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「第三話 新戦士推参 ~破壊の螺旋~ 」
8章
しおりを挟む銀の肌に、黄色の模様。愛らしい顔と、緑色の、襟足でふたつにまとめた髪形が、少女っぽい幼さを感じさせる。
巨大なスクリーンの中で、新たな少女戦士は馬型のミュータントと対峙していた。メフェレスの手によるものか、自然発生的なミュータントかは、議論の分かれるところだ。
突進する荒馬を、少女は霞みのようによける。無駄のない、足の捌き。それだけで、このモデル体型のファントムガールが、ただ者でないことを窺わせる。
荒れ狂う馬が、鋼鉄の塊と化した前腕で、バービー人形のような少女に殴りかかる。かするだけで腰からボキリと折れてしまいそうな一撃。
陽炎となって揺らぐ黄色の肢体。高密度の豪打を華奢な細腕が受ける。
それは無理だ――打撃の威力に腕が耐えられるわけがない。
観衆の予想は見事に外される。
馬の巨体が宙に舞う。右前腕を捕えた少女が、投げを打ったのだ。
力を込めてるとは思えぬ涼しげな表情と、派手に吹っ飛ぶ怪物との対比が痛快ですらある。
頭から落下した馬が、再び宙を舞い、続けざまに投げ飛ばされる。
まるで張り子のように軽々しく操られる巨大生物。黄色の少女は重力を無視できる能力を持っているのか?
2度、脳天から大地に激突した馬型ミュータントは、質量が重かったことが災いして、絶命した。
まだ、力の一部分しか見せていない新たな少女戦士は、光の渦の中に溶け込んでいった。
「ふうッ・・・」
スクリーンをじっと見つめていた麗しい美貌の少女・五十嵐里美が感嘆とも取れる溜め息をつく。政府が撮影した記録用ディスクを見るのは、これでもう、5度目だった。
何度見ても、新戦士の鮮やかな闘いぶりに驚かされる。
「『新ファントムガール、またまた大活躍!!』・・・だって。新聞って調子いいですよね、私たちが負けた時は、この世の終わりみたいに書いてたのに」
口を尖らせて不満を漏らしているのは、藤木七菜江である。シヴァによる毒がほとんど抜け切った彼女は、左足の包帯こそまだしているものの、その小麦色の肌には活力が漲っていた。
死の淵から戻ってきた時、里美はずっと傍についていた七菜江にワンワン泣かれてしまった。幾度となく死線を越えてきたふたりだが、自分に内緒で死に向かおうとした里美が、七菜江には辛くて仕方がなかったのだ。
コウモリ型ミュータントに、エネルギーをタンクの底まで吸い尽くされたも同然の里美だったが、タンクの表面に付着したわずかなエネルギーのカスで、なんとか生還することができた。瀕死に追いやられたとはいえ、外傷は『エデン』の能力にしてみれば大したものでなかったため、3日も寝れば、完全といっていいほどの復活を遂げていた。
その3日の間に現れたミュータントを颯爽と黄色の戦士が退治した映像を、今、ふたりは見ていたのだった。
「『新ファントムガール』、『黄色のファントムガール』かぁ・・・。凄いじゃないですか! 正体は誰なんですか?」
ひまわりの笑顔に、里美は困惑した様子を見せて答える。
「それが・・・わからないのよ」
「えッッ??! 里美さんが言ってた人じゃないんですか?」
「彼女は別人。残念ながら、まだ話すらまともに出来てないの。多分、この新しいファントムガールのコは、何も知らずに自然に『エデン』と融合しちゃったと思う」
「そんなことってあるんですか?」
「それはあるわよ。『エデン』も生きるためには、宿り主が必要だもの。私達は自らの意志で融合したけど、本来は寝ている間とかに、勝手に寄生するのよ」
「じゃ、じゃあ・・・・・・凄い悪い人と勝手に融合することも?」
猫のような、少々ツリ目気味の七菜江の瞳が、不安げに垂れる。少女が危惧している内容は、里美にも手に取るようにわかったが、適当にお茶を濁す気分にはなれなかった。
「もちろん、よ。久慈のような悪党が、まだ現れる可能性はあるの。だからこそ、『エデン』の回収に力を入れたんだけどね・・・」
だが、逆に久慈仁紀に集められてしまったのは、既に七菜江も知るところだった。
