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「第五話  正義不屈 ~異端の天使~ 」

15章

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 座った姿勢のまま、触手に締め上げられるナナ。その眼前に、下卑た笑いを浮かべる女豹が立つ。
 
 「ナナぁ~~、あんた、マヴェルの顔を殴っちゃったんだよねェ~~・・・当然罰は覚悟してるんだろォ~~なぁ~?」
 
 俯いていたショートカットが、キッと睨み上げる。深紅に染まった歯を食い縛り、こみ上げる怒りを必死で堪えている。人質という不条理に屈し、悔しさを我慢する健気な表情は、ナナの容貌に実によく似合った。くくく・・・可愛らしいこと。勝気とあどけなさを併せ持つ美少女を破壊する快楽が、狂った悪女を心底から歓喜させる。
 
 「あんたのその憎ったらしい顔ォ~~、ぶっ潰してやるよォ♪」
 
 蹴りやすい位置にあるナナの顔面を、振り上げたマヴェルの右足がサッカーボールをシュートするように蹴り抜く。
 
 バッキャアアアアッッッ!!!
 
 凄まじい打撃音。思わずクトルが顔を背ける。
 逃げることのできない天使の顔に、豹の右足がめりこんでいる。飛び散った血痕が、倒壊したビルの瓦礫に付着する。
 ヌチャアア・・・
 引き抜いた右足と顔の間に、緋色の橋が架かる。ビクビクと引き攣る光の戦士。ドロリとした血が、美少女のマスクを真っ赤に染めている。
 
 「あーっはっはっはっ! ほらほらほらア――ッッ!!」
 
 全力でナナの顔が蹴り上げられる。乾いた打撃音が、絶望の街に二度、三度と打ち鳴らされる。
 返り血が、銀毛に覆われた豹の足を深紅に塗りつぶす。
 光の防御膜に包まれたファントムガールの肉体は、並の打撃などでは壊れはしない。
 しかし、頭部を、最も筋力のある足で、しかも最も蹴りやすい位置において、蹴り続けられたのだ。
 ホームベース型の顔は潰れてはいなかったが、唇は切れ、目蓋は腫れあがっていた。明らかに脳震盪を起こした虚ろな視線は、少女戦士の精神的ショックを示すように、宙空をさまよっている。
 
 「あく・・・・・・あ・あ・あ・・・・・あああ・・・・・・ああ~~・・・・」
 
 「そうやって呻いてりゃあ、いいのよォ~。でもォ、まだまだァ~~♪」
 
 転がっている、オフィスビルの残骸をひとつ、手に取る魔豹。念を込めると、闇のパワーを注がれたコンクリートの破片は、漆黒に変色していく。
 ただの物質なら、光のエネルギーを増幅して形成されたファントムガールの肉体に、大きなダメージを与えることはできない。だが、闇の力を吸収した物体が、光の戦士を傷つけることは、前回漆黒のビルに叩きつけられ粉砕された、ファントムガール・五十嵐里美が証明済みだ。
 
 “そ・・・それで・・・あたしを殴るつもり・・・・?・・・”
 
 グラつく意識でぼんやりとナナは考える。凶器となった残骸で殴られれば、顔に傷がつく程度では済まないだろう。
 が、マヴェルの残虐性は、純情な少女の想像を遥かに超越していた。
 
 顎を掴んで無理矢理にナナの口をこじ開けた豹は、真っ黒な瓦礫の塊を、天使の口腔にねじ込む。
 意図を悟ったナナの瞳が恐怖に見開く。ブルブルと激しくかぶりを振る少女を見下して、ニヤリと笑った魔豹が再びシュート態勢に入る。
 
 「んんんッッッ――――ッッッ!!! んんんんッッッ~~~ッッッ!!!」
 
 「あははははは♪ グチャグチャになりなァ――ッッ!!!」
 
 グワッシャアアアアアッッッ!!!
 
