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194 マガリ案件No.003_03,08+α(その1)
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理沙が運転するワゴン車で移動した由希奈達は、目的の場所に到着すると早々に下車した。
「今回の標的は、過疎化で廃校になった学校を根城にしている、麻薬の栽培組織だ」
事前に調査する余裕がなかったので、『情報屋』の資料に従って廃校舎近くの、見晴らしが良くてかつ相手の警戒網に引っ掛からない、人の目がない場所にワゴン車を停めた。その傍に集まってしゃがみ込むと、朔夜を中心にして改めて、状況の確認が行われた。
「栽培? 製造や流通関係はどうなっている?」
ただの、と言っていいのかは分からないが、麻薬組織とは主に、麻薬の製造や流通を収入源にしている。ゆえに、その原料となる植物の栽培まで行う必要はない。
その為、麻薬の栽培組織と言われた理沙の脳裏には、標的の収入源のことが真っ先に浮かんだらしい。『情報屋』からの情報とはいえ、万が一にも製造や流通が行われていないのであれば、とんだ貧乏籤である。
けれども、今回の狙いは麻薬で得た利益ではないようだった。
「他の麻薬組織の先行投資を掻き集めて、立ち上げたみたいだな……」
左手に煙草を持ちながら、朔夜は右手に取り出した資料を全員が見えるように、地面の上へと広げだす。
「暁連邦共和国が馬鹿ばっかりやってるせいで、世界情勢が多少なりとも荒れてんだよ。それこそ、裏(社会)の方にも影響が出てきている位にな。で、麻薬どころか精製前の原料すら日本に持ち込み難くなったから、栽培組織を立ち上げようと資金を募ったんだと」
とんだ投資信託だ、と一言吐き捨ててから、朔夜は煙草を一口吸い込んだ。
「ふぅ……で、私達の狙いが、その掻き集められた資金だ。資金洗浄済みの現金が、ざっと十億位だな」
規模にもよるが、麻薬の市場価値を考えれば自然だが、栽培設備の先行投資としてはあまりにも不自然な金額である。資金洗浄自体は組織が潰された際に無関係を装う為だろうが、これ程の金額を振り込む必要はほとんどない。何か、別の目的があると考えるべきだろう。
「もしかして……脱税?」
「多分、脱税もある」
眼鏡を押さえた美里の問い掛けに、朔夜はそう答えた。
「少なくとも、何らかの理由で見られたくない資産を一旦、『投資』の名目で麻薬の栽培組織に移したんだろうな。それを慣れないうちにあちこちの組織がやったもんだから、今は集まった資金を散らせるのに難儀しているらしい」
襲撃を行う際の危険性や実際に回収できる資金の額。使用する武器類や痕跡を残さない為の隠蔽工作等に掛かる経費。そして、安全な金銭として扱えるように処理し、最後に残った純利益を人数分割る。予定通りにいけば、一人当たりの報酬は軽く一億を超えるだろう。
「問題は……都合良く、まだ資金が残っているかどうか、だな」
すでに手はずを整えたか設備投資等に回されているかもしれない上に、栽培組織内で中抜きが行われている可能性もある。いずれにせよ、未だに資金が現金として、拠点に残されているとは限らない。だからこそ、朔夜達は即座に行動を開始するしかなかった。
「じゃ、それぞれ準備に入れ。作戦は全員の装備を見てから決める」
はいほ~い、と各々がバラバラに答えた後、車内に残した装備をそれぞれが取り出していく。その中で、由希奈は朔夜から受け取った9mm拳銃弾を、彩未から借りたままになっている自動拳銃の弾倉に装填し始めた。
「ちなみに由希奈、その自動拳銃以外で使ったことのある得物は?」
「えっと……この銃以外で使ったことのある武器はありません。睦月さんが持っている回転式拳銃を分解整備したことはありますが、まだ撃ったことはなくて……」
「……つまり、自動拳銃以外はまったくの未経験ってことか」
少しだけ視線を宙に浮かせ、やがて考えが纏まった朔夜は携帯灰皿に吸殻を捨てると、車の中から自分の鞄を取り出し、中に納められている武器類を物色し始めた。
「9mm口径の自動拳銃が使えるなら……それに合わせた方が良いな」
