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本編

うたげのおわり

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 優しかったなんて嘘ばっかり。
 アルトの声が教えてくれた彼の夜の姿とは、まるで違う。 自分本意極まりない触れ方。

「……やっ……やぁっ……んっ……ふっ……」

 痛いくらいの強さで、胸の膨らみが揉みしだかれる。陽にあたらない真っ白い腋や、腰骨の特に皮膚が薄くなった場所に吸い付かれる。
 隆嗣は手加減というものをすっかりやめてしまったようで、どこもかしこもちぎり取ろうとしているのではないかと、清羅は恐ろしくなる。

「あぅっ……! たか、つぐぅ……やぁっ……」

 背中でずり上がって逃げようとすれば、身体を裏返され、背中から体重を掛けられる。後ろから肩に噛みつかれ、吸い付かれ、また痕が残る。

「いたっ……いたぁい……のぉ……」
「清羅」

 きゅんと盛り上がった尻の合わせ目に、指が忍び入ってくる。 自分でも見たことのない奥まったところ。

「……や、そこ、そこ、だめ……」

 清羅はいやいやと首を振るが、隆嗣は構わず、足の付け根に指を滑らせた。

「んっ……! だ、めぇ……」

 清羅は喉を震わせて仰け反る。きゅっと閉じた太ももの間をこじ開けて、隆嗣の手が入ってきて、つつましく柔らかに合わさったところを撫でられる。それだけではない、きつく閉じた入口に、指が押し入れられた。

「……ぁっ……ひっ……あぁっ!」

 ぬく、ぬくと浅いところで抜き差しを繰り返しながら、襞を指の腹で鳴らすように奥へ、性急に根本まで埋まる。

「やっ……抜い……てぇ……!?」

 猛烈な違和感と、ついで爪を立てられた別の部分から甘い電流が走って、清羅は息を止めた。
 ずっと隆嗣に仄めかされ続けた感覚そのもの。下着越しに存在を教えられたところ。
 指を抜き差しされる。摘ままれて揺らされる。清羅はそれを拒もうと全身を突っ張るのに、そうすると余計に内部に埋められた隆嗣の指が迫ってくる。
 入っているのだ、隆嗣の指が。
 ぎゅっと奥の方が切なく収縮する。と同時に、じゅうっと熱いものが溢れた。

「あ」
「君はバカみたいに……感じやすいな」

 隆嗣は嬉しそう、清羅は恥ずかしくて身悶える。

「……かわいいってことです」

 指の動き。清羅はそれを追い始める。熱がたまり、プールがいっぱいになって溢れ出す――。

「ぁっ……はっ……ぁっ……」

 視界がハレーションを起こす。隆嗣は清羅の太ももをひっつかんで、清羅を仰向けにした。 何かに届きそうだったのに、はぐらかされた。

「……はっ……たか、……な、何……」
「……君を、僕なしではいられなくしたいから」

 とろりとしたものを纏わりつかせた長く器用な指を、隆嗣が舐める。目を覆いたいくらい淫靡な仕種が、見せつけるのは清羅の淫らさだ。喉がからからに干上がる。

「こんなに感じやすい身体、本当に君は、甘くて……誰にでもこんな声を聞かせるんじゃないかって、僕はずっと思っていました」
「……な、なんっ……ば、ばかぁっ! た、隆嗣だけだも……っ……ぇ?」

 隆嗣が清羅の手を取って、引き寄せる。触れさせられる、熱くて、固くて、大きいもの。芯を持って立ち上がった欲望。清羅は本能的に強い恐怖を感じた。 冷や水を浴びたみたいに。それくらい欲望は生々しく暴力的だった。
 まだ少女の名残の色濃い身体を、清羅を、隆嗣は犯そうとしている。

