人間を辞めてダンジョンマスターになった俺は伝説の獣人戦士とともに魔王に成り上がる

安眠計画

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第一章 とあるダンジョンマスターの手記

5F. 〈ドリヤーイ・ガルプ〉のサブ戦力及びトラップについて

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 さて、いよいよ当ダンジョンの設定開示も6稿目となった。今回は当ダンジョンのサブ戦力、いわゆる「雑魚モンスター」とダンジョン内に仕掛けたトラップについて語っていこうと思う。

 「雑魚モンスター」という呼び方を嫌うダンジョン管理士は秩序派オーダー混沌派ケイオスともに多い。「一般戦闘員」や「歩兵」、「量産型モンスター」などと呼ばれるのが業界の暗黙の了解だろうか。しかし私は元々探索者サイドの人間だったから、〈ドリヤーイ〉との「血の盟約オメルタ」を交わし魔族となった今でも、「雑魚モンスター」と呼ぶ方がしっくりくる。よって以降は雑魚モンスと呼ばせていただく。

 当ダンジョンの雑魚モンスはそれほどバリエーション豊かではない。先に紹介したネームド個体2体直轄の配下である呪歌人魚セイレーン族や鉄像鬼ガーゴイル族が主な戦闘要員で、あとは廃寺ということもあり、ゴースト靈魂レイスリッチなどのアンデッド系モンスターが徘徊している。また回復要員ヒーラーのダークエルフ魔僧や、「血の盟約」を交わした元人類種ヒューマンの破戒僧なども少数ながら配置している。
 基本的に戦闘の役割は決まっていて、状態異常をバラ撒くセイレーン系を護りつつダメージを稼ぐガーゴイルと、それを補助する回復要員という手堅い流れだ。稀に変わったパーティ構成の勇者一行が侵入してきた場合はアンデッド系モンスが対処し、それでも対処しきれない場合に5階のネームド個体にダメ押ししてもらう、という感じか。

 個人的な手記とは言え、ダンジョン内に仕掛けたトラップの全容を明らかにすることはできないが、防御型ダンジョンという性格上、こまめに仕掛けたトラップでコツコツとダメージソースを積んでいくイメージになる。ガーゴイルやゴーストだけではやはり決め手に欠けるが、毒床や仕掛け矢、落とし穴などの地道なダメージの蓄積があれば、探索者側に〈シーフ〉や〈レンジャー〉等の専門職でもいなければ勝手に自滅してくれる。

 トラップを仕掛けるのにもマナは必要になるので、ここにダンジョン全体のマナを優先的に割り振っている。このような中小ダンジョンでネームドモンスターを2体も抱えているのにもかかわらず、罠へのマナ割り振りが4割を超えていると言うと同業者には必ず驚かれる。罠をメンテナンスする専門のモンスターの配置も一度考えたくらいだが、自分でやった方が安く上がる。簡易なトラップは〈孤城のアハン〉経由でガーゴイルに頼み込んでセッティングしてもらっているが、基本的に罠のメンテは管理士マスターである私のメイン業務になっている。

 ああ、最後に。最上階に設置してある〈秘宝レガリア〉について。
 最深部の秘宝は言わずもがなダンジョンの心臓部にあたる。ここが獲られたとき、ダンジョン踏破と見做されモンスターは弱体化し、瞬く間に人類側の拠点になってしまう。王都西側にほど近く、〈鉱脈〉まで備える本地を奪われれば魔族の支配領域は大きく後退することになるだろう。よって秘宝は特に厳重に護り抜かねばならない。
 一般に〈秘宝〉は最深部に鎮座するダンジョンマスター = ボスモンスターがドロップするようにしているダンジョンが多いが、当ダンジョン最深部には〈孤城のアハン〉とダークエルフのヒーラー×2を配置し、さらに多重トラップを潜り抜けた先の「霊安室」に〈聖海のドリヤーイ〉の遺骸を安置している。いつか来る強力な蘇生魔法ネクロマンシーを待ち侘びて。
 これが当ダンジョンの水と金のマナの源泉、霊脈であり〈秘宝〉だ。

 かつての主人の鎮魂と冥福を祈る霊廟というのがこのダンジョンのコンセプトであり、驚異的なマナ効率を可能にしたのも、そうしたコンセプトがハマってネームドモンスターの忠誠度を爆上げできたことが大きな要因であると考える。

 これは私が以前人間だった時分、被雇用者であったころ嫌悪していた「やりがい搾取」のような運営方針だが、当ダンジョンは探索者が続々と挑戦してくる過酷な立地で、中小ダンジョンを継続させるにはこれしかないのだ、と何度も、何度も自分に言い聞かせている。

 

 独自の生態系を築き、自己修復し、存在理由を自己規定して、今日も愚かな勇者をくびり殺さんと罠を張り巡らせる。ガーゴイルたちは金属音を伴って羽搏はばたき、所定の持ち場につく。マーメイドやローレライたちの鎮魂の呪歌アリアが、もの惜しげな余韻を掻き消すように、幾重にも霊廟ダンジョンに響いている。
 
 彼はまだ生きている。ダンジョンにうごめくモンスターたちの存在理由として。

 彼はまだ生きている。人類種には解呪できなかった重篤な不眠の呪いを癒し、そればかりか無限の存在であるマナの種族、魔族に引き入れてくれた良き「友人」として。
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