ファントムガール ~白銀の守護女神~

草宗

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「第一話  聖少女生誕 ~鋼鉄の槍と鎌~ 」

11章

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 止まらない血を押さえ、大地に倒れ伏したままの銀と青の少女を、黒鉄の鎧に包まれた二体
の巨大生物『ミュータント』が、挟み撃ちの陣形を取って見下ろしている。
 黄色の濁った眼が、苦痛に囚われ小刻みに震える獲物を映す。まるで、そのダメージの量を
測っているかのように。
 彼らの頭領的な存在であったはずのメフェレスは退散し、文字通り消え失せていたが、その
ことによる影響は全くないようだ。殺戮マシーンとしての本懐を遂げるべく行動する彼らにとっ
て、今、目の前にうずくまる『敵』を、抹殺することだけが全て―――
 
 「ハア・・ハア・・ハア・・・・・こいつら・・・の・・・・ゼエ・・・ゼエ・・・・トランスできる・・・ゲホォッッ・・ゴホゴホ・・・・時間・・は・・・・ハア・・・ハア・・・・・ながい・・ん・・・・ハア・・・・ハア・・・・だった・・・・・」
 肩が大きく上下する。喋るだけで、全身がキリキリ痛む。
 極度の酸欠状態により、指先の痙攣が止まらない。視界が暗く霞む。少女の愛らしさを残し
た唇が、ワナワナと苦悶に揺れる。
 “こ・・・このまま、眠りたい・・・・・で、でも・・・・・こいつらを・・・・止めなきゃ・・・・・・”
 神に祈りを捧げるのにも似たポーズの守護天使が、悲壮な決意を固める。
 そんな心情を嘲笑って、無情の破壊光線が、青い聖戦士を両サイドから挟み撃つ!
 
 ビジャジャジャジャジャッッ!!
 
 物質が溶け、弾ける音。
 カブトムシの熱線と、クワガタの雷は、少女のいない大地を叩いていた。
 さっきまでの死に体が擬態であったかのようなスピードで、ファントムガール・ナナは跳躍し、
2回トンボを切って巨大生物の攻撃を避けていた。
 銀光を煌かせ体操選手のように舞うナナ。が、そのしなやかな動きは着地と同時に、糸が切
れた人形のようにドシーーンと膝から崩れ落ちる。
 「ゼエエ・・・ハアア・・・ゼエゼエゼエゼエ・・・・・ガハア・・・・・・ハアハア・・・・・」
 “くッ苦しいィッッ!! 息が・・・息が満足に出来ないッ!! 一瞬は動けてもこのままじゃ
あ・・・”
 無理を押して動かした体が、崩壊の悲鳴を挙げている。
 ただでさえ体力を枯らしているところに、腹に開いた穴が、呼吸するたびに、内臓が溶ける激
痛を脳に送る。いまやナナにとって、一呼吸ごとが拷問だ。加えて大量の失血により、体力は
余計に流出していく。
 
 光線技―――
 体力に任せての格闘が不可能な今、ナナが勝利を収めるには、それしかない。
 「そんなこと、私にもできるの?」
 車中での執事・安藤との会話が蘇る。
 「もちろん。『エデン』との合体で光のエネルギーを操れるようになっていますから」
 「どうやるの? 里美さんのようにやればいいのかな?」
 「それでも構わないでしょう。大切なのはイメージです。エネルギーを放つイメージ。あるいは
普段、身に慣れたものを具現化するのもいいでしょう。お嬢様のリボン、バトンなどがそうです」
 五十嵐里美は新体操のオリンピック強化選手である。その経歴がファントムガールとしての
闘いの幅を広げているのだ。
 「普段、身に慣れたもの・・・・」
 私ならやっぱ・・・・・ハンドボール?!!
 
 「はッッ!!」
 迫る橙色の火球が、ナナの思考を余儀なく中断させる。
 前転。どこに逃げるか、推測していたように、クワガタの稲妻が着地点を射る。
 それも、避けた。
 『ミュータント』の時間差攻撃を、類稀な運動神経が防ぎきる。
 「!! ハアハアハアッッ・・・ガハアッ・・・・ゼエェ・・ゼエェェッッ・・・・・くッッ・・・くそォッッ・・・・・ハアッ・・・ハアッ・・・・」
 瞬間、アスリートの能力を披露したナナだが、それは長くは続かない。再び、右膝をつき自ら
を抱きしめる、か弱い姿を露呈する。曳きつく荒荒しい呼吸が、ファントムガール・ナナの終幕
を予感させる。誰の目にも、青い聖少女の敗北は時間の問題だ。
 人類の焦燥を嘲笑って、カブトムシとクワガタが獲物狩りのクライマックスを開始する。
 熱球と電磁光線を交互に発射する。
 ラクレスの熱線。側転でかわすナナ。着地と同時に放たれる電撃。身を捻って避ける少女。
その瞬間、撃たれる炎。跳躍して直撃を免れる。また、電磁光線が・・・・
 一呼吸として休む間を与えぬタイミング。否が応にも動けぬ体を動かし続けられる悪魔の連
携に、空になった体力を絞り尽くされるファントムガール・ナナ。元は昆虫の怪物は、獲物が最
もされたくない戦法を知っていた。
 