そう言って朔夜が取り出したのは、突撃用自動小銃を小型化したような形状だが、自動拳銃より一回り大きい銃器――短機関銃だった。
「自動連射できる自動拳銃でもあれば良かったんだが……生憎と持ち合わせがなくてな。それに、両手で構えられる方が狙いやすいだろ?」
銃器に詳しくない由希奈からすれば、形状以外で自動連射可能な自動拳銃と短機関銃の区別はつかない。けれども、銃把の前に弾倉を差し込む姿が、下手な拳銃よりもはるかに危険な代物だということを示唆してくる気がしてならなかった。
「短機関銃は挿し込んだ弾倉が銃身にしっかり固定されるから、そこを前部の銃把の代わりにして構えることができる。.32(約7.8mm)口径なら曲線型でもっと握りやすいんだが……この型は9mm口径用で直線状になってるんだよ」
とはいえ、初めて持つ由希奈にはその良し悪しが分からない。それを理解している為か、朔夜は気にせず説明を続けてきた。
「まあ、取っ手代わりに掴んで持つのは変わらないから、その辺はあんまり気にすんな。一度撃ってみて、それでも狙いが安定しなかったら銃身の方を握るか、腰だめに構えろ。もしくは……」
言葉と共に、由希奈の前で短機関銃の銃身を覆うように折り畳まれているワイヤーストックを持ち上げた朔夜は、それを後ろに倒して見せてきた。
「このストックを上腕に当てた状態で、銃身を固定するんだ。慣れれば片手でも扱えるが、別に無理してそうする必要はない。今日のところは両手で構えたまま狙わず、撃ちながら標的に着弾地点を近付けるようにして、銃口をずらしていけ。残弾や殺した数よりも、自分の生命を優先しろ」
「分かりました……ありがとうございます。お借り、します」
ワイヤーストックが戻された短機関銃を朔夜から受け取った由希奈は、動作確認を行った後、静かに弾倉を作り始めた。
(とりあえず……これで死んでも、本人の実力か認識が不足しているだけだろ。うん、つまり私は悪くない)
自己保身的な言い訳を心の中だけで思い浮かべてから、朔夜は父親の形見でもある旧式の.45(11.5mm)口径自動拳銃を抜き、そこから弾倉を抜いて残弾を確認する。
(九州に行く前に、睦月の隠れ家から予備の銃弾を掻き集めといて正解だったな。私の方はあまり撃たなかったから、残弾に結構余裕があるし)
一応、予備の弾倉にはすでに銃弾を装填しているものの、仕事中の思い込みはミスの原因だ。特に、命懸けの現場ともなれば、自らの生死にも繋がってくる。
だから朔夜は、自動拳銃に挿し込んだものとは別の弾倉一つ一つも、装弾数をしっかりと確認していった。
(と、言っても……やっぱり、弾倉の数が少なくなってきているのはきついな)
探せば互換性のあるものや、別の銃で使われていた弾倉も売られているかもしれない。けれども、軍にも採用されていたこの自動拳銃も今や、旧式として使われることがなくなってきている。しかも、流通経路によっては、.45口径よりも9mm拳銃弾の方が安上がりで済むことの方が多かった。
一応、民間での人気は高いので、本場に行けば市場に流れている在庫を漁れる可能性も無くはないが……輸送の手間を考えれば、新しい武器に換えた方が手っ取り早いだろう。
(それでも、銃を持ち替える気にはなれないんだから……睦月のこと、あんまり強く言えないな)
睦月は発達障害の特性の一つである常同行動の影響で、似通った武器や道具を使うことが多い。だが、自分の場合はどちらかというと、感傷的な気持ちが根付いてしまっているのが大きかった。
(唯一の救いは、武器の方も色々と残してくれてたところか……まあ、世代遅れなのは仕方ないが)
現に、由希奈に貸した短機関銃にもすでに、後継型が生まれている。『情報屋』の店へと向かう前にいくつか武器を持ってきてはいるが、.45口径対応の銃器で使える物はもうほとんど残っていない。
だから旧式の自動拳銃を仕舞った朔夜は、由希奈に貸した物と同型の短機関銃を別に用意し、銃弾を詰めた弾倉を挿し込むと肩に担いだ。
「さて、と…………お前等、準備できたか?」
その言葉に、由希奈を含めた全員が、得物を片手に振り返ってきた。
一度、誰がどんな武器を持っているのかを、朔夜は脳内で整理した。
