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第1章「異世界と狂戦士」
「昇級試験」
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リリア嬢の部屋で2週間程療養した俺は、毎日リリア嬢がかけてくれた回復魔法の効果もあって、すっかり全回復したのだった。
療養生活中はリリア嬢とカップルのような甘い生活が待っていると思っていたのだが…
「私今日も深夜まで帰りませんので、適当に何か食べて下さいね。そこら辺に果物など置いて置いたので」
と言って深夜どころか朝方まで帰ってこないリリア嬢。
受付嬢としての仕事は夕方くらいに終わる筈なので、それ以降は諜報員としての活動をしているのだろう。結局リリア嬢の家に居たはずなのに、リリア嬢とは毎日朝方に数回程度会話を交わしただけであった。
そんなこんなで期待していた甘い療養生活とは程遠く、孤独で辛い2週間を過ごしたのだった。
まあ孤独なのは前世で慣れているので特に問題は無いが…。
怪我は完全に治ったのだが、俺自身孤児院を出てからずっと宿屋暮らしなので、それとなくこのままリリア嬢の家に泊まらせてもらっても大丈夫かと尋ねたところ…
「バンドウ様?私たちただでさえ噂になっているんですよ?これ以上周囲に親密な間柄だと思われると私の諜報活動に影響が出てしまいます」
と言ってはっきりと断られてしまった。
いや、そういう理由ならば仕方ないと思うが…何というか、その…ちょっとだけ寂しいような気持ちになった。
前世でこんな気持ちになることは無かったので、これがどういった感情なのかは分からないが…。…リリア嬢はどんな気持ちなのだろうか。
任務の為だけに俺と関わっているのか?そうだとしたら、その…悲しいというか…うーん、なんと言ったら良いか…なんだか胸が苦しくなるような感じだ。
様々な事を考えながら歩を進める壱成。
気が付くと今日の目的地である冒険者ギルドに到着していたようだ。
ミットレイア王国の辺境の街アルデア。国境沿いの小さな宿場町だが人や物の流通は盛んで、街の大通りは常に人で溢れている。
そんな大通りで一番目立つ建物。ガラス細工やレンガ、派手な装飾等ふんだんに用いられ作られた3階建ての冒険者ギルドは実用性…その機能においても豪勢な見た目通り非常に多岐に及ぶ。
一階部分は依頼の受け付けや報奨金のやり取り、冒険者登録などで利用される窓口とロビーには依頼が張り出される掲示板。それと酒場兼レストランのような食事処、他にも小さな売店があり、魔力回復薬や薬草などが販売されている。2、3階はギルド長の部屋や上級冒険者用の施設、受付嬢の控え室などが詰め込まれているらしいが、詳しくは分からない。まあ、俺も駆け出しの冒険者だしな…。
デパートのような施設が無いこの中世ヨーロッパ的な異世界において、冒険者ギルドとは様々な施設が凝縮された最先端の建物なのである。
そして建物の隣には庭…というか鍛錬場があり、今日の目的地はここだ。
鍛錬場に向かう前に俺は一回受け付けへと向かう。
「あら?バンドウ様じゃないですか!今日はどのようなご用件でしょうか?」
目の前にいる見知った顔の受付嬢はまさにマニュアル通りと言った台詞で声をかけて来るが…
「いや、リリアさん。貴女が昇級試験を受けろって言うから…」
「昇級試験に挑戦されるのですかっ?!凄いですバンドウ様!まだ冒険者登録からひと月程しか経っていないのに!!」
わざとらしく騒ぎ出すリリア嬢の声を聞いて、ロビーで待機していた冒険者たちが集まってくる。
「何だって?たった1か月で昇級試験を受けるのか?!」
「おいおい、リリア嬢に良いところを見せたいからって、それは無謀だぜ少年。普通は1年はかかるもんだからな!」
いつも冒険者ギルドにいるところを目にするベテラン風な冒険者が案の定騒ぎ立てる。
この手の輩はこういう騒ぎが大好きだしな…。というかリリア嬢、あなたが言い出した事なんですけど…
「9級への昇級試験って確か…召喚されたウッドゴーレムウォリアーを倒すんだったっけ?」
「ああ、自己再生に加えて硬い防御力は駆け出しにとってはなかなかの難敵になるはずだ」
野次馬が話している通り、9等級への昇級試験ではゴーレムウォリアーを戦闘不能にするといった内容の試験が課される。ゴーレムウォリアーはゴーレムの下位互換的な存在であり、よく労働力として農村や都市部、様々な場所で目にする魔法生物である。
媒介となった素材によって強さは異なるが、ウッドゴーレムウォリアー…木を媒介として召喚されたゴーレムウォリアーは冒険者でいうところの9等級程の実力であると言われている。まあ、だからこそ9等級への昇級試験で用いられるのだろうが…。
「それでは手続きの方をお願いしますね」
相変わらず他人行儀なリリア嬢。その感じに思うところがない訳ではないが…
まあ良いか、クレイゴーレムよりも2階級も下のランクにあたるウッドゴーレムウォリアーに負けるはずないしな。ささっと倒して酒場にでも行くか。酒場は色んな女の人と話せて楽しいんだよね。リリア嬢によって破壊されつつあるイケメンとしてのプライドを取り戻せるのさっ。
気楽に考えていた壱成であったが、突然現れた者によって彼の昇級試験に暗雲が立ち込める。
「この騒ぎはなんなの?なんだが人口密度高いわねここ」
冒険者ギルドの入り口から現れたのは…
「お、おいっ!!あれって…」
