アンビバレントな狂戦士

山崎トシムネ

文字の大きさ
5 / 20
第1章「異世界と狂戦士」

「テスト」

しおりを挟む
リリア嬢との秘密の契約から早くも2週間程が経過した。

その間俺は彼女から言われた通り、低位の魔物であるスライムや人間に似た姿をしている"亜人種"と呼ばれる種族のゴブリンをひたすら狩っていた。

確かこの世界ではスライムやドラゴンなんかの人型以外の種族は魔物(モンスター)と一括りにされているらしい。その中でゾンビやリッチといった不老不死の存在をアンデット。ゴーレムの様に魔法によって命を授かる存在は魔法生物と細かく分類されているのだとか…。

そして人型の人間以外の生物を亜人。更にその中でも人間と近しい見た目を持つエルフやドワーフは人間種。ゴブリンやオークなどを亜人種と区分するらしい。

まあこれらの区分は如何にも人間側からの視点による区分であることが明確であると思うが…ま、そんな事はどうでもいいな。それよりもエルフなんかはやっぱり美人なんだろうか?そっちの方が遥かに気になる…。


そしてレベル上げならぬ魔力上げでは、ゲームの中でお馴染みの存在だったスライムやゴブリンを狩ったのだが…実際に対面するとスライムはヘドロの様にドロドロしていて気色悪いし、ゴブリンは本当に醜い小鬼という表現がぴったりな気持ちの悪い見た目をしていて、戦うのも少し気が引けてしまった。

スライムを斬りつけるとベタベタした粘液が飛び散るし、ゴブリンを斬りつけると当たり前だが血が飛び散る。

なんか思ってたのと違うというか…現実はやっぱりゲームと違ってグロいし、気持ち悪いし、スライムはともかく…ゴブリンなんかは生き物であり、それも人に近い姿のものを殺めるというのは少なからず罪悪感があった。


とまあ色々感じるところはあったのだが、それも3日もすれば慣れてしまった。人間とは不思議なもので目標があれば何でも出来てしまうのだ。

そう!俺には童貞卒業という崇高な志があり、それを前にすれば俺に出来ないことなど無いのだ!!

イケメンでスタイルも良くて、才能もあるこの俺が女の子に触られただけで見境なく暴走してしまう??そんなふざけた設定をぶち壊す為に俺は何だってしてやるさ!!そうさ!エロのパワーは凄いのだっ!!

全てが終わったら呪いを解いてくれる人を紹介する…リリア嬢はたしかにそう言った。

しかしあれからリリア嬢は、呪いの解除についての具体的な話をしてくれない。全てが終わったら話します。時が来たら必ず話しますから。なんか怪しい気配を感じなくも無いが…。可愛い顔で言われてしまうと、まあいいかっ!…っとなってしまう。

それに、現在の俺には彼女の言葉だけが一縷の希望なのだ。あんまり突っ込みすぎて関係を壊すような事はしたくない。

只でさえ人と接するのは苦手なのだから…。



俺はそんな事を考えながら、目の前のゴブリンを斬り伏せた。


「ふう…これで最後か…」


首を刎ねられ、緑色をした小さな人間のような亜人が力無く倒れる。

今日は魔力上げの為だけにゴブリンを狩っているのではなく、街道周辺に住み着いたゴブリン数頭の討伐という依頼を受けた為、魔力も上がるしお金も貰えるしで一石二鳥であった。

本来檄ザコ亜人のゴブリンを退治するだけでお金…褒賞金を貰えるなんておいしい依頼は、駆け出し冒険者同士の熾烈な奪い合いになるのだが、俺には優先的にそのようなおいしいクエストが回ってくるようになっているのだ。

何故ならリリア嬢という協力者がいるからである!彼女はその抜群の美貌もさることながら、諜報員というのはどうやら本当らしく、この前楽な魔力量の上げ方を教えるとか言って凄まじいスピードでゴブリンの屠り方を教えてくれたのだ。

あれは強さがかけ離れ過ぎていて、強さの位ははっきりとは分からないが…そうだな、第3級冒険者くらいの実力はあるのではないかと思っている。


冒険者とは第1級から10級まででランク付けされている。初めは皆第10級から始まり、上のランクに昇格する為には様々な制約がある。その分上のランクに昇格すると、より高額な報酬のクエストを受注できたり、貴族の警護などの重要な内容のクエストも受けられるようになる。なによりも上級冒険者と言われている第5級以上の冒険者になれば社会的なステータスも大分違うだろう。

日本でいうところの医者や弁護士、それに官僚といったところだろうか。

…弁護士か、結局俺は…。


そんな事はともかく、こんなイケメンでハイスペックな俺が社会的ステータスまで身につけて仕舞えば大変なことになるのは目に見えて分かるのだが…今は先のことよりも目の前の事に集中すべきだと思う。


俺はゴブリンを斬って剣についてしまった紫色の血を布で拭きながら、依頼の規定討伐数にも達したので街に帰ろうと準備していた。

なんでもゴブリンの装備品や体の一部を持ち帰ると討伐数として換算してくれるらしい。酷い話だが、一匹のゴブリンをバラバラにして何匹も討伐した事に出来てしまうのではないかと考えてリリア嬢に話したところ、ギルドには見るだけでアイテムの過去の記憶を見ることのできる特殊能力持ちの人物がいるのだとか。殺人事件などもその人がいるため簡単に解決できるとのことらしい。

