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018 罪悪感に悩まされています。
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翌日から何度か、用事が片付いた態で公彦は未晴に電話をしていた。しかし呼び出し音は鳴るものの、相手から一向に応答がないので、仕方なくスマホを降ろすのを繰り返している。
計画は上手くいったものの、それ自体が彼女の状況を好転させるとは限らない。むしろ正体がばれた上に被害届を出された日には、これまで世話になっていたゴロウに合わせる顔がなかった。
ちなみに両親はどうでもいい。どうせここ最近は顔すら見ていないのだから。
「酷い顔だね。公彦君」
「色々あってな……」
数日後の放課後、寝不足だが眠れない心理状態の中だが、それでも習慣が抜けずに美術部の部室へと遊びに来ていた。しかし今日も他の部員は不在で、中にいるのは公彦と萌佳の二人だけだった。
「ここのところ忙しかったみたいだし、少し休んだ方が……」
「そうしたいんだけどな……」
ゴロウの元でバイトをしていた時は、こんなことはなかった。ただ運んだだけなので、実感が湧かなかったのかもしれない。しかし、実際に行動した後は違った。
弾を抜いていたとはいえ銃を握ったことも、未晴を強姦したことも。
実際に犯している時は何ともなかったのだが、未晴という被害者のことを思い出すたびに、今でも飛び起きてしまう。
今の公彦は、眠りたいのに眠れないという状態が続いていた。
「ゆっくり休めないんだよ」
「何かあったの?」
「……なあ、萌佳」
いい機会かもしれない。
そう考えた公彦は、立ち上がると萌佳に声を掛けた。
「お前、口固い方だっけ?」
「……やっぱり、御両親のこと、怒ってるの?」
「いや、今のは嫌味じゃなくて……」
単純に口が堅い方なのかを聞いただけなのだが、よく考えれば、旧知の幼馴染が簡単に秘密を話すような人間でないことは、公彦が一番よく分かっていることだった。
「……今日、家に来ないか?」
部活を終えた後、萌佳と一緒に帰ってきた公彦は、彼女を家に連れ込むとそのまま自室へと案内した。
昔はよく互いの部屋を行き来していたのだが、萌佳が見た時には当時の名残はなく、むしろ寂しげに見えたほどだった。
「もしかしたら、近いうちにいなくなるかもしれないからな……せっかくだし話しとく」
おそらく、誰かに話したかったのだろう。公彦はゆっくりと、だが一つ一つ丁寧に、説明を始めた。
両親と離れて生きるためにバイトをしていたこと。その過程で少し危ない橋だが、高給なバイトで稼いでいたので資金に余裕ができてきたこと。
そして未晴との出会いと……その結末について。
全て、正直に。
「そっ、か……」
「『恋は人を惑わす』っていうけど……本当みたいだな」
証拠としてもうすぐ一杯になるはずだったが、出費がかさんで叶わなくなった二個目の手提げ金庫の蓋を閉じながら、公彦はそう締めくくった。
「ちなみに一個目の金庫だが……少し前に萌佳の家のガーデニング手伝っただろ?」
「……花壇に埋めたの?」
「正確にはこの家のプランターに、だけどな。余った苗分けてくれたよな?」
昔は公彦の両親も、仲良くガーデニングをしていた時期があった。
その時のプランターを適当に引っ張り出し、満杯になった金庫を置いてから土を被せた。防水処理も施し、高さもあるのを用いたので、後は毎日、花に水を撒いてさえいればいい。そうすれば、何かあってもすぐに気づけるのだから。
「庭に埋めても良かったけど、そっちの方が隠しやすいしな」
「うん。そう、だね……」
しかし萌佳は、どこか安堵したような表情を浮かべていた。
確かに公彦か今まで行ってきたのは犯罪だが、それでも、普段の行動は人の道からそこまで、外れているわけではなかった。
「でも……どうして私に?」
「……警察が来たら、俺はここからいなくなるからな」
警察に掴まって刑務所送りになるのか、それとも逃亡者としてこの地を去るのかは未だ分からない。しかし、一個目の金庫に手を伸ばすことは難しいだろう。特に、急ぎの対応を迫られるかもしれない、今の状況では。
「こっちの金庫だけでも、別の場所で家族を亡くした振りをしながら生きていくのは可能だ。少なくとも、また働けるように足掻くことはできると思う。それでも、先立つものは多い方がいい」
そこまで言うと、公彦は一度首を振り、言葉を切った。
「まあ、実際のところは……誰かに、話したかっただけなんだよ」
もしここに銃があれば、なんて想像はしたくなかった。
撃てない銃を握っていただけでも、酷い罪悪感に襲われてしまうというのに。
「なあ、萌佳……」
ベッドに並んで腰かけていた二人だが、公彦に不意に肩を押されてしまい、揃って寝転がってしまう。
そのまま公彦は跳ね起き、萌佳へと覆い被さった。
「俺はさ……勝手、なんだよ」
このまま押し倒せば、萌佳を犯すことだってできる。
しかし、公彦は手を出さないだろう。未晴の時とは違い、何の大義名分のないのだから。
「自分なりの理由さえあれば、犯罪だって犯せる。そう考えられる、最低の人間なんだよ……」
もしかしたら、心の奥底では拒絶して欲しかったのかもしれない。
元々、両親からは愛されているかどうかすら分からないのだ。このまま一人で生きていくことになっても、公彦は多分、その人生を受け入れられるだろう。
なのに、その手を……
「駄目だよ、公彦君……」
……萌佳は、迷わず掴んだ。
「公彦君は……ただ、やりかたを間違えただけ」
公彦の腕を、身体を、ただ黙って……掴んだだけだった。
「手段は間違えたけど、目的は、公彦君がやりたいと思ったことは……間違ってないよ」
ふと、安心して気が抜けそうになる。
それだけ、今の公彦にとって、ようやく安らげる場所に巡り合えたのだから。
「だから、この先どうなっても……その優しさは、なくさないで欲しいな」
「……努力します」
気がつけば、ベッドの上で互いに、横になって向かい合っていた。
そして公彦の顔は、萌佳の胸元に埋まっている。
(でかいな……)
しかし、今の公彦に性的な興奮は生まれなかった。
(胸も…………こころ、も……………………)
未晴を強姦してからようやく、公彦は初めて、熟睡することができた。
「……あ、公彦君。起きた?」
「ん……今何時だ?」
すでに、夜遅い時間帯となっていた。さすがに夕飯時なので、起きていた萌佳は一度離れて、家の方に電話を掛けていたらしい。
「これから夕飯だけど……公彦君も一緒に食べない?」
「止めとく……いや、大丈夫だ」
心配そうな萌佳の視界を遮るように、公彦は手を振った。
実際、食が細くなっている自覚もあったが、一度ゆっくりと寝たからか、他の間隔も少し戻ってきている自覚があった。
「ちょっと、しっかり食べてくる。家まで送るよ」
「うん、分かった……」
そして萌佳を送り届けてから、公彦は、夜の街へと繰り出していった。
制服からは着替えているので、後は堂々としておけば巡回中の警官に補導されることもないだろう。
それに……もし捕まるとしたら、それは事前に、逮捕状が作成されているはずだから。
「……あれ?」
家から少し離れた路地裏。そこにいたのは、クロと名乗った男だった。
「なんで、ここに……」
「一つ、言うべきことができてね……」
彼は近くの壁にもたれると、公彦の方を無為ら状態で話し始めた。
「俺はね、一応学校には通わされていたけど……当時、自分だけは、一般常識を学ぶための塾みたいな感覚で通っていた。詳しく話す気はないよ。ただ、俺は、自分の本当の名前が嫌いなんだ」
理由を聞いてはいけない。それは、二十歳にも満たない公彦にも理解できた。
「だから、普段からクロとか、適当な名前をでっち上げて誤魔化したりしていたんだけどね……正直、彼女を甘く見ていた」
彼女、という言葉に、公彦の脳裏に冷たい感覚が生まれる。
「俺は、小学校時代の彼女とは同級生だった。実際に調べるまでは気付かなかったけど、向こうにはまだ、その時の写真が残っていたんだろうね……」
公彦のスマホが、通話を受信して鳴り響く。
「……そこから本名を辿られて、今朝問い詰められた。本名含めて、現状をあまり広げて欲しくなかったから」
発信者は、『柄澤未晴』となっていた。
「…………ごめん、君を売った」
計画は上手くいったものの、それ自体が彼女の状況を好転させるとは限らない。むしろ正体がばれた上に被害届を出された日には、これまで世話になっていたゴロウに合わせる顔がなかった。
ちなみに両親はどうでもいい。どうせここ最近は顔すら見ていないのだから。
「酷い顔だね。公彦君」
「色々あってな……」
数日後の放課後、寝不足だが眠れない心理状態の中だが、それでも習慣が抜けずに美術部の部室へと遊びに来ていた。しかし今日も他の部員は不在で、中にいるのは公彦と萌佳の二人だけだった。
「ここのところ忙しかったみたいだし、少し休んだ方が……」
「そうしたいんだけどな……」
ゴロウの元でバイトをしていた時は、こんなことはなかった。ただ運んだだけなので、実感が湧かなかったのかもしれない。しかし、実際に行動した後は違った。
弾を抜いていたとはいえ銃を握ったことも、未晴を強姦したことも。
実際に犯している時は何ともなかったのだが、未晴という被害者のことを思い出すたびに、今でも飛び起きてしまう。
今の公彦は、眠りたいのに眠れないという状態が続いていた。
「ゆっくり休めないんだよ」
「何かあったの?」
「……なあ、萌佳」
いい機会かもしれない。
そう考えた公彦は、立ち上がると萌佳に声を掛けた。
「お前、口固い方だっけ?」
「……やっぱり、御両親のこと、怒ってるの?」
「いや、今のは嫌味じゃなくて……」
単純に口が堅い方なのかを聞いただけなのだが、よく考えれば、旧知の幼馴染が簡単に秘密を話すような人間でないことは、公彦が一番よく分かっていることだった。
「……今日、家に来ないか?」
部活を終えた後、萌佳と一緒に帰ってきた公彦は、彼女を家に連れ込むとそのまま自室へと案内した。
昔はよく互いの部屋を行き来していたのだが、萌佳が見た時には当時の名残はなく、むしろ寂しげに見えたほどだった。
「もしかしたら、近いうちにいなくなるかもしれないからな……せっかくだし話しとく」
おそらく、誰かに話したかったのだろう。公彦はゆっくりと、だが一つ一つ丁寧に、説明を始めた。
両親と離れて生きるためにバイトをしていたこと。その過程で少し危ない橋だが、高給なバイトで稼いでいたので資金に余裕ができてきたこと。
そして未晴との出会いと……その結末について。
全て、正直に。
「そっ、か……」
「『恋は人を惑わす』っていうけど……本当みたいだな」
証拠としてもうすぐ一杯になるはずだったが、出費がかさんで叶わなくなった二個目の手提げ金庫の蓋を閉じながら、公彦はそう締めくくった。
「ちなみに一個目の金庫だが……少し前に萌佳の家のガーデニング手伝っただろ?」
「……花壇に埋めたの?」
「正確にはこの家のプランターに、だけどな。余った苗分けてくれたよな?」
昔は公彦の両親も、仲良くガーデニングをしていた時期があった。
その時のプランターを適当に引っ張り出し、満杯になった金庫を置いてから土を被せた。防水処理も施し、高さもあるのを用いたので、後は毎日、花に水を撒いてさえいればいい。そうすれば、何かあってもすぐに気づけるのだから。
「庭に埋めても良かったけど、そっちの方が隠しやすいしな」
「うん。そう、だね……」
しかし萌佳は、どこか安堵したような表情を浮かべていた。
確かに公彦か今まで行ってきたのは犯罪だが、それでも、普段の行動は人の道からそこまで、外れているわけではなかった。
「でも……どうして私に?」
「……警察が来たら、俺はここからいなくなるからな」
警察に掴まって刑務所送りになるのか、それとも逃亡者としてこの地を去るのかは未だ分からない。しかし、一個目の金庫に手を伸ばすことは難しいだろう。特に、急ぎの対応を迫られるかもしれない、今の状況では。