「やっ……!? は、はなして……ぇ」
「教えてあげるって言ったでしょう? ねえ、君のここに」

 隆嗣は清羅の太ももを肩にひっかけた。腰を押しつける。濡れた場所に、固いものがひたりと押し当てられた。

「入るんです、僕が」

 潤んでいても、まだ狭くきつい場所。指の一本ですら、違和感で清羅を怯えさせたというのに、触れた隆嗣自身がそこに入るなんて。

「……いやっ! 無理、入らない!」

 清羅は目を潤ませた真っ赤な顔で叫ぶ。けれど、隆嗣は意にも介さず、ベッドの脇に置かれた小引き出しに手を伸ばす。清羅はちらりと見て、けれど取り出されたものが何かわからない。
 透明なプラスチックのパッケージ。コンタクトのケースに似てるけど、それにしては大きい。
 隆嗣は清羅を抑えつけたまま、パッケージの蓋に歯を立てた。ビッと開け、取り出したものを見て、清羅にも正体がわかった。

 ――本当なんだ……。本当に、隆嗣は、あたしを……。

「……こんなものつけたくないんですけど」
「……や……いや……、入らない、もん……」
「つけない方がいいですか? 清羅」
「……いや、むり……、たかつぐ……」
「このまま、君を抱いてもいいの?」

 浅いところを、欲望の先端がこすり上げる。熱く濡れそぼった部分がちゅぷっと清羅の意思とは無関係に吸い付く。ぐいと腰が押しつけられて、入口が押し広げられる。

「……いや……! やめてぇ……!」

 怯えた清羅の頬に隆嗣はキスをする。

「……わかりました」

 隆嗣の身体がふっと浮いて、清羅はほっと安堵する。――やめてもらえる、そう思った清羅は、次の瞬間、更に太ももを広げられて、硬直する。
 空になったパッケージが、シーツに落ちた。

「……わ、わかったっ、てっ……言った、のに……」
「ええ、だから、つけたでしょう? 君の望むとおりに」
「いやぁっ……!」

 押し当てられたものが、滑りを掻き分けるようにして入ってくる。細い腰を指が食い込むくらい強く掴まれる。

「……ひっ……ぃ……」

 ぐぷ、と引き千切られそうなくらい引き延ばされた部分に、圧倒的な質量が埋められる。嫌な汗が全身にぶわっと吹き出した。

「はっ……きついな」
「……こ、こわれ、ちゃ……、ひっ……ぬい……」

 隆嗣は清羅の唇を塞ぐ。ぬるぬると舌を絡ませて、唾液が顎を伝う。息ができない。声も出せない。
 悲鳴をあげることも。

「……んっ……ん、んぅっ……!」

 だから、清羅は、激痛をただ耐えるしかなかった。
 ずずっと太く固いものが入ってきて、閉じていた部分が無理矢理に拓かれる。太い蛇が腹を食い破ろうとしているみたいだ。シーツを握って耐える清羅の手首を、隆嗣が上から押さえた。
 腰を掴む必要がないくらい、奥深くまで貫いてから、隆嗣はキスを解いた。

「んっ……はっ……、は……」

 痛みのせいで一気に清羅の顔は青ざめ、荒い息を繰り返す。濡れた目で見上げた隆嗣は、底光りする目で清羅を見下ろして、うっそりと笑った。

「……ひぅ……ん……っ」

 ずるりと抜け出ていく。終わり? いいえ、すぐにまた戻ってくる。狭さを確かめ、苦痛を刻み込むように。

「い、た、いたぁ……いっ……んっ……」

 ぼろぼろと清羅の両目から涙が零れる。青ざめて濡れた頬に清羅の黒髪が張り付いて、悲壮感がいや増す。
 けれど、隆嗣は憐れっぽくすすり泣く清羅を見て、満足げに腰を揺らした。
 広げるような動きに、鈍い痛みが新たに清羅を襲う。

「ひぃっ……! いたぁっ……! やだぁっ! もうやだぁっ……」

 ひっくひっくとしゃくり上げる清羅を、隆嗣は押さえつけたまま、耳元に顔を近づけた。
 貝のような耳を舐る。こりこりと歯を立てて、耳の穴にぞろりと舌が入ってくる。
 獣に息を吹きかけられているみたいだ。食べられる直前の兎の気持ちで、首を竦める。

