既婚男性がカフェの美人店員に一目惚れしたら

黎泉いろは

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第七話 ピンクの瓶の正体

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旅行日和の穏やかな日に、妻と娘と文世さんは軽井沢へと旅立った。

「今日は定休日ですけど、ちょっと休んでいきませんか」
「いいの?」

彼女たちを駅へ車で送った後で、進哉さんに誘われてそのままカフェへと向かった。

「本当にいつも文世さんにはお世話になっちゃって、ごめんね」
「いえ、文世も春奈さんや夏日ちゃんという友達ができてすごく安心したみたいです。こちらこそ、ありがとうございます」

サービスです、と言って彼はコーヒーを淹れ始めた。

「進哉さんとカフェをたった一人で貸し切りなんて、贅沢だなぁ」

俺が伸びをしながら言うと進哉さんがふふっと笑った。

俺は店の中を歩き回りながら、さりげなくあのピンクの瓶を手に取って、ずっと聞こうと思っていたことを口にした。

「これってさ、何に使うの?」

俺が手にしているものを見ると、彼はあ、と小さくつぶやき、恥ずかしそうな顔をした。

「それは、使い方は人それぞれですけど、一応用途としては…セックスの時に使うものです。女性の潤いを補うための」

赤くなって俯いているが、きちんと商品の説明をしてくれた。
つまり潤滑剤か。だから、“ラブ・ポーション”なんだ。

「へえ…なにが入ってるの?」

彼は言いにくそうに答える。

「えっと、ココナッツオイルとはちみつ、それにバニラエッセンスとかお菓子に使う香料が入っています。色はハイビスカスの花弁からとった天然のもので…」

俺はにやりと意地悪く笑った。

「試してみたいな」

え?と一瞬彼は耳を疑ったようだった。

「あ、…ああ、お試しですね、できますよ」

彼は慌てて瓶を取り、俺の手の甲に出した。とろりとした感触と甘い匂い。

「これは普通の保湿剤としても使えるんですよ。普通の乳液より、ちょっとぬるぬるしますけど」
「ふーん、手作りコスメにもこういうものがあるとはね」
「まぁ…」
「実際、使い心地はどうなのかな?」

予想外の質問に進哉さんは驚いた顔をする。

彼の妻が作ったものなのだ、彼も当然、使ったことがあるのだろう。進哉さんと文世さんが抱き合っているところを想像したら、俺の嫉妬心が一気に燃え上がった。

「えっと…使い心地は…」

進哉さんは説明しようとする。本当のことを言う義務など彼にはないのだが、聞かれたことにはきちんと答えなければいけないと思っているようだ。

「俺も使ってみたいな、進哉さんと」

彼は驚いたような、困ったような顔をして俺を見つめた。
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