自分はいつもの旧式の.45口径自動拳銃に、9mm拳銃弾を用いる短機関銃が一丁。予備の銃器や細々とした道具はあるが、基本的には開錠用の特殊工具等で武器としての用途には使えない。
由希奈はホルスターに9mm口径の自動拳銃を仕舞い、両手で短機関銃を構えていた。元々街歩きの格好だったので、今は朔夜の予備の仕事着類を貸して着せているが……『防弾ベスト代わり』と称して、厚手の上着を羽織らせている。その際、胸元から視線を逸らすのに苦労したが。
弥生もこの前、爆薬を購入したばかりだと聞いてはいるが、九州の一件で多少は目減りしているはずだ。けれども、本人に特段気にした様子はなく、空になった分のポーチを取り外して、車の中に置いてきている。その代わり、愛用のペストマスクと共に、魔改造したらしき小型の自動拳銃の弾倉に先程まで、5.7mm小口径高速弾というあまりにも不釣り合いな銃弾を込めていたが。
逆に理沙は、基本に忠実な装備で身を固めていた。拳銃こそ朔夜の持つ父親の形見を二丁用意し、強引に組み合わせたような二丁一対型の自動拳銃を使用しているが、それ以外は義兄の勇太から借りてきたのか、ショットガンに繋げたガンベルトを肩に掛けている。
もし不安があるとすれば、美里と佳奈の二人だろう。それぞれの得物は鎖鎌と斧槍のみ。一応、小道具の類は用意してあるみたいだが……明らかに最低限の防具か、変装の用途でしか使えない物ばかりだった。
「というかお前等、飛び道具がないと不便じゃないか?」
相手が同じ土俵で戦うならまだしも、武器を持った人間に対して、大抵の場合は逃げるか物を投げつけて対抗することの方が多い。反銃社会だからまだ銃撃されるおそれが低いだけで、その気になれば狩猟用のボウガンや自作銃、何ならR18指定のエアガンをも向けられる可能性だってある。
「まあ、私の場合は有効範囲が長いし……」
そう言い、美里は自身の得物である鎖鎌を掲げて見せてきた。
柄尻に鎖の先端を埋め込み、反対側に分銅を備え付けた一般的な代物だが、鎌の持ち手は短いのに対し、尻尾のように伸びる鎖分銅は異常に長い。肩に担ぐ際に、鎖部分を巻いて束にしている程だ。
「元々、回収可能な飛び道具としても使ってるから、あまり不便してないのよ」
「ふぅん…………で、そっちは?」
「めっちゃ不便」
美里の武器を観察し終えた朔夜は、その流れで佳奈に視線を向けるものの、投げた疑問に対してストレートに返されてしまい、若干鼻白んでしまう。
「なら改善策の一つ位、考えとけよ」
「一応斧槍振り回して、適当な小石を弾いたりとかはできるんだけどね~」
「私と戦った時も、普通に身体能力任せだったものね……」
そう美里は言うものの、佳奈が勝利した事実と飛び道具のない現状は変わらない。どうにかできるのであればまだ良いが、結果足を引っ張られる事態だけは避けたかった。
(まあ、こっちも本人任せでいいな。自己責任、自己責任……)
そんなことを考えている間に、車で空になったポーチを片付けていた弥生が、代わりに別の物を手に戻ってきていた。
「だったら佳奈ちゃん、これ使ってみる?」
「何それ?」
「新しい武器の試作品」
全員の視線が集まる中、弥生が持ち出してきたのは手の甲よりも大きくはある、小型の盾だった。見た目こそ籠手の延長のような細長の五角形だが、その先端には刃物が取り付けられている。
「今は金属板を加工した盾に刃物取り付けてるだけだけど、色々と仕掛けを埋め込む予定なんだよね~」
「へぇ……」
弥生から盾を受け取った佳奈は、一通り眺めてから左手に装着し始めた。
「盾の部分で防御もできるし、刃物も弾道ナイフみたいに射出できれば面白いかな、って」
「ふぅん、どれどれ……」
次いで斧槍を構え、適当に素振りしだす佳奈。
「ちょっと振り回すのに邪魔だけど……感触は悪くないかな?」
普段見慣れない得物とはいえ、斧槍の素振りを見た朔夜の胸中は、感嘆と脅威に埋め尽くされていた。
(……いや、十分に厄介だって。少なくとも、正面切って戦いたくない)
自身の戦闘能力を鑑みた上で、『最期の世代』達と同様に敵対したくないなと考える朔夜。だが、弥生の方は特に気にすることなく、佳奈と盾の改善案について話し出してしまう。
