52 / 54
シリーズ004
015 時は移ろえども、思いは変わらず
しおりを挟む
「…………よし、こんなものか」
周辺を適当に掃除し終えると、私は墓標を背にして地面の上に腰掛けた。
娼館での戦いから数日明け、魔血錠剤を巡る問題は一先ずの収束を迎えた。と言っても、世界全体として見たら大した事件じゃない。精々が数少ない不幸が起きかけたとか、そういう話だ。多分黒幕が撒き散らす事件は、終わりを迎えることはないだろう。
何故なら、どこまで行っても私達は……物語の主役にはなれないのだから。
ディル・ステーシアは、勇者の任を降ろされた。
異能持ちだからとか、敵が仲間の振りをして潜んでいたとか、そんな問題じゃない。元々日和見主義な国である以上、本人が望んだことではないとは言え、今回のような面倒事を再び起こす可能性がある人間を、残すなんてことはあり得ないからだ。
旦那の時と同様に、既に後任は決まっていた。順当にジャンヌだったので、特に思うことはないが、フィンさんが再び仲間になっていたのには驚いた。あの真面目人間について行くとは、惚れているのかと一瞬思った。実際に聞いてみると、『前科の記録を消すには、もうちょい実績が必要』だったらしい。人間悪いことはできないものだ。彼にストレスが溜まらないことを祈る。
娼館はもうない。館長の突然死、娼館の土地内での乱闘、おまけに最大の金づるがこの国からいなくなるのだ。娼婦達は挙って別の娼館を求めて起業を起こす剛の者も居れば、別の国で働こうとする者も居る。しかし一番多いのは、私みたいに別の職業へ転職する者だろう。
「早いな~ジョーが死んだかと思えば、娼婦やってすぐ辞めちゃうんだから」
私が娼婦になって、何年も経っていない気がする。その間の出来事は濃すぎると言えば濃すぎるが、薄いと言えば薄かった。
何せ私は、『勇者』の必要性どころか、それが何かすら知らないのだ。実際、国によってはただの貧乏籤だけど、隣国では勲章の類に過ぎない。しかし、他の国でもそうとは限らない。
だから、私はこの国を出ることにした。
出版社の特派員として、様々な国を回っていくことになる。女一人の辛い旅になるだろうが、この国で死にかけた経験から言うと、『人間どこでだって死ねる』んだ。
だったら命を惜しんでも仕方ない。今更未練なんてないのだ。最後まで足掻いてやる。
「……じゃあ、行ってくるね。次に会えるのはここか、あの世かは分からないけど」
皆それぞれの道を進んでいった。国を出る予定のある者は、私で最後だ。
元々国を出るつもりだったけど……まさかディル君が先に出ていくとは思わなかった。
あの後、三人で何を話し合ったのかは知らないが、ディル君はリナについて行くことにしたらしい。なんでそうなった、とも思うが、彼が強くなるにはもしかしたら一番手っ取り早いのかもしれない。
人間性はともかく、戦闘技術も異能持ちとしての経験も、リナの方が上だ。師匠と弟子の関係にならずとも、ついて行くだけで勉強になることも多い。おまけに相手は女だ。私以外の異性に目を向けるいい機会でもある。
……なんでリナと一緒に旅に出たのか、その目的を考える程、私は野暮じゃない。というか、今更過ぎる。その気持ちが変わるのかは彼次第だけど、別に気にする必要はないか。
「……さて、」
人生うまくいくとは限らない。誰もが物語の主役にはなれないように。
でも、登場人物として引っ掻き回すことはできた。ならばせめて、自分の人生だけでも、主役になる為に足掻こう。
結局は自己満足でも……これは私の、私だけの人生なんだから。
「まずは南の大国『ヤズ』か。行けたら魔界も見てみたいな……」
旅行鞄一つを手に、私は旅に出た。
この世界でありふれた物語だろうと、せめて旦那を楽しませられないと、本当にひっぱたかれそうだから。
とはいえ……まさかレイチェルちゃんに会うとは思わなかったけど。