 壮絶な破壊の音色が轟き渡る。
 ピクン・・・ピクン・・・
 痙攣する少女の身体が、触手の戒めが解かれると同時に、ゆっくりと前のめりに倒れていく。
 地に倒れんとする青いショートカットを、豹の右手が鷲掴む。脱力した肢体が、反動でグラリと揺れる。
 
 ゴボリ・・・・・・・
 
 血まみれの残骸が、コナゴナになって聖少女の口からこぼれる。
 ボチョボチョボチョッ・・・信じられないほど大量の血の滝が、次から次へとナナの口から流れ落ちていく。恐らく口腔中が切り裂かれてしまったのは間違いない。
 マヴェルが手を放すと同時に、被虐の女子高生は大地に倒れ伏す。小刻みに震える少女を横目に、悪の華は次々と手ごろな残骸を見つけては、闇のエネルギーを注入していく。
 
 「い~い顔になったじゃなぁ~い。今度はそのエッチなカラダを潰してあげるぅ」
 
 うつ伏せに転がる銀と青の美神。肉感的にして未成熟な芸術的肢体を、マヴェルは足でひっくり返す。仰向けになるナナ。半開きの口は深紅に染まり、ドクドクと血が湧き続けている。
 ぐったりと大の字のまま動かない少女戦士の身体に、魔豹は漆黒の残骸を置いていく。太股にひとつづつ、左右の脇腹と乳房にもひとつづつ。
 その上から容赦なくクトルの触手が、青い天使を捕縛する。ミイラのごとく、触手でぐるぐる巻きにされるナナ。気をつけ、の状態で縛り上げられ、無駄な抵抗を示してもがく手首から先と、苦痛に歪む顔だけを残して、全身が触手に巻きつかれる。強烈な締めつけによる圧迫感と、残骸が肉に食い込む鋭い痛み。桜の花びらに似た唇から、弱々しい呻き声が洩れる。
 
 生贄を捧げるかのごとく、光の天使が高々と触手に掲げられる。触手の隙間からはみ出した両手が、痛みに耐えて、グッと強く握られている。
 
 「じゃあぁ~~、これからぁ~~、ナナのジュースを作りま――す♪」
 
 マヴェルの言葉を合図に、タコの魔獣は下半身に絡みついている触手を、一気に全力で締め上げる。
 
 ギュウウウウウウッッ・・・メリメリメリッ・・・ブチブチッッ・・・
 
 「ああぁッ?!! うわああああああああッッッ――――ッッッ!!!! あッ、足がアアアッッ―――ッッッ!!!」
 
 太股の筋繊維を引き裂きながら、残骸が食い込んでいく激痛にナナは絶叫した。
 拳ほどもあった残骸が、完全に大腿部に埋没したことがわかる。握り締めていた両手は、五指を突っ張って開ききっている。
 
 「いい顔です、ナナくん。ですが脇腹を潰される痛みは、こんなものではすみませんよ」
 
 胴に絡まった触手が、締め上げられる。
 
 「いぎゃああああああッッッ――――ッッッ!!!! うぎぎぎィィッッ、うあぎゃあああああッッッ――――ッッッ!!!! わッ、脇腹がアアッッ・・・つッ、潰れるぅうッッ~~ッッ!!! くぅッ、くるし・・・いィィッッ~~ッッ・・・うはぁッ・・・がはッ・・・ぐぷ・・・はひ・・・・・・」
 
 ミシミシミシ・・・ゴキッ・・・ゴリゴリ・・・ベキキッ・・・バキィッ・・・
 
 肋骨が折れる無惨な音が響くたび、ガクガクと少女戦士の顔は前後に揺れた。ビルの破片がくびれた腰に食い込み、内臓を潰さんばかりにアバラを圧迫する。気絶しそうな苦痛に、触手が締まるたびに、ナナは悲鳴をあげた。
 
 「今度はその美しい胸です。自慢のバスト、破壊して差し上げましょう」
 
 ギュウウウウウッッ!! ズブブブブッッ、メリメリメリッッ!!!
 
 「わああああああッッッ―――ッッッ!!!! いやああああッッッ―――ッッッ!!!!」
 
 瑞々しい若い果実に、凶器と化した残骸が埋まっていく。ほぼ完全な円を描くはちきれんばかりの柔肉が、鋭利なビルの破片と圧搾によって潰されていく。
 幼い肉体に闇の鉱物を埋め込まれる地獄。埋没した後も、締め上げられる拷問は、とても少女に耐えられるモノではない。
 小さな身体に6つもの残骸を飲み込んだナナが、叫び続ける。激痛に歪んだ顔が、狂ったように暴れまくる。触手が顔を包まなかったのは、このためだったとは知らず、聖少女は悪魔のシナリオ通りに悶絶した。
 
 ポト・・・ポト・・・ポト・・・
 
 突き破った皮膚から滲んだ血が、突っ張った指から垂れていく。触手の中の天使は、己の流す血に塗られていた。青のグローブには、網の目状に赤い線が走っている。
 
 “あ・・・あ・・・潰れる・・・潰されちゃう・・・・・・胸もお腹も足も・・・グチャグチャに・・・・・・・・・こ・・・んな・・・耐えらん・・・・・な・・・い・・・・・”
 
 「ジュースの量が足りないようです。少し、弱ってもらいましょうか」
 
 クトルの宣告は、壮絶な痛みに翻弄される天使には聞こえなかった。
 
 ゴキュウウッ・・・ゴキュウウ・・・ゴキュウウ・・・
 張りついた吸盤がグラマラスな肉体から、容赦なく聖なる力を搾り取る。
 
 「ふはああッッ?!! エ、エナジーがああああッッッ―――ッッ!!! す、吸われッッ・・・吸い取られてッッ・・・やッ、やめェェッッ・・・吸われていくううぅぅぅッッ―――ッッッ!!!!」
 
 悲痛な戦士の叫びがこだまする。
 強気に見える細めの瞳が点滅する。急激にエネルギーを奪われるショックが、光の少女を激しく揺さぶっていた。今のナナにとって、それは最も避けねばならない攻撃だった。最悪の事態が、聖少女がすがる細い糸をも切断しようとしている。
 
 “ダメ・・・・・・ダメ・・・・・・・・こんなに吸われたら・・・・・ユリ・・・ユリちゃん・・・を・・・・・・・”
 
 切なる願いが途切れたように、青いショートカットがガクンと垂れる。
 うな垂れる守護天使を、触手は最大限に伸びて、天空へと差し上げる。ナナの身長の約5倍、250mほどの上空に捕らえられる、被虐の少女戦士。一直線に伸びた8本の触手が、光のエネルギーを飲み込むたびに、ボコボコと変形して波打つ。
 
 「はぐうぅぅ・・・・・ふあぁ・・・・・・はああ・・・・・・」
 
 「地獄に堕ちなさい、ナナくん」
 
 タコの足が急激に引かれる。
 重力による落下に引き落とす力が加えられ、聖少女は高速で一気に大地へと叩きつけられる。青のショートカットが霞む。
 
 「ぐはアアああああああッッッ――――ッッッ!!!」
 
 弾けんばかりに肉の充満した肢体が、叩きつけの衝撃を全身に浴びる。残骸が突き刺す鋭痛と、柔肉が潰される圧痛は、糸引く悲鳴を搾り出させた。
 苦悶に歪む巨大な美少女が、すかさず目一杯高い位置に掲げられる。
 二撃め。超スピードで叩きつけられる、肉感的な肢体。
 獲物を粉々にする勢いで、濃緑のとぐろが何度も何度も天と大地とを往復する。
 全身に巻きつく触手が、衝撃を吸収するかに見えるが、実際は逆だった。触手を伝わって伝播するため、大地に落とされるたびに、ナナの究極のボディは強烈に締めつけられた。圧迫に遠くなる意識は、柔肌を穿つ残骸によって呼び戻される。骨が軋み、内臓が潰され、肉の繊維が削られる。繰り返される三重苦が、最後の少女戦士を破壊していく。
 
