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「第五話  正義不屈 ~異端の天使~ 」

4章

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 永遠の虚無を思わせる灰色の空間は、先程までいた場所とは、ある一箇所において異なっていた。
 再び覚醒した五十嵐里美は、四肢に襲いくる苦痛と、己が取らされた態勢に気づき、失神している間に別の部屋に連れられたことを悟る。
 
 大の字に磔られている点では、虜囚の扱いは変わっていない。
 だが、昇天前には金属板により床と垂直に晒されていた肢体は、今は大地と平行になり、1m50cmほどの高さに、下を向く格好で宙吊りにされていた。
 天井から極太の麻縄がぶら下がっている。神式の祭りで結うような、厳かですらある太さ。それが途中から5つに分かれ、白百合の如き手首・足首を拘束している。芸術的な曲線を描く女神は、その抜群のプロポーションをスカイダイビングでもしているかのような姿勢で展示する。ただ手首足首を拘束して、天井から吊るしただけならば、里美の肉体は、干し肉でもぶら下げるようにダラリと吊るされるだけだったろう。しかし、マリーの魔人形により、大の字に硬直させられた女隷の身体は、ピンと強烈に張った縛綱により、宙空で手を広げ、股間を全開にする無様な姿で晒していた。さらに加え、首にかかった最後の縄のせいで、咽頭を締め上げられる苦痛に耐えかねたくノ一は、上半身を反りあがらせ、形・大きさとも申し分ないバストを誇張せざるを得ないでいる。
 
 宙吊りの隷奴の正面、切れ長の瞳が下目遣いで送る視線の先に、毛皮付きソファに座った久慈仁紀が、ニヤニヤ笑いを浮かべていた。
 
 わずか十数分前、X字の金属板に固定された少女は、なんとしてでも倒さねばならないはずの仇敵により、玩具と成り果て、昇天させられていた。
 ユリア、西条ユリの死。
 圧倒的に迫る『エデン』―ミュータントの卵―の数。
 崩れ折れかけた闘少女の心に、容赦なく殺到した魔人は、魔力により研ぎ澄まされた性技で、無垢な聖少女を存分に汚し尽くした。
 
 「ひゃやああああッッ~~~ッッッ!!! やめぇぇえッッ・・・やめてぇぇえええッッ~~~~ッッッ!!!!」
 
 清廉であり高貴であるはずの令嬢が、恥も外聞もなく泣き叫んだ。ショックと絶望と逃れられない恐怖――地球を守る最後の希望である守護天使は、ひとりの女子高生に戻って懇願した。久慈にとって、至福の時間。長い髪を振り乱し、涙の雫を飛び散らす、目の上のたんこぶであった忌々しい牝を、思う存分に喘ぎ喚かせ、嬌声を絞り取っていく。
 
 「フハハハハ! この日を待ち焦がれたぞ、里美! 身動きできない貴様を破壊するのが、これほどまでの快感だとはな!」
 
 「ふわぁぁあああああッッッ―――ッッッ!!! ひぐうぅううッッ~~ッッ!!! はうわああああああッッッ――――ッッッ!!!!」
 
 コンクリートの壁に、絶叫する自由しかない少女の胸を、二本の腕で握り潰していく淫靡な影法師が投影される・・・
 その後、影法師は、腕が股間に伸びたり、唇が重なったりと形を変えたが、磔少女の影は、ただ悲痛な叫びをあげ続けるばかりで、いつまでもX字のままだった。
 手による淫技だけで、わずか5分の間に2度イカされ、五十嵐里美は果てた。
 二度目のエクスタシーで完全に失神した聖女は、X字の上で処刑されたように、弛緩した肢体をぶら下げ、惨めな姿を宿敵に晒した。
 