「こっちの金庫だけでも、別の場所で家族を亡くした振りをしながら生きていくのは可能だ。少なくとも、また働けるように足掻くことはできると思う。それでも、先立つものは多い方がいい」
そこまで言うと、公彦は一度首を振り、言葉を切った。
「まあ、実際のところは……誰かに、話したかっただけなんだよ」
もしここに銃があれば、なんて想像はしたくなかった。
撃てない銃を握っていただけでも、酷い罪悪感に襲われてしまうというのに。
「なあ、萌佳……」
ベッドに並んで腰かけていた二人だが、公彦に不意に肩を押されてしまい、揃って寝転がってしまう。
そのまま公彦は跳ね起き、萌佳へと覆い被さった。
「俺はさ……勝手、なんだよ」
このまま押し倒せば、萌佳を犯すことだってできる。
しかし、公彦は手を出さないだろう。未晴の時とは違い、何の大義名分のないのだから。
「自分なりの理由さえあれば、犯罪だって犯せる。そう考えられる、最低の人間なんだよ……」
もしかしたら、心の奥底では拒絶して欲しかったのかもしれない。
元々、両親からは愛されているかどうかすら分からないのだ。このまま一人で生きていくことになっても、公彦は多分、その人生を受け入れられるだろう。
なのに、その手を……
「駄目だよ、公彦君……」
……萌佳は、迷わず掴んだ。
「公彦君は……ただ、やりかたを間違えただけ」
公彦の腕を、身体を、ただ黙って……掴んだだけだった。
「手段は間違えたけど、目的は、公彦君がやりたいと思ったことは……間違ってないよ」
ふと、安心して気が抜けそうになる。
それだけ、今の公彦にとって、ようやく安らげる場所に巡り合えたのだから。
「だから、この先どうなっても……その優しさは、なくさないで欲しいな」
「……努力します」
気がつけば、ベッドの上で互いに、横になって向かい合っていた。
そして公彦の顔は、萌佳の胸元に埋まっている。
(でかいな……)
しかし、今の公彦に性的な興奮は生まれなかった。
(胸も…………こころ、も……………………)
未晴を強姦してからようやく、公彦は初めて、熟睡することができた。
「……あ、公彦君。起きた?」
「ん……今何時だ?」
すでに、夜遅い時間帯となっていた。さすがに夕飯時なので、起きていた萌佳は一度離れて、家の方に電話を掛けていたらしい。
「これから夕飯だけど……公彦君も一緒に食べない?」
「止めとく……いや、大丈夫だ」
心配そうな萌佳の視界を遮るように、公彦は手を振った。
実際、食が細くなっている自覚もあったが、一度ゆっくりと寝たからか、他の間隔も少し戻ってきている自覚があった。
「ちょっと、しっかり食べてくる。家まで送るよ」
「うん、分かった……」
そして萌佳を送り届けてから、公彦は、夜の街へと繰り出していった。
制服からは着替えているので、後は堂々としておけば巡回中の警官に補導されることもないだろう。
それに……もし捕まるとしたら、それは事前に、逮捕状が作成されているはずだから。
「……あれ?」
家から少し離れた路地裏。そこにいたのは、クロと名乗った男だった。
「なんで、ここに……」
「一つ、言うべきことができてね……」
彼は近くの壁にもたれると、公彦の方を無為ら状態で話し始めた。
「俺はね、一応学校には通わされていたけど……当時、自分だけは、一般常識を学ぶための塾みたいな感覚で通っていた。詳しく話す気はないよ。ただ、俺は、自分の本当の名前が嫌いなんだ」
理由を聞いてはいけない。それは、二十歳にも満たない公彦にも理解できた。
「だから、普段からクロとか、適当な名前をでっち上げて誤魔化したりしていたんだけどね……正直、彼女を甘く見ていた」
彼女、という言葉に、公彦の脳裏に冷たい感覚が生まれる。
「俺は、小学校時代の彼女とは同級生だった。実際に調べるまでは気付かなかったけど、向こうにはまだ、その時の写真が残っていたんだろうね……」
公彦のスマホが、通話を受信して鳴り響く。
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