 濃緑の隙間からはみでた青い両手が、小刻みに震える。
 幾重にも巻かれた触手の間から、じっとりと血が滲み出る。その中身がいかに悲惨な姿になっているかは、簡単に想像できた。
 虚ろにさまよう視線に、満足そうに笑う女豹が近付いてくるのが映る。
 
 「ど~~う? 生意気なクソ猫ちゃ~~ん。おっきなオッパイ潰されちゃう気分はぁ~~? ずいぶん大人しくなっちゃったじゃ~~ん」
 
 「・・・ぅく・・・・・・・はふぇ・・・・・・が・あ・あ・・・・・・・」
 
 「そろそろトドメといこっかぁ~♪」
 
 右手に持っていた漆黒の残骸を、キュートという表現が似つかわしい顔の真ん中に置くマヴェル。間髪入れずに触手が、破片ごと頭部を包む。
 
 「ッッッ!!!! ―――ッッッ!!!!」
 
 「あははははは! ミンチになりなあーッ、子猫ちゃん!」
 
 濃緑の包みから、唯一覗くナナの身体=両手が、狂ったように暴れ回る。声すら発することのできない聖少女の悲鳴を、知らせるように。
 クトルを中心に巨大台風が、絶望の街に出現する。正義の天使を使ったハンマー投げ。触手を回転させ、凄まじい速度で獲物を振り回す。人間の眼では捉えることが困難な速さ。触手の先にあるはずの、戦士を包む巨大な濃緑の塊が、かすんでよく見えない。巻き起こる風が、廃墟化した街の粉塵をあげ、コンクリートの欠片を吹き飛ばす。ギュンギュンと唸る突風は、朝焼けに色づく夏の雲さえ吹き散らす。加速と遠心力で生まれた破壊的なGにより、ナナの肉体は悲痛な叫びをあげ、意識は白い世界に溶けていく。
 
 「クトルーッ、“あれ”にぶつけてやりなぁッ~~ッ!」
 
 豹の青い爪が指差したのは、里美を砕き、ユリを晒した、漆黒のビル。
 光の戦士にとって、大地とは比べ物にならない硬度を持つ闇の建造物に、爆発的速度を乗せて、捕縛の天使をぶちかます。
 
 ブッパアアアアアアンンンンッッッ!!!!
 
 ダイナマイトが破裂した音が、朝空に轟き響く。
 
 静寂がしばし世界を覆う。破裂音の余韻だけが、無情な戦地に溶けていく。
 触手の塊が、半壊したビルに埋まっている。引き抜くと、ガラガラと崩れた瓦礫が落ちていく。
 再びクトルは、獲物を高く掲げる。青の両手は大きく開かれ、全ての指を断末魔に震わしている。
 
 触手が全力で締め上げる。
 
 ぶしゅうううううううッッッ・・・・・・・
 夥しい量の血飛沫が、触手の隙間から噴霧される。
 ビクンと突っ張った青い手が、力を失ってダラリと垂れる。
 
 触手が緩み、獲物が開放される。
 
 胎児が生まれるように、ドロリとした大量の血塊を纏って、グラマラスな肢体が落下する。
 受け身も取れずにドシャリと地に落ちた天使。自らの血溜まりに仰向けに沈む少女の肉体には、真っ黒な塊が7つ、顔と乳房と脇腹と太股とに埋没している。
 
 三匹の巨大生物が、血まみれの守護者を囲む。マヴェルが腹部の中央を踏みつけると、反動で7つの残骸が、ズボリと小さな身体からこぼれる。
 陥没した窪みから、ドクドクと鮮血が溢れ出ていく。
 瞳の青い灯りは消え、ピクリとも動かない戦士のクリスタルが、ゆっくりと点滅し始める。
 
 「あっはっはっはっはっはっ! これでファントムガールは全滅ねぇ~~! 人類の希望とやらも、マヴェルたちの相手じゃなかったみた~~い♪」
 
 魔豹の勝利宣言が高らかに宣告される。
 数日前に正義が惨敗した大地には、薄汚れた黄色の戦士の死体と、無惨な姿で血海に沈む青い戦士。悪夢の光景が、再び繰り広げられていた。
 
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