 意識を無くした正義の少女は、その後、この新たな拷問部屋へと運び込まれたのであった。
 
 「おはよう、生徒会長さん。ご機嫌いかがかな?」
 
 いつもより1オクターブ高い声が、嘲りを助長する。勝利を確信した我侭な男は、もはや誰の手にも負えないほどの有頂天ぶりを、顕在化させつつあった。
 
 「あぁ・・・・うくぁ・・・・・こ、殺せ・・・・・・・・はやく・・・殺しな・・・さい・・・・」
 
 締め上げる麻縄の苦痛に耐え、これだけのことをようやく里美は言葉に乗せた。
 元々満身創痍の聖少女に、残された体力はわずかだ。
 加えて、現在の宙吊りの苦しみは、見た目を遥かに上回るものだった。
 両手首足首で体重を支えているため、肩と股関節が抜けてしまいそうだ。きつく絞められた縄のせいで、先の部分は血が届かずに白く変色している。大きく手足を広げた格好で吊られているため、自然中央にかかる重力により、反りあがった背中は常に背骨折りの拷問にかけられているも同然だ。しかも少しでも力を抜けば、首の縄が窒息を迫って絞め上がる。首絞め、背骨折りに加え、肩関節・股関節・手首・足首の関節を一度に極められる、複合関節技を常に掛けられている状態が、身も心もボロボロの少女に襲いかかっているのだ。
 
 「ほう? てっきり屈したものだとばかり思っていたが、どうやらまだまだ歯向かう気のようだな。意地を張っても、辛いだけだぞ」
 
 「悪に・・・・・・屈したりなど・・・・・しない・・・・・・たとえ殺されても・・・・」
 
 「フン、全くもって忌々しい牝だ。だが、それでこそ楽しみ甲斐があるというもの」
 
 不意に里美の方向感覚が狂う。
 前触れもなく天地が引っ繰り返ったような感覚は、宙吊りの肉体が何者かの手により、天井からの支えを中心にグルグルと回転させられたためであった。
 換気扇のプロペラを思わせる動きで、美神に愛でられたはずの少女は、普通の人間ならば生涯味わわないであろう屈辱的な姿勢で回る。
 ギシギシと、固い麻が摩擦する無機質な音が広がる。
 戦士としてのアンテナを、ダメージにより奪われた里美は、ここで初めて己を取り巻く状況を理解した。戦慄とともに。
 
 4人の男女が囲んでいる。
 片倉響子。神崎ちゆり。魔女マリー。教師田所。
 ある者は凄惨な笑みを浮かべ、ある者は凍りつくような神妙な面持ちで、成す術なく回転する、美しき女神を凝視している。
 
 「ククク・・・さすが、賢いエリートさまは出来がいい。その状況が何を意味しているか、わかったようだな」
 
 回転により緊縛が強まった縄のせいだけではない、青白くなった里美の顔が、360度を回りつづける。視界に飛び込む、残虐な顔、顔、顔・・・
 里美は、その蒼白となった哀愁漂う美貌、剥き出しになった性器、傷と火傷に覆われた痛々しい全身を、周囲を囲む4人の処刑者に見せつける。
 
 「里美、オレは完璧主義者でな。もはや勝負がついた戦局とはいえ、ひとつだけ気になることがある。ファントムガールは何人いるのだ? あとはナナだけなのか? それとも・・・まさかまだ他にいるのか? それを吐けば、オレの性欲人形として生かしてやる」
 
 ゆっくりと回転する被虐者の口は、開くことはなかった。
 
 (ナナひとりだけと知られれば、間違いなくあのコは嬲り殺されてしまう・・・せめて、あのコだけでも助けなくては・・・)
 
 まるで静かな死を待っているように、里美は薄皮を剥ぐがごとくに体力を奪う磔風車に身を委ね続けた。ギリギリと、背骨・肩関節・股関節・頚骨が崩壊の序曲を奏で始める。泣き叫びたいほどの激痛の海に溺れながらも、現代くノ一は無言を貫く。真っ赤に染まり、珠の汗を浮かべる聖少女の表情は、屈辱と悲哀と気高さとをブレンドした、神々しくさえあるものだった。
 だが、そんな悲壮な少女戦士の決意を、絶ち切るように悪鬼が吼える。
 
