文系男子と理系女子の恋愛事情_宣伝

桐生彩音

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001 『独白・私は悪女かもしれない』

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 ……私の世界は、視界に映る範囲が全てだった。
 市営住宅に暮らす一般家庭。両親とも共働きとはいえ、あまり贅沢の言える環境ではなかった。だから学校も公立しか認めて貰えず、成績が優秀とか部活動で成績を修めたとかもないので、推薦ももらえないまま確実に受かる高校しか受験していない。
 その高校も授業を受ける以外は部活動もせず、自分でお小遣いをを稼げとアルバイトで放課後も塗り潰された。クラスメイト達が部活に精を出し、街中で不自由なく遊んでいるのを見ていると、ほとほと嫌気がさしてくる。
 だからだろう……魔が差したのは。



「じゃあ三十万円ね」
「はい……」
 こうして私、藤ヶ谷ふじがやしずくは処女を『売った』。
 相手は元バイト先の常連。
 そのバイト先はチェーンのバーガーショップ。私がシフトに入っている時は必ずと言っていいほど、他には目もくれずに接客させてきたので、少しカマを掛ければホイホイ釣れた。
 と言っても、プリペイドの携帯電話番号を教えただけだ。いざとなれば携帯電話ごと電話番号を捨てればどうとでもなると思い、適当におだてて奢らせるのを皮切りに、目の前で脱いだ下着を売ってお小遣いにしていた。
 簡単に稼げてしまうのが嬉しくて、少し調子に乗ってしまったのだろう。気がつけばバイトも辞め、いつも働いている時間は下着を売るかそのお金で遊び呆けていた。
 しかし、バイトに関しては未成年である以上、保護者の許可がいる。だから両親には何事かと問われるはずが、何も干渉してこなかった。
 その時点ですでに気付いていたのだが、とうとう下着だけでなく春も売ろうと決めた時に改めて実感した。
 ……家庭が冷え切っていることに。
「避妊薬は買ってきてくれた? もう飲んでる?」
「はい……」
 さっきからそれしか言えなかったが、それだけ、自分の価値が未熟な肢体だけだと思ってしまっているのだ。
「じゃあ、脱がせてあげるから、じっとしててね……」
「……っ」
 相手に勘付かれないように、小さく奥歯を噛み締めた。
 されるがままにスカーフが外されるのを見つめ、制服であるセーラー服のファスナーが降ろされ、前開きにされた。当時はそこまで大きくなかったブラはずらされるだけで残され、胸を揉みしだかれながら、相手と唇を重ねてしまう。
 相手は中年手前の、中間管理職が似合う風貌の、二回りも年上のおじさんだった。突き出された脂肪でお腹を押されている感覚と共に、一方的で私には優しくないキスを続ける。
 別に、相手と唇を重ねること自体に抵抗はなかった。ファースト・キスなんてものはすでに目の前の男に売り飛ばしている。それどころかフェラやパイズリも経験しているし、クンニもされたことがある。ついでに言えば、何がいいのかお尻の穴も舐められたことがあるのだ。
 今更気持ち悪いだのと、言える立場にはいない。
「ぷはぁ……じゃあ、次は下を脱がせてあげようね」
「……はい」
 相手は私を、人形か何かだと思っているのだろう。そうでも思えなければ、娘がいたら同じくらいかもしれない私に手を出すはずがない。
 ベッドの上に倒されてからスカートの中に手を入れられ、ゆっくりとショーツに手を掛けられた。
「おっ、今日はおしゃれだね~」
「……っ」
 再び歯を食いしばった。
 いつもとは違う下着にしたのは、今日で処女を捨てるからと思い、単なる気分で選んだに過ぎない。別に、相手が気に入っているわけではないのだ。
 むしろ、気前良く支払われるお金さえなければ……
「じゃあ、脱ごうね~」
 ……私はこんな男を、初めての相手に選んだりしない。
「よしよし、じゃあまずは気持ちよく挿入れられるように、入念な準備を……」
「……っ!」
 歯を食いしばり、粘着質に感じてくる舌淫を誤魔化していく。その間にも、未開発の女陰からも湿り気がこみ上げてくる。こんな時に、無駄に経験したことが恨めしく思ってしまう。同時に、身体が疼いていることで、こんなおじさん相手に自分から興奮したわけじゃないと理解できてしまうから、死んだほうがましな理性がいまだに足掻いているのだから。
「……うん、これくらいだね。『宿題』はやった?」
「…………」
 私は声を出さず、いや歯を食いしばってて出せず、小さく一回、頷くだけに留める。
 男の言う『宿題』とは、自分で指を挿入れて、少し膣肉をほぐしておくこと。事前にやっておけば、多少は痛みが和らぐとは男の言だが、女の身体は女にしか分からない。適当なことは言わないで欲しかった。
 ……まあ、そんな相手に処女を売る私もどうかと思うが。
「じゃあそのままでいてね……」
 男は私をそのままにして、自らの衣服を脱ぎ散らかしていった。元はどこかのブランドだったのだろうが、今はくたびれているスーツと微妙に不衛生に見えた下着に隠された醜い身体を晒し、ベッドの上に足を掛けた。
「……じゃあ準備をしよう。僕のを咥えてね」
「はい……」
 近付けられた下半身から伸びた肉棒が、私の口元に運ばれてきた。いつものことと、もはや単なる作業として、亀頭に口付けする。
「ちゅ……じゅるっ…………じゅっ、じゅっ!」
「あ、ああ。いい……っ!」
 亀頭を咥え、さらに近づいてきた肉棒に合わせて、徐々に口腔の奥へと自ら迎え入れていった。喉まで届いても気にせず、歯が当たらないように気をつけて。最初の内は慣れていなかったとはいえ、『歯が当たる』と文句を言われてから約束の半分しかお金をもらえなかった時があった。それ以来、練習したり歯を当てないやり方を教わったりして、二度とお金を減らされないように頑張ったものだ。
 ……それを『指導料』とか言って、お尻の穴を舐められたりしたが。
「よし、よし、よし……ああ、ストップ。これ以上は駄目」
「……こぽっ! こほっ、こほっ…………」
 喉まで貫かれるので、いまだに呼吸がままならない。上手い方法があるのかもしれないが、少なくとも、この男は知らないだろう。知っていたら教えるはずだ。『私が苦しんでいる様子を見たい』と思ってない限りは。
「じゃあ、早速挿入れるよ。処女をなくす前に、何か言うことはあるかな~?」
「…………ぃぇ」
 むしろさっさとして欲しい。決心が揺らいでしまう。
 果たして私の処女に三十万円の価値があるのだろうか、もしかしたらもっと出してくれるイケメンの金持ちがいたかもしれないし、命の価値が低い遠い国の少女みたいにもっと買い叩かれていたかもしれない。
 分かっていることはただ一つ。
「いくよ~……それっ!」
「ぁあっ……!?」
 ……私の純潔は、目の前の腹が出た、醜いおじさんに三十万円で売ってしまったという、ことだけだ。
「よぉし、すぐ慣れるから我慢しててね~」
「ああっ!? いっ!? いつっ!?」
「だい、じょう、ぶっ、だよっ! 雫ちゃんっ! おじさん、は、おじさん、だからっ! 経験豊富なんだよっ!」
 絶対に嘘だと、痛みと嫌悪感に心を犯されながら、私は歯を食いしばっていた。
 多分この男も童貞だったのだろう。やっていることが極端すぎて、加減が全然できていない。女を生処理の道具としか見ていないか、経験がないとしか思えない。
「ぁぅっ!? いたっ!? いったぁ!?」
「ほらっ!? もうあとちょ、っと!? イクよぉ~!」
 その発言と共に、体内に何かが吐き出されている感覚が、下腹部から伝わってくる。
「はぁ……はぁ…………」
「おや、イッちゃったのかい? 雫ちゃん。気持ち良かった?」
 いいわけがない。鈍痛と嫌悪感、それと半端な快楽が混ざり合って、頭の中がごちゃごちゃに掻き回されているのだ。身体の方も、さっきまでのピストン運動のせいでまともに呼吸できず、息が乱れている。
 しかしまともに返事ができないのを肯定と勘違いした男は、いまだに膣内に挿入しこんだままの肉棒を、再び出し入れし始めた。
「ほら二回戦だ。もっと気持ちよくなろうねぇ!」
「……ぁっ! いやぁ!」
 向こうは喘ぎ声と勘違いしているのだろう。
 私は相手が満足するまで身体を許し……



