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019 犯罪者として扱われています。
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「ほぉら犯罪者。キリキリ働く~」
「はいぃ……」
公彦は未晴にうながされるまま、段ボールを担いで部屋の外へと出て行った。
下にはクロと名乗った男がレンタルで借りてきたトラックの運転席に腰掛け、新聞を広げて読んでいる。
「あの~、クロ? さん……少しは手伝ってくださいよ」
「だから家具を運ぶ時に手伝うって。留守番しとかないと、駐禁で罰金取られるかもしれないんだし」
その留守番役も、もうすぐ来るらしい。今日は通院の日とかで、病院帰りにそのまま来てくれるとのことだが、いまだに姿を現していなかった。
「それ以前に、家具は処分する予定じゃないですか……」
「……それもそうだ」
新聞を畳むと運転席から外に出て、公彦からダンボール箱を受け取るとそのまま荷台に詰め込んだ。4Tクラスなので多少の広さはあるが、転落防止のために固定しやすいよう、角の隅から詰めるのを忘れずに。
「そういえば、トラックの免許持ってるんですか?」
「一応……一通りは運転できるよ」
言葉にしてそれだけだ。運転はともかく、免許に関しては一言も発していない。
「まあ、技術はあるから大丈夫だよ。昔トレーラーヘッドも運転してたことあるし」
「へぇ……何運んでたんですか?」
「鉄製品だよ。たしか……『どらごのぶ』って誰かが言ってたから、そうしとこう」
「『どらごのぶ』って、もしかして……」
(……ロシア製のあの有名なライフルじゃあ?)
訂正含めて詳しく聞くのが怖くなり、公彦は口を閉ざして未晴の元へと戻ることにした。その背中に声が掛かる。
「連れが来たらそっち手伝いに行くから、今は一人で頑張って」
「分かりました。ところで……」
公彦は今日、ここに来てからずっと疑問に思っていたことをようやく口にした。
「……どうして顔が傷だらけなんですか?」
「新塚さんを昔の女と勘違いしたご主人様に引っかかれたんだよ」
新聞で隠れていた顔をさすりながら、クロと名乗った男は溜息を漏らした。
ちなみに新塚とは、未晴の旧姓である。
『はぁい、強姦魔君。元気~?』
電話に出て、真っ先に掛けられた言葉の時点でこれだった。もう言い逃れができない。
「どうして、分かったんですか……?」
『いやぁ~最初は全然気付かなかったけどね』
クロと名乗った男は公彦と距離を詰めることなく、ただ成り行きを見守っていた。
それ以前に、今の公彦には周囲を気遣う余裕がなかったのだが。
『実家に帰ったら懐かしい顔を見たとか母さんが言うから確認してみたら、白ふ―いや違ったクロ君だっけ? まあ昔馴染みだったから驚いて……そのまま彼の保護者からたどって、公彦君にたどりついたわけ。お分かり?』
「はい……」
ここまでは事前に聞かされた通りだったが、この後、何を言われるのかは見当がつかない。
何を言われるのか分からず恐々としている公彦だが……その次の言葉には、ただ普通に驚いていた。
『というわけで訴えられたくなかったら……引越手伝いに来い』
「え……?」
そして今日、公彦は未晴が住む公共住宅の一室で引っ越し作業を手伝っていた。
まとめた荷物を公彦が運び、それをクロと名乗った男が借りてきた4Tトラックに積み込む。その繰り返しで必要な荷物全てを出し終えると、未晴はトラックを引っ越し先へと、先に向かわせた。
「……実家に、帰ることにしたの」
近隣住民用に用意された公園に、未晴は公彦と二人だけでいた。
まだ昼間だが、今日は平日と言うこともあり、他の利用者が一人もいない。公彦も、今日だけは学校をさぼって引っ越しの手伝いに来ていた。断りづらかったのもあるが、休日まで待ち切れず、すぐに片付けたいという身勝手な理由も含まれている。
「あのまま家にいても仕方ないからさ~。一度実家に帰ったんだけど……『一回やり直そう』、って母さんに説得されてね」
