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シリーズ004
014 強さとは何か
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「どういう、こと……?」
全然、事情が分からない。
見えていること自体は単純だ。剣を構えたディル君がリナに挑みかかり、
「ヴォッ!?」
返り討ちになっていた。一度だけじゃない。
「ガッ!?」
「ビェッ!?」
「ギュッ!?」
何度も、何度も、倒れては立ち上がり、剣を振りかざしては鞘に納められた太刀で叩き返されている。けれども、ディル君は足を止めない。身体中に痣を増やしながらも、リナに挑むことを止めない。
「ねえ、これ……どういうこと?」
「多分だが、感情が暴走したんだろう」
いつの間にか近くに来たフィンさんが、私の手を引いて二人から遠ざけてくれた。今はジャンヌを寝かせて、私から受け取った治療用の魔法薬を傷口に振りかけている。
「よくある話だ。自分で解決できない問題にぶつかって、そのままくたばれないとどうなるか、その答えがあれだ」
「え、じゃ、それって……」
単に自分ができないことを誰かがやったから、嫉妬したってこと?
「ただの嫉妬でしょう? 何それ、勝手すぎる……」
「……そう単純でもないさ」
フィンさんは空の瓶を投げ捨て、ジャンヌの傍に腰掛けながら話を進めてきた。
「それもあるだろうが、他の感情も混ざって、まともな思考ができなくなってるんだろう。例えば、自分がミーシャちゃんを守れなかったとか」
「…………」
言葉が出てこない。
「他にも、そうだな……自分よりもカリスさんの方が強い、自分よりもリナちゃんの方が頼られている、自分には越えなければならない壁があるのに、とっかかりすら掴めない。……結論はただ一つ、あいつは自分の未熟さを自覚し、目の前の壁を超えようとしている。無意識下でな」
「……止めないと」
「駄目だ。ますます拗れるぞ」
思わず駆けだそうとするが、腕を掴まれてしまい、思うように前に進めなかった。
「リナちゃんには悪いが、ああなったら一回気絶するまでボロ負けした方がいい。人間が強くなる段階があるとしたら、あの状態から這い上がることもその一つだ」
「そんな……」
そんな……って、何?
私はいつの間にか、心の中で自分に問いかけていた。
自分は一体、何様のつもりなのだろう、と。
……私はただの娼婦だ。武器はない、旦那の形見である短槍は砕けた。魔法はあるが、大して威力はない。
所詮は女だ、力もない。
所詮は孤児だ、学も、コネもない。
私には…………何もない。
「……ゃ、さ…………る」
なのに、
「みぃ、……ん、…………ま……」
なのに、
「みぃしゃさ、んは……」
なのに、彼は叫んでくる。
「ミーシャさんはっ! 僕が守るっ!」
私の心に突き刺さるような言葉を。
ああ……最悪だ。こんなのに好かれてたのかと思うと、本当に……ほんと、う、に…………
「……て…………」
もう、前が見えない。
何も、見えないよ……
「……………………もうやめてよっ!」
……今回の件で、分かったことが一つある。
私は、ディル君が嫌いだ。守るとか言いながら、ボロボロになるまで戦って…………私を泣かせてくる奴なんて。
結局の所、私が泣いている間にディル君はボッコボコにされていた。しかし連戦後とはいえ、何度も挑まれたからだろう。リナは肩で息をしながら、鞘に納めたままの太刀を手にどかっ、と音を立てて腰を降ろした。
「つっかれたぁ~……」
流石のリナも限界だったのか、フィンさんが投げた回復用の魔法薬を一息で飲み干してから、空になった瓶を投げ捨てていた。言っちゃあなんだけど、行儀の悪い女だ。
「……ミーシャ、大丈夫?」
「そのままリナに言ってやりたいけど……なんとか」
でも、ようやく終わったんだ……ああ、疲れた。
「さて、と……」
魔法薬で回復したのか、リナは太刀を杖代わりに立ち上がった。
……恩人の形見じゃなかったっけ?
