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本編

うたげのはじまり

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 スカートをめくられて、丸出しになった清羅の臀部をしげしげと見て、隆嗣はその丸く柔らかそうな膨らみを突っついた。

「きゃっ!」
「ちゃんと履いてるんですね、毛糸のパンツ」
「す、スパッツだもん!」

 隆嗣は楽しそうだ。小さい頃の病弱から、身体を冷やすなと言われ続けた清羅は、けれど自身にあまり頓着しない。このような防寒具も、自分からは進んで着けようとは思わない。

「た、隆嗣が、履けってうるさいから……! お腹冷やしちゃだめってばーさまも言うし!」
「そうですね、女の子はお腹を冷やさない方がいいです」

 清羅の両脇に隆嗣が腕を突く。起き上がりかけたところで、清羅は固まる。
 このまま起き上がれば、隆嗣の胸にぶつかってしまうし、この距離はあまりに近すぎる。

「お、起きるから……」
「清羅」

 甘く低く名前を呼ばれて、清羅は喉をひくっと鳴らした。間近にある隆嗣の胸元は寛げてあり、のど仏の逞しさが目立った。
 肩の逞しさや、骨格の大きさ、固い顎のライン、それぞれのパーツが、見慣れた王子様みたいな幼馴染みの顔とかけ離れて、生々しい男らしさを直截に伝えてくる。
 だから、このまま目を閉じてしまいたい。もし、隆嗣の見慣れた顔に、欲望の翳りでも見つけてしまったら。

「……君を、僕にください」

 囁きは低く、甘く、興奮に擦れていた。
 キャラメル色の瞳は、深く揺らめいて、清羅を惑わせる。
 まともに目が合って、起こしかけていた上半身の力がへたりと抜けた。

「あ、の……」
「……いいですね」

 隆嗣の手が、捲り上げたスカートの下の、毛糸のパンツもといスパッツにかかって、引き下ろす。
 清羅の頬がかっと赤くなる。

「なっ、何、して、んの」
「僕だけが脱がすために履かせたんですよ」
「ど、どういう」
「……うるさい口は、塞いでしまいましょう」
「ん、っむ……」

 上から覆い被さられて、ろくに抵抗も出来ない。ベッドに頭を押しつけるようにして、一息にキスは深くなる。

「ぁっ……ふぁ……」

 ――こうなると、もうだめ……。

 あまり学習能力のない清羅。キスをされると、自分がぐずぐずになってしまうことをすぐに忘れてしまう。清羅の唇の権利は、すでに隆嗣が持っていて、彼は好きな時にその権利を行使することができる。
 赤い唇から、ピンク色の粘膜、濡れた舌、白い歯、奥の方の狭まったところ、上のざらざらして感じやすいところ。どこもかしこも隆嗣に支配されることを悦んでいて、清羅は紅茶に沈められた角砂糖みたいに溶けてしまう。

「んっ……ふぅ……んっ……」

 深いところを探るのに飽きると、犬みたいに口の周りをなめ回されて、顎に噛みつかれる。それ程強くではなかったけれど、隆嗣の強靭な顎の力を感じて、清羅は怯えた。

「んっ……やっ……噛んじゃ、ぃやっ……」
「……痛いですか?」

 清羅は涙目でこくこくと頷く。隆嗣はキャラメル色の目を、あやしげに細めた。

「気持ちのいいことは好き?」
「……ん……」
「好きですか?」
「……うん……」

 早鐘を打つ胸の鼓動。すっかり力の抜けた清羅の脚から、隆嗣はスパッツを引き抜いた。

「ひっ」

 それだけでなく、靴下も脱がされて、清羅はすっかり動転した。

「た、たかつぐ、何するの」
「小さな……かわいい足ですね」

 清羅の小さな足は、隆嗣の手のひらにすっぽりと収まってしまう。桜貝みたいな爪の一つ一つ、指の股のひとつひとつを、隆嗣の硬い指先が辿る。

「そ、そんなところ、汚い、から」
「ちっとも」

 隆嗣の手は踵から踝、ふくらはぎへと上がっていく。膝の骨をぐるりと撫でられて、清羅はくすぐったさに身を捩った。

「ね、くすぐったい……」
「まだ何されるか、わかってないでしょう、清羅」
「……え?」

 するりと隆嗣の大きな手が清羅の太ももを滑り、スパッツを脱がされて、下着一枚の尻の上に置かれる。そのままぎゅっと柔らかい肉を掴む。

「やっ、あんっ!」
「かわいいお尻」

 跳ねる清羅の身体を体重で抑えつけ、隆嗣は清羅の耳元で囁く。

「どこもかしこも君はかわいい」
「やっ、だ、だめ、い、痛い、隆嗣」
「嘘、そんなに痛くしてませんよ、まだ」
「うそ、じゃ、ない……もんっ……」
「気持ちよくしたいだけです、君を」

 隆嗣の手が、薄い下着越しに尻肉に食い込んでくる。ただ揉みしだくだけでなく、太ももと尻の境目の、敏感なあたりを刺激してくる。尻の切り込みを上からなぞり、下着ごしに指が分け入ってきて、清羅は足を突っ張った。

「やっ……! そんなとこ、汚いから……」

 清羅の尻を揉みながら、次第に指は足の付け根へとずれていく。

「……だめっ……」

 ぷくんと清羅の足の間の、柔らかく膨らんだ部分を隆嗣の指が押した。
 目が眩むほどの羞恥が、清羅を襲う。そこは、いつか熱く濡れることを知った場所。

「でも、ここ、もう湿ってますよ、清羅」

 清羅は真っ赤にした顔を背ける。答えないでいると、今度はかりかりと擦るように、同じ場所を刺激された。痛みではない、かゆみとも違う、熱いものがずくずくと溜まり始める。