 “しッッ心臓が爆発しちゃうぅぅぅッッッ!!! 苦しいッッ!! 苦しいよォォッッッ!!! 目
が暗いッッ!! 体がビクビクしてるッッ!! も、もうやめてェェッッ!!! 呼吸をさせてッッ
お願いッッッ!!!”
 「ふひゅうぅぅッーーッ・・・・ふひゅうぅッッーーッ・・・・・ガフッッ・・・・ゼエエェェ・・・・げへェッッ・・・・がひゅうぅぅッッーーッ・・・・」
 胸を掻き毟る。唇がパクパク開閉する。アルコール中毒者のようにフラつく。ボトボトと気泡と
血が垂れる。それでも止められない悶絶のダンス。コマ送りのようなスピードで、健気に少女は
踊り続ける。
 スウッ・・・・と右腕が上がる。
 掌をカブトムシ・ラクレスに向け、掌底突きの要領で一歩を踏み出す。
 
 ゴォウウッッッ!!
 
 “で・・・出たッッ!!!”
 振り絞った気合いが、光の筋となって、巨大生物を撃つ!
 逆転の一矢! 直撃!!
 「・・・・・あ・・・・・・・・・」
 残酷な現実がファントムガール・ナナを砕く。
 防御もせず、平然とナナの光線を受けとめた甲虫が、そこにはいた。
 バチバチバチバチイィィッッッ!!!
 完全に動きの止まった青い戦士を、高圧電流が蹂躙する!
 「ッッッ!! ~~~~ッッッ!! がふぅぅッッ・・・~~~ッッッ!!!・・・・・~~ッ~~ッ
ッ!!!」
 大の字で、スローモーションで、うつ伏せに倒れていく巨大少女。
 そのあどけなさの残る可憐なマスクに、超高熱の火の玉がぶち込まれる!
 炎のカウンターブローに意識を飛ばされ、海老のように反りきった大の字の姿勢のまま、聖
少女は瓦礫のマットに沈んでいった・・・
 
 「負けた・・・・・・」
 「青いファントムガールも、負けた・・・・・」
 「オレ達はどうなるんだ・・・?」
 安全な場所から、守護天使の闘いを見守っていた人々が、現実に引き戻されざわめく。希望
を一瞬で吹き消す、KO劇。ファントムガールの次は、自分達が殺戮の標的となる現実が、徐
徐に人類の心を闇に連れて行く。
 しかし、ボクシングなら終わった闘いは、まだ続いていたのだ。
 失神した聖少女に、クワガタ・チタヌスが飛びかかる!
 殺戮マシーンの二匹にとって、敵の鼓動が止まるまで、闘いは終わりではない。
 晒け出された銀の脇腹を、鋼鉄の鋭利な巨大鎌が圧搾する!
 
 「ッッ!!! ~~~ッッ~~~ぎひィィッッ・・・~~ィッッ!! ・・・ぎひィィやァァああァァァッ
ッッ―――ッッッ!!!」
 身も世もない、魂切る絶叫!!
 ヒビの入ったアバラを、ショベルカーで砕き潰される地獄の責めに、眠りを許されず、蘇生す
るナナ。
 ファントムガールでのダメージは軽減されるが、元の個体の負傷は、トランスフォームしても
そのまま引き摺る。メフェレスに握り潰された肋骨は、今の七菜江にとって、最大の弱点と言え
た。そこを見透かされたように、噛み潰され、ナナは戦士としてのプライドを捨てて、泣き叫
ぶ!
 「ぎゃひゃあああァァァッッッーーッッ!!! ぐあああッッッ・・・・!! やめてッッ!! お願
いッッ!! やめてェェェッッーーッッ!!! げええェェッッ・・・・うあああああッッ―――ッ
ッ!!!」
 殺虫剤を噴射された虫のように、バタバタと手足をメチャクチャに振るナナ。喚く口から血が
霧を吹く。
 「ああああ・あ・あ・あ・ッッッ・・・・・・やめ・・・・てェェッッ! ・・・・・・許し・・・・てッッ・・・・・・・あああッッ・・・・あ・あ・・・あ・・あ・・・お・・ね・・・・・・が・・・・・・・・い・・・・・・・・・・・」
 命乞いをする、象徴的な敗北に、闘争心が折れたのか。
 カクーーンと全身から崩れる少女。
 静かになった聖戦士の左肩を、カブトムシの角が刺す。
 どこまでも容赦ない残虐な槍が、少女の体液をこれでもかと抜き取る。
 泉のように涌き出る血で赤く染まった、哀れな獲物がクワガタに掲げられる。
 贄のように、グッタリと、鋼鉄の鎌にその身を預けるだけのナナ。
 チタヌスがその決して低くはない知能で、青い蝶の処刑法を決定する。
 コノママ、アゴデ、カミチギッテヤロウ
 
