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花の名
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「ここは・・・!」
辿り着いた先、『ギルド』と呼ばれるその場所。ゲームなどで見かけるそれとは大いに違った。
ノアの目の前には廃墟となった学校によく似た建物が建っていたのだ。
それも自分の通っている・・・もとい、通っていた学校に。
時の止まった大きな時計、寂れた校舎、鍵のなくなった校門。ギルドと呼ぶより秘密基地と呼ぶに相応しい外観だと感じた。
「さ、入るぞ」
校門を抜けた先に広がっていたのは、想像とはかけ離れた風景だった。
花壇にはチューリップや、スズランなど春に咲く花たちであふれかえっていた。太陽の光を浴び、一層きれいに見える。
長い間外に出ていなかったため花を見るのは幾月ぶりか。ノアは花々に心を奪われ、花壇へと近づいて行く。近くで見た花は遠くから見た時とはまた別の印象を与える。短い命でも、一生懸命に咲き誇る、その力強さに感銘を受ける。
その場にしゃがみ込み、自分の前にある濃いピンク色の小さな花を優しくなでる。微かではあるがミカンのような柑橘系の香りが鼻をくすぐる。
「サザンクロス」
「うわっ!」
いきなり背後から声をかけられ、大きな声を上げてしまった。ノアの驚きようにクスクスと静かに笑った脅かし主。
レインブーツを履き、雨合羽のようなものを羽織った、髪が短い女性。体格や声音から推測すると女性と呼ぶより女の子と呼んだ方が正しいか。それよりも今は雨など降っていないのに、なぜこの様な恰好をしているのかという疑問が生まれるが、この世界で自分の常識が通じないことはついさっき、身をもって体感した。
「その花、サザンクロスっていうの。ほら、花の形がお星様みたいでしょ?」
「本当だ、小さな星がたくさん。形もまるで、花の南十字星だ」
「ご名答。Southern Cross、南十字星にちなんで日本で付けられた名前の花でね、花言葉は『願いを叶えて』。本物のお星様みたいで素敵だよね。それにしても君、南十字星をすぐ連想するなんてすごいね!」
「昔よく家族で天体観測したんだ。その時初めて見つけたのが南十字星で、感動のあまりすぐに――」
これ以降の記憶を思い起こそうとした途端、激しい頭痛に見舞われ、強制的に思い出すことが出来なくなった。
すぐに。
この後自分は何をしたんだ。
思い出せない。
頭が割れそうなほどの頭痛。顔を歪め、頭を抱える。痛みのあまり呼吸も乱れ、女の子とここまで共に来た青年が駆け寄り声をかける。
「おいしっかりしろ!プリュイ、先にアイツに報告してきてくれ!俺はコイツと救護室に行く!」
「わ、わかった!」
この後ノアは、青年の肩を借りながら救護室へと入ったのだった。
「すみません、迷惑かけちゃって」
痛みが引き、大分落ち着いてきたノアは救護室で待機をしていた。
当初の予定では、このギルドの司令塔を務める人物に会いに行くことになっていたらしいが、予想外の出来事により逆に来てもらうことに変更となってしまった。
「そろそろ来る」
青年の予想通り、誰かが救護室に入ってきた。
一人は花壇で会った女の子、もう一人は初見だった。
ヘアバンドを着けその上からゴーグルをつけ、赤い髪のノアとさほど年齢は変わらない容姿。長袖のポロシャツの上からオーバーオールジーンズを着、腰には二本を一か所で一本にまとめた特殊な形のベルト。このベルトの後ろ側にはスパナやドライバー、金槌などの工具が入ったポケットがついていた。
「君が。名前は?」
「ノアです。あ、あの、一体ここは・・・それとあなた方は・・・?」
何かまずいことを言ったのか、ヘアバンドの青年は眉根を寄せた。
「おいヴァン、まさか何も教えずにここまで連れて来たんじゃないよな」
