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「第十二話 東京黙示録 ~疵面の凶獣~」
20章
しおりを挟む構えを取る、人形のような美少女戦士が。
1vs2。本気で闘えないトラウマ。圧倒的不利にあっても、わずかな可能性がある限り武道天使は闘いに背を向けるようなことはなかった。
だが、そのか細き勝利への可能性は、次の瞬間完全にユリアの手から途絶えた。
「ッッ?!! はああうううぅッッ―――ッッ!!!」
「キャハハハハハ、バァ~カッッ♪ お前らにとっちゃそこは、地獄の拘束台なんだよォ~~ッ!!」
フジテレビから無数に発射される暗黒の光線。
この地点まで吹き飛ばされたのは、決して偶然ではなかった。狙っていたのだ。ユリアの身体を死のゾーンまで運べるチャンスを。七菜江を奪われたと判明した瞬間、おそらく敵はユリア抹殺へと標的を変えていた。
“しまッ・・・た・・・・・・私を・・・殺す・・・つもりで・・・・・・”
「あくッ!! んんッッ?! あッアアアッッ・・・アアぅッ!! ンアアアッッ・・・!!」
「イーッヒッヒッ!! ムダムダァ~~ッ!! もがいたところで逃げらんないよォ~~ッ♪ 身体中をブスブスに刺されて焼かれてるみたいでしょォ~~ッッ?! もうお前はオシマイなんだよォッ、ユ・リ・アちゃ~~ん♪」
直立不動で全身を突っ張らせた黄色の天使が、漆黒の稲妻に覆われビクビクと痙攣する。
細胞が爆発して腐っていくような煉獄に、ユリアは正気を保つだけで精一杯であった。
意志と無関係にスレンダーな肢体が揺れる。暗黒の電撃が神経を灼くことで起こる、悶絶のダンス。アンテナから放たれる暗黒光線の集中砲火に、ユリアは成す術なく悲鳴を挙げ続けるしかなかった。
「ああッッ?! ひうッッ!! んああッ!! あああッ、アアアアアッッ~~~ッッッ!!!」
「さァ~て・・・じっくりバラしてやるぜェェェッ~~~ッ・・・天才武道家の天使様よォ~・・・」
ギュイイイ―――ンンンンッッッ!!!
ドリルと化したギャンジョーの左腕が、残酷な調べを響かせる。
ビクンビクンと震えながら、ユリアは己の心臓へと狙いを定める、鋭利なドリルの切っ先を絶望の瞳で見詰めた。
“ひぐぅッ!!・・・んくッ!!・・・う、動け・・・ない・・・・・・殺さ・・・れる・・・・・・”
身を捩らせることすら叶わなかった。闇の光線を全身に浴びながらユリアに出来るのは、ただ苦悶を示して痙攣するのみ。このまま集中砲火に晒され続けるだけでも、十数分後には聖なるエネルギーとともにユリアの命は消滅するだろう。
だが、そんなキレイな死に方を兇悪ヤクザは許してくれそうにもなかった。
愉しむつもりだ。柔らかな美少女の肉を抉って。動けないのをいいことに、幼さ残る華奢な肢体を、幾度も幾度も刺し貫くつもりなのだ。ユリアが息絶えても尚、生の挽き肉と化すまで銀色の身体を解体するのだろう。
引き攣るように少女戦士の唇がヒクヒクと動く。言葉は出てこなかった。
耳をつんざくドリルの音が、なだらかに膨らんだ左の乳房に一息に迫る。
やられる。心臓を、貫かれる。
致命的なダメージを覚悟したユリアの身体を、衝撃が襲う。
「・・・えッ・・・?!」
銀色のスレンダーな肢体は海面に倒れ込んでいた。無傷。衝撃は覚悟していた前からのものではなく、不意に飛び込んできた横からのものであった。
「ア、アリスさんッッ?!!」
「逃・・・げて・・・・・・ユ・・・リ・・・」
凶撃に貫かれる寸前、武道少女の危機を救ったのは、戦闘不能に陥っていたはずのツインテールの女神であった。
動けることがユリアにも信じられなかった。サイボーグ戦士ファントムガール・アリスの全身からは白煙がシュウシュウと立ち昇り、右腕は上腕部から失われてしまっている。仲間を助けたい。ただその一心で、ひとはこんな奇跡を起こすことができるというのか。
フジテレビ社屋に張られた天使殲滅の暗黒網から脱出し、東京湾の波間に倒れ込んだオレンジと黄色の女神をスカーフェイスと『闇豹』が憎悪の視線で見下ろす。
雨粒が波紋をつくる水面を割りながら二匹の脅威が迫る。無言であった。ゆっくりとした足取りが、怒りの深さを知らせるようであった。シブトい。あと一歩まで追い詰めるのに、そのたびに逃げられる。苛立ちはとっくに沸点に達していた。暗殺者の鋭利な両腕が、確実な死を求めて刻々と近付いていく。
「・・・逃げる・・・のよ・・・・・・ユリ・・・あなた・・・だけでも・・・・・・」
「アリスさんもッ!! アリスさんも一緒にッ!!」
異常に重く感じるサイボーグ少女の身体を支えながら、ユリアが立ち上がる。
もはやアリスの肉体のどこからも力を感じることができなかった。
「変身を・・・解除・・・するのよ・・・・・・・ユリ・・・」
「アリスさんこそッ・・・早く変身を、解いてください! なんで・・・なんで解除しないんですかッ?!」
「・・・・・・それは・・・できないのよ・・・」
殺気が、暴発した。
叩きつけられる死の脅威。疵面の凶獣と銀毛の女豹とが、塊となって殺到する。
前に出ていた。盾とならんとする、武道少女の決意。だがスレンダーなユリアの肢体は、サイボーグ少女の手によって突き飛ばされていた。
ドシュウウウッッ!!! ズブズブズブズブズブッッッ!!!
「・・・な・・・んで・・・ッッ・・・!!」
可憐な柔術家の少女は、その瞬間に全てが終わったことを悟った。
弾き飛ばされた、ユリアの瞳に映るもの。
右胸を背中まで極太の槍腕に貫かれ、腹部を十本の毒爪で抉り刺されたツインテールの女神が、冷たい雨に打たれながら断末魔の苦しみに震える光景であった。
「・・・・・・かッ・・・いじょはッ・・・ゴブッ!!・・・で、できィ・・・ない・・・のッ・・・」
異常なまでに震える、オレンジ色の天使。
絶命寸前のアリスが言葉を紡ぐ。魂から搾り出された声は、しっかりとユリアの耳に届いてきた。
「へんしんッ・・・をッ・・・と、解いても・・・・・・も、もうッ・・・助からないッ・・・から・・・エ、『エデン』がッ・・・・・・ゴボォッ!! ・・・わかってる・・・からッ・・・」
「そんなッッ・・・そんなことってッッ・・・!!」
「あなた・・・ひとりッ・・・で・・・・・・カフッ・・・に、逃げる・・・のよ・・・」
海上に崩れ落ち、四つん這いとなったユリアに向かい、黒い血塊を吐き続けるアリスの顔が、ガクガクと揺れながらゆっくりと振り返る。
ニコリと、微笑んだ。
端整なアリスの美貌が、見せたことのない表情であった。まるで、四葉のクローバーを見つけた時のような、明るい少女の笑顔――。
「わかる・・・でしょ? ユリ・・・私は・・・もう、ダメッ・・・なのよね」
「いやッ・・・嫌ですッ・・・アリスッ・・・さんッ・・・!!!」
「七菜江と・・・あなた・・・・・・ふたりも、助けられてッ・・・大満足・・・よッ・・・」
空いているギャンジョーの右腕が高々と掲げられる。象牙のように尖った切っ先が、残酷な光を跳ね返す。
アリスの台詞を断ち切るように、凶獣の惨撃はサイボーグ天使の左脇腹から右脇までを、一気に貫通していた。
ドジュウウウウッッッ!!! ブチッ、ブチブチブチィッッ!!! スボオオオッッ!!!