それこそ、敵が増える可能性を恐れていないとばかりに。
「盛り上がっているところ悪いが……その製作資金も含めて、稼ぎに行くぞ」
話題逸らしの意図も含めて、何度か軽く手を叩いて弥生と佳奈の会話を中断させた朔夜は、全員の得物を確認しながら纏めた作戦を説明し始めた。
「今回の標的は、過疎化で廃校になった学校を根城にしている、麻薬の栽培組織だ」
事前に調査する余裕がなかったので、『情報屋』の資料に従って廃校舎近くの、見晴らしが良くてかつ相手の警戒網に引っ掛からない、人の目がない場所にワゴン車を停めた。その傍に集まってしゃがみ込むと、朔夜を中心にして改めて、状況の確認が行われた。
「栽培? 製造や流通関係はどうなっている?」
ただの、と言っていいのかは分からないが、麻薬組織とは主に、麻薬の製造や流通を収入源にしている。ゆえに、その原料となる植物の栽培まで行う必要はない。
その為、麻薬の栽培組織と言われた理沙の脳裏には、標的の収入源のことが真っ先に浮かんだらしい。『情報屋』からの情報とはいえ、万が一にも製造や流通が行われていないのであれば、とんだ貧乏籤である。
けれども、今回の狙いは麻薬で得た利益ではないようだった。
「他の麻薬組織の先行投資を掻き集めて、立ち上げたみたいだな……」
左手に煙草を持ちながら、朔夜は右手に取り出した資料を全員が見えるように、地面の上へと広げだす。
「暁連邦共和国が馬鹿ばっかりやってるせいで、世界情勢が多少なりとも荒れてんだよ。それこそ、裏(社会)の方にも影響が出てきている位にな。で、麻薬どころか精製前の原料すら日本に持ち込み難くなったから、栽培組織を立ち上げようと資金を募ったんだと」
とんだ投資信託だ、と一言吐き捨ててから、朔夜は煙草を一口吸い込んだ。
「ふぅ……で、私達の狙いが、その掻き集められた資金だ。資金洗浄済みの現金が、ざっと十億位だな」
規模にもよるが、麻薬の市場価値を考えれば自然だが、栽培設備の先行投資としてはあまりにも不自然な金額である。資金洗浄自体は組織が潰された際に無関係を装う為だろうが、これ程の金額を振り込む必要はほとんどない。何か、別の目的があると考えるべきだろう。
「もしかして……脱税?」
「多分、脱税もある」
眼鏡を押さえた美里の問い掛けに、朔夜はそう答えた。
「少なくとも、何らかの理由で見られたくない資産を一旦、『投資』の名目で麻薬の栽培組織に移したんだろうな。それを慣れないうちにあちこちの組織がやったもんだから、今は集まった資金を散らせるのに難儀しているらしい」
襲撃を行う際の危険性や実際に回収できる資金の額。使用する武器類や痕跡を残さない為の隠蔽工作等に掛かる経費。そして、安全な金銭として扱えるように処理し、最後に残った純利益を人数分割る。予定通りにいけば、一人当たりの報酬は軽く一億を超えるだろう。
「問題は……都合良く、まだ資金が残っているかどうか、だな」
すでに手はずを整えたか設備投資等に回されているかもしれない上に、栽培組織内で中抜きが行われている可能性もある。いずれにせよ、未だに資金が現金として、拠点に残されているとは限らない。だからこそ、朔夜達は即座に行動を開始するしかなかった。
「じゃ、それぞれ準備に入れ。作戦は全員の装備を見てから決める」
はいほ~い、と各々がバラバラに答えた後、車内に残した装備をそれぞれが取り出していく。その中で、由希奈は朔夜から受け取った9mm拳銃弾を、彩未から借りたままになっている自動拳銃の弾倉に装填し始めた。
「ちなみに由希奈、その自動拳銃以外で使ったことのある得物は?」
「えっと……この銃以外で使ったことのある武器はありません。睦月さんが持っている回転式拳銃を分解整備したことはありますが、まだ撃ったことはなくて……」
「……つまり、自動拳銃以外はまったくの未経験ってことか」
少しだけ視線を宙に浮かせ、やがて考えが纏まった朔夜は携帯灰皿に吸殻を捨てると、車の中から自分の鞄を取り出し、中に納められている武器類を物色し始めた。
「9mm口径の自動拳銃が使えるなら……それに合わせた方が良いな」
そう言って朔夜が取り出したのは、突撃用自動小銃を小型化したような形状だが、自動拳銃より一回り大きい銃器――短機関銃だった。