何か飲む? とばかりに未晴が自販機を指差してくるが、公彦は首を振るだけで、言葉を返さなかった。
「それで旦那の実家に行ってけじめつけた後、行為の度にいちいち避妊するおかしな強姦魔探そうと昔馴染みの家に行ったら……笑えた。ねえ、聞いた? あいつ女子高生くらいの娘に飼われてやんの。ウケたわ~」
正直、クロと名乗った男の人生も気になるが、今の公彦には自身の今後の方が気になって仕方がなかった。
「まあ、それよりも…………本気で怖かったんだけど」
「はい……」
声音が変わる。
それだけで、今の未晴から発せられる怒りの感情が、本物であることを物語っていた。
「おまけに銃の運び人? 妙にお金持ってると思っていたら、元から犯罪者だったわけか……」
「もう……足を洗いましたよ。というか、クビになりました」
そのゴロウとは、未晴を強姦した日以降、連絡を取っていない。そもそも、連絡自体つくのかも怪しいものだが。
「年下の子供のくせに、危ないことしていると思えば最後に私まで強姦しちゃって……元からそのつもりだった?」
「言い訳にしかなりませんが……いいえ」
公彦は地面を見つめたまま、いや、顔を上げられないまま、未晴の疑問を否定した。
「あわよくば、とは思ってましたよ。でも、さすがに……強姦までは考えていませんでした」
「でも私を強姦した」
「…………はい」
この後どうなるのかは、公彦には分からない。それこそ未晴次第だ。
だからこそ、公彦は、未晴の言葉を待った。
「さて、どうしたものか……」
公彦の顔が上がる。
自らの意思で持ち上げたわけではない。未晴の手に後頭部を掴まれ、不意打ちに引き上げられたからだ。
「とりあえず……私の目を見て話そうか」
普段とは違う、真顔の未晴から、公彦は目を離さなかった。いや、その鋭さから目を離すことができなかった。
「銃は捨てたって聞いたけど……本当?」
「はい……」
多分、クロと名乗った男から、ことの顛末を聞いたのだろう。その時は一緒にいたので、銃を捨てたことは知っているはずだ。
「随分手慣れてたけど、童貞ってのは嘘?」
「いえ……クロ? さんから紹介された人に、援助交際やっている人を紹介してもらいました」
「リナちゃんか……」
聞き慣れない名前だが、話の流れからして、クロと名乗った男が言っていたご主人様のことだろう。
「それでお金使って未成年抱きまくって、仕上げに人妻に手を出したと……傍で聞いている分には最低男のシナリオじゃん。今時のVシネでも、こんな安い話で映画作らないわよ」
「はい…………」
公彦の後頭部に、痛みが生まれた。未晴の手に力が込められているのか。髪を握られ、巻き引かれているからだ。
「強姦された人間がその後、どういう人生を送るか分かっててやったの? 精神的外傷植え付けられて何を拒絶するか分かる? 男か、社会か、人生か……何を選んでも、ろくな結果にはならない」
むしろ、これ以上手を出されない方が不思議だった。
もし公彦が被害者の立場なら、内容はともかく、大なり小なり手を出していたかもしれない。それなのに手を出されていないということは、後で大きな怒りをぶつけられるんじゃないかと逆に怖くなってきてしまう。
「最低……」
見下した瞳で見つめられ、公彦は身動き一つとれなくなってしまう。
そして未晴は手を放し、顔をうつむかせると距離を開けた。
「本当、最低……」
持ち上げられた顔も、今は下を向いている。公彦は顔を上げられないまま、未晴の言葉を待つ。
「本当、最低だ…………私」
その言葉に、公彦は思わず顔を上げた。
たった今、信じられないことを耳にしてしまったからだ。
「そうでもしないと戻らなかったんだから、さ……」
せいぜい数歩しか離れていないのに、今の公彦には遠く感じてしまう。
それだけ悲しい目をしながら、未晴は静かに笑っていたのだから。
「…………目、ちゃんと覚めたよ」
実家に戻り、住居を引き払う話を聞いても、公彦にはどこまで上手くいったのかは分からなかった。だからこそ、今の未晴の発言を聞けたことだけが妙に嬉しく感じた。
