【R18】勇者の童貞レベルが高すぎる!

桐生彩音

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シリーズ004

014 強さとは何か

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「どういう、こと……?」
 全然、事情が分からない。
 見えていること自体は単純だ。剣を構えたディル君がリナに挑みかかり、
「ヴォッ!?」
 返り討ちになっていた。一度だけじゃない。
「ガッ!?」
「ビェッ!?」
「ギュッ!?」
 何度も、何度も、倒れては立ち上がり、剣を振りかざしては鞘に納められた太刀で叩き返されている。けれども、ディル君は足を止めない。身体中にあざを増やしながらも、リナに挑むことを止めない。
「ねえ、これ……どういうこと?」
「多分だが、感情が暴走したんだろう」
 いつの間にか近くに来たフィンさんが、私の手を引いて二人から遠ざけてくれた。今はジャンヌを寝かせて、私から受け取った治療用の魔法薬を傷口に振りかけている。
「よくある話だ。自分で解決できない問題にぶつかって、そのままくたばれないとどうなるか、その答えがあれだ」
「え、じゃ、それって……」
 単に自分ができないことを誰かがやったから、嫉妬しっとしたってこと?
「ただの嫉妬でしょう? 何それ、勝手すぎる……」
「……そう単純でもないさ」
 フィンさんは空のびんを投げ捨て、ジャンヌのそばに腰掛けながら話を進めてきた。
「それもあるだろうが、他の感情も混ざって、まともな思考ができなくなってるんだろう。例えば、自分が・・・ミーシャちゃんを守れなかったとか」
「…………」
 言葉が出てこない。
「他にも、そうだな……自分よりもカリスさんの方が強い、自分よりもリナちゃんの方が頼られている、自分には越えなければならない壁があるのに、とっかかりすらつかめない。……結論はただ一つ、あいつは自分の未熟よわさを自覚し、目の前のリナちゃんを超えようとしている。無意識下でな」
「……止めないと」
「駄目だ。ますますこじれるぞ」
 思わず駆けだそうとするが、腕をつかまれてしまい、思うように前に進めなかった。
「リナちゃんには悪いが、ああなったら一回気絶するまでボロ負けした方がいい。人間が強くなる段階があるとしたら、あの状態からい上がることもその一つだ」
「そんな……」
 そんな……って、何?
 私はいつの間にか、心の中で自分に問いかけていた。
 自分は一体、何様のつもりなのだろう、と。
 ……私はただの娼婦だ。武器はない、旦那の形見である短槍は砕けた。魔法はあるが、大して威力はない。
 所詮しょせんは女だ、力もない。
 所詮しょせんは孤児だ、学も、コネもない。
 私には…………何もない。
「……ゃ、さ…………る」
 なのに、
「みぃ、……ん、…………ま……」
 なのに、
「みぃしゃさ、んは……」
 なのに、彼は叫んでくる。
「ミーシャさんはっ! 僕が守るっ!」
 私の心に突き刺さるような言葉を。
 ああ……最悪だ。こんなのに好かれてたのかと思うと、本当に……ほんと、う、に…………
「……て…………」
 もう、前が見えない。
 何も、見えないよ……
「……………………もうやめてよっ!」



 ……今回の件で、分かったことが一つある。
 私は、ディル君が嫌いだ。守るとか言いながら、ボロボロになるまで戦って…………私を泣かせてくる奴なんて。



 結局の所、私が泣いている間にディル君はボッコボコにされていた。しかし連戦後とはいえ、何度も挑まれたからだろう。リナは肩で息をしながら、鞘に納めたままの太刀を手にどかっ、と音を立てて腰を降ろした。
「つっかれたぁ~……」
 流石さすがのリナも限界だったのか、フィンさんが投げた回復用の魔法薬を一息で飲み干してから、空になったびんを投げ捨てていた。言っちゃあなんだけど、行儀ぎょうぎの悪い女だ。
「……ミーシャ、大丈夫?」
「そのままリナに言ってやりたいけど……なんとか」
 でも、ようやく終わったんだ……ああ、疲れた。
「さて、と……」
 魔法薬で回復したのか、リナは太刀を杖代わりに立ち上がった。
 ……恩人の形見じゃなかったっけ?
「……勇者君めてくるから、ちょっと待ってて」
「待て待て、俺も行くから落ち着けって!」
 そして私にジャンヌを任せてから、ディル君を抱えたフィンさんとリナは、ここから離れていった。

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