最強宇宙人ゼルネラ ~巨大変身ヒロインはボクの獲物です~

草宗

文字の大きさ
7 / 32

7、マーくん

しおりを挟む
 ひとり暮らしのアパートに帰ると、鍵がすでに開いていた。
 はぁ~。またか。マーくんのやつ、オレが留守の時は勝手に入るなって言ってあるのに。
「やあ、おかえり、アッくん! 今日はちょっと遅かったねえ?」
「……ただいま。ってあのな、マーくん。ひとん家勝手に入るの、やめろっての! いい加減、マジでキレるからな!」
「ええー。だってねえ、ここは政府の防衛費で借り入れてるんだよ? 正式にいえば、国の固定資産になるから。僕たちが使っても、まるで問題ないはずだよ」
 緑茶をすすっていたオールバックの初老の男が、帰宅したオレを迎えてくれた。その両サイドには、マッチョなデカブツふたりが、直立不動で立っている。ちゃぶ台を前に胡坐をかいた男のリラックスぶりとは、対照的な緊張感だ。
 ただでさえ狭いオレの家は、3人もの来客のせいで、圧迫感を覚えるほどだ。もーう、ジャマジャマッ!
「マーくんさ、いつも言ってるけど、こいつら外に出してくんない? 男性ホルモン臭いんですけど」
「ええー、だって彼らも仕事なんだよ? 僕に万が一のことがあったらねぇ」
「宇宙最強のオレがいるのに、万が一なんてあるわけないだろッ!」
 どんぐり眼をキョロキョロと動かした男は、しぶしぶといった様子でボディーガードたちを家の外、階段下に待機させる。カンカンと錆びついた階段が、うるさく鳴り響いた。
 このオッサン、清木政治きよきまさはる。職業、内閣総理大臣。
 名前からしていかにも政治家になるために生まれたっぽいけど、家柄はまったくの庶民の出身。運がいいのか悪いのか、望んでないのにこの国のトップに立っちゃった男だ。
 政権交代間違いなし、という時期に、誰もやりたくないっていうもんだから、ムリヤリ総理に押し上げられた可哀想なひと。ま、いわば生贄といいますか。首切られるのが前提で、事実、内閣支持率とか一桁だったらしい。人柄がいい、ってだけがウリのひとだから、うまく利用されたんだろうなぁ。
 ところが、そのタイミングでオレとマイティ・フレアが出現したもんだから……選挙どころじゃなくなって命拾い。
 そうこうしているうちに、マイティ・フレアの人気が爆発して、景気拡大。でもってオレが、たまたま最初に壊した場所が再開発の候補地だったらしくて……これまたかえって、経済が好循環に。
 支持率が爆上げしたもんだから、いまやすっかり名宰相の貫禄ですよ。
「いや~、アッくんとフレアちゃんには、足を向けて寝られないよねえ」
 が、このひとの口癖になってる。もちろんオフレコだけどね。
 無用な殺生をしたくないオレとしては、この星のトップの連中と話をつけておくのは、とても有意義なのだよ。こうして衣食住、不自由なく暮らせるからな。力づくで奪うメシは、あまりうまくないもの。
 接触を試みてきたのは向こうからだったけど、オレも進んで交渉のテーブルについたもんだ。3時間くらいだったかな? 予想以上にスムーズに、話はまとまったよ。
 今じゃすっかり、地球一のマブダチはマーくんになってる。
「はい、コレ。例のブツね。国立図書館から探してきてもらったよぉ」
 黒革のアタッシュケースから、マーくんは紙の束でまとめたビデオテープを取り出した。不必要に札束っぽい演出、やめて。
 しかしイマドキ、ビデオテープかよ。ホント、どんな経路でこの映像、見つかったんだろう。ネットでもなかなか見当たらないわけだ……。
「おおー、スゲー。確かにマイティ・フラッシュのテレビ映像じゃん! さすがソーリだ!」
「大変だったみたいだよ~。なにしろローカルテレビ局が制作した深夜放送で、しかも視聴率低迷で打ち切りになったらしいからね~。マスターテープは見つからないし、当時録画していたひとも、ほとんどいなかったみたいだね」
 宝箱でも扱うように、オレはアタッシュケースを丁重にしまった。よしよし、これで無事に日曜日を迎えられそうだ。
 名前からわかる通り、マイティ・フレアはマイティ・フラッシュから、強い影響を受けて誕生している。というかぶっちゃけ、パクってる。マイティ・フラッシュが存在していなかったら、炎乃華が巨大ヒロインになることは、なかったかもしれない。
 全ての特撮番組に必ず目を通し、ヒーローショーには子供たちに混ざって最前列で応援するのがデフォの炎乃華がなぜよりによってマイティ・フラッシュに、15年以上前に制作された超マイナー番組のヒロインに憧れたか……オレも最初は不思議だった。
 その理由を知ってる今は、彼女がマイティ・フラッシュの情報を躍起になって探しているのもよく理解できるんだけど。
 マイティ・フレアが炎乃華自身の顔を晒している、なんて奇妙な姿なのも、マイティ・フラッシュを真似ているためだ。炎乃華に残るわずかな記憶では、その超マイナー番組の主人公は、人間体の顔のまま、巨大化していたらしい。きっと予算が足りなくて、マスクを造れなかったんだろうな……。
「ねえねえ、アッくん。そのビデオ、やっぱり炎乃華ちゃんと一緒に見るのかい?」
 ちなみにマーくんは、炎乃華とオレが一緒のクラスであることも、オレが特撮の勉強して炎乃華に接近……いやいや、隙を窺ってることも、全部知ってる。なにしろ、転校の手続きやら、窓際一番後ろの席の確保やら、ぜ~んぶマーくんがやってくれたからな。
「マイティ・フレア応援委員会」もマーくんと深い繋がりがあるらしいけど、それはともかく置いといて。
「な、なんでわかった?」
「わかるよ~、そりゃあ~。だってアッくん、ホントは特撮番組なんて興味ないでしょ?」
「ぐ……い、いやいや、地球人のヒロイン像ってやつを調べるにはだな……」
「ふふふ、いいねえ~。青春だねえ~」
 緑茶をすすりながら、ドングリ眼をスケベそうに歪めてやがる。
 くそッ、そのお茶高いんだぞ! あんまり飲むな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...