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シリーズ002
006 旦那の出自疑惑
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そうだ、さっきも思い出していたじゃない。私の旦那も勇者だった。幾ら数ヶ月以上経つとはいえ、情報伝達がうまくいっていなければ知らないことだってあり得るじゃないの!?
えっと、私の家名を知っているのは確かカリスさんとジャンヌだけで、ディル君やフィンさんは知らない筈……と考えていたら、ジャンヌがこっそり顔を近づけてきた。
「……もしかしてお知り合いですか?」
「知らない。旦那の知り合いだとしても、あんな金ぴかだったら絶対忘れられない」
一瞬生前の浮気も疑ったが、そもそもあんな格好した女だったらすぐに気づく。私はそこまで抜けてない!
「あー、発言しても?」
「……あなたは?」
「勇者ディルの旅の仲間で、カリス・ルヴェットという魔導士です」
流石魔導士、一応礼儀を弁えている。
「先程申し上げられた『ジョセフ・ロッカ』は確かに我が国『ペリ』の勇者でしたが、数ヶ月前に殉職。現在は彼、ディル・ステーシアが勇者の任についております」
「そうだったのか……」
そして続く発言に、私は軽く身構えた。
いやだって、どんな理由で旦那に会いに来たのか分からないのに。ついでにいえば、私が旦那の婚約者でしたなんてばれようものなら、理由が怨恨だったら確実に襲い掛かられてしまう。
くそう、戦力が4人じゃ不安だ。
せめてリナ! 今どこにいるの!?
「ぇくちっ! 風邪引いたかな……ああ、今日も暇だ」
……あ、そういえば今日も娼館の護衛だった。
展開が読めずに身構える中、金ぴか騎士ことアンジェとやらは少し重たげに口を開いた。
「では誰か、ジョセフ・ロッカの身元が分かる者に心当たりはないか?」
「身元?」
なんでまた、旦那も孤児の筈だけど……あ、そう言えば、と私はジャンヌにこっそり耳打ち。
「ねぇ、ジャンヌ。私の旦那のこと、話したことあったっけ?」
「いえ、そういえば同じ『ロッカ』の孤児院出身なのですか?」
「そんなとこ。ついでに言えば私もそこ出身」
ここで一つ豆知識。
孤児院の出身者は後見人がつかない限りは大抵、その孤児院の代表の家名を名乗ることが多い。孤児院経営者の義務として、一定以上の年齢を重ねた者の後見人として社会に送り出さなければならないからだ。しかし後見人としては最低限の義務しかなく、法的な手続きの保証人以外、卒業した人間を保護する義務がない。そのくせ経営者は国からの援助としてかなりの金額を受け取っているのだ。幼少時、同期数人(旦那除く)とこっそりくすねようとして、手を出す直前で現物を目にしたのだから間違いない。例え説教されようとも忘れるものか。だって思い切り利己的だったし。
……話がそれたけど、つまり他の後見人を見つけたり、適当な偽名を騙っていない限りは、家名で同じ孤児院出身だったかどうかが分かるのだ。私はそれを利用して、『旦那=元勇者』という認識をあまり広めないようにしている。
何故かって? ばれたら絶対面倒臭いから。
「私が知り合い呼んでくる振りして、伝声魔法か何かで匿名で対応、っていうのは?」
まあ、面倒事には違いないけども、後々のことを考えれば対応できずとも事情を把握するくらいはできるかな、と。後はただの好奇心。
「ふむ……ちょっと待って下さい」
そしてジャンヌは私から離れて、カリスさんと軽く話してから金ぴか騎士に声を掛けた。ちなみに他二人にも聞こえないよう配慮した上で。
いやぁ、できる女だな。ジャンヌは。
「すみません、そこのミーシャさんが務める出版社の同僚に、同じ『ロッカ』の方がいらっしゃるとのことですので、こちらに来て頂くか伝声魔法にての会談、という形で対応してもよろしいでしょうか?」
「私は一向に構わん!」
こっちは一向に構う!