「……これで、もう君は僕のものです」

 甘くうっとりと擦れた囁きとともに、抉られる。強いリズムで続けて、深く入ってくると苦しくてたまらないし、勢いよく抜かれるとそのまま引き千切られそうで怖くなる。

「ひっ、あっ、あっ、うっ、ぅ、あ」

 壊れたオルゴールみたいに飛び飛びに清羅は喘ぐ。痛くて、苦しくてたまらない。
 涙でぐちゃぐちゃになった顔に、隆嗣は愛おしげにキスの雨を降らしながら、彼女を苛むことをやめない。
 すっかり下半身の感覚がなくなって、特に股関節は外されたみたいにがくがくして、隆嗣を受け入れ続けた部分は、さながら爛熟した果実を、甘い汁を溢れさせながら潰すようにされて――苦痛が、麻痺するくらいの時間が経って、一際強く突き入れられて、隆嗣が清羅の震える身体を折れんばかりに抱きしめる。
 そこで清羅は気づく。隆嗣の身体は、今さっきレースを走り終えた競走馬みたいに、うっすらと濡れている。彼は息を荒くし、清羅に押しつけた腰をぶるりと震わせる。真っ白い雪を踏み散らすみたいな行為は、彼が清羅に耽溺した証明でもある。夢中になって自分の色を塗りたくる。痛くて苦しくて、やめて欲しくて堪らなかった行為が、少しだけ清羅の中で意味を変える。
 それくらいの情熱をこの常は冷静沈着な幼馴染みが自分に対して秘めていたとして、もうそこから逃げられない。雁字搦めで、虜にされて、あとはもう、されるがまま。

「せいら、せいら……僕の、かわいい、清羅……」
「……んぅ……たかつ、ぐ……」

 引き裂かれる痛みとは違う、胸に走る甘い痛みに、清羅は感じ入る。
 これが終わりなのだ――。清羅はもの凄い疲労感と喪失感と、何とも言えない充足を覚える。
 隆嗣が清羅の頬に張り付いた髪の毛をかき避ける。その手つきが宝物を扱うように優しくて、清羅は耳を澄ますように瞼を震わせた。
 清羅は四肢を投げ出して、空気すら重たく感じるほど疲れ切っていた。へそから下はずうんと熱を含んでふやけきり、下肢は砂袋とすり替えられたみたいで動かせない。
 終わった、疲れた、眠ってしまいたい。なのに、ぽっかりと開いた場所に、にゅち、と、また何か入ってくる。

「ひっ……、たか、つ、ぐ……」

 赤くなった清羅の手首に、隆嗣は愛おしげに口づける。たった今まで蹂躙していた場所に指を含ませながら。

「お、お願い、もう、やめ……んくっ……」

 かりっ……と羽で擦るように爪をたてられる。清羅を陥落させた動き。途端に感覚が蘇る。浅ましいくらいに素直だ。
 隆嗣は深いキャラメル色の目を揺らめかせ、陶然としているように見えた。
 彼は満足している。清羅の苦痛に。清羅から奪ったものに。
 代わりに清羅に与えようとしている。苦痛よりも恐ろしいものを。

「……気持ちいいのは好きでしょう? 清羅」
「……や、いや、やめ……、いやぁ……ん……」
「うんと気持ちよくしてあげます……。君が、ここに欲しくて堪らなくなるくらい」
「んぅ…んっ、んぅっ……ん……」
「少しずつ慣らして……最初は指から……君が気持ちよくなる時には、いつもここをいっぱいにしてあげる。僕を欲しがる身体にする」
「はっ……ん、いやぁ、だめ……そこ、だめぇっ」
「気持ちいいでしょう、君みたいのをね、……って言うんですよ」
「……もうっ……いやぁっ……!」

 隆嗣の指を含まされたまま、清羅は生まれて初めての絶頂を迎える。
 それから、緊張と痛みで白かった肌が、赤みを帯びて快楽の汗に濡れるまで、指で、唇で、隆嗣は執拗に時間をかけて、清羅に快楽を教え込んだ。
 清羅は指の一本も動かせなくなり、真夜中近くになって、隆嗣のベッドで気絶するように眠りに落ちた。



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