たとえ、この後捕まることになろうとも……罪を犯す価値があった嬉しさだけは、これからも忘れることはない。
公彦は内心、そう確信した。
「はいぃ……」
公彦は未晴にうながされるまま、段ボールを担いで部屋の外へと出て行った。
下にはクロと名乗った男がレンタルで借りてきたトラックの運転席に腰掛け、新聞を広げて読んでいる。
「あの~、クロ? さん……少しは手伝ってくださいよ」
「だから家具を運ぶ時に手伝うって。留守番しとかないと、駐禁で罰金取られるかもしれないんだし」
その留守番役も、もうすぐ来るらしい。今日は通院の日とかで、病院帰りにそのまま来てくれるとのことだが、いまだに姿を現していなかった。
「それ以前に、家具は処分する予定じゃないですか……」
「……それもそうだ」
新聞を畳むと運転席から外に出て、公彦からダンボール箱を受け取るとそのまま荷台に詰め込んだ。4Tクラスなので多少の広さはあるが、転落防止のために固定しやすいよう、角の隅から詰めるのを忘れずに。
「そういえば、トラックの免許持ってるんですか?」
「一応……一通りは運転できるよ」
言葉にしてそれだけだ。運転はともかく、免許に関しては一言も発していない。
「まあ、技術はあるから大丈夫だよ。昔トレーラーヘッドも運転してたことあるし」
「へぇ……何運んでたんですか?」
「鉄製品だよ。たしか……『どらごのぶ』って誰かが言ってたから、そうしとこう」
「『どらごのぶ』って、もしかして……」
(……ロシア製のあの有名なライフルじゃあ?)
訂正含めて詳しく聞くのが怖くなり、公彦は口を閉ざして未晴の元へと戻ることにした。その背中に声が掛かる。
「連れが来たらそっち手伝いに行くから、今は一人で頑張って」
「分かりました。ところで……」
公彦は今日、ここに来てからずっと疑問に思っていたことをようやく口にした。
「……どうして顔が傷だらけなんですか?」
「新塚さんを昔の女と勘違いしたご主人様に引っかかれたんだよ」
新聞で隠れていた顔をさすりながら、クロと名乗った男は溜息を漏らした。
ちなみに新塚とは、未晴の旧姓である。
『はぁい、強姦魔君。元気~?』
電話に出て、真っ先に掛けられた言葉の時点でこれだった。もう言い逃れができない。
「どうして、分かったんですか……?」
『いやぁ~最初は全然気付かなかったけどね』
クロと名乗った男は公彦と距離を詰めることなく、ただ成り行きを見守っていた。
それ以前に、今の公彦には周囲を気遣う余裕がなかったのだが。
『実家に帰ったら懐かしい顔を見たとか母さんが言うから確認してみたら、白ふ―いや違ったクロ君だっけ? まあ昔馴染みだったから驚いて……そのまま彼の保護者からたどって、公彦君にたどりついたわけ。お分かり?』
「はい……」
ここまでは事前に聞かされた通りだったが、この後、何を言われるのかは見当がつかない。
何を言われるのか分からず恐々としている公彦だが……その次の言葉には、ただ普通に驚いていた。
『というわけで訴えられたくなかったら……引越手伝いに来い』
「え……?」
そして今日、公彦は未晴が住む公共住宅の一室で引っ越し作業を手伝っていた。
まとめた荷物を公彦が運び、それをクロと名乗った男が借りてきた4Tトラックに積み込む。その繰り返しで必要な荷物全てを出し終えると、未晴はトラックを引っ越し先へと、先に向かわせた。
「……実家に、帰ることにしたの」
近隣住民用に用意された公園に、未晴は公彦と二人だけでいた。
まだ昼間だが、今日は平日と言うこともあり、他の利用者が一人もいない。公彦も、今日だけは学校をさぼって引っ越しの手伝いに来ていた。断りづらかったのもあるが、休日まで待ち切れず、すぐに片付けたいという身勝手な理由も含まれている。
「あのまま家にいても仕方ないからさ~。一度実家に帰ったんだけど……『一回やり直そう』、って母さんに説得されてね」
何か飲む? とばかりに未晴が自販機を指差してくるが、公彦は首を振るだけで、言葉を返さなかった。
