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36、蹂躙
しおりを挟む開店時間を過ぎた『キャバクラ シーサイド』の店内には、喘ぎにも似た苦悶の声が響き続けていた。
声の主は、この店のナンバー1であり、実質のオーナーである藤村絵里奈。だが、鮮やかな青のスーツとフレアミニ、そしてケープを纏った今の彼女は、〝普通の存在”ではないと感じさせるオーラを振り撒いている。
実際に、〝普通”ではなかった。
最強の破妖師のひとり、オメガセイレーン。蒼碧の水天使の異名を持つ究極戦士に、絵里奈は今、変身している。単なるコスプレでは有り得ない、神々しいまでの存在感を発散しているのは、決して錯覚ではない。
だが、オメガセイレーンが持つ超人性は、その雰囲気だけしか発揮されていなかった。
疾風を越えるスピードも。猛獣を凌駕するパワーも。弾丸を跳ね返すタフネスも。本来、オメガスレイヤーが備えているスキルのほとんどを、セイレーンは失っていた。正確にいえば、封じられていた。
胸の中央に乗った緑の鉱石と、乳房に塗られた同じ色の粘液によって。
「ヒョォーッヒョッヒョッ!! どうしたセイレーン! 以前のように儂に水芸を見せてみぃ? 〝オーヴ”の前にはまるで他の小娘と変わらぬのう!」
嘲りながら、カウンターに横臥したスレンダー美女の両胸を、皺だらけの掌が揉み潰す。
緑のゲルを塗り込みながら、柔らかな乳房の感触を愉しんでいるのだ。破れた紺青のスーツから、小ぶりだが形のいいお椀がふたつ、左右ともに露出している。そのきめ細かな素肌に直接、骸頭はオメガ粒子を消滅させるローションを沁み込ませていく。
「はあ”ァ”ッ・・・あア”ァッ・・・!! んふぅッ・・・ああ”ッ!!」
「往生際の悪い女ねェ・・・ムダに暴れるんじゃ、ない!」
バタバタともがき踊っていた両脚を、〝妄執”の縛姫が掴む。細い足首を握り、カウンターの台に抑えつける。
妖化屍の怪力の前に、容易くセイレーンは制せられていた。
平均して、オメガスレイヤーの能力は妖化屍の10倍~20倍程度と言われている。本来は縛姫がセイレーンに腕力で敵うなど、起こるはずがないのだ。
全てはアンチ・オメガ・ウイルス。〝オーヴ”のせいだった。
恐らくは現役オメガスレイヤーのなかでは、もっとも年長で冷静と思われるセイレーンが、骸頭が生み出した悪魔の物質の前に、一方的に嬲られていた。オメガ戦士の根源から崩していく〝オーヴ”に対し、なんらの対抗手段も考えられないのだ。
「4年前、か。ヌシに挑発された屈辱、覚えておるぞォ。私のカラダを愉しんでみろ、などとほざいてくれおったのう。願い通り、存分にオメガセイレーンの肉を堪能させてもらうぞ・・・」
絵里奈の右の乳首。ピンク色の突起に、骸頭はしゃぶりついた。
唇はカサカサなのに、なかはじゅぶりと湿潤していた。小指の先ほどの先端を、コロコロと転がす。
生温かな唾液が絡みつく感触に、快感がじわりと湧いた。
反射的に下唇を噛み締めるオメガセイレーン。思春期のようなウブな反応は、彼女の妖艶な外見と職業からは意外なものだった。
「・・・ほう? キャバ嬢なるものは、こうした経験に慣れていると学んだがのう。てっきり毎夜のごとく男に抱かれているかと思っておったわ。情報があやふやなのは、1000年前と変わらぬようじゃ」
「くッ・・・うゥッ・・・汚らしい妖化屍に・・・私の仕事をバカにされたくないわね・・・」
「ヒョッヒョッヒョッ! まだまだ生意気な口を利く余裕はあるようじゃなァ」
喋るために一旦離した口で、再び怪老は右乳首に吸い付いた。
屹立した小豆をレロレロと舐める。ここまでは、先の愛撫と同じ。
だが次の瞬間、繊細で、多様で、おぞましい快感がセイレーンの胸の頂点を襲った。
「ひうゥ”ッ!? な、なにッ、この・・・もぞもぞ、とッ・・・!! ァはあ”ぅッ!!」
「キィッヒッヒッ・・・!! 儂の可愛いペットどもにも、水天使の肉を味あわせたくてのう。蛆虫にも、ヌシの瑞々しいカラダは好評のようじゃな!」
深い皺に普段は隠れている蛆虫を、骸頭は口のなかに無数に含んでいた。
そのうちの数匹が、絵里奈の乳首をツンツンと突く。充血した肉豆に密着し、這い回る。
怪老の舌と蛆虫とに過敏な突起を愛撫され、快感と嫌悪感とが、同時にセイレーンを責め立てた。
「うああ”ッ・・・!! あァ”ッ・・・!! いやあ”ッ・・・!!」
「え、絵里奈さんッ!!」
蒼碧の水天使の悲鳴に、泣きそうな響きが混ざる。
悪夢のような光景を震えて眺めているだけだった女子大生は、たまらず叫んでいた。妖化屍たちの恐怖を、四乃宮郁美は恐らく誰よりも知っている。ひとりの女性が犯され、あるいは処刑されていく場面を目前にして、なにもできなくても無理はないだろう。
