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プロローグ
ブラック探索者
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探索者は疲弊し切っていた。
この仕事を始めてもう何年になるだろうか。初めはダンジョン攻略の栄誉や富、そして〈魔族〉を滅ぼし、人類種のための平和な世界を夢見て、情熱的に取り組んでいたつもりだった。勇者ってなんか、モテそうだし。
しかし現実は無情だ。
探索者ギルドからの要望はどんどんエスカレートしていき、近頃はAクラス任務でさえ、難易度は以前のSクラスほどになっている。高難易度化の傾向は、〈魔族〉との戦争の長期化により、探索者全体の練度が上がってきているから、というだけではない。当然人類だけでなく、〈魔族〉の魔法や戦術研究もどんどん進歩してきている。ひと昔前なら研究室に籠っていたような魔法オタクたちが、今や基礎技術であるかのように先端魔法を実践的に使いこなす。そうした次世代の探索者たちがどんどん現場に出てきていることも要因のひとつだ。
「もう1週間は横になってないぞ……」
そうした先端魔法の技術も知識もある若手に勝つためには、とにかくギルドからの依頼の数をこなすしかない。特に王都西側の港町、大魔族〈聖海のドリヤーイ〉が広域侵略型ダンジョンを展開して以来、人類最大の激戦区のひとつになったこの地では、ブラック気質な辺境王が無理難題を次々と課してくる。若手はそうした割に合わないハードワークを嫌う。ベテランはそこで稼いでいくしかないのだ。
防具のメンテ費用、装備への加護代、単独ではこなせない任務の人件費……塒に溜まった請求書の山を思い出し、眠い眼を擦りながら、火蜥蜴のエキスが200mgも入った強心薬をかっ喰らう。
「この任務が終わったら、久しぶりにあいつらと飲むか……」
かつての戦友たち。気がつけば皆、このままでは探索者一本では食っていけないことに気づき、サンクコストも厭わず早々に損切りして、時代の流れに沿ったビジネスで手堅く成功している。当時は腰抜けだとか夢を諦めた敗北者であるかのように見えたが、今の自分を客観的に見ると「敗北者」はどちらの方だろうか。かつての戦友に今後の身の振り方を相談しようと、最近になって思えるようになった。
ひと息に飲み干したサラマンダーの強心薬缶をグシャリと握りつぶし、辺境王が依頼した激戦ダンジョン〈ドリヤーイの戦場〉へと向かう。今回はケチなあいつらしくない、真っ当な成功報酬を用意している。この任務のためだけに集まったパーティのメンツも悪くない。俺と同じような食うに困っているベテラン戦士は於いておくとして、僧侶も魔法使いも、王都の魔法学校で優秀な成績を修めた人材だ。
このパーティでは俺が〈勇者〉ということになる。俺の本職は野伏だが、本物の〈勇者〉なんて100年に1人出てくるかどうかだ。俺のようにパーティで最も経験豊富なリーダーが便宜的に〈勇者〉と呼ばれている。仮に俺たちがもう200年近く君臨する現魔王〈七陽のアルスラハ〉を討伐、あるいはアルスラハのダンジョンを踏破すれば、便宜上ではなく、真の〈勇者〉になる。
「おい、お前ら行くぞ。気張れよ。この現場はハードでタフだ。今更確認することでもないが、ダンジョンには2種類ある。最深部の〈秘宝〉を護ることを目的としたタワーディフェンスのような防衛型ダンジョンと、」
「積極的に人類側の領域を切り取ろうと攻め込んでくる侵略型ダンジョンでしょ。リーダー、もうその話3回目ですよ」
魔法職の若い女が溜息混じりに割り込んでくる。近頃の若いやつは礼儀がなってないな。
「まあまあ、年長者の話は最後まで聞くものですよ。何か有益なアドバイスに導こうとされたんですよね?」
今度は僧侶の若い男が慇懃な目配せを寄越してくる。正直、二人とも苦手だ。仮にも俺が〈勇者〉であることに、心底納得いっていないという感じがする。
「ん、ああ、いや分かってるなら良いんだ。侵略型ダンジョンは防衛型と違い、境界が曖昧で気がつくと最深部、つまり大魔族〈聖海のドリヤーイ〉まで一気にたどり着くことがある。平均日数でいうと防衛型で攻略まで数ヶ月~数年かかるのが一般的だが、侵略型は優秀なパーティであれば2,3日で攻略、ということもあり得る。日数がかかればかかるほど、旅費や必要経費が差し引かれて依頼報酬は目減りしていくからな。俺はこのメンバーであればサッと終わらせることもできると思っている。しかし相手は数多くの探索者を屠った大魔族だ。気を引き締めてさっさと攻略しちまおう」
魔法使いの女は「はいはい」と桃色の長い髪の毛先をいじりながら答える。僧侶は慇懃な笑みを崩さない。ベテラン戦士の男は聞いているのか分からなかった。
メンバーの実力的には優秀なはずだが、本当に大丈夫だろうか?