「それで旦那の実家に行ってけじめつけた後、行為の度にいちいち避妊するおかしな強姦魔探そうと昔馴染みの家に行ったら……笑えた。ねえ、聞いた? あいつ女子高生くらいの娘に飼われてやんの。ウケたわ~」
正直、クロと名乗った男の人生も気になるが、今の公彦には自身の今後の方が気になって仕方がなかった。
「まあ、それよりも…………本気で怖かったんだけど」
「はい……」
声音が変わる。
それだけで、今の未晴から発せられる怒りの感情が、本物であることを物語っていた。
「おまけに銃の運び人? 妙にお金持ってると思っていたら、元から犯罪者だったわけか……」
「もう……足を洗いましたよ。というか、クビになりました」
そのゴロウとは、未晴を強姦した日以降、連絡を取っていない。そもそも、連絡自体つくのかも怪しいものだが。
「年下の子供のくせに、危ないことしていると思えば最後に私まで強姦しちゃって……元からそのつもりだった?」
「言い訳にしかなりませんが……いいえ」
公彦は地面を見つめたまま、いや、顔を上げられないまま、未晴の疑問を否定した。
「あわよくば、とは思ってましたよ。でも、さすがに……強姦までは考えていませんでした」
「でも私を強姦した」
「…………はい」
この後どうなるのかは、公彦には分からない。それこそ未晴次第だ。
だからこそ、公彦は、未晴の言葉を待った。
「さて、どうしたものか……」
公彦の顔が上がる。
自らの意思で持ち上げたわけではない。未晴の手に後頭部を掴まれ、不意打ちに引き上げられたからだ。
「とりあえず……私の目を見て話そうか」
普段とは違う、真顔の未晴から、公彦は目を離さなかった。いや、その鋭さから目を離すことができなかった。
「銃は捨てたって聞いたけど……本当?」
「はい……」
多分、クロと名乗った男から、ことの顛末を聞いたのだろう。その時は一緒にいたので、銃を捨てたことは知っているはずだ。
「随分手慣れてたけど、童貞ってのは嘘?」
「いえ……クロ? さんから紹介された人に、援助交際やっている人を紹介してもらいました」
「リナちゃんか……」
聞き慣れない名前だが、話の流れからして、クロと名乗った男が言っていたご主人様のことだろう。
「それでお金使って未成年抱きまくって、仕上げに人妻に手を出したと……傍で聞いている分には最低男のシナリオじゃん。今時のVシネでも、こんな安い話で映画作らないわよ」
「はい…………」
公彦の後頭部に、痛みが生まれた。未晴の手に力が込められているのか。髪を握られ、巻き引かれているからだ。
「強姦された人間がその後、どういう人生を送るか分かっててやったの? 精神的外傷植え付けられて何を拒絶するか分かる? 男か、社会か、人生か……何を選んでも、ろくな結果にはならない」
むしろ、これ以上手を出されない方が不思議だった。
もし公彦が被害者の立場なら、内容はともかく、大なり小なり手を出していたかもしれない。それなのに手を出されていないということは、後で大きな怒りをぶつけられるんじゃないかと逆に怖くなってきてしまう。
「最低……」
見下した瞳で見つめられ、公彦は身動き一つとれなくなってしまう。
そして未晴は手を放し、顔をうつむかせると距離を開けた。
「本当、最低……」
持ち上げられた顔も、今は下を向いている。公彦は顔を上げられないまま、未晴の言葉を待つ。
「本当、最低だ…………私」
その言葉に、公彦は思わず顔を上げた。
たった今、信じられないことを耳にしてしまったからだ。
「そうでもしないと戻らなかったんだから、さ……」
せいぜい数歩しか離れていないのに、今の公彦には遠く感じてしまう。
それだけ悲しい目をしながら、未晴は静かに笑っていたのだから。
「…………目、ちゃんと覚めたよ」
実家に戻り、住居を引き払う話を聞いても、公彦にはどこまで上手くいったのかは分からなかった。だからこそ、今の未晴の発言を聞けたことだけが妙に嬉しく感じた。
たとえ、この後捕まることになろうとも……罪を犯す価値があった嬉しさだけは、これからも忘れることはない。
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