「……勇者君締めてくるから、ちょっと待ってて」
「待て待て、俺も行くから落ち着けって!」
そして私にジャンヌを任せてから、ディル君を抱えたフィンさんとリナは、ここから離れていった。
全然、事情が分からない。
見えていること自体は単純だ。剣を構えたディル君がリナに挑みかかり、
「ヴォッ!?」
返り討ちになっていた。一度だけじゃない。
「ガッ!?」
「ビェッ!?」
「ギュッ!?」
何度も、何度も、倒れては立ち上がり、剣を振りかざしては鞘に納められた太刀で叩き返されている。けれども、ディル君は足を止めない。身体中に痣を増やしながらも、リナに挑むことを止めない。
「ねえ、これ……どういうこと?」
「多分だが、感情が暴走したんだろう」
いつの間にか近くに来たフィンさんが、私の手を引いて二人から遠ざけてくれた。今はジャンヌを寝かせて、私から受け取った治療用の魔法薬を傷口に振りかけている。
「よくある話だ。自分で解決できない問題にぶつかって、そのままくたばれないとどうなるか、その答えがあれだ」
「え、じゃ、それって……」
単に自分ができないことを誰かがやったから、嫉妬したってこと?
「ただの嫉妬でしょう? 何それ、勝手すぎる……」
「……そう単純でもないさ」
フィンさんは空の瓶を投げ捨て、ジャンヌの傍に腰掛けながら話を進めてきた。
「それもあるだろうが、他の感情も混ざって、まともな思考ができなくなってるんだろう。例えば、自分がミーシャちゃんを守れなかったとか」
「…………」
言葉が出てこない。
「他にも、そうだな……自分よりもカリスさんの方が強い、自分よりもリナちゃんの方が頼られている、自分には越えなければならない壁があるのに、とっかかりすら掴めない。……結論はただ一つ、あいつは自分の未熟さを自覚し、目の前の壁を超えようとしている。無意識下でな」
「……止めないと」
「駄目だ。ますます拗れるぞ」
思わず駆けだそうとするが、腕を掴まれてしまい、思うように前に進めなかった。
「リナちゃんには悪いが、ああなったら一回気絶するまでボロ負けした方がいい。人間が強くなる段階があるとしたら、あの状態から這い上がることもその一つだ」
「そんな……」
そんな……って、何?
私はいつの間にか、心の中で自分に問いかけていた。
自分は一体、何様のつもりなのだろう、と。
……私はただの娼婦だ。武器はない、旦那の形見である短槍は砕けた。魔法はあるが、大して威力はない。
所詮は女だ、力もない。
所詮は孤児だ、学も、コネもない。
私には…………何もない。
「……ゃ、さ…………る」
なのに、
「みぃ、……ん、…………ま……」
なのに、
「みぃしゃさ、んは……」
なのに、彼は叫んでくる。
「ミーシャさんはっ! 僕が守るっ!」
私の心に突き刺さるような言葉を。
ああ……最悪だ。こんなのに好かれてたのかと思うと、本当に……ほんと、う、に…………
「……て…………」
もう、前が見えない。
何も、見えないよ……
「……………………もうやめてよっ!」
……今回の件で、分かったことが一つある。
私は、ディル君が嫌いだ。守るとか言いながら、ボロボロになるまで戦って…………私を泣かせてくる奴なんて。
結局の所、私が泣いている間にディル君はボッコボコにされていた。しかし連戦後とはいえ、何度も挑まれたからだろう。リナは肩で息をしながら、鞘に納めたままの太刀を手にどかっ、と音を立てて腰を降ろした。
「つっかれたぁ~……」
流石のリナも限界だったのか、フィンさんが投げた回復用の魔法薬を一息で飲み干してから、空になった瓶を投げ捨てていた。言っちゃあなんだけど、行儀の悪い女だ。
「……ミーシャ、大丈夫?」
「そのままリナに言ってやりたいけど……なんとか」
でも、ようやく終わったんだ……ああ、疲れた。
「さて、と……」
魔法薬で回復したのか、リナは太刀を杖代わりに立ち上がった。
……恩人の形見じゃなかったっけ?
「……勇者君締めてくるから、ちょっと待ってて」
「待て待て、俺も行くから落ち着けって!」
そして私にジャンヌを任せてから、ディル君を抱えたフィンさんとリナは、ここから離れていった。
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