等と言っている暇もなく、ジャンヌとカリスさんに連れられた私は一度店を後にしたのだった。まあその後、適当な路地裏にジャンヌと一緒に置いて行かれたのだが。
いくら適当な隠れ場所がなかったからって、強姦魔が来たらどうしてくれるカリスさんこの野郎。
「……あれ、ミーシャさんはぶっ!?」
「はいややこしくなりそうだから静かに~」
一方、余計なことを言いそうになっていたディル君を、微妙に事情を察したフィンさんが口止めしてくれたことに関して、私が気付くことはあるのだろうか。
どちらにしても別の話である。
えっと、私の家名を知っているのは確かカリスさんとジャンヌだけで、ディル君やフィンさんは知らない筈……と考えていたら、ジャンヌがこっそり顔を近づけてきた。
「……もしかしてお知り合いですか?」
「知らない。旦那の知り合いだとしても、あんな金ぴかだったら絶対忘れられない」
一瞬生前の浮気も疑ったが、そもそもあんな格好した女だったらすぐに気づく。私はそこまで抜けてない!
「あー、発言しても?」
「……あなたは?」
「勇者ディルの旅の仲間で、カリス・ルヴェットという魔導士です」
流石魔導士、一応礼儀を弁えている。
「先程申し上げられた『ジョセフ・ロッカ』は確かに我が国『ペリ』の勇者でしたが、数ヶ月前に殉職。現在は彼、ディル・ステーシアが勇者の任についております」
「そうだったのか……」
そして続く発言に、私は軽く身構えた。
いやだって、どんな理由で旦那に会いに来たのか分からないのに。ついでにいえば、私が旦那の婚約者でしたなんてばれようものなら、理由が怨恨だったら確実に襲い掛かられてしまう。
くそう、戦力が4人じゃ不安だ。
せめてリナ! 今どこにいるの!?
「ぇくちっ! 風邪引いたかな……ああ、今日も暇だ」
……あ、そういえば今日も娼館の護衛だった。
展開が読めずに身構える中、金ぴか騎士ことアンジェとやらは少し重たげに口を開いた。
「では誰か、ジョセフ・ロッカの身元が分かる者に心当たりはないか?」
「身元?」
なんでまた、旦那も孤児の筈だけど……あ、そう言えば、と私はジャンヌにこっそり耳打ち。
「ねぇ、ジャンヌ。私の旦那のこと、話したことあったっけ?」
「いえ、そういえば同じ『ロッカ』の孤児院出身なのですか?」
「そんなとこ。ついでに言えば私もそこ出身」
ここで一つ豆知識。
孤児院の出身者は後見人がつかない限りは大抵、その孤児院の代表の家名を名乗ることが多い。孤児院経営者の義務として、一定以上の年齢を重ねた者の後見人として社会に送り出さなければならないからだ。しかし後見人としては最低限の義務しかなく、法的な手続きの保証人以外、卒業した人間を保護する義務がない。そのくせ経営者は国からの援助としてかなりの金額を受け取っているのだ。幼少時、同期数人(旦那除く)とこっそりくすねようとして、手を出す直前で現物を目にしたのだから間違いない。例え説教されようとも忘れるものか。だって思い切り利己的だったし。
……話がそれたけど、つまり他の後見人を見つけたり、適当な偽名を騙っていない限りは、家名で同じ孤児院出身だったかどうかが分かるのだ。私はそれを利用して、『旦那=元勇者』という認識をあまり広めないようにしている。
何故かって? ばれたら絶対面倒臭いから。
「私が知り合い呼んでくる振りして、伝声魔法か何かで匿名で対応、っていうのは?」
まあ、面倒事には違いないけども、後々のことを考えれば対応できずとも事情を把握するくらいはできるかな、と。後はただの好奇心。
「ふむ……ちょっと待って下さい」
そしてジャンヌは私から離れて、カリスさんと軽く話してから金ぴか騎士に声を掛けた。ちなみに他二人にも聞こえないよう配慮した上で。
いやぁ、できる女だな。ジャンヌは。
「すみません、そこのミーシャさんが務める出版社の同僚に、同じ『ロッカ』の方がいらっしゃるとのことですので、こちらに来て頂くか伝声魔法にての会談、という形で対応してもよろしいでしょうか?」
「私は一向に構わん!」
こっちは一向に構う!
等と言っている暇もなく、ジャンヌとカリスさんに連れられた私は一度店を後にしたのだった。まあその後、適当な路地裏にジャンヌと一緒に置いて行かれたのだが。
いくら適当な隠れ場所がなかったからって、強姦魔が来たらどうしてくれるカリスさんこの野郎。
「……あれ、ミーシャさんはぶっ!?」
「はいややこしくなりそうだから静かに~」
一方、余計なことを言いそうになっていたディル君を、微妙に事情を察したフィンさんが口止めしてくれたことに関して、私が気付くことはあるのだろうか。
どちらにしても別の話である。
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