しかし、郁美は違った。
オメガセイレーンの危機に、身体が勝手に動いていた。近くにあったシャンパンの大瓶を掴む。売価3万6千円のドン・ペリニヨン。
値段もサイズも巨大なそれを、躊躇なく骸頭に向かって投げつける。
乾いた音がして、ドンペリは空中で静止していた。
「なッ!?」
「4年前と変わらず・・・命知らずな小娘ね」
ソバージュのかかったオレンジの髪が、網のように広がり大瓶をキャッチしていた。
顏にクレーターの出来た女が唇を吊り上げる。〝妄執”の縛姫は己の髪を自在に操ることができるのだ。
「おマヌケなところも変わらないわァ~。六道妖のひとりである私の前で、こんな攻撃が通用するとでも思っているのかしら?」
「ッ!? あなたがッ・・・六道妖ですって!?」
郁美の驚きはもっともであった。
4年前も縛姫は骸頭らと行動をともにしていたが、六道妖ではなかった。六道妖は、ただの寄せ集めではない。力量を認められた者だけが、選ばれし6人となっている危険な集団なのだ。
「お前と違い、私は変わったのよ! 力をつけ、空位となっていた人妖の座を得たのさ! あの日、オメガフェニックスに敗れた〝慧眼”の代わりにねェ」
〝慧眼”。
ローブに身を隠した、あの男。骨だけの腕など、妖化屍らしい不気味さはあったが、やけに正々堂々とオメガヴィーナスと闘ったあの敵のことは、郁美もよく覚えていた。
そういえば4年前、オメガフェニックスとの闘いで、〝慧眼”の妖化屍は火に包まれ消えたのだ。
死んだ〝慧眼”に代わり、〝妄執”の縛姫が人妖になったのか。ならばこの女妖化屍は、以前よりも強くなっている可能性が高い。
「お前はあとで、ゆっくりいたぶってあげるわァ・・・目障りだからしばらく静かにするんだねェ」
酒瓶に絡みついた髪が、一気に伸びる。
目にも留まらぬ速さで郁美に迫ったドンペリは、その頭部を思い切り殴りつけていた。
ガッシャアアアッ・・・ンンッ!!
「ッッ!! 郁美ッ・・・ちゃんッ!!」
濃緑の瓶が砕け、中身のシャンパンが飛び散った。
一撃で女子大生は昏倒していた。白目を剥き、うつ伏せに倒れる。その額から、ドクドクと真っ赤な血が流れていく。
「なんてッ・・・ことをッ!!」
大きくて垂れ目がちな絵里奈の瞳が、怒りに燃えていた。
左の拳を握るや、右胸に吸い付く骸頭の鼻柱に叩き込む。まだ、こんな力が残っていたのが、自分でも驚きだった。
「プギャ!」と惨めな悲鳴を漏らして、怪老が仰け反る。しかし、それまでだった。本来のオメガセイレーンの力なら、一発で妖化屍の首は飛んでいただろうに・・・骸頭のダメージは鼻が歪んだまでだった。
「貴様ァッ・・・やってくれるではないかァッ!!」
魔法使いのような老人が、魔法使いのような杖を取り出す。振り下ろす。セイレーンの腹部に、剥き出しになった、お臍に。
太い柄の部分ではなく、尖った杖の先端を、骸頭は臍の穴に突き刺した。
ズボオオオオッッ!!
「ぐううう”う”ぅ”ッ―――ッ!!! ごぼォ”ッ!! オ”オ”ォ”ッ・・・!!」
あまりの激痛に、セイレーンの上半身が跳ね起きた。
美貌が苦悶に歪む。お腹を押さえて、ヒクヒクと痙攣する。
涙と涎をこぼすセイレーンに見せ付けるように、縛姫の髪が割れたドンペリの瓶を絡み取ったまま、ヒラヒラと揺れ動く。
真ん中から砕けた大瓶は、鋭利な切り口を光らせていた。
ギザギザのナイフのようなそれを、倒れ伏した郁美に近づけていく。
「ホホホ・・・よく見ていなさい! お前が弱いものだから、オメガヴィーナスの妹が壊れていくのよォ!?」
「ぃ・・・くみ・・・ちゃッ・・・!! やめ、な・・・さッ・・・!!」
ザシュウウウウッ――ッ!!!
尖った酒瓶の割れ口が、郁美の右脚。太ももの裏に突き刺さる。
鮮血が噴き上がるのも構わず、筋繊維を引き裂きながら、ギュリギュリと瓶はねじ回された。
「あア”ッ!? うあああ”あ”ッ―――ッ!!! いやああ”ア”ア”ァ”ッ――ッ!!!」
苛烈な痛みに、郁美の意識が強引に戻される。太ももをズタズタにされる激痛に、声を引き攣らせて泣き叫ぶ。
「やめッ、やめな・・・さいッ!! 郁美、ちゃんはッ・・・ただの・・・女の子なのよッ!!」
「うふふ。安心しなさい、オメガセイレーン。あの小娘は、動けなくしただけよ。あくまで私たちの目的は、蒼碧の水天使を始末すること」
「ヒョッヒョッヒョオッ!! そろそろ処刑を始めるかのう! オメガヴィーナスの妹が見ている前で、ヌシは無様に死んでいくんじゃよ」
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