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5、握手会
しおりを挟む「いつも応援ありがとうございます! はいっ、頑張ります! …………いつも応援、ありがとうございます! はいっ、地球は私が守ってみせます! …………あ、今日も来てくれたんですね!? いつもありがとうございます……え、大丈夫ですよ。あれくらい、へっちゃらですから!」
「はい、押さないで! マイティ・フレアの祝勝握手会は、先着1000名までです! 整理券のない方は、今回はもう終了よ! 炎の守護女神の勝利を、次回までお待ちください!」
廊下に並んだ長蛇の列を、ヨーコ先生が手慣れた動きで統制している。
最近のヨーコ先生は、半分教師で、半分はマイティ・フレアこと津口炎乃華の専属マネージャーといった感があった。むろん学校も、その活動を許可している……というより、むしろ教職よりそっち方面の能力を評価しているようだ。炎乃華と揃って芸能事務所入りしたという噂は、たぶんホントの話だろう。
突如として現れ、未知の巨獣と漆黒の宇宙人(オレのことね)を撃退した巨大ヒロインは、初登場したその日以来、アイドル的な存在として扱われているのだ。
拡声器で響く大声はガーガーとうるさくてたまらないが、握手会開催のためにマイティ・フレアが勝った翌日は、午後の授業はお休みとなる。だからみんな、炎乃華の勝利に大喜び、ってわけね。
まあ、そうでなくても、今の炎乃華……マイティ・フレアの人気は凄まじいものがあるけど。
考えてもみ。元々相当な美少女だよ。その子が巨大化して、超人的なパワーを持つんだよ。でもって悪の宇宙人……えー、オレのことですが……と闘って、地球を守ったりしてるわけだ。
カリスマ的人気に、ならないわけがないでしょ。トップアイドルにして、国民的(地球的?)アスリートみたいなものだもん。
しかもマイティ・フレアって、モロに顔出ししてるからね。初登場から、いきなり身バレだよ。巨大変身してから、2分後には「津口炎乃華」がネットのワードランキング1位になったからな。
今じゃ写真集にテレビ番組の出演依頼と、オファーが殺到しているらしいのだが、言っても炎乃華は現役JKだしね。本人は学業優先をハッキリ宣言してるし。超絶人気アイドルヒロインも、露出は最低限に抑えている。
とはいえ、あまりのフィーバーぶりに、正義のヒロインたるものがファンをおろそかにするのもマズイだろう……というわけで、握手会だけは開かれるようになったのだ。マイティ・フレアの戦闘ボイスCD、一枚千円につき抽選握手券がついてきます。なかでもバトル翌日の祝勝握手会は、先着限定のレアイベントですよ~。間に合わなかったひとも、当選していたら後日の握手会には参加できますから、握手券はなくさないようにお願いしますね、はい。
握手自体は数秒ですが、剥がし……つまり入れ替えがあるので、大体ひとりで10秒ほどかかります。1分で5、6人と握手するわけですね。1時間で約300人。1000人となると、3時間以上かかりますから、炎乃華ちゃんの体力を考えるとこれが限界なんです~。ご容赦くださいね~。
ってヨーコ先生の口上を、すっかり覚えるくらい熟知してしまった。まったく。
3時間以上かかるイベント、それも整理券を求めて何千人と全国からやってくるから、校舎は貸し切り。授業なんてやれるはずがない。そのぶん莫大な金額が、学校やら「マイティ・フレア応援委員会」なる怪しげな組織やらに、入る仕組みとなっている。
すげえよ、地球人。これまでにいろんな星見てきたけど、オレとのバトルを商売に絡めたの、こいつらだけだ。
「……お疲れ様」
炎乃華が全ての握手を終えて教室に戻った時には、もうすっかりオレンジの夕陽が世界を染めていた。
肩を落として入ってきた、と見えたツーサイドアップの少女は、声を掛けた瞬間シャンと背筋を伸ばした。絶妙なバランスで配置された顔が、パアっと明るくなる。
「亜久人くん、残っててくれたの!?」
「いやその、たまたま……。ちょっと図書室で、調べものがあったから」
見渡すまでもなく、教室には他に誰もいなかった。クラスメイトたちはとっくに帰っているか、秀太みたいにグラウンドで部活に励んでいる。
「もしかしてっ? 調べものって、またマイティ・フラッシュの記事かなにか?」
端正な美貌を輝かせたまま、炎乃華は真っ直ぐ走り寄ってくる。
咄嗟についたウソだっただけに、オレは慌てた。調べものなんてあるわけがなく……ていうか、マイティ・フラッシュの資料なんて、高校の図書室にあるわけないだろ!?
「いやその、また別のものだよ。炎乃華ちゃんが知らなさそうな……」
「……そっか。そうよね。マイティ・フラッシュの資料が、簡単に見つかるわけないものね」
それもそうなんだが、そもそも15年近く前の特撮ヒロインの記事なんて、高校に関係ないだろうに……。
「でも待って。ちょっと心外だわ。これでも私、マイティ・フラッシュ以外のヒロインのことだって、けっこう詳しいのよ?」
知ってる。なにしろ最強宇宙人であるオレ様が、地球のテレビ番組なんてものを研究しているのは、誰あろう、お前が原因なんだからな。
「モモビクトリー役の桃山スミレさま、知ってる?」
「ボクを誰だと思ってるの。当然だよ」
炎乃華は基本、特撮番組のキャストに対しては、畏敬の念をこめて「さま」呼ばわりするのが普通なのだ。……マイティ・フレアのファンの前では、到底言えないが。
「スミレさまが正式にオーディションに受かる前に、私、2ショット写真とサインもらったのっ! 絶対このひとしか、可憐でクールなモモ役は有り得ないなぁ、って思って」
「ええッ! 決定する前に!? それはすごく貴重だね!」
「その時の写真、スマホにあるの。見る? 見る?」
真っ赤なスマホケースを開くと、炎乃華はオレの真横に来てぐっと迫ってくる。
えっと、見たいとか、一言もいってないんですけどね。
ツーサイドアップの黒髪が、オレの頬から胸にかけて、柔らかにくすぐった。シャンプーしたてのような、すごくいい香りがする。セーラー服の生地越しに、炎乃華のあたたかさがオレの腕にじんわりと広がった。
あの……お胸が。丸いお胸が、わたくしめの腕に、ピッタリ密着してますよ?
「ほ、炎乃華……ちゃん? えっとその……む、胸が……」
「胸?」
めっちゃ至近距離から、星をいくつも宿したような瞳で、炎乃華は不思議そうに見つめてくる。
イカン。そんな純粋な目で見つめられたら、オッパイが腕に当たってどうにかなりそうです……なんて口が裂けても言えるわけねえ。こちとら硬派なゼルネラ星人だぞ。
「その、胸が……スミレちゃんの86センチFカップの胸饅頭が、とっても見事ですねと……」
「……ふーん。亜久人くんも、やっぱりそういうところ、見るのね」
すっと急に炎乃華は、オレの横から遠ざかった。
……あれ? オレ、なんかマズったのか?
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