無職男性が居酒屋でイケメン旅人と相席したら

黎泉いろは

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一夜限りの関係※

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俺はいつもの居酒屋のカウンター席で、いつもの一番安いやつ(島豆腐とビール)で晩酌をしていた。

隣に座った若い男が妙に気になった。煙草を吸いながら一人、泡盛とゴーヤチャンプルー。

「表のバイク君の?」

俺が唐突に聞くと彼はびっくりした顔をして頷いた。

「はい」
「どこから来たの?」
「東京からっす。日本一周してきて最後にここに来たんです」
「へー、荷物見てなんとなくそうだとは思ったけど。俺は原田基広。だいたいみんなモックンって呼ぶよね、やっぱ」
「僕は深沢海央って言います」
「ミオ?」
「海に、中央の央」
「さわやかだなぁ。海が似合会う名前だね」
「良く言われます、僕は24っすけど、基広さんは?」
「俺は、30歳」

嘘をついた。初めて会った人には20代前半と見間違えられることもある俺なので、多分ばれないだろう。

「仕事辞めて暇ができたんで、バイクで見てまわろっかなって」
「へえ」
「海外も良いなって思ったけど、その前に47都道府県一度全部見てみたいじゃないっすか、自分の住んでる国くらいは」
「確かにそうだね、俺も行ったことないとこばっかりだ」

俺はビールを飲みほした。

「この後どうするの?」
「近くの銭湯に泊まろうかと思ってました。もう飲んじゃってるし」
「良かったら俺の部屋泊まる?」
「いいんですか?」

彼は突然話しかけてきた怪しい男の誘いに乗っていいのかどうか一瞬考えたようだったが、結局お言葉に甘えますと返事をした。

彼は自分のバイクを押して、俺のアパートに向かった。

部屋についたら、シャワーを貸したり歯ブラシをあげたりと、一通りのことをやってあとは寝るだけとなり、二人で何となくぼんやりと話した。

「でも一人旅してるといろいろ危険な目に合ったりしなかった?」
「まあ置き引きとか、バイクにいたずらされそうになったりはありましたね。あとある意味怖い体験とか」
「怖い体験?」
「雑魚寝部屋で寝てると、隣のおじさんに足触られたり、サウナで誘われたり。あと一番怖かったのが、旅の初めのころ親切そうな30代くらいの男の人に部屋に泊めてあげるって言われてついてったら、夜中に急に襲われそうになって……」

彼はおかしそうに笑った。

「うおって払いのけようとしたら肘が相手の急所に入ったらしくて悶絶してました。僕はその隙に逃げました」
「ハハハ……おっかないな」

俺は喉が渇いて冷蔵庫から缶ビールを出した。

「まだ飲める?麦茶もあるけど」
「じゃあ一本だけいただきます」

2人で缶を開けて少しの沈黙があった。

「でもそれなら俺の部屋に来ちゃって大丈夫だったの?俺が危ないおじさん……いやおにいさんだったらどうしてたの?」
「基広さんなら良いかなって。初めて言葉を交わしたときから、あ、この人の部屋になら行っても良いなって」

彼は無邪気にそう言った。
俺は一瞬考えてから思い切って言ってみた。

「えっと、何もしないで大人しく寝かせるつもりだったけど、そんなこと言われると寝れなくなっちゃうじゃん」

ちらりと彼を見るととりあえず引いてはいない様子。

「止めてくれたお礼って事で、いいっすよ」

期待していた通りの展開になりつつも、あまりにあっさりとした答えに戸惑う俺。

「いいの?本当に」

確認しながらそっと距離を詰めてみる。

「もともとそっちの気あるの?」
「少し。でもカッコいい人じゃなきゃ嫌です。あと見た目だけ良くても乱暴なヤツとか下品なヤツは論外」
「俺はその厳しい審査に受かったってこと?」
「そうですね」
「それは、光栄だな」