「えーっと・・・わ、忘れてたっていうか、来れば分かるかなって思ってさ・・・あははは・・・」
焦っている様子の忍者青年。自分と話していた時とは口調が明らかに違う。言い訳を聞いたヘアバンドの青年は瞬時に工具ポケットからスパナを取り出し忍者青年の首元へ当てた。
それも、微笑みながら。
「今の状況は不審者と同じだって、言わなくても分かるよな。そのせいで俺たちが何回通報されかけたと思ってる?」
「ご、ごめんなさいッ・・・!」
見ている自分にまでヘアバンドの青年の威圧にやられそうになる。重い空気から解放してくれたのは言うまでもなく女の子だった。
なんとかヘアバンドの青年をなだめ、場を持ち直す。
女神だ。心の中で拝んだ。
「まず、自分はシエル。ここでの司令塔兼リーダーを務める。で、このクズ忍者はヴァン。雨合羽を着ているのがプリュイ。以上の三人でこの建物、『ギルド』を本拠地に『α』(アルファ)という組織を構成している」
さらっとヴァンを罵ったが、あえてスルーしておく。
「俺たちの目的は、鬼の討伐と街の監視を主に仕事としている。だが最近、鬼を討伐した際にどこからか泣き声が聞こえたり、糸が残される。それらの正体を見つけることを新たな目的として動いている。だが、また新たに謎が増えたことになった」
次に吐き出される言葉を、何となく予想出来た。
それは。
「「異世界から人が迷い込んだ」」
シエルは黙って頷いた。
「俺が見た限り、君も火を灯しているが、とても弱い。故に、襲われやすくなっている状態だ。そんな君が何故この世界に迷い込んだのか、聞かせてくれないか?」
ノアはここに至るまでの経緯を全て話した。
ネコと会ったこと。
気付けばこの世界に来ていたこと。
ヌケガラ、鬼と遭遇したこと。
何かを思い出そうとしたら頭痛に襲われたこと・・・。
話を聞いた三人は、少しの間話し合い、結論が出たところで改めてノアと向き合った。
リーダーであるシエルをはじめ、ヴァンやプリュイが明るい笑顔でノアに言った。
「ノア、『α』に入らないか?一緒に全ての謎を解こう」
突然の提案に驚いたが、ノア自身いつ襲われてもおかしくない身であるため、この三人が側にいてくれるのならとてもありがたいと思った。
未だこの組織も良く分からないが、この三人は明るく、信用できると思えた。
それに、ギルドに咲く四季折々の花をもっと見てみたいという気持ちもノアの背中を押してくれた。
「ぜひ、入りたい」
笑顔で頷いたノアに三人も笑顔を見せた。
この時ノアは心がじんわり温かくなっていったのを感じた。
まずはギルドの構造を確認してくるといい。
ヴァンに地図らしきものを渡され、探索を始めたのはいいが。
「こうまで一緒だと気味が悪いなぁ」
部屋の数や大きさ、机やイスが配列されている細かなところまでノアの通っていた学校に酷似していた。唯一違うのは、部屋の入り口にある表札に書かれた名前くらい。ちなみに最初に行った救護室は自分の学校の保健室だった。
地図をもらった時は正直必要ない気もしたが、何せ数日しか学校に行ったことのないノアには知らない場所も多く、もらって損はなかった。
いよいよ自分のクラスと同じ部屋へ向かい、本来なら座って授業を受けていたであろう自分の席へと歩み寄る。
廃墟となった割にはきれいな机とイス。
自分はあることをきっかけに学校に行かなくなった。
その、あることというのは――
「うっ・・・!まただ・・・」
花壇にいた時と同じだ。何かを思い出そうとすると頭痛が起きる。
片手で額を押さえ、治まるのを待つ。
どうして思い出せない。
頭痛が治まり始め、深呼吸をしてから、ようやく誰かが部屋の入り口に立っていることを知った。
太陽の光による逆光のせいで顔や服は黒く見えなかったが、特徴的な耳によって誰なのか即時に把握できた。
先ほどまで頭痛に気を取られていたせいか、鈴の音が聞こえなかった。今はそれこそ小さいが聞こえないことは無い。