 「バカな女め! よかろう、ならば力ずくで吐かせるまでだ!」
 
 回っていた身体が、久慈の正面に顔を向けたところでピタリと止められる。囲んでいた4人の悪魔たちが、ざわりと蠢き、囚われの天使の傍らに立つ。
 
 「いいか、顔は傷付けるなよ。オレはその気高く、憂いを秘めた美しい顔が歪むのを見たいのだ。くノ一の修行など、まるで無意味であることを教えてやれ」
 
 ソファに深く腰を下ろし、悪魔の申し子は聖少女の拷問刑鑑賞に集中することにする。
 久慈が腰を落ちつけたのを合図に、宙吊り天使への無慈悲な蹂躙は開始された。
 
 「では、まずはこのオモチャで遊びましょうか」
 
 目の前に禿げあがった中年男が現れる。眼を細め、唇の端を吊りあがらせたえびす顔に潜んだ凶悪性を、里美は瞬時に見破った。国語教師・田所。直接教えてもらったことはないが、要注意人物として記憶していた歪んだ聖職者が、校内随一の美少女に迫る。
 その両手には、それぞれ赤と黒のコードについた電極。コードはメーターやダイアルがものものしくついた、黒い機械の箱から伸びている。
 中年教師が電極を重ねる。
 熱い火花が飛び散り、虚ろな視線をさ迷わせる、被虐の戦士に見せつける。
 
 「恐いですか、五十嵐くん? 私はねえ、あなたに憧れていたんですよ。過去20年間の教師生活で、あなたほどの美しい少女は見たことがない。美しく、心優しく、気高い・・・全てを備えたあなたを、是非私のものにしたいのです。誰にもみせない悲鳴からエクスタシーまで、全てを晒してもらいますよ」
 
 里美は抵抗しなかった。無駄だとわかっているから。下卑た台詞に、内なる炎を燃やしつつも、ただ、迫りくる電極を、怒りと悲しみの視線で見つめる。
 
 「存分に喚きなさい、五十嵐くん」
 
 ふたつの電極は、無造作にこめかみに付けられる。
 
 「ぐあああああッッ―――ッッッ!!!」
 
 視界の中で火花がショートする。バチバチと逆立った黒髪が音をたて、摩擦するたびに火花を飛ばす。脳を揺さぶる強烈な刺激。頭が爆発しそうな衝動に、白目を剥いたまま、里美は首を振り続けた。
 
 「あらら、失礼。数値を間違えて、MAXで放電してしまっているようですね。良かった、死ななくて。それにしても常人なら耐えられるわけがない電圧を浴びても平気なのは、『エデン』のおかげですかね? それとも現代忍者の修行の成果?」
 
 言いながら、禿げの小太り男はこめかみに電極を当て続ける。自分の目線とほぼ同じ高さにある里美の口から、絶叫とともに白い泡が毀れてきても、電撃は止むことがなかった。
 無軌道に暴れ狂った頭が、ついに気絶しかける寸前、えびす顔の教師は電極を離す。
 
 「くはアッ!・・・はアッッ!・・・はアッッ!・・・アアア・・・」
 
 「どうです、仲間の存在を吐く気になりましたか?」
 
 ポタ・・・ポタ・・・と雫が落ちる音が響く。それは里美の真珠に潤う唇から割って出た、泡が落ちる音だった。やや眉をしかめながらも、里美は誰にも聞こえる声で言った。
 
 「この程度で・・・参るわけないでしょう・・・・・・」
 
 「じゃあ、こうですね」
 
 「ッッ!! うぎゃあああああッッッ――――ッッッ!!!」
 
 続いて電極が当てられたのは、重力に引っ張られても形が崩れない、ふたつの胸の果実だった。
 下から潜り込むようにして、電極を乳房の頂点に当てる。ご丁寧にセーラーのその部分を予め切り取られていた里美は、寸分狂うことなく正確に突起を突かれ、そのまま押し上げるようにして、Cカップは確実にある房球を上に向かって押し潰された。電磁の網が柔肉全体を包み、瑞々しい果実を切り刻まれる痛苦に捕えられる。
 