 ……当面の生活費である三十万円を手に入れた。



 そう、よくある話だ。
 脱ぎたての下着が売れたからバイトを辞めようとしているのと、父親の会社が倒産したのと、母親の浮気がまとめて発覚したのは。
 おかげで一家離散、父は首を吊り、母は浮気相手の元に逃げ込んだ。私も親戚にたらい回しにされるか、身体を売って一人暮らしするかの二択を迫られ、後者を選択した。
 ただ……



 ……それからの十年は、あっという間に過ぎた気がする。
 私の処女を奪った男とは、初めて下着を売りつけてからの少し長い関係だ。そして、それだけ長くもなれば、こちらはともかく、向こうはいくらか心を許してくるものだ。その隙をついて相手の個人情報を漁り、会社に未成年との淫行を全てばらすと脅して全財産を巻き上げ、そして社会的な死を与えて父親と同じ末路を辿らせた。
 それ以降も、相手に近づいては金を巻き上げ、破滅させる生き方を続けている。
 さすがに十八歳になってからは恐喝の材料としては弱くなってきているので、風俗や個人販売のAV女優として生計を立てることにした。しかし、いまだに若くないからと慣れない勉強をして本を書き、ブログから書籍化へと持っていくことができた。
 書いている内容は過激な官能小説でフィクションに思われているが、ほぼ私の経験談だ。かつては若さを利用して男から金を巻き上げている私も、もう相手をしてくれる者が限られてきている。もうアラサーに差し掛かったのだと、実感する日々だった。
 現在はかつてと同じ公共住宅の事故物件を占領して、経験談とホラーを混ぜられないか検討中。ぼちぼちネタがなくなりそうなのだ。
 これからどうしたものだろう、と考えながら洗濯物を取り込もうとベランダのカーテンを開けたのだが、
「あ!?」
「…………私って、まだ若いのかしらね」
 ……まさか隣のお子さんに下着泥棒に入られるとは、思ってもみなかったわ。
 たしか、鈴谷さんの所のたけし君だったわね。高校生から下着泥棒に入られる程魅力が衰えていないなら……



 ……もうちょっと、誰かから巻き上げてみようかしら。
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