 メキィィ・・・ゴキッ・・ベキベキッ・・・・ブチィッ・・・
 少しづつ力を加えるごとに、銀色の唇から、赤い塊がこぼれ出る。
 合わせるように、相棒が角を捻る。青かった少女の肢体は、赤色になっていた。
 肋骨が折れていく感触。一本、また一本と・・・そのたびに獲物がビクリと痙攣する。
 内臓を圧迫する。間もなく、骨が刺さっていくだろう。
 銀の両腕が、天に翳すように、ゆっくりと上がっていく。
 潰される内臓が悲鳴を挙げ始める。
 頭上に挙げた青のグローブに、光の粒子が固まり始める。
 「・・・??!・・・」
 掌に集まった光のエネルギーが、顔と同じくらいの球体になる。渦巻く正の力が加速し、溢れ
る聖光を放ちだす。
 
 ・・・コイツ、ハンゲキシヨウトシテイル・・??
 二匹の『ミュータント』が、真実に辿りついた時、すでに遅かった。
 輝く球体が、破邪の光を撒き散らして発射される!
 天空を衝く白い彗星。見上げる二匹の巨大獣。
 光の凝縮体が旋回し、螺旋を巻いて急降下する!
 
 グワジャアアアアッッッ!!!
 
 光球がチタヌスの頭頂から股間までを、撃ち貫く。
 筒のような穴を中心に、絶命したクワガタの骸が左右に分かれ、アスファルトを揺らすと同時
に爆散した。
 鳴き声もなく散ったパートナーを目前にし、ラクレスは凍ったように動かない。
 漆黒の槍を両手で掴むナナ。そのまま一気に真上に上げる。
 貫かれた左肩を自ら切り千切り、ファントムガール・ナナがようやく地獄の戒めから脱出す
る。ゴロゴロと後転し、距離を取る聖なる戦士。
 
 「じっくり・・・・・嬲ってくれたおかげで・・・・・・・ようやく呼吸が整ったわ・・・・・・・」
 片膝立ちの姿勢を取り、脇腹に食い込むクワガタの残骸・鎌を、ズボリと抜き取る。密度の
濃い血塊がドロリとこぼれる。
 「ずっと・・・・・ホントに・・・・・苦しかった・・・・・・でも・・・・ちょっと慣れちゃったよ・・・・・・・」
 両手を上げる。暗闇が支配しつつある空に向けた掌に、人工の太陽が輝いていく。
 ラクレスが、吼える。
 「ハアッッッ!!」
 光球をファントムガール・ナナが投げる。
 唸る光の弾丸。
 身構えるカブトムシ。
 その鋼鉄の鎧は昆虫界最強の硬度を誇る甲殻。実際にファントムガールの光線技はその装
甲の前に、全くダメージを与えられないでいた。絶対の自信を持つ強度が、ナナの唯一の決め
技に立ちはだかる。
 光が鎧をすり抜ける。
 ラクレスの胸にハンドボール大の穴が開き、崩壊したビル群がその向こうに覗いていた。
 爆発した巨大生物を確認し、青い少女戦士は、光を散乱させて、死闘の終わった街を消え
た。
 多くの血を犠牲に、人類は侵略の魔の手から、とりあえず免れたのだった。
 
 
 
 「なによ、『青いファントムガール』って」
 三体の宇宙生物、『ミュータント』と呼んでいるそれらの襲来を、新しい戦士が退けてから、三
日めの朝。
 『エデン』による超回復力により、全身の傷がほとんど癒えた藤木七菜江は、久しぶりの朝刊
に目を通していた。
 「仕方ないわよ、ファントムガール・ナナじゃ、正体バレバレだもの」
 羽毛のべッドに横になったままの五十嵐里美がクスリと笑う。
 こちらの方は、外傷も癒え、意識はあるものの、身体を起こすまでには回復していなかった。
それでも、その表情は随分と明るい。
 
 「でも、そんな呼び方、なんかヤダ」
 「フフフ。いいじゃないの、ちゃんと私達は呼んであげるから」
 部屋の扉の前に立つ初老の紳士が、微笑みながら朝食準備のために席を立つ。
 「ウルトラマンの次は、ウルトラセブン。ファントムガールの次は・・・ファントムガール・ナナ、
なんてよくできてるじゃない」
 
 あどけなく笑う生徒会長。七菜江はふくれてみせるしかなかった。
 
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