10 / 14
シリーズ002
003
しおりを挟む
「……で、この町に何しに来たんだ?」
「仕事ついでに君の顔を見に来たのに、随分な言い種だね」
カウンターに肘を突いてグラスを傾けるライに、メレディスは逆に背を預けながら話しかけた。
互いに武器は外側に立てかけているが、いつでも手に取れる位置にある。警戒心がどちらに向いているのか分からないまま、酒盛りは続く。
「心配しなくても、君の縄張りを荒らしに来た訳じゃないよ。ここに来たのだって、荷物運びの代理だし」
「荷物運びの代理、ってまさか養母の?」
「当たり」
元々、ライの養母であるエルザは、町の外から定期的に荷物を受け取っていた。本来ならば同じ人間が運んでくるのだが……。
「ちょっと別口の仕事が長引いてしまったらしくてね。急ぎの分だけボクが代理で運んできたんだ。君の様子も見たかったしね」
「……そりゃさぞかし落胆しただろうな。その日の風俗すら怪しい日々なんて」
「もう少し健全に生きたらいいのに……」
呆れて溜息が漏れるメレディスだが、丁度店の外に出ようとする女性が視界に映り、表情が一変する。
「ごめん、ちょっと待っててくれる?」
「どうした?」
突如、態度を変えたメレディスに訝しげな視線を向けるも、ライが止める間もなく席を立ち、店を出ようとする女性に声を掛けていた。
「いったい……げっ!?」
メレディスが声を掛けていたのは、今日一緒に仕事をした一人、フランソワーズ・ハイヒールだった。次に仕事が入るまで会うつもりが無かったのに、まさか夜も明けない内に会うことになるとは、ライも予想がついていなかった。
そもそも、メレディスとは昔からの付き合いで、一時期別の町で組んでいたことがある程度だ。その時から一人で食っていくには困らない実力を持ち合わせていたから、騎士団との付き合いは特にないはずだが……。
「おまたせ。いやまさか、ライと知り合いとは思わなかったよ」
「すまない、ライ・スニーカー。セッタ殿から彼女が昔馴染みと伺っていたので、店を出ようとしたのだが……」
「いいよ、別に……」
片手を額につけて呻くが、事態は好転しないと一つ訂正を加えておくことにした。
「……後ついでに言っておくと、そいつ男」
「なっ!?」
中性的で紛らわしい格好をしている昔馴染みは、カラカラと笑っていた。
人数が増えたこともあり、ライ達は最初フランソワーズとセッタが座っていたテーブル席に移動した。セッタは既に席を立っていたが、丁度店員が片付けを終えたところだったので、すんなりと座れたのだ。
「セッタも居たのか?」
「ああ、あなた達が入ってきたので私は席を立ったんだ。おそらく一緒に出ていったんだろう」
とはいえ、入り口は一つで先に席を立ったのはフランソワーズ、しかもメレディスが声を掛けてから誰かが店を出た気配はなく、なのにテーブル席は既に空。
「あいつ……食い逃げしてないよな?」
「いや、そこはどうやって移動したのかを疑問に思うんじゃないの普通?」
話だけ聞いて、メレディスは『なんだその情報屋は?』と頭に疑問符を浮かべていたが、ライはいつものことと軽く流させた。
この世界には、考えるだけ無駄な問題もある。
「それで、どうしてこいつ連れてきたんだ?」
「私もそれが知りたい。そもそも、私とあなたは初対面の筈だが?」
背もたれに片腕を掛けて体重を乗せるライと、逆にテーブル席に組んだ手を置くフランソワーズの視線を受けたメレディスは、懐から丸めた一枚の羊皮紙を取り出し、留め紐を外してからテーブルの上に広げる。
「これを読めば分かるよ。実は、荷物運びの仕事を引き受けたのはついでで、本命はこっちについてなんだ」
「どっちにしてもこの町に用事があったのか……『辞令』?」
軽く流し読みし、脳に内容を理解させていく二人。徐々に浸透していく内容に、思わずメレディスと羊皮紙を交互に見比べる。
大仰な言葉が羅列されているが、端的にまとめると一言で事足りた。
曰く、『メレディス・モカシンを五大国家が一つ『ペイズ』の勇者として認め、魔王討伐の任を与える』とのことだった。
『ペイズ』はこの大陸世界『アクシリンシ』に存在する東西南北と中央を統べる国家の一つで、西方最大の国家だ。ライも昔、エルザと共によく訪れていた場所であり、『ケルベロス』とは桁違いの規模を誇っている。
……筈なのに。
「……お前が勇者?」
「この間武術大会に出て優勝したんだけど、まさか副賞が魔王討伐なんてね」
ついでに言えば、西方の国で勇者を輩出しているのは『ペイズ』くらいで、寂れた風土の目立つこの地域では小国だと国営すらままならない。だからと魔界を放置するわけにはいかず、『ペイズ』が勇者を輩出するのも半分以上押しつけられたからである。
肩を竦めるメレディスを置いて、ライはフランソワーズに耳打ちした。
「『ペイズ』一応大国家だろ。大丈夫か?」
「聞くな。私もここまで人材不足かつ強引な手段を用いてくるとは思ってなかったんだ……」
この日、フランソワーズは普段以上に酒を飲みたくなったが、どうにか抑えたとか。