***

海央君は泊めてくれたお礼といった通りサービスしてくれた。つまり口でしてくれるってことだ。
俺は俺のそれに舌を這わせる彼の、脱色した手触りの良い髪を撫でた。

「海央君、もういいよ、でそう」
「ん」

てっきり唇が離れるかと思ったのに、熱く舌を絡めてきたので俺は思いきり彼の口内に射精してしまった。

「ごっごめん!」

俺は慌てふためいて思わず土下座。
終わった、と思いながら恐る恐る顔を上げると、海央君の意味ありげな視線。

「あの、終わりだよね?」
「いや、これからっす」
彼はむしろ何かに火が着いたみたいで、着ていたものを全て脱ぐと、勃起した立派なものを俺に見せつけてきた。
「え?え?」
「基広さんが来てくださいよ」
「…」

俺は、慣れている風を装っているが男は初めてである。

「ごめん俺、実は男とはやったことがないんだ」
「女の子にする時と同じにしてくれてかまいません」
「でも、そう言う道具とかもないし」
「これでいいですよ」

彼はベッドわきの試供品のハンドクリームを手に取った。

「そんなの体の中に入れたら良くないよ」
「基広さんって変なとこ気にするんですね」

俺は焦って立ち上がって台所のオリーブオイルを持ってきた。

「これならお腹の中に入っても大丈夫じゃない?」
「まあ、あまり色気がないですけどね」

ハンドクリームだって色気はないと思うけど…とかなんとか余計なことを考えているうちに、彼は嬉しそうに俺にキスをしてきた。初めてのキス。

俺はオリーブオイルを片手に持ちながら、どきどきして熱いキスに答えた。

夢中でよく覚えていないが、彼が上手くリードしてくれて気づけば俺は寝バックの体位で彼に挿入しようとしていた。

「ココ……だよね?」

うつ伏せになった彼の足元をおそるおそる撫でる。暗がりの中で彼が頷いた。ゆっくりと自身を押し込む。

感覚的に女性とする時とあまり変わらなくて驚いた。俺、今男とやってるんだ。

女の喘ぎ方と違う低い声で我に返る。

これをこんなところに入れられるなんてそれは苦しいだろう。どんな感覚なんだろう。

「可愛いね」

色っぽい喘ぎ声を上げる彼の耳元で、俺はそんなコメントしかできない。

海央君がどんな表情をしているのか見えないけど、少し喘ぎ声が激しくなる。

体位を変え、横になって腰を動かしながら海央君のそれを扱くと、息をのんだ気配がして彼は俺の手の中で達した。

知り合って数時間しかたっていない、良く知りもしない男を、こんな風に自分のベッドの上で抱いている。そう考えるとなぜかさらに興奮してしまって、俺も2度目の絶頂を彼の中で迎えてしまった。

下半身を繋げたまま2人で達して、そのあとも長い間そうして繋がっていた。
後ろめたさよりも幸福感のほうが強かった。それは相手が海央君だったからだと思う。彼はどう思っているんだろう?聞きたいけど聞けない。

とりあえず、降って湧いた幸運を余計なことを言って白けさせないほうが良いと思い、俺は彼を抱きしめたまま甘いまどろみに身を任せた。

翌朝、部屋にはまぶしい光が満ちていた。

俺も彼も朝食は食べない派のようで、俺はベランダで煙草を吸う彼の姿をぼんやり眺めていた。

「海央君これからどうするの?」

「もう目標は達成したし、お金もちょうど尽きたんで東京に帰ります。そこで知り合いの会社を手伝うことになってます」

知り合いって彼氏?いや彼女?てか君は独身?何の仕事?…色々聞こうとしたけどうざいと思われたら嫌なのでやめた。

「ありがとうございました、基広さん」

差支えなければと断って、一応彼の電話番号は手に入れた。

軽く唇にキスをして彼は爽やかにドアを開けた。
その向こうで朝日の反射する海面が見えて眩しさに目がくらみそうになった。

彼が居なくなった後の部屋は、いつもに増して暗くてむなしい気がした。

「おれも東京にいこっかな……」

とりあえず、髭をそるために洗面所へ向かう。鏡には少し疲れた中年の男の顔が映っていた。
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