「ああ…時期近衛騎士団聖魔剣士長筆頭、月の魔術師(ムーンソーサラー)ルナ・マーキュリーだ!」
冒険者たちの注目を一手に集めた、どこか聞き覚えのある名前の女は、体の至る所を淫らに露出させた変態お姉さんであった。
療養生活中はリリア嬢とカップルのような甘い生活が待っていると思っていたのだが…
「私今日も深夜まで帰りませんので、適当に何か食べて下さいね。そこら辺に果物など置いて置いたので」
と言って深夜どころか朝方まで帰ってこないリリア嬢。
受付嬢としての仕事は夕方くらいに終わる筈なので、それ以降は諜報員としての活動をしているのだろう。結局リリア嬢の家に居たはずなのに、リリア嬢とは毎日朝方に数回程度会話を交わしただけであった。
そんなこんなで期待していた甘い療養生活とは程遠く、孤独で辛い2週間を過ごしたのだった。
まあ孤独なのは前世で慣れているので特に問題は無いが…。
怪我は完全に治ったのだが、俺自身孤児院を出てからずっと宿屋暮らしなので、それとなくこのままリリア嬢の家に泊まらせてもらっても大丈夫かと尋ねたところ…
「バンドウ様?私たちただでさえ噂になっているんですよ?これ以上周囲に親密な間柄だと思われると私の諜報活動に影響が出てしまいます」
と言ってはっきりと断られてしまった。
いや、そういう理由ならば仕方ないと思うが…何というか、その…ちょっとだけ寂しいような気持ちになった。
前世でこんな気持ちになることは無かったので、これがどういった感情なのかは分からないが…。…リリア嬢はどんな気持ちなのだろうか。
任務の為だけに俺と関わっているのか?そうだとしたら、その…悲しいというか…うーん、なんと言ったら良いか…なんだか胸が苦しくなるような感じだ。
様々な事を考えながら歩を進める壱成。
気が付くと今日の目的地である冒険者ギルドに到着していたようだ。
ミットレイア王国の辺境の街アルデア。国境沿いの小さな宿場町だが人や物の流通は盛んで、街の大通りは常に人で溢れている。
そんな大通りで一番目立つ建物。ガラス細工やレンガ、派手な装飾等ふんだんに用いられ作られた3階建ての冒険者ギルドは実用性…その機能においても豪勢な見た目通り非常に多岐に及ぶ。
一階部分は依頼の受け付けや報奨金のやり取り、冒険者登録などで利用される窓口とロビーには依頼が張り出される掲示板。それと酒場兼レストランのような食事処、他にも小さな売店があり、魔力回復薬や薬草などが販売されている。2、3階はギルド長の部屋や上級冒険者用の施設、受付嬢の控え室などが詰め込まれているらしいが、詳しくは分からない。まあ、俺も駆け出しの冒険者だしな…。
デパートのような施設が無いこの中世ヨーロッパ的な異世界において、冒険者ギルドとは様々な施設が凝縮された最先端の建物なのである。
そして建物の隣には庭…というか鍛錬場があり、今日の目的地はここだ。
鍛錬場に向かう前に俺は一回受け付けへと向かう。
「あら?バンドウ様じゃないですか!今日はどのようなご用件でしょうか?」
目の前にいる見知った顔の受付嬢はまさにマニュアル通りと言った台詞で声をかけて来るが…
「いや、リリアさん。貴女が昇級試験を受けろって言うから…」
「昇級試験に挑戦されるのですかっ?!凄いですバンドウ様!まだ冒険者登録からひと月程しか経っていないのに!!」
わざとらしく騒ぎ出すリリア嬢の声を聞いて、ロビーで待機していた冒険者たちが集まってくる。
「何だって?たった1か月で昇級試験を受けるのか?!」
「おいおい、リリア嬢に良いところを見せたいからって、それは無謀だぜ少年。普通は1年はかかるもんだからな!」
いつも冒険者ギルドにいるところを目にするベテラン風な冒険者が案の定騒ぎ立てる。
この手の輩はこういう騒ぎが大好きだしな…。というかリリア嬢、あなたが言い出した事なんですけど…
「9級への昇級試験って確か…召喚されたウッドゴーレムウォリアーを倒すんだったっけ?」
「ああ、自己再生に加えて硬い防御力は駆け出しにとってはなかなかの難敵になるはずだ」
野次馬が話している通り、9等級への昇級試験ではゴーレムウォリアーを戦闘不能にするといった内容の試験が課される。ゴーレムウォリアーはゴーレムの下位互換的な存在であり、よく労働力として農村や都市部、様々な場所で目にする魔法生物である。
媒介となった素材によって強さは異なるが、ウッドゴーレムウォリアー…木を媒介として召喚されたゴーレムウォリアーは冒険者でいうところの9等級程の実力であると言われている。まあ、だからこそ9等級への昇級試験で用いられるのだろうが…。
「それでは手続きの方をお願いしますね」
相変わらず他人行儀なリリア嬢。その感じに思うところがない訳ではないが…
まあ良いか、クレイゴーレムよりも2階級も下のランクにあたるウッドゴーレムウォリアーに負けるはずないしな。ささっと倒して酒場にでも行くか。酒場は色んな女の人と話せて楽しいんだよね。リリア嬢によって破壊されつつあるイケメンとしてのプライドを取り戻せるのさっ。
気楽に考えていた壱成であったが、突然現れた者によって彼の昇級試験に暗雲が立ち込める。
「この騒ぎはなんなの?なんだが人口密度高いわねここ」
冒険者ギルドの入り口から現れたのは…
「お、おいっ!!あれって…」
「ああ…時期近衛騎士団聖魔剣士長筆頭、月の魔術師(ムーンソーサラー)ルナ・マーキュリーだ!」
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