「仕事ついでに君の顔を見に来たのに、随分な言い種だね」
カウンターに肘を突いてグラスを傾けるライに、メレディスは逆に背を預けながら話しかけた。
互いに武器は外側に立てかけているが、いつでも手に取れる位置にある。警戒心がどちらに向いているのか分からないまま、酒盛りは続く。
「心配しなくても、君の縄張りを荒らしに来た訳じゃないよ。ここに来たのだって、荷物運びの代理だし」
「荷物運びの代理、ってまさか養母の?」
「当たり」
元々、ライの養母であるエルザは、町の外から定期的に荷物を受け取っていた。本来ならば同じ人間が運んでくるのだが……。
「ちょっと別口の仕事が長引いてしまったらしくてね。急ぎの分だけボクが代理で運んできたんだ。君の様子も見たかったしね」
「……そりゃさぞかし落胆しただろうな。その日の風俗すら怪しい日々なんて」
「もう少し健全に生きたらいいのに……」
呆れて溜息が漏れるメレディスだが、丁度店の外に出ようとする女性が視界に映り、表情が一変する。
「ごめん、ちょっと待っててくれる?」
「どうした?」
突如、態度を変えたメレディスに訝しげな視線を向けるも、ライが止める間もなく席を立ち、店を出ようとする女性に声を掛けていた。
「いったい……げっ!?」
メレディスが声を掛けていたのは、今日一緒に仕事をした一人、フランソワーズ・ハイヒールだった。次に仕事が入るまで会うつもりが無かったのに、まさか夜も明けない内に会うことになるとは、ライも予想がついていなかった。
そもそも、メレディスとは昔からの付き合いで、一時期別の町で組んでいたことがある程度だ。その時から一人で食っていくには困らない実力を持ち合わせていたから、騎士団との付き合いは特にないはずだが……。
「おまたせ。いやまさか、ライと知り合いとは思わなかったよ」
「すまない、ライ・スニーカー。セッタ殿から彼女が昔馴染みと伺っていたので、店を出ようとしたのだが……」
「いいよ、別に……」
片手を額につけて呻くが、事態は好転しないと一つ訂正を加えておくことにした。
「……後ついでに言っておくと、そいつ男」
「なっ!?」
中性的で紛らわしい格好をしている昔馴染みは、カラカラと笑っていた。
人数が増えたこともあり、ライ達は最初フランソワーズとセッタが座っていたテーブル席に移動した。セッタは既に席を立っていたが、丁度店員が片付けを終えたところだったので、すんなりと座れたのだ。
「セッタも居たのか?」
「ああ、あなた達が入ってきたので私は席を立ったんだ。おそらく一緒に出ていったんだろう」
とはいえ、入り口は一つで先に席を立ったのはフランソワーズ、しかもメレディスが声を掛けてから誰かが店を出た気配はなく、なのにテーブル席は既に空。
「あいつ……食い逃げしてないよな?」
「いや、そこはどうやって移動したのかを疑問に思うんじゃないの普通?」
話だけ聞いて、メレディスは『なんだその情報屋は?』と頭に疑問符を浮かべていたが、ライはいつものことと軽く流させた。
この世界には、考えるだけ無駄な問題もある。
「それで、どうしてこいつ連れてきたんだ?」
「私もそれが知りたい。そもそも、私とあなたは初対面の筈だが?」
背もたれに片腕を掛けて体重を乗せるライと、逆にテーブル席に組んだ手を置くフランソワーズの視線を受けたメレディスは、懐から丸めた一枚の羊皮紙を取り出し、留め紐を外してからテーブルの上に広げる。
「これを読めば分かるよ。実は、荷物運びの仕事を引き受けたのはついでで、本命はこっちについてなんだ」
「どっちにしてもこの町に用事があったのか……『辞令』?」
軽く流し読みし、脳に内容を理解させていく二人。徐々に浸透していく内容に、思わずメレディスと羊皮紙を交互に見比べる。
大仰な言葉が羅列されているが、端的にまとめると一言で事足りた。
曰く、『メレディス・モカシンを五大国家が一つ『ペイズ』の勇者として認め、魔王討伐の任を与える』とのことだった。
『ペイズ』はこの大陸世界『アクシリンシ』に存在する東西南北と中央を統べる国家の一つで、西方最大の国家だ。ライも昔、エルザと共によく訪れていた場所であり、『ケルベロス』とは桁違いの規模を誇っている。
……筈なのに。
「……お前が勇者?」
「この間武術大会に出て優勝したんだけど、まさか副賞が魔王討伐なんてね」
ついでに言えば、西方の国で勇者を輩出しているのは『ペイズ』くらいで、寂れた風土の目立つこの地域では小国だと国営すらままならない。だからと魔界を放置するわけにはいかず、『ペイズ』が勇者を輩出するのも半分以上押しつけられたからである。
肩を竦めるメレディスを置いて、ライはフランソワーズに耳打ちした。
「『ペイズ』一応大国家だろ。大丈夫か?」
「聞くな。私もここまで人材不足かつ強引な手段を用いてくるとは思ってなかったんだ……」
この日、フランソワーズは普段以上に酒を飲みたくなったが、どうにか抑えたとか。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる