ファントムガール ~白銀の守護女神~

草宗

文字の大きさ
154 / 398
「第八話 ユリ武伝 ~海棲の刺客~」

7章

しおりを挟む

 「ひッ・・・卑怯ものッ・・・」
 
 組み敷かれて尚、闘志は失わないユリが、真っ直ぐな視線で凶悪な支配者を見据える。それは少女にできる必死の抵抗だった。
 ゾッとするほど冷酷な笑みを、兵頭は刻んだ。
 ユリの鼻先に右の拳を近づける。甲が硬質化し、人差し指と中指の拳頭に瘤がくっついた凶悪な拳。少女の白い咽喉が、ゴクリとなる。
 ゆっくりと見せつけるように、上昇していく異形の拳。
 両サイドから束ねた髪を踏まれ、顔を逸らすことすら許されない美少女のマスクに、ハンマーのようなパンチが振り下ろされる。
 
 ドキャリリッッッ!!! 聞き慣れない音がジムに響く。
 恐怖に引き攣ったユリの顔面に、容赦ない破壊の拳は埋まっていた。
 押さえられた四肢の先が、ビクンビクンと痙攣する。
 半失神に陥った少女の顔から、拳が引き抜かれる。ヌチャリ・・・という音がして、拳と顔は、噴き出た鼻血の橋で繋がった。
 
 「あッッ!!・・・・・・かはッ!・・・ぐぷ・・・ぐぐぅッ・・・」
 
 「フン、まだ意識があったか。思ったより丈夫だな」
 
 左のフック気味のパンチが、固定された愛くるしいマスクに吸い込まれる。
 バチャアッッ! 血飛沫が美少女の顔と白いマットとを赤く染める。
 朦朧とするユリの視線が宙空をさまよう。みるみるうちに、柔らかな頬が変色して腫れあがってくる。
 
 「がはあッッ!・・・・・・はあッ、はあッ、はあッ!!」
 
 「どうだ、西条ユリ。オレ様の拳の味は?」
 
 鼻と口内の出血で真っ赤に染まったなか、白い歯を食い縛ったユリは、恐怖と怒りの混ざった視線を卑劣な悪党に向ける。
 生来闘いを好まない少女を、強烈な顔面への打撃の恐怖が飲み込み掛けている。卑怯者への怒りが、なんとか武道少女の闘志を繋ぎとめていた。
 
 「フンッ! 貴様はもう、終わりだ!」
 
 ドゴンッッ!! ドゴンッッ!! ドゴンッッ!!
 
 右、左、右・・・凶器の拳が次々と振り下ろされていく。
 その度に血風が舞い、四肢を押さえた男たちへの抵抗はどんどんと弱まっていった。兵頭の両拳は鮮血で染まり、マットに張り付けられた指先の痙攣は、もはやピクン・・・ピクン・・・と時折震えるだけ。
 
 「やッ・・・やめろーッッ!!」
 
 立ち尽くし、震えて暴虐劇を傍観するだけだった兼子賢児が、たまらず親分である兵頭に飛びかかる。
 恐怖に動けずにいた金髪少年を、あまりに執拗な少女への嗜虐が、ついに解き放ったのだ。健気なまでの武道少女が蹂躙されるのを、これ以上兼子は見ていられなかった。怒りが「皇帝」の恐怖を打ち破る。
 
 「バカが!」
 
 重い打撃音が響き、兵頭の右拳は、金髪少年のどてっ腹に埋まっていた。
 一気にくの字にひしゃげる褐色の肉体。一発でKO状態に追い込まれた少年に、追撃のアッパーが飛ぶ。
 ダンボール箱が踏み潰される音がした。
 顎を砕かれた長身が20cmは垂直に浮きあがる。そのままグシャリと落下した兼子の身体は、二度ピクピクと痙攣すると、動かなくなった。
 
 「あ・・・・・・・がはッ・・・・・・あぁ・・・・・・そ・・・んなぁ・・・・・・」
 
 男たちに組み敷かれ、ぐったりとしたユリの視界に、崩れ折れた金髪少年の身体が映る。
 頬は腫れあがり、噴き出した鮮血で顔は朱色に染まっている。無惨に汚された美少女のマスクに、一筋の涙が伝っていく。
 
 「ゆ、許せ・・・ない・・・・・・あなたは・・・・・・許せません!」
 
 朦朧とする意識のなか、怒りに駆られてユリは叫ぶ。
 顔を殴られ続け、彼女自身の限界も近い。6人の男に押さえられていなくても、身体は満足に動かないだろう。それでもユリは叫ばずにはいられなかった。恐怖に打ち克った、兼子の勇気を思えばこそ。そして、残酷に打ちのめした、兵頭の悪行に。
 
