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第三シリーズ
008 約束
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「……どこ行く?」
「公園、煙草吸いたい」
二人は人気のない公園に入り、人の目がない奥にあるベンチに並んで腰かけた。
スクバから取り出した煙草を一本抜いて咥えようとすると、横から手が伸びてきた。
「……一本ちょうだい」
「あれ、ミサって煙草吸うっけ?」
少なくとも、吸うところを見かけたことはない。
不思議そうに見つめるリナを無視して、ミサは手に持っていた煙草を奪い取ってそのまま口に咥えた。
「まあ、赤ん坊ができてると知ってからはやめてたけどね。育児にゃ完全に邪魔ものだからさ」
「ふぅん。……え?」
もう一本の煙草を抜いて口に咥えた。
そのままライターを取り出して、火を点けようとした手が止まる。聞き間違いだと思い、リナは聞き返した。
「子供って……ミサの?」
「ん、ああ……言ってなかったっけ」
火を点けようとしないことに業を煮やしたのか、リナからまた奪い取ったライターで咥えた煙草に火を点けてから、ミサは煙を吐きつつ答えた。
「わたし、一児の母やってんのよ。一応」
「うそだっ!?」
あまりの衝撃に、リナは咥えていた煙草を地面に落としてでも、嘘だと断言した。
しかしミサはスマホンを取り出して操作したと思えば、一枚の写真を表示してリナに見せた。
「ほらこの子。旦那の忘れ形見育てんのに援交やってんの。……言ってなかったっけ?」
「聞いてないっ!?」
つうか仕事ない時とかアカネと三人で遊んでたじゃん!!
そう思っていたリナだが、ミサは更に事実を重ねてきた。
「まあ、流石に育児の経験ないから、その辺りは旦那の舎弟とか知り合いのデリヘル嬢とかに金銭含めて協力してもらってんのよ。……おかげで周りに頭上がんないわ」
煙を吐き出すと同時に、ベンチの背もたれに体重を掛けるミサ。目は空を向いてはいるが、見つめているわけではないらしい。ただぼんやりと見上げているだけだろう。
「だからアカネの父ちゃんはすごいわ。わたしなら何発かぶん殴ってから、自分のこと無視してきれいごと並べ立ててたかもしんない」
「……そりゃこっちも似たようなもんだけどね~」
ライターを返してもらい、新しい煙草に火を点けたリナは、ようやくありついたニコチンを味わうように燻らせる。
「しっかし子供か~その子今いくつなの?」
「もうすぐ一歳。食べ盛りだからもうちょい稼がないとな~」
普段やっていることこそ妊娠のための行為だが、子供を産むという意識は今までなかった。身近に子供を生んだ同世代がいて初めて認識したといえる。
「それってアカネも知ってるの?」
「知ってる。というかよく遊んでもらってた」
「ワタシも誘えよ~」
駄々をこねるように肩に手を伸ばすが、すげなく払われてしまい、リナはふてくされながら煙を吐き出した。先に吸っていたのでもうフィルターしか残ってない煙草を吐き捨て、ミサは言葉を漏らす。
「……ま、少なくとも当分はもう、遊んでもらうこともないけどね」
リナも無言で煙草を地面に落とし、靴の踵で火種を踏み消した。
リナ達三人だけではなく、援交仲間全員で決めていることだ。
『どちらかが援交をしていて、もう一方がやってない場合は絶対に関わらない』
誰かが援助交際に手を出さなくなると、無理矢理引き戻すことなく、幸せになることを祈ろうと、全員で約束していた。また戻ってきたり、自分が辞めたりした時はその限りではないが、それでも、余程の恨みがない限りは相手の幸せを尊重しよう。そう取り決めているのだ。
だからもう、アカネは死んだ。
今父親と再び暮らそうとしているのは、蛯名朱音という、援助交際とは縁のない普通の少女だ。もう二度と、少なくともリナやミサが援助交際をやめない限り、互いに関わることはないだろう。
「……そんじゃま、行きますか」
「そうすっかね」
互いに落ち合う場所を決めて、二人はバラバラに家路についた。しかし、二人の心の内はもう決まっていた。
第二ラウンドの開始と……アカネの敵討ちに。
「公園、煙草吸いたい」
二人は人気のない公園に入り、人の目がない奥にあるベンチに並んで腰かけた。
スクバから取り出した煙草を一本抜いて咥えようとすると、横から手が伸びてきた。
「……一本ちょうだい」
「あれ、ミサって煙草吸うっけ?」
少なくとも、吸うところを見かけたことはない。
不思議そうに見つめるリナを無視して、ミサは手に持っていた煙草を奪い取ってそのまま口に咥えた。
「まあ、赤ん坊ができてると知ってからはやめてたけどね。育児にゃ完全に邪魔ものだからさ」
「ふぅん。……え?」
もう一本の煙草を抜いて口に咥えた。
そのままライターを取り出して、火を点けようとした手が止まる。聞き間違いだと思い、リナは聞き返した。
「子供って……ミサの?」
「ん、ああ……言ってなかったっけ」
火を点けようとしないことに業を煮やしたのか、リナからまた奪い取ったライターで咥えた煙草に火を点けてから、ミサは煙を吐きつつ答えた。
「わたし、一児の母やってんのよ。一応」
「うそだっ!?」
あまりの衝撃に、リナは咥えていた煙草を地面に落としてでも、嘘だと断言した。
しかしミサはスマホンを取り出して操作したと思えば、一枚の写真を表示してリナに見せた。
「ほらこの子。旦那の忘れ形見育てんのに援交やってんの。……言ってなかったっけ?」
「聞いてないっ!?」
つうか仕事ない時とかアカネと三人で遊んでたじゃん!!
そう思っていたリナだが、ミサは更に事実を重ねてきた。
「まあ、流石に育児の経験ないから、その辺りは旦那の舎弟とか知り合いのデリヘル嬢とかに金銭含めて協力してもらってんのよ。……おかげで周りに頭上がんないわ」
煙を吐き出すと同時に、ベンチの背もたれに体重を掛けるミサ。目は空を向いてはいるが、見つめているわけではないらしい。ただぼんやりと見上げているだけだろう。
「だからアカネの父ちゃんはすごいわ。わたしなら何発かぶん殴ってから、自分のこと無視してきれいごと並べ立ててたかもしんない」
「……そりゃこっちも似たようなもんだけどね~」
ライターを返してもらい、新しい煙草に火を点けたリナは、ようやくありついたニコチンを味わうように燻らせる。
「しっかし子供か~その子今いくつなの?」
「もうすぐ一歳。食べ盛りだからもうちょい稼がないとな~」
普段やっていることこそ妊娠のための行為だが、子供を産むという意識は今までなかった。身近に子供を生んだ同世代がいて初めて認識したといえる。
「それってアカネも知ってるの?」
「知ってる。というかよく遊んでもらってた」
「ワタシも誘えよ~」
駄々をこねるように肩に手を伸ばすが、すげなく払われてしまい、リナはふてくされながら煙を吐き出した。先に吸っていたのでもうフィルターしか残ってない煙草を吐き捨て、ミサは言葉を漏らす。
「……ま、少なくとも当分はもう、遊んでもらうこともないけどね」
リナも無言で煙草を地面に落とし、靴の踵で火種を踏み消した。
リナ達三人だけではなく、援交仲間全員で決めていることだ。
『どちらかが援交をしていて、もう一方がやってない場合は絶対に関わらない』
誰かが援助交際に手を出さなくなると、無理矢理引き戻すことなく、幸せになることを祈ろうと、全員で約束していた。また戻ってきたり、自分が辞めたりした時はその限りではないが、それでも、余程の恨みがない限りは相手の幸せを尊重しよう。そう取り決めているのだ。
だからもう、アカネは死んだ。
今父親と再び暮らそうとしているのは、蛯名朱音という、援助交際とは縁のない普通の少女だ。もう二度と、少なくともリナやミサが援助交際をやめない限り、互いに関わることはないだろう。
「……そんじゃま、行きますか」
「そうすっかね」
互いに落ち合う場所を決めて、二人はバラバラに家路についた。しかし、二人の心の内はもう決まっていた。
第二ラウンドの開始と……アカネの敵討ちに。
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