ただ、全てが久慈によって奪われたわけではない。動物に寄生して、力を発現させていないだけのモノもいれば、融合した人間が、世間の風評を恐れて、必死で秘密を隠しているケースもあろう。
恐らく、今回の黄色の戦士は、後者のケースと思われた。
『エデン』と融合してしまい、その能力に薄々感づいていながら、誰にも言えずに黙っていたのだ。しかし、ファントムガール=里美の大ピンチに、矢も盾もいられなくなり、救出に飛び出したのだろう。
「けれど、今回に関しては、神様は私達に味方してくれたみたい。光の力に溢れ、戦闘能力にも長けている。文句ナシのファントムガールだわ」
ゆっくりと力強く七菜江が頷く。
彼女たちにとって、そして地球の未来にとって、待望の新戦士誕生なのだ。
「一刻も早く、彼女の正体を探って、私達の仲間になってもらわないと、ね」
「でも・・・当てはあるんですか? この髪型のコって多いし、顔だけじゃ判断難しいですよ?」
七菜江の疑問は当然だった。この地方一帯の女のコであることは確かだが、見た目、しかもトランスフォームして若干変化したものを頼りに探すには、対象者が多すぎる。まして、一人一人にファントムガールかどうか、確認する方法はないのだ。
「そう・・・ね。だけど、この強さはなかなかいないわよ。『エデン』の能力を授かったとか、関係ないレベルの技術よ」
「強い人を当たる、ってことですか」
「見たところ、この技術体系は、合気道に似てるわ。その筋を探ってみれば・・・」
公儀隠密御庭番衆の頭領としての血を引く里美は、忍びとしての修行の一方で、一通りの格闘技・暗殺術の知識を教え込まれていた。手足を掴んだだけで、自在に操る投げ。そして、巨大コウモリを弾き飛ばしたように、突進する敵を、気の流れを利用して弾き返す技。黄色のファントムガールが使う技は、合気道の匂いが染み付いていたのだ。
合気道は、女性にとって馴染みやすい格闘技と呼ばれ、他の競技に比べれば女性の割合が高い。とはいえ、随分と的が絞られるのは間違いなかった。
「わかりました! じゃあ合気道関係者を調べていけばいいんですねッ!」
「ちょっと待って。ナナちゃんは探さなくてもいいのよ」
里美はできる限り柔らかく言ったのだが、露骨に不満な本音が、七菜江の顔に浮ぶ。
「え~~ッ?! なんで?! なんでなんですか?」
口を尖らせ、歪ませる。両手はくびれた腰の脇に添えられ、外国のスーパーヒロインがよく取るポーズをする。
生意気そうなポーズだが、ちょっと不貞腐れた表情が一番魅力的に映ったりするのが、この少女の得な点だ。
「ナナちゃんには、やって欲しいことがあるの」
「仲間探しよりも大事なことなんですか?」
「そうよ。私達、ファントムガールが生き残るために必要なことよ」
「なん・・・・・・ですか?」
「強くなって欲しいの」
ますます七菜江の口が尖る。
「そりゃあ、私は弱いけど・・・里美さんに迷惑かけてるけど・・・そんな言い方ってないよ!」
「違うの、ナナちゃん。よく聞いて。あなたの潜在能力は私を遥かに上回っているわ。でも、今はそれを使いこなせていない。いくら運動能力が高いとはいえ、闘いの経験が少ないからよ。逆に言うと、身体能力だけで、ある程度闘えるほど凄いってことでもあるんだけど・・・それを克服して欲しいの。ナナちゃんが闘い方を覚えれば、一人味方を得たぐらいのプラスがあると、私は思ってる。それぐらい、あなたの力は魅力的なのよ」
「・・・・・・それ・・・ホント?」
七菜江の顔に、パアッッと太陽の明りが刺し込む。眉には戸惑いを示して皺が入っているが、ピンクの唇の隙間からは、真っ白な歯が覗いている。
ホントにわかりやすいコよね・・・
最愛の仲間ながら、里美は七菜江の純粋さに呆れてしまう。しかし、こういう素直な一面が、里美には何よりも愛しいのも事実だった。もちろん、戦士として見た場合、それは致命的な欠点になるかもしれないのだが・・・
「私がナナちゃんに嘘ついたこと、あった?」
「・・・ひとりで闘いに行ったり、けっこうするような・・・」
