流を流してある。それと――」

シュドはパンツのポケットから見覚えのある財布を取り出した。

「これももらった」

無くなった財布はシュドによる工作だったのだ。
加えて、二人の目は冷たく、見られているノアは畏縮する。
自然と体が小刻みに震えてくる。

「そう怖がるな」

シュドは財布を開く。

「お前、金あるじゃん」

これはれっきとしたカツアゲだ。自分には能力が無い。太刀打ちできない。
悔しい。
涙をこらえて喉から空気を押し出す。

「どうして・・・」

ノルが言う。

「お前だけに話さなければならない要件がある」

自分にしか話せない要件。そんなものがあったことに驚く。
それだけ重要なことなのだろう。二人の顔は一切変化しない。

「ノア、単刀直入に言うが、『α』に深入りするな」

ハッキリ告げられ動揺を隠せない。『α』と彼らは仲間ではないのか?

「このままだと、元の世界でお前――ノアという人物は消滅する」

シュドがうつむきながら言った。
自分が消滅する。そんな馬鹿な。

「そ、そんなこと、あるわけ・・・」

ノアは言う。
半信半疑で、冗談だという願いを込めて。

「信じる、信じないは自由だ。だがこれが忠告だということを忘れるな」

「俺たちは情報屋。知りたいことがあったらまた来い」

直後、磁力から解放され、シュドは財布をノアへと返した。
ノアは無言でバーを出ると、駆け足でギルドへと戻って行った。

「自分が自分でなくなる。そんなこと、本当にあるのか?まだ微かでも火は燃えているのに」

「さあな。奴の言っていたことが本当なら、この世界を救えるのはノアしかいない。同時に、滅ぼすのもな・・・」

二人は手をつなぎ、扉をぼんやりと見ながら呟いた。





「「自殺するなよ――」」

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2015.03.08 ユーザー名の登録がありません

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