この仕事を始めてもう何年になるだろうか。初めはダンジョン攻略の栄誉や富、そして〈魔族〉を滅ぼし、人類種のための平和な世界を夢見て、情熱的に取り組んでいたつもりだった。勇者ってなんか、モテそうだし。
しかし現実は無情だ。
探索者ギルドからの要望はどんどんエスカレートしていき、近頃はAクラス任務でさえ、難易度は以前のSクラスほどになっている。高難易度化の傾向は、〈魔族〉との戦争の長期化により、探索者全体の練度が上がってきているから、というだけではない。当然人類だけでなく、〈魔族〉の魔法や戦術研究もどんどん進歩してきている。ひと昔前なら研究室に籠っていたような魔法オタクたちが、今や基礎技術であるかのように先端魔法を実践的に使いこなす。そうした次世代の探索者たちがどんどん現場に出てきていることも要因のひとつだ。
「もう1週間は横になってないぞ……」
そうした先端魔法の技術も知識もある若手に勝つためには、とにかくギルドからの依頼の数をこなすしかない。特に王都西側の港町、大魔族〈聖海のドリヤーイ〉が広域侵略型ダンジョンを展開して以来、人類最大の激戦区のひとつになったこの地では、ブラック気質な辺境王が無理難題を次々と課してくる。若手はそうした割に合わないハードワークを嫌う。ベテランはそこで稼いでいくしかないのだ。
防具のメンテ費用、装備への加護代、単独ではこなせない任務の人件費……塒に溜まった請求書の山を思い出し、眠い眼を擦りながら、火蜥蜴のエキスが200mgも入った強心薬をかっ喰らう。
「この任務が終わったら、久しぶりにあいつらと飲むか……」
かつての戦友たち。気がつけば皆、このままでは探索者一本では食っていけないことに気づき、サンクコストも厭わず早々に損切りして、時代の流れに沿ったビジネスで手堅く成功している。当時は腰抜けだとか夢を諦めた敗北者であるかのように見えたが、今の自分を客観的に見ると「敗北者」はどちらの方だろうか。かつての戦友に今後の身の振り方を相談しようと、最近になって思えるようになった。
ひと息に飲み干したサラマンダーの強心薬缶をグシャリと握りつぶし、辺境王が依頼した激戦ダンジョン〈ドリヤーイの戦場〉へと向かう。今回はケチなあいつらしくない、真っ当な成功報酬を用意している。この任務のためだけに集まったパーティのメンツも悪くない。俺と同じような食うに困っているベテラン戦士は於いておくとして、僧侶も魔法使いも、王都の魔法学校で優秀な成績を修めた人材だ。
このパーティでは俺が〈勇者〉ということになる。俺の本職は野伏だが、本物の〈勇者〉なんて100年に1人出てくるかどうかだ。俺のようにパーティで最も経験豊富なリーダーが便宜的に〈勇者〉と呼ばれている。仮に俺たちがもう200年近く君臨する現魔王〈七陽のアルスラハ〉を討伐、あるいはアルスラハのダンジョンを踏破すれば、便宜上ではなく、真の〈勇者〉になる。
「おい、お前ら行くぞ。気張れよ。この現場はハードでタフだ。今更確認することでもないが、ダンジョンには2種類ある。最深部の〈秘宝〉を護ることを目的としたタワーディフェンスのような防衛型ダンジョンと、」
「積極的に人類側の領域を切り取ろうと攻め込んでくる侵略型ダンジョンでしょ。リーダー、もうその話3回目ですよ」
魔法職の若い女が溜息混じりに割り込んでくる。近頃の若いやつは礼儀がなってないな。
「まあまあ、年長者の話は最後まで聞くものですよ。何か有益なアドバイスに導こうとされたんですよね?」
今度は僧侶の若い男が慇懃な目配せを寄越してくる。正直、二人とも苦手だ。仮にも俺が〈勇者〉であることに、心底納得いっていないという感じがする。
「ん、ああ、いや分かってるなら良いんだ。侵略型ダンジョンは防衛型と違い、境界が曖昧で気がつくと最深部、つまり大魔族〈聖海のドリヤーイ〉まで一気にたどり着くことがある。平均日数でいうと防衛型で攻略まで数ヶ月~数年かかるのが一般的だが、侵略型は優秀なパーティであれば2,3日で攻略、ということもあり得る。日数がかかればかかるほど、旅費や必要経費が差し引かれて依頼報酬は目減りしていくからな。俺はこのメンバーであればサッと終わらせることもできると思っている。しかし相手は数多くの探索者を屠った大魔族だ。気を引き締めてさっさと攻略しちまおう」
魔法使いの女は「はいはい」と桃色の長い髪の毛先をいじりながら答える。僧侶は慇懃な笑みを崩さない。ベテラン戦士の男は聞いているのか分からなかった。
メンバーの実力的には優秀なはずだが、本当に大丈夫だろうか?
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