「・・・ごめん。でも、今度はホントよ。新戦士探しは私に任せて、ナナちゃんは特訓ガンバッて」
「けど、里美さんひとりで大丈夫なんですか? 合気道関係者っていってもけっこういるんでしょ?」
「私、そういうの、得意なの」
うふふ、と上品に微笑む里美。ウインクひとつに可愛らしさと色っぽさが同居している。
そうだ、里美さんはくノ一なのだ。情報収集は、彼女の最も得意とする分野のひとつなのだった。
「わかりました。里美さんの言う通りにします」
「できれば、新必殺技のひとつでも編み出してね」
「え~~~ッ!! そんな簡単に言わないでくださいよォ」
「でも、『スラム・ショット』はいい技だけど、ひとつしか技がないと、読まれちゃうわよ」
ハンドボール部の七菜江は、ファントムガール・ナナになっても、ハンドボールのシュートをモチーフにした必殺技を使うが、現在それ以外にこれといった技を持たない。事実、片倉響子が変身した蜘蛛女・シヴァとの対戦では、空中に飛び「スラム・ショット」を放とうとしたところを読まれ、無惨な目に遭わされたのだ。
「野球で喩えると、150kmの速球を投げられるけど、それしかない、ってところ。もうひとつ、大技があればグンと闘いやすくなるわ」
「・・・は~~い、わかりました。ガンバッテみます・・・」
「あと、もうひとつ。約束して欲しいことがあるの」
「なんですか? もう、なんだって言うことききますよ」
「あと1ヵ月、何があろうと絶対にトランスしちゃダメよ」
「ええッッ~~~ッッッ!!! なんでッッ??!!」
突然のファントムガール・ナナ封印命令に、仰天した七菜江が勢い込んで、冷静な生徒会長に尋ねる。
つい、最近、自分が変身できないがために、里美を窮地に追いやっているというのに。それだけは承服しかねる里美の命令に、一本気な少女は反発する。
「やだやだやだ!! 絶ッッ対ッッ~~ッにッ!! や・だ!!」
「ナナちゃん、よく話を聞いて」
「だって!! もう、やだもん!! 里美さんが危ない目に遭ってるのに、知らない顔してたくないもんッ!!」
富士山の皺が眉間に寄っている。キュッと閉じた形の良い唇は、今にも泣き出しそうに震えていた。
見舞いに来た工藤吼介との会話に夢中になり、里美のピンチを後になって知らされたのが、七菜江には相当辛い記憶になっていたのだ。それは、少女の身を案じた、執事の働きによるところが大きかったのだが、里美の苦境をよそに、楽しんでいた己が七菜江には許せない。
「ありがとう、ナナちゃん。そこまで想ってくれて、嬉しいわ・・・・・でもね、あなたの体内の毒は、完全に消滅したわけではないの。今、無理をしてもらうより、1ヵ月我慢して、完璧な状態に戻してもらうほうが、私には助かるのよ。ナナちゃんは若いし、回復力も早いから気付いてないけど、ファントムガールになってから1ヵ月近く、あなたの身体はボロボロになっているのよ」
確かに考えてみれば・・・七菜江の脳裏に、ファントムガールになってからの1ヵ月がよぎる。
メフェレスとの闘いに始まって、カブトムシとクワガタによる攻撃、神崎ちゆりによる“ナナ狩り”、片倉響子の仕打ち、巨大ネズミの猛攻、そして、シヴァによる拷問。
少女の豊満な肢体には、あまりにも苛烈な嗜虐が加えられてきたのだ。
表面上は回復していたが、いや、そう見えるからこそ危険なのだ。
実際には、その深刻なダメージは、身体の奥深くに潜んでいるのだ。若さゆえ、回復力の高さゆえに、その落とし穴に気付いていないだけなのだ。
里美にはわかっていた。だからこそ、少女を休ませたかった。
「・・・・・・・・・・・でも・・・」
「いい? これは私からの命令で、約束よ」
「・・・・・もし、約束破ったら、どうなるんですか?」
「・・・・・・・わたし、ナナちゃんのこと、嫌いになるわよ」
「・・・・わかりました。約束守るようにします」
翌日から、里美は新戦士の正体探しに、七菜江は特訓にと、それぞれの使命に向けて、ふたりのファントムガールは行動を開始したのだった。
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