「あ、や、あぁ、あ」
「ほら、もう気持ちいい。君は感じやすい」

 隆嗣は、清羅の下着の下を、全部わかっているとでもいいたげに、やさしく指の腹で、爪で擦っていく。

「ゃあっ……! や、そこ、へん…ン……」

 じわりと熱いものが溢れて、清羅は思わず足を閉じようとする。
 隆嗣の手を柔らかい太ももの間に挟み込んで、清羅はもじもじと腰を揺らした。

「……もっとですか?」

 もっと――? されたら、何が起こるだろう。

「君は気持ちいいことが好きですよね、清羅」

 清羅は頷くのを躊躇った。誘惑の甘い、キャラメル色の瞳。

「ねぇ、清羅……僕のものになってくれるんでしょう?」

 清羅は涙目で、隆嗣を見上げた。




 隆嗣は、清羅をベッドに座らせると制服を順に脱がせ始めた。

 ――逃げ出したい。

 清羅の瞳は潤みっぱなしだ。隆嗣の手つきは丁重だが、逃げ出す隙は与えてくれない。わずかでも身を引こうとすれば唇を塞がれる。

 ――恥ずかしい……!

 ジャケットとブラウスを脱がされたところで、清羅は堪らず叫んだ。

「ちょ、ちょっと待って、あ、あの、隆嗣、あたし」

 清羅にとっての隆嗣という存在は、まだ明確に定義できない。
 でも、多分、清羅は彼がいないとだめなのだ。そのだめなのが、生活全般なのか、勉学においてなのが、学校生活においてなのか、はたまたそのすべてか。
 今から隆嗣がしようとしていることが、非常に親密な行為であることが、清羅には恐ろしい。
 きっと、もう今までの関係には戻れなくなる。

「……あの……隆嗣は……し、したいんだよね? そ、そういう……」

 清羅が口ごもると、隆嗣はため息をついた。

「今更ですよね。やめろと言われてもやめるつもりはありません」
「ど、どうして? なんでしたいの? せ、せーよくのはけぐちとかそういう……」
「……どこでそういう言葉を覚えてくるんですか……」
「えっ、ばーさまが観てた韓流ドラマ」
「そのドラマはもう観ないように」

 しゅんとする清羅に、隆嗣はまたため息をつく。
 清羅のせいで、隆嗣はため息をついてばかりだ。

「た、隆嗣、ごめんね……」
「僕はもうずっと……不安なんです」

 隆嗣は清羅の前に跪いて、彼女の膝に頭を載せた。

「君はかわいくて、本当にかわいくて。誰かを嫌いになったりしないでしょう。誰のことも好きになる。だから、誰もが、君を好きになる。僕は、いつか誰かに君を取られるんじゃないかって、いつも不安で……気が狂いそうでした」

 清羅はそっと隆嗣の柔らかな髪に指を絡ませた。

「……不安なのは、あたしも……だし……」

 清羅の小さな呟きも、耳に入らなかったように隆嗣は清羅の腰を強く抱き寄せた。

「君は、自分がどれだけ魅力的かわかってないから。……君がいただけで、僕がどんなに救われたか、僕にとって、君がどれだけ大事だか、わかろうとしないから、時々凄く腹が立つ……イライラします」

 隆嗣の手が、腰から下を撫でさする。

「ゃっ……あっ!」
「……だから、早く僕だけのものにしたい。証が欲しいんです。僕を君に刻み込みたい。身体も心も、僕だけを欲しがるようにしたい。……君が欲しいんです、清羅」

 ジィー……っとスカートのファスナーが下がっていく。

「た、たかつぐ……!」

 隙間から、入ってくる手を、清羅はすんでの所で押し留めた。

「……だめですか?」

 心臓は口から飛び出そうだ。隆嗣は清羅を求めている。それがひたひたと浸みてくる。
 本当に、熱烈に、彼は自分を求めているのだ。

 ――拒めない。

「……だ、め、じゃない……」

 仰向けに倒される。腰がふっと浮かされて、腰から抜かれたスカートが、足下の床に落ちた。
 ぱさっと音がして、むき出しの太ももに隆嗣の服が擦れた。
 ひりひりして、熱くて、どこか淫らで、

「ま、待って……! お、お風呂、入りたい!」

 一日中活動して、汗もかいているし……。

「な、なんか、あたし最近ずっと変で、隆嗣といると、心臓はばくばくだし、隆嗣に見られると何か熱くなってきて変な汗出るし、あっでも、一緒にいたくないとかじゃないし!」

 真っ赤な顔で捲し立てると、隆嗣は目を細めた。獲物を捉えた目に、清羅は気づかない。

「……まったく、君はどれだけ……」

 それから、隆嗣は手を打って、名案だとばかりに、にっこりした。

「そうですね、一緒に入りましょう」
「あっ、うん……よかっ……一緒にね……。一緒……。……えぇっ!?」

 隆嗣は清羅をベッドから抱き上げると、肩に担いだ。視界がぐんと高くなり、ばたつく清羅の尻から太ももががっちりとホールドされる。

「言いましたよね? 清子さんは、今夜は外泊だそうです。……なので、今夜はふたりきりです。遠慮は要りません」

 ということは、である。

 ――どうなるのぉ……っ!?

「た、たかつぐぅ! 下ろして!」
「いやです」

 あっさり切り捨てられて、清羅はそのまま風呂場に運ばれた。

 




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