「自動連射できる自動拳銃でもあれば良かったんだが……生憎と持ち合わせがなくてな。それに、両手で構えられる方が狙いやすいだろ?」
銃器に詳しくない由希奈からすれば、形状以外で自動連射可能な自動拳銃と短機関銃の区別はつかない。けれども、銃把の前に弾倉を差し込む姿が、下手な拳銃よりもはるかに危険な代物だということを示唆してくる気がしてならなかった。
「短機関銃は挿し込んだ弾倉が銃身にしっかり固定されるから、そこを前部の銃把の代わりにして構えることができる。.32(約7.8mm)口径なら曲線型でもっと握りやすいんだが……この型は9mm口径用で直線状になってるんだよ」
とはいえ、初めて持つ由希奈にはその良し悪しが分からない。それを理解している為か、朔夜は気にせず説明を続けてきた。
「まあ、取っ手代わりに掴んで持つのは変わらないから、その辺はあんまり気にすんな。一度撃ってみて、それでも狙いが安定しなかったら銃身の方を握るか、腰だめに構えろ。もしくは……」
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「このストックを上腕に当てた状態で、銃身を固定するんだ。慣れれば片手でも扱えるが、別に無理してそうする必要はない。今日のところは両手で構えたまま狙わず、撃ちながら標的に着弾地点を近付けるようにして、銃口をずらしていけ。残弾や殺した数よりも、自分の生命を優先しろ」
「分かりました……ありがとうございます。お借り、します」
ワイヤーストックが戻された短機関銃を朔夜から受け取った由希奈は、動作確認を行った後、静かに弾倉を作り始めた。
(とりあえず……これで死んでも、本人の実力か認識が不足しているだけだろ。うん、つまり私は悪くない)
自己保身的な言い訳を心の中だけで思い浮かべてから、朔夜は父親の形見でもある旧式の.45(11.5mm)口径自動拳銃を抜き、そこから弾倉を抜いて残弾を確認する。
(九州に行く前に、睦月の隠れ家から予備の銃弾を掻き集めといて正解だったな。私の方はあまり撃たなかったから、残弾に結構余裕があるし)
一応、予備の弾倉にはすでに銃弾を装填しているものの、仕事中の思い込みはミスの原因だ。特に、命懸けの現場ともなれば、自らの生死にも繋がってくる。
だから朔夜は、自動拳銃に挿し込んだものとは別の弾倉一つ一つも、装弾数をしっかりと確認していった。
(と、言っても……やっぱり、弾倉の数が少なくなってきているのはきついな)
探せば互換性のあるものや、別の銃で使われていた弾倉も売られているかもしれない。けれども、軍にも採用されていたこの自動拳銃も今や、旧式として使われることがなくなってきている。しかも、流通経路によっては、.45口径よりも9mm拳銃弾の方が安上がりで済むことの方が多かった。
一応、民間での人気は高いので、本場に行けば市場に流れている在庫を漁れる可能性も無くはないが……輸送の手間を考えれば、新しい武器に換えた方が手っ取り早いだろう。
(それでも、銃を持ち替える気にはなれないんだから……睦月のこと、あんまり強く言えないな)
睦月は発達障害の特性の一つである常同行動の影響で、似通った武器や道具を使うことが多い。だが、自分の場合はどちらかというと、感傷的な気持ちが根付いてしまっているのが大きかった。
(唯一の救いは、武器の方も色々と残してくれてたところか……まあ、世代遅れなのは仕方ないが)
現に、由希奈に貸した短機関銃にもすでに、後継型が生まれている。『情報屋』の店へと向かう前にいくつか武器を持ってきてはいるが、.45口径対応の銃器で使える物はもうほとんど残っていない。
だから旧式の自動拳銃を仕舞った朔夜は、由希奈に貸した物と同型の短機関銃を別に用意し、銃弾を詰めた弾倉を挿し込むと肩に担いだ。
「さて、と…………お前等、準備できたか?」
その言葉に、由希奈を含めた全員が、得物を片手に振り返ってきた。
一度、誰がどんな武器を持っているのかを、朔夜は脳内で整理した。
自分はいつもの旧式の.45口径自動拳銃に、9mm拳銃弾を用いる短機関銃が一丁。予備の銃器や細々とした道具はあるが、基本的には開錠用の特殊工具等で武器としての用途には使えない。