 「む、胸がアアッッ―――ッッ!!! あッ・・・ああああッッッ・・・はッ、弾けるううぅぅッッッ―――ッッッ!!!」
 
 続けざまに電極は腋の下、脇腹と位置を変えて付けられる。
 その度に、里美は意志に反して悲鳴をあげ続けた。
 
 「がはアアッッ!・・・・はアッッ! はアッッ! はアッッ! ・・・・・がああッッ!!・・・ぐああああッッ!!・・・・・・・」
 
 ボトボトボト・・・・泡に混じった涎が、コンクリートの床に新しい染みを作っていく。
 
 「どうかね、五十嵐くん? 言う気になったかね?」
 
 「はアッ、はアッ、はアッ、だッ・・・誰が・・・・・・絶対に言わないわ・・・・」
 
 電流刑による苦痛が、里美の細胞に深く刻まれていき、拒絶反応を表して意志とは無関係に痙攣し始める。縄で締め上げられた四肢が、ますます軋んで隷嬢を苛ませる。冴える風の美しさを持った少女は、滝を浴びたように汗で全身を濡らし、筋肉を硬直させるために、白磁の肌を朱色に染めて、耐えている。
 確信の表情で女神の不屈の言葉を待っていた中年教師が、黒い箱の電源を切る。
 思わず安堵の色を浮かべてしまう里美。だが次の瞬間、深海の憂いを含んだその瞳は、恐怖により見開かれる。
 
 赤いコードを持った響子が顔に、黒いコードを持ったちゆりがお尻に近付く。
 全てを悟った里美が叫ぶより早く、電極が無理矢理こじ開けられた口腔と、乳房同様服を切り取られ、露出している股間の蜜園へと突っ込まれる。
 粘液によりよく湿ったそこは、電流を流すには最適な場所と思われた。
 
 「んんッッ!!! んんんッッッ――――ッッッ!!!!」
 
 狂ったように首を振る里美。だが、電極を口一杯に頬張ったままでは、言葉は単なる呻きにしかならなかった。襲いかかる確実な悲劇を知らしめるように、磔少女がよく見えるよう、ゆっくりとした動作で淫乱教師は電源のつまみを掴む。
 
 「さあて、ここもやはりMAXでいきましょうか」
 
 肉棒を思わせる太さの電極を、清らかな口に咥えさせられ、引き締まった尻肉の奥へと突き入れられた、哀れを通り越した無様な姿勢で、ブラブラと五本の麻縄に吊り下げられた聖少女。戒めに関節が悲鳴をあげるのも構わず、不自由な宙空で存分に里美がもがくのを鑑賞してから、田所は情け容赦なくダイアルを最大限にひねる。
 
 バリッ!バリバリバリッッ!! バシュンッ! バチバチバチ!!
 
 床と水平に宙に浮いた天使が、全身を突っ張らせて仰け反る。
 涎で濡れた口腔内は爆竹を含んだように弾け、膣深くにまで突き入れられた電極により、下腹部を千切り取られたような激痛が里美を蹂躙する。許容外の衝撃に、脳がパニックを起こして震える。
 口から秘所まで、脊髄にそって貫く電撃により、引き締まった新体操選手の全身は高圧電流に踊らされ、細胞のあちこちが焼け死んでいく。
 
 「んんぐぐぐぐううううッッッ―――――ッッッ!!!! んんんんッッッ―――ッッッ!!!!」
 
 叫びにならない呻きを咆哮し、正視に耐えない電撃拷問を10分以上浴び続けた被虐の天使は、全身からかすかな紫煙を立てて、その意識を暗黒に飲まれていった。
 思考もままならない煉獄の中で、最後に里美が見たのは、ソファでふんぞりながら高らかに笑う、ニヒルなやさ男の破顔だった。
 
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