「うぐうゥッッ?!! はアッぐううゥゥッッ―――ッッッ!!!!」
「イッ、嫌アアッッ~~~ッッッ!!!」
両脇腹と口腔とから、噴火するような大量の鮮血が迸る。銀とオレンジの天使は、もはや凄惨な紅に染め抜かれていた。
ヴィッ・・・・・・ヴィッ・・・・・・ヴィ・・・・・・
消え入りそうな音色を立てていた胸中央のクリスタルが、その点滅の速度を、ゆるく、ゆるく、落としていく。
ズボズボと凶器を生肉から引き抜く響きが続き、アリスをメッタ刺しにした十二本の刃が抜かれる。噴き上がる血の霧に、東京湾が朱色に霞む。
穿たれた無数の孔からドクドクと鮮血を垂れ流すアリスの身体は、ついに直立したままピクリとも動かなくなった。
お台場の海にツインテールの巨大女神が仁王立つ。胸を大きく抉られ。腹部に無数の孔を開けて。右腕を失い、全身を血祭りに挙げられて。
民放の雄と称されるマスメディアの真ん前に晒された、敗北の守護天使の像。
それは人類に対する示威行為としても、あまりに残酷な光景であった。
「次はお前だ、ユリアァ~~ッッ・・・」
舌なめずり、というのがピタリとくるギャンジョーの声であった。
ふたつにまとめたおさげ髪を垂らし、海のなかでうなだれ座った黄色の天使。
だが、わかる。殺人狂の悪魔には、ユリアの感情が。仲間の死を嘆く、だけではない。強い怒りと闘争心。散華したアリスの仇を討つべく、この少女戦士は復讐の牙を尖らせ昂ぶっているのだ。
まさしく思うツボであった。
ユリアの戦闘力はもはや見切っている。甘すぎる、小娘。確実に殺せる獲物であった。次に向かってきた時が、ファントムガール・ユリアの最期となる。
「一度に二匹も守護天使さまを葬れるとはなァ~~」
歓喜の言葉が自然、口を衝いて出ていた。
「このギャンジョー、狙った獲物は逃がさねえ。ファントムガール・アリスが唯一の例外だったがよォ、ほれこの通り、穴だらけになって死んじまったぜ! ギャハハハハハ!」
ギリッ! 歯軋りの音が美少女の口元から漏れる。
跳躍していた。怒りに衝き動かされ、無謀とも思える闘いを再度挑むファントムガール・ユリア。ニヤリと唇を綻ばせたギャンジョーが、ふたつの腕を鋭いドリルに変形させて迎え撃つ。
本気を出せない柔術少女が、真正面から恐るべき凶獣に突っ込んだのは自殺行為であった。
見掛けによらぬ猛スピード。ギャンジョーの腕ドリルが飛び込むユリアのロリータフェイスに突き出される。
ギュルルルルッッ!!! ズリュッ!! ブリブチブリリッッズバアッッ!!
回転するドリルが、肉を引き裂き、貫く壮絶音。
「・・・・・・逃げなさい・・・・・・ユリ・・・」
立ち尽くしたファントムガール・アリスの姿は、無惨でありながら美しかった。
ユリアをかばって差し出した左腕が、二の腕のところでふたつのドリルに貫かれている。
ブジュブジュと噴き出す大量の血が、呆然としたユリアの顔に降りかかる。生身のままであるアリスの左腕は、筋肉の繊維がほとんど断ち切られ、かろうじて薄皮で繋がった状態であった。肉体も精神も、とっくに死滅しておかしくないのに。聖なるエナジーが尽きたはずのアリスが、再び戦友の盾となっていた。
「・・・ゆッ・・・夕子ッ・・・さんッッ!!・・・」
「・・・あと・・・・・・頼んだわ・・・よ・・・・・・」
言葉を搾り出すアリスの表情を、もう確認することはできなかった。
銀と黄色の天使が光の粒となる。思った瞬間、眩い光は散乱し、ファントムガール・ユリアの雄姿は跡形もなく東京湾から消えていた。
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