アンビバレントな狂戦士

山崎トシムネ

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第1章「異世界と狂戦士」

「愛の鞭」

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「危なっ!!」


クレイゴーレムが振り下ろした両腕によって、さっきまで俺が立っていた地面が抉られている。

隙を見て反撃するものの、俺の剣術ではゴーレムの土の身体の表面が少し削られるだけでゴーレムのコアまでは届きそうもない。

さて…どうしたものか。



クレイゴーレムとの戦闘が始まってもう30分は経過しただろうか。

産まれながらにして与えられた類い稀なる運動神経のおかげで、ゴーレムの巨大な両腕を振り回すという一辺倒な攻撃は余裕で避けれるようになった。

しかしこちらの攻撃が全く通らない以上、いつかはスタミナ切れでこちらがやられてしまうだろう。魔法生物は疲労の概念が無いからな…。ここまではジリ貧だ。

膠着した戦況に成す術無く困り果て、横目でリリア嬢の様子を伺うが、リリア嬢は相変わらず笑顔のままこちらを見ているだけであった。

うーん…困った。こういうとき技能(スキル)があればなぁ…。


技能(スキル)とは特殊技能(スペシャルスキル)とは異なり、後天的に得ることのできる能力の事である。

斬撃(スラッシュ)や衝撃波(ショックウェーブ)といった相手を攻撃する手段となり得るものから、瞑想(プレイ)などの魔力を補充を助けるものまでこれも様々なものが存在するらしい。

発動には魔力を必要とし、習得には一定の期間を必要とするらしいが、そこには個人差があるとの事…。

ちなみに技能は魔法とは性質がやや異なるのだとか…よくわからんけど。

兎に角俺には技能が無いため、現状では剣を振り回すくらいしか攻撃方法が無いのだ。勿論魔法も覚えていない…とゆうか魔法に関しては、孤児院にいた時にやった適性検査のようなやつで全く才能が無いと軍隊の人から言われた記憶がある。誰しも一度は夢に見る、魔法使いになると言う夢はそこで儚くも散ってしまった訳だが…


「コアを狙って…おらっ!………くそっ!やっぱり堅くて剣が通らない…」

いくらクレイゴーレムの身体を削っても、ゴーレム特有の再生能力で直ぐに回復する為、やはり大きな威力でもってコアを破壊する以外に勝機は無い。

しばらく経っても戦闘に大きな動きは無く、俺はゴーレムの攻撃を避け反撃するも、致命傷とならず直ぐに回復されるといった展開が続いた。


「そろそろですかね…やっぱり今のバンドウ様では厳しいか」

壱成の戦う姿を見つめながら、リリアは静かに呟く。そして、彼女は目の前の地面に何か模様を描き始める。

「でも…"あっちの"バンドウ様ならどうですかね?ふふっ」

普段の無垢な笑顔とは対照的な邪悪な笑みを浮かべるリリアが地面に描くのは魔法陣。それも並みの人間であれば、到底知り得る事の無いはずの魔法生物に関する複雑な魔法陣である。

「バンドウ様ー!!もう一体追加しますね~」

「え?!ちょっ、リリアさん?!」

リリアは大声で叫んだ後、魔法陣に向かって詠唱を始める。


今もう一体追加って言わなかった?!それってまさか…


「偉大なる地の精ノームよ。我に叡智と填星(てんせい)の魔を授け給え…創造人形(クリエイトドール)!」


リリアが詠唱を終えると、魔法陣は神秘的な光を発しながら回転し始める。

その後周囲の土が盛り上がり、次第に人型を形成すると…


「やっぱりね…」


壱成と相対しているクレイゴーレムと全く同じ造形をしたクレイゴーレムが生まれたのだった。


「さあ…ここから本番ですよ?バンドウ様?」


平然としているリリア嬢の笑顔に、最早恐怖を感じるようになってしまったが…この状況は本当に不味い。

クレイゴーレム一体でさえ成す術無しなのに、それが二体なんて…


しかしそんな途方にくれている壱成にクレイゴーレムが気を使うことなどなく、二体のクレイゴーレムは同時に壱成に襲いかかる。


「やばいって…これは流石に…」


それからしばらくの間、交互に攻撃を重ねてくるクレイゴーレムであったが…俺も間一髪のところで攻撃をかわし続けた。

これも生まれながらにしての能力のおかげか…。変な呪いを付けたことは決して許さないが、この力にはまあ、感謝しないこと無い。このまま行けば、勝つことは無いにしろ、決して負けることは…。


不意にリリア嬢を見ると、一瞬であったが…それまで見たことの無いような、無機質で人形のように冷たい表情を浮かべていた。

しかし、直ぐにいつものように明るい笑顔の彼女に戻っていた。

さっきのは気のせいだったのだろうか…。


兎に角、このままゴーレムたちの攻撃を避け続ければリリア嬢も満足してくれるだろう…後はもう少し頑張って…


「パチンッ!」


?!なんだ今の音は?!

音の方向を見ると、どうやらリリア嬢が指を鳴らしたようであった。

今のは一体…。


するとゴーレムたちの動きが一瞬止まり、そしてこれまでに無かった不規則な動きを見せる。

一体のゴーレムが足払いのように巨大な腕で俺の足元を狙って腕を回転させるようにして攻撃してきたのだ。

「危なっ!!………!!!」

それをかわそうとして大きくジャンプした俺だったが、それこそがゴーレムの…いや、彼女の狙いだったのだろうか、空中に飛び上がり身動きのとれない俺目掛けてもう一体のクレイゴーレムが巨大な腕を振り抜いた。


「ぐはっっっっっ!!」


殴られた直後、自分が今どこにいて何をしているのかわからなくなるくらい頭がぐちゃぐちゃになった感覚に陥った。

吹き飛ばされた俺は数メートルは後ろの木に激突して止まる。

たった一撃で全身の骨の至るところが折れたのがわかった。


「かはぁぁっ」

口からはそれまで経験したことの無い量の血が溢れ出てくる。


…油断した。相手は格上。一撃でも食らえば勝負がつく事くらいわかっていたのに。


視界がぼやけ、手や足…腕や脚の感覚が無く、動かそうとしても動かなかった。


それでもゴーレムたちはまだ俺に近づいて来る。


リリア嬢も流石に止めに入ってくれるでしょ…こんだけ戦ったんだからさ。


俺は朦朧とする意識の中で、残された力を振り絞り首を傾けてリリア嬢の方を見る。


…。



見るとリリア嬢は笑っていた。

俺の方をじっと見つめて、自身の細くて綺麗な指を舐めるように唇に這わせながら艶めかしく笑っていた。

しかし俺は、そんな彼女すらも美しく思った。

自身がボロ雑巾のようにされても、それを見て嘲笑されようとも、彼女は相変わらず美しかったのだ。

クレイゴーレムの足音は次第に俺に近づいて来る。

「ズンッ…ズンッッ…」

命令を受け、命令に忠実に動く魔法生物は主人の命があるかコアを破壊されるかしない限り止まることは無い。

しかし彼女が動く気配は無い。


俺の全身に走る痛みは最早激痛を通り越して、心地よく感じるようになってきた。

もう自分の生死なんてどうでも良いや。


俺は全てを放り投げて目を閉じる。



…。


「もう終わりですか?バンドウ様?」


誰かが目の前にいるような感覚があり、目を開けるといつの間にか目の前にリリア嬢の美しい顔があった。

リリア嬢の金髪が太陽に反射して眩しい…。

そしてそのリリア嬢の背後、命令を遂行しようと両腕を振り上げているクレイゴーレムの姿が目に入った。

しかし俺にはそんな力など残っては…。



「貴方の力…見せて下さいね」



リリア嬢は妖艶に笑うと、その宝石のように美しく整った顔を俺に近づける。そして彼女の唇が俺の唇に重なった。


それが俺のファーストキスだった。
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