 「フフン、負け犬が。戯言を吼えるな!」
 
 裸足で兵頭は、固定されたユリの顔面を踏みつける。
 グチャリ、という嫌な音。
 
 「貴様はもうオモチャなのだ。ほら、舐めろ! 舐めるんだ!」
 
 真正面からフランス人形のようなキュートなマスクを、ぐりぐりと踏み躙る。血と涎のヌルリとした感触が、兵頭の足裏に伝わってくる。
 反りあがったユリの背中に空間が出来あがる。それが少女にできる、精一杯の抵抗。
 ブルブルと震えるスレンダーな肢体は、全体重で押さえ込む男たちによって、完全に動きを封じられている。武道少女の苦しみが、震えによって、拘束する男たちにも伝わってくる。
 
 「フンッッ!!」
 
 真上から、未発達な小ぶりの乳房に、兵頭は凶悪な拳を突き降ろす。
 黄色のタンクトップを盛り上げた小さな丘が、胸の肉内にまで一気に潰され捻り込まれる。
 
 「んんんああああああああッッッッ――――ッッッ!!!!」
 
 絶叫。
 開発途上の胸を破壊され、凄まじい激痛にユリは吼えた。槍で串刺しにされたかのような苦痛。涙の結晶が、砕け散って飛ぶ。
 悪虐の皇帝は、この程度で反抗する少女闘士を許しはしなかった。
 左の拳が、脇腹に。
 肋骨の下から斜め上に、内臓を突き破るようにブローを打ち込む。
 
 「ごぼおああああああッッッ――――ッッッ!!!!」
 
 血塊が可憐な唇を割って出る。
 アニメ声とよく言われる鈴のような声が、獣のような苦鳴を咆哮する。兵頭の左腕は、20cmくらいはユリの体内に突っ込んでいた。
 おこりのように、大きく痙攣する白い妖精。
 事実上、最後の2撃が、罠に嵌った美少女武術家へのトドメとなった。
 
 胸と脇腹、二箇所に埋まった拳を悪虐の皇帝は引き抜く。
 グボリ・・・
 窪みから棒を抜く音がふたつ。パクパクと小刻みに開閉する薄い唇から、ドロリとした血糊がこぼれる。
 半濁した大きな瞳に浮んだ光は、陽炎のように弱くなっていた。
 なだらかに盛り上がった胸の丘を、血で濡れた足が踏みしめる。
 タンクトップの下で、少女の微乳はぐにゃりと潰れて形を変える。
 
 「安心しろ、西条ユリ。ここで貴様を殺しはしない」
 
 柔術の達人である美少女を粉砕し、勝ち誇った総合格闘家が言葉を投げる。
 
 「貴様は生かして連れ帰るよう、言われている。本当の地獄はこれからだ」
 
 ”・・・つれ・・・・・・か・・・え・・・る・・・・・・・?・・・”
 
 霞んだ意識のなか、ユリの脳裏に疑問が浮ぶ。
 総合格闘技ジム”アタック”の総帥は、この兵頭であるはずだ。だが、今の言い方は、まるで黒幕がいるような・・・
 
 異変が起きたのは、その時だった。
 
 コン、コン
 
 乾いた音が、ふたつ。
 錯覚かと思われた音は、しばらくの間を置いて、今度は間違いなくジムの扉から聞こえてきた。
 
 コンコン
 
 突然の、訪問者。
 雑居ビルの入り口には、邪魔者が来ないよう見張りを立たせていた。本日の使用不可をジム生には伝えてあるので、リンチに加わる者以外、ここにやってくるわけがない。
 
 「この時間に、新聞勧誘でもあるまいな」
 
 軽いジョークを飛ばした、兵頭の垂れた眼は笑っていない。
 ユリの髪の片方を踏んでいたドレッドヘアーの斎藤が、顎で指示され扉に向う。静寂のなかノブに手をかけた男は、中が見えないよう、カチャリと鉄扉を細く開ける。
 
 「なんだ? いま、取り込み中だ。とっとと帰れ」
 
 喋り終わった瞬間だった。
 巨大な暗黒の魔獣に飲み込まれたように、斎藤の身体が扉の向こうに消える。
 
 「ッッ?!!」
 
 緊張がジム内を瞬時に覆い尽くす。一旦閉まった扉が、間をおかず、今度はゆっくりと開いていく。
 
 廊下の奥に、大の字で昏倒した斎藤の姿があった。
 その前。倒れ伏した斎藤を背景に、開いた扉を枠にして、絵画のような美しさで悠然と立ちすくむ者は。
 
 「西条エリ・・・妹を・・・返してもらいにきました」
 
 罠に陥った美少女武術家と、うりふたつの顔を持つ少女は、律儀にもこれから闘う悪党たちに、己の名前を告げたのだった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...