「やあ、久しぶり。ここは慣れたかい?」
誰のせいでここに迷い込んだと思っているんだ・・・。
呑気なネコにしばし苛立ちを覚える。
「突然だけどこれ、『α』に入った僕からのお祝い」
差し伸べられた手の上には、青と水色の糸で編まれたミサンガが自らを主張するかの如く凛と座っていた。
自分の腕にミサンガを巻きネコを一瞥。無論表情など読み取れやしない。
薄汚れた仮面の下で、一体どんな顔で自分を見ているのだろう。ノアには到底理解出来なかった。
それでもミサンガは内心とても嬉しかった。自分の好きな色を知っていたのだろうか、ノアの心を完璧に掴んだ。
「ありがとう、大切にするよ。ところでネコ、君は何者なんだい?どこで僕の居場所を知り、どうして僕に会いに?」
ジェスチャーを加えながら、吐き捨てるようにネコは言った。
「さあ、ね。今の自分の口からは言えない。でも、君の後ろには既に答えが見えているんだよ」
まさか背後に誰かがいるのか。一度考えてしまうとありもしない気配を勝手に感じてしまうのが人間の心理だろう。
夏の風物詩である肝試しや怪談話が典型的な例として挙げられる。
風で葉がこすれ合う音が、雰囲気で「そこに誰かが隠れている」と錯覚、想像してしまう。
見るか、見ざるか自分の中で葛藤を繰り広げた末、ノアは見ることを覚悟した。
静かに振り向くのはいささか勇気がいる。そんな勇気など無いノアは意を決して、勢いよく振り向いた。
「これは・・・!」
目の前に現れたのは、人でもない、物でもない、オレンジ色に照らされた街の景色だった。窓ガラス越しとは思えないほどの絶景に、カメラにでもおさえておきたいと思った。時間があっという間に流れ、日が沈み始めたのだ。
あまりの美しさにしばらく見とれていたノアだったが、ネコの存在を思い出し我に返る。
早急に入り口付近を見やる。だがそこにネコの姿は無かった。
代わりにあったのは、静寂と細長く伸びた自分の影のみだった。
辿り着いた先、『ギルド』と呼ばれるその場所。ゲームなどで見かけるそれとは大いに違った。
ノアの目の前には廃墟となった学校によく似た建物が建っていたのだ。
それも自分の通っている・・・もとい、通っていた学校に。
時の止まった大きな時計、寂れた校舎、鍵のなくなった校門。ギルドと呼ぶより秘密基地と呼ぶに相応しい外観だと感じた。
「さ、入るぞ」
校門を抜けた先に広がっていたのは、想像とはかけ離れた風景だった。
花壇にはチューリップや、スズランなど春に咲く花たちであふれかえっていた。太陽の光を浴び、一層きれいに見える。
長い間外に出ていなかったため花を見るのは幾月ぶりか。ノアは花々に心を奪われ、花壇へと近づいて行く。近くで見た花は遠くから見た時とはまた別の印象を与える。短い命でも、一生懸命に咲き誇る、その力強さに感銘を受ける。
その場にしゃがみ込み、自分の前にある濃いピンク色の小さな花を優しくなでる。微かではあるがミカンのような柑橘系の香りが鼻をくすぐる。
「サザンクロス」
「うわっ!」
いきなり背後から声をかけられ、大きな声を上げてしまった。ノアの驚きようにクスクスと静かに笑った脅かし主。
レインブーツを履き、雨合羽のようなものを羽織った、髪が短い女性。体格や声音から推測すると女性と呼ぶより女の子と呼んだ方が正しいか。それよりも今は雨など降っていないのに、なぜこの様な恰好をしているのかという疑問が生まれるが、この世界で自分の常識が通じないことはついさっき、身をもって体感した。
「その花、サザンクロスっていうの。ほら、花の形がお星様みたいでしょ?」
「本当だ、小さな星がたくさん。形もまるで、花の南十字星だ」
「ご名答。Southern Cross、南十字星にちなんで日本で付けられた名前の花でね、花言葉は『願いを叶えて』。本物のお星様みたいで素敵だよね。それにしても君、南十字星をすぐ連想するなんてすごいね!」