由希奈はホルスターに9mm口径の自動拳銃を仕舞い、両手で短機関銃を構えていた。元々街歩きの格好だったので、今は朔夜の予備の仕事着類を貸して着せているが……『防弾ベスト代わり』と称して、厚手の上着を羽織らせている。その際、胸元から視線を逸らすのに苦労したが。
弥生もこの前、爆薬を購入したばかりだと聞いてはいるが、九州の一件で多少は目減りしているはずだ。けれども、本人に特段気にした様子はなく、空になった分のポーチを取り外して、車の中に置いてきている。その代わり、愛用のペストマスクと共に、魔改造したらしき小型の自動拳銃の弾倉に先程まで、5.7mm小口径高速弾というあまりにも不釣り合いな銃弾を込めていたが。
逆に理沙は、基本に忠実な装備で身を固めていた。拳銃こそ朔夜の持つ父親の形見を二丁用意し、強引に組み合わせたような二丁一対型の自動拳銃を使用しているが、それ以外は義兄の勇太から借りてきたのか、ショットガンに繋げたガンベルトを肩に掛けている。
もし不安があるとすれば、美里と佳奈の二人だろう。それぞれの得物は鎖鎌と斧槍のみ。一応、小道具の類は用意してあるみたいだが……明らかに最低限の防具か、変装の用途でしか使えない物ばかりだった。
「というかお前等、飛び道具がないと不便じゃないか?」
相手が同じ土俵で戦うならまだしも、武器を持った人間に対して、大抵の場合は逃げるか物を投げつけて対抗することの方が多い。反銃社会だからまだ銃撃されるおそれが低いだけで、その気になれば狩猟用のボウガンや自作銃、何ならR18指定のエアガンをも向けられる可能性だってある。
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そう言い、美里は自身の得物である鎖鎌を掲げて見せてきた。
柄尻に鎖の先端を埋め込み、反対側に分銅を備え付けた一般的な代物だが、鎌の持ち手は短いのに対し、尻尾のように伸びる鎖分銅は異常に長い。肩に担ぐ際に、鎖部分を巻いて束にしている程だ。
「元々、回収可能な飛び道具としても使ってるから、あまり不便してないのよ」
「ふぅん…………で、そっちは?」
「めっちゃ不便」
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「なら改善策の一つ位、考えとけよ」
「一応斧槍振り回して、適当な小石を弾いたりとかはできるんだけどね~」
「私と戦った時も、普通に身体能力任せだったものね……」
そう美里は言うものの、佳奈が勝利した事実と飛び道具のない現状は変わらない。どうにかできるのであればまだ良いが、結果足を引っ張られる事態だけは避けたかった。
(まあ、こっちも本人任せでいいな。自己責任、自己責任……)
そんなことを考えている間に、車で空になったポーチを片付けていた弥生が、代わりに別の物を手に戻ってきていた。
「だったら佳奈ちゃん、これ使ってみる?」
「何それ?」
「新しい武器の試作品」
全員の視線が集まる中、弥生が持ち出してきたのは手の甲よりも大きくはある、小型の盾だった。見た目こそ籠手の延長のような細長の五角形だが、その先端には刃物が取り付けられている。
「今は金属板を加工した盾に刃物取り付けてるだけだけど、色々と仕掛けを埋め込む予定なんだよね~」
「へぇ……」
弥生から盾を受け取った佳奈は、一通り眺めてから左手に装着し始めた。
「盾の部分で防御もできるし、刃物も弾道ナイフみたいに射出できれば面白いかな、って」
「ふぅん、どれどれ……」
次いで斧槍を構え、適当に素振りしだす佳奈。
「ちょっと振り回すのに邪魔だけど……感触は悪くないかな?」
普段見慣れない得物とはいえ、斧槍の素振りを見た朔夜の胸中は、感嘆と脅威に埋め尽くされていた。
(……いや、十分に厄介だって。少なくとも、正面切って戦いたくない)
自身の戦闘能力を鑑みた上で、『最期の世代』達と同様に敵対したくないなと考える朔夜。だが、弥生の方は特に気にすることなく、佳奈と盾の改善案について話し出してしまう。
それこそ、敵が増える可能性を恐れていないとばかりに。
「盛り