まあ、そんな不正がバレれば上の等級への昇格に悪影響を与える為そんなことを考える冒険者は少ないとリリア嬢に驚かれたのだが…。


「ふう…帰ってリリアさんに報告ついでに報酬受け取って早く寝よ。いつもより多く狩ぬたし、流石に疲れが………ん?」


耳を澄ましてみると、遠くから何かが聞こえる。街道の脇にある森の奥の方からだろうか。

「……ズンッ……ズンッッ……ズンッッッ」


それは一定のリズムで聞こえ、次第に大きくはっきりと聞こえるようになった。


「これは…足音?!」


やがて足音らしき大きな音はすぐ近くから聞こえるようになった。


そして音が聞こえなくなった刹那、それは姿を現したのだった。



「何だあれ………ゴーレム??」


街道の脇にある森から姿を見せたのは、偽りの命を吹き込まれた魔法生物として有名なゴーレムであった。

形状は人型をしているが、両腕が異様に大きく膨れていて、巨大な棍棒の様だ。あれを思い切り振り下ろされれば大抵の人間は助からないだろう。

そして3メートル近い巨大な身体は、生み出す時に用いられた媒介によって構成されている。

俺の前に現れた奴は…


「土…か?」


どうやら動きたびに黄土色の身体の一部がぼろぼろとこぼれ落ちている様子から察するに、土を媒介として作られたクレイゴーレムであると思われる。

クレイゴーレムはゴーレムの中では砂のサンドゴーレムなどと並んで最弱の部類だが、第10級冒険者にとってはドラゴンに並ぶ程の強敵だ。

ゴーレムを生み出した術者の技量にもよるが、大抵のゴーレムが再生能力を有している為非常にタフだ。

昔読んだ本ではゴーレムを倒す際は、あの巨体の中心部にある魔法陣が入ったコアのような物を一撃で壊す必要があると書かれていた。

果たして街の武器屋で買った安物の剣で勝てるのだろうか?


…いや、何もこんな所で戦う必要は無いのではないか?街道を行く商人には盗賊対策として腕利きの冒険者が雇われている場合が多いし、確か警備の騎士が巡回しているはず…何も俺がここで奴を倒す必要は無いだろう。それにゴーレムは確か討伐推奨が第7級冒険者だったはず、今の俺が勝てるはずは…


そう考えた俺はクレイゴーレムの動向を伺いながら、ゆっくりと後退を始めて…



「逃げるのは駄目ですよ?バンドウ様?」


聞き覚えのある声が聞こえ振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべたリリア嬢の姿があった。

その薔薇のように美しい笑顔の裏にすごく冷たいものを感じた俺は、彼女の言葉の意味が簡単に理解できた。


「り、リリアさん?何でここに…」


「さあバンドウ様?魔力上げの成果を見せてくださいませんか?丁度いい相手も用意したので」


リリア嬢の言う丁度いい相手とは、どう考えてもクレイゴーレムの事だろう。


「り、、、リリアさん?ゴーレムは最弱の奴でも第7級冒険者でないと討伐を受けられないと聞いた覚えがあるのですが……」


「え!?私一年近く受付をしていますが…初耳ですね」

リリア嬢はわざとらしい演技で驚くふりをする。そんな訳ない事はわかっているので、やはりこのクレイゴーレムはリリア嬢が用意したもので間違いないようだ。


「リリアさん!死んじゃいます!俺死んじゃうっ!」

「落ち着いて下さいバンドウ様。これはテストでもあるんですから、貴方様の才能を測るテストでも…あっ、危ないですよバンドウ様!」

「テスト?…って、うわぁ!!」


気配を感じて振り返るとクレイゴーレムが身体に比べて不釣り合いに大きく膨らんだ両腕を振り下ろしている所だった。


「ひぃぃぃい!!」


俺は間一髪で回避するも、振り下ろされた両腕の凄まじい風圧によって前方に転がってしまう。


「やばいよ!あれはやばいよリリアさん!!ゴブリンなんて比じゃないよっ」


俺の慌てふためく様子を見てリリア嬢は…


「ふふっ。テストは始まったばっかりですよ?バンドウ様。貴方の才能…試させてもらいますね」



リリア嬢はいつも通りの美しい笑みを浮かべ、楽しそうに俺を見つめていたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

蔑ろにされましたが実は聖女でした ー できない、やめておけ、あなたには無理という言葉は全て覆させていただきます! ー

みーしゃ
ファンタジー
生まれつきMPが1しかないカテリーナは、義母や義妹たちからイジメられ、ないがしろにされた生活を送っていた。しかし、本をきっかけに女神への信仰と勉強を始め、イケメンで優秀な兄の力も借りて、宮廷大学への入学を目指す。 魔法が使えなくても、何かできる事はあるはず。 人生を変え、自分にできることを探すため、カテリーナの挑戦が始まる。 そして、カテリーナの行動により、周囲の認識は彼女を聖女へと変えていくのだった。 物語は、後期ビザンツ帝国時代に似た、魔物や魔法が存在する異世界です。だんだんと逆ハーレムな展開になっていきます。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

処理中です...