「昔よく家族で天体観測したんだ。その時初めて見つけたのが南十字星で、感動のあまりすぐに――」
これ以降の記憶を思い起こそうとした途端、激しい頭痛に見舞われ、強制的に思い出すことが出来なくなった。
すぐに。
この後自分は何をしたんだ。
思い出せない。
頭が割れそうなほどの頭痛。顔を歪め、頭を抱える。痛みのあまり呼吸も乱れ、女の子とここまで共に来た青年が駆け寄り声をかける。
「おいしっかりしろ!プリュイ、先にアイツに報告してきてくれ!俺はコイツと救護室に行く!」
「わ、わかった!」
この後ノアは、青年の肩を借りながら救護室へと入ったのだった。
「すみません、迷惑かけちゃって」
痛みが引き、大分落ち着いてきたノアは救護室で待機をしていた。
当初の予定では、このギルドの司令塔を務める人物に会いに行くことになっていたらしいが、予想外の出来事により逆に来てもらうことに変更となってしまった。
「そろそろ来る」
青年の予想通り、誰かが救護室に入ってきた。
一人は花壇で会った女の子、もう一人は初見だった。
ヘアバンドを着けその上からゴーグルをつけ、赤い髪のノアとさほど年齢は変わらない容姿。長袖のポロシャツの上からオーバーオールジーンズを着、腰には二本を一か所で一本にまとめた特殊な形のベルト。このベルトの後ろ側にはスパナやドライバー、金槌などの工具が入ったポケットがついていた。
「君が。名前は?」
「ノアです。あ、あの、一体ここは・・・それとあなた方は・・・?」
何かまずいことを言ったのか、ヘアバンドの青年は眉根を寄せた。
「おいヴァン、まさか何も教えずにここまで連れて来たんじゃないよな」
「えーっと・・・わ、忘れてたっていうか、来れば分かるかなって思ってさ・・・あははは・・・」
焦っている様子の忍者青年。自分と話していた時とは口調が明らかに違う。言い訳を聞いたヘアバンドの青年は瞬時に工具ポケットからスパナを取り出し忍者青年の首元へ当てた。
それも、微笑みながら。
「今の状況は不審者と同じだって、言わなくても分かるよな。そのせいで俺たちが何回通報されかけたと思ってる?」
「ご、ごめんなさいッ・・・!」
見ている自分にまでヘアバンドの青年の威圧にやられそうになる。重い空気から解放してくれたのは言うまでもなく女の子だった。
なんとかヘアバンドの青年をなだめ、場を持ち直す。
女神だ。心の中で拝んだ。
「まず、自分はシエル。ここでの司令塔兼リーダーを務める。で、このクズ忍者はヴァン。雨合羽を着ているのがプリュイ。以上の三人でこの建物、『ギルド』を本拠地に『α』(アルファ)という組織を構成している」
さらっとヴァンを罵ったが、あえてスルーしておく。
「俺たちの目的は、鬼の討伐と街の監視を主に仕事としている。だが最近、鬼を討伐した際にどこからか泣き声が聞こえたり、糸が残される。それらの正体を見つけることを新たな目的として動いている。だが、また新たに謎が増えたことになった」
次に吐き出される言葉を、何となく予想出来た。
それは。
「「異世界から人が迷い込んだ」」
シエルは黙って頷いた。
「俺が見た限り、君も火を灯しているが、とても弱い。故に、襲われやすくなっている状態だ。そんな君が何故この世界に迷い込んだのか、聞かせてくれないか?」
ノアはここに至るまでの経緯を全て話した。
ネコと会ったこと。
気付けばこの世界に来ていたこと。
ヌケガラ、鬼と遭遇したこと。
何かを思い出そうとしたら頭痛に襲われたこと・・・。
話を聞いた三人は、少しの間話し合い、結論が出たところで改めてノアと向き合った。
リーダーであるシエルをはじめ、ヴァンやプリュイが明るい笑顔でノアに言った。
「ノア、『α』に入らないか?一緒に全ての謎を解こう」