周辺を適当に掃除し終えると、私は墓標を背にして地面の上に腰掛けた。
娼館での戦いから数日明け、魔血錠剤を巡る問題は一先ずの収束を迎えた。と言っても、世界全体として見たら大した事件じゃない。精々が数少ない不幸が起きかけたとか、そういう話だ。多分黒幕が撒き散らす事件は、終わりを迎えることはないだろう。
何故なら、どこまで行っても私達は……物語の主役にはなれないのだから。
ディル・ステーシアは、勇者の任を降ろされた。
異能持ちだからとか、敵が仲間の振りをして潜んでいたとか、そんな問題じゃない。元々日和見主義な国である以上、本人が望んだことではないとは言え、今回のような面倒事を再び起こす可能性がある人間を、残すなんてことはあり得ないからだ。
旦那の時と同様に、既に後任は決まっていた。順当にジャンヌだったので、特に思うことはないが、フィンさんが再び仲間になっていたのには驚いた。あの真面目人間について行くとは、惚れているのかと一瞬思った。実際に聞いてみると、『前科の記録を消すには、もうちょい実績が必要』だったらしい。人間悪いことはできないものだ。彼にストレスが溜まらないことを祈る。
娼館はもうない。館長の突然死、娼館の土地内での乱闘、おまけに最大の金づるがこの国からいなくなるのだ。娼婦達は挙って別の娼館を求めて起業を起こす剛の者も居れば、別の国で働こうとする者も居る。しかし一番多いのは、私みたいに別の職業へ転職する者だろう。
「早いな~ジョーが死んだかと思えば、娼婦やってすぐ辞めちゃうんだから」
私が娼婦になって、何年も経っていない気がする。その間の出来事は濃すぎると言えば濃すぎるが、薄いと言えば薄かった。
何せ私は、『勇者』の必要性どころか、それが何かすら知らないのだ。実際、国によってはただの貧乏籤だけど、隣国では勲章の類に過ぎない。しかし、他の国でもそうとは限らない。
だから、私はこの国を出ることにした。
出版社の特派員として、様々な国を回っていくことになる。女一人の辛い旅になるだろうが、この国で死にかけた経験から言うと、『人間どこでだって死ねる』んだ。
だったら命を惜しんでも仕方ない。今更未練なんてないのだ。最後まで足掻いてやる。
「……じゃあ、行ってくるね。次に会えるのはここか、あの世かは分からないけど」
皆それぞれの道を進んでいった。国を出る予定のある者は、私で最後だ。
元々国を出るつもりだったけど……まさかディル君が先に出ていくとは思わなかった。
あの後、三人で何を話し合ったのかは知らないが、ディル君はリナについて行くことにしたらしい。なんでそうなった、とも思うが、彼が強くなるにはもしかしたら一番手っ取り早いのかもしれない。
人間性はともかく、戦闘技術も異能持ちとしての経験も、リナの方が上だ。師匠と弟子の関係にならずとも、ついて行くだけで勉強になることも多い。おまけに相手は女だ。私以外の異性に目を向けるいい機会でもある。
……なんでリナと一緒に旅に出たのか、その目的を考える程、私は野暮じゃない。というか、今更過ぎる。その気持ちが変わるのかは彼次第だけど、別に気にする必要はないか。
「……さて、」
人生うまくいくとは限らない。誰もが物語の主役にはなれないように。
でも、登場人物として引っ掻き回すことはできた。ならばせめて、自分の人生だけでも、主役になる為に足掻こう。
結局は自己満足でも……これは私の、私だけの人生なんだから。
「まずは南の大国『ヤズ』か。行けたら魔界も見てみたいな……」
旅行鞄一つを手に、私は旅に出た。
この世界でありふれた物語だろうと、せめて旦那を楽しませられないと、本当にひっぱたかれそうだから。
とはいえ……まさかレイチェルちゃんに会うとは思わなかったけど。
0
あなたにおすすめの小説
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる