【R15】援交少女、ホームレスを飼う

桐生彩音

文字の大きさ
33 / 60
第三シリーズ

008 約束

しおりを挟む
「……どこ行く?」
「公園、煙草吸いたい」
 二人は人気のない公園に入り、人の目がない奥にあるベンチに並んで腰かけた。
 スクバから取り出した煙草を一本抜いて咥えようとすると、横から手が伸びてきた。
「……一本ちょうだい」
「あれ、ミサって煙草吸うっけ?」
 少なくとも、吸うところを見かけたことはない。
 不思議そうに見つめるリナを無視して、ミサは手に持っていた煙草を奪い取ってそのまま口に咥えた。
「まあ、赤ん坊ができてると知ってからはやめてたけどね。育児にゃ完全に邪魔ものだからさ」
「ふぅん。……え?」
 もう一本の煙草を抜いて口に咥えた。
 そのままライターを取り出して、火を点けようとした手が止まる。聞き間違いだと思い、リナは聞き返した。
「子供って……ミサの?」
「ん、ああ……言ってなかったっけ」
 火を点けようとしないことに業を煮やしたのか、リナからまた奪い取ったライターで咥えた煙草に火を点けてから、ミサは煙を吐きつつ答えた。



「わたし、一児の母やってんのよ。一応」
「うそだっ!?」



 あまりの衝撃に、リナは咥えていた煙草を地面に落としてでも、嘘だと断言した。
 しかしミサはスマホンを取り出して操作したと思えば、一枚の写真を表示してリナに見せた。
「ほらこの子。旦那の忘れ形見育てんのに援交やってんの。……言ってなかったっけ?」
「聞いてないっ!?」
 つうか仕事ない時とかアカネと三人で遊んでたじゃん!!
 そう思っていたリナだが、ミサは更に事実を重ねてきた。
「まあ、流石に育児の経験ないから、その辺りは旦那の舎弟とか知り合いのデリヘル嬢とかに金銭含めて協力してもらってんのよ。……おかげで周りに頭上がんないわ」
 煙を吐き出すと同時に、ベンチの背もたれに体重を掛けるミサ。目は空を向いてはいるが、見つめているわけではないらしい。ただぼんやりと見上げているだけだろう。
「だからアカネの父ちゃんはすごいわ。わたしなら何発かぶん殴ってから、自分のこと無視してきれいごと並べ立ててたかもしんない」
「……そりゃこっちも似たようなもんだけどね~」
 ライターを返してもらい、新しい煙草に火を点けたリナは、ようやくありついたニコチンを味わうように燻らせる。
「しっかし子供か~その子今いくつなの?」
「もうすぐ一歳。食べ盛りだからもうちょい稼がないとな~」
 普段やっていることこそ妊娠のための行為だが、子供を産むという意識は今までなかった。身近に子供を生んだ同世代がいて初めて認識したといえる。
「それってアカネも知ってるの?」
「知ってる。というかよく遊んでもらってた」
「ワタシも誘えよ~」
 駄々をこねるように肩に手を伸ばすが、すげなく払われてしまい、リナはふてくされながら煙を吐き出した。先に吸っていたのでもうフィルターしか残ってない煙草を吐き捨て、ミサは言葉を漏らす。
「……ま、少なくとも当分はもう、遊んでもらうこともないけどね」
 リナも無言で煙草を地面に落とし、靴の踵で火種を踏み消した。



 リナ達三人だけではなく、援交仲間全員で決めていることだ。
『どちらかが援交をしていて、もう一方がやってない場合は絶対に関わらない』
 誰かが援助交際に手を出さなくなると、無理矢理引き戻すことなく、幸せになることを祈ろうと、全員で約束していた。また戻ってきたり、自分が辞めたりした時はその限りではないが、それでも、余程の恨みがない限りは相手の幸せを尊重しよう。そう取り決めているのだ。
 だからもう、アカネは死んだ。
 今父親と再び暮らそうとしているのは、蛯名朱音という、援助交際とは縁のない普通の少女だ。もう二度と、少なくともリナやミサが援助交際をやめない限り、互いに関わることはないだろう。
「……そんじゃま、行きますか」
「そうすっかね」
 互いに落ち合う場所を決めて、二人はバラバラに家路についた。しかし、二人の心の内はもう決まっていた。



 第二ラウンドの開始と……アカネの敵討ちに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...