突然の提案に驚いたが、ノア自身いつ襲われてもおかしくない身であるため、この三人が側にいてくれるのならとてもありがたいと思った。
未だこの組織も良く分からないが、この三人は明るく、信用できると思えた。
それに、ギルドに咲く四季折々の花をもっと見てみたいという気持ちもノアの背中を押してくれた。
「ぜひ、入りたい」
笑顔で頷いたノアに三人も笑顔を見せた。
この時ノアは心がじんわり温かくなっていったのを感じた。
まずはギルドの構造を確認してくるといい。
ヴァンに地図らしきものを渡され、探索を始めたのはいいが。
「こうまで一緒だと気味が悪いなぁ」
部屋の数や大きさ、机やイスが配列されている細かなところまでノアの通っていた学校に酷似していた。唯一違うのは、部屋の入り口にある表札に書かれた名前くらい。ちなみに最初に行った救護室は自分の学校の保健室だった。
地図をもらった時は正直必要ない気もしたが、何せ数日しか学校に行ったことのないノアには知らない場所も多く、もらって損はなかった。
いよいよ自分のクラスと同じ部屋へ向かい、本来なら座って授業を受けていたであろう自分の席へと歩み寄る。
廃墟となった割にはきれいな机とイス。
自分はあることをきっかけに学校に行かなくなった。
その、あることというのは――
「うっ・・・!まただ・・・」
花壇にいた時と同じだ。何かを思い出そうとすると頭痛が起きる。
片手で額を押さえ、治まるのを待つ。
どうして思い出せない。
頭痛が治まり始め、深呼吸をしてから、ようやく誰かが部屋の入り口に立っていることを知った。
太陽の光による逆光のせいで顔や服は黒く見えなかったが、特徴的な耳によって誰なのか即時に把握できた。
先ほどまで頭痛に気を取られていたせいか、鈴の音が聞こえなかった。今はそれこそ小さいが聞こえないことは無い。
「やあ、久しぶり。ここは慣れたかい?」
誰のせいでここに迷い込んだと思っているんだ・・・。
呑気なネコにしばし苛立ちを覚える。
「突然だけどこれ、『α』に入った僕からのお祝い」
差し伸べられた手の上には、青と水色の糸で編まれたミサンガが自らを主張するかの如く凛と座っていた。
自分の腕にミサンガを巻きネコを一瞥。無論表情など読み取れやしない。
薄汚れた仮面の下で、一体どんな顔で自分を見ているのだろう。ノアには到底理解出来なかった。
それでもミサンガは内心とても嬉しかった。自分の好きな色を知っていたのだろうか、ノアの心を完璧に掴んだ。
「ありがとう、大切にするよ。ところでネコ、君は何者なんだい?どこで僕の居場所を知り、どうして僕に会いに?」
ジェスチャーを加えながら、吐き捨てるようにネコは言った。
「さあ、ね。今の自分の口からは言えない。でも、君の後ろには既に答えが見えているんだよ」
まさか背後に誰かがいるのか。一度考えてしまうとありもしない気配を勝手に感じてしまうのが人間の心理だろう。
夏の風物詩である肝試しや怪談話が典型的な例として挙げられる。
風で葉がこすれ合う音が、雰囲気で「そこに誰かが隠れている」と錯覚、想像してしまう。
見るか、見ざるか自分の中で葛藤を繰り広げた末、ノアは見ることを覚悟した。
静かに振り向くのはいささか勇気がいる。そんな勇気など無いノアは意を決して、勢いよく振り向いた。
「これは・・・!」
目の前に現れたのは、人でもない、物でもない、オレンジ色に照らされた街の景色だった。窓ガラス越しとは思えないほどの絶景に、カメラにでもおさえておきたいと思った。時間があっという間に流れ、日が沈み始めたのだ。
あまりの美しさにしばらく見とれていたノアだったが、ネコの存在を思い出し我に返る。
早急に入り口付近を見やる。だがそこにネコの姿は無かった。
代わりにあったのは、静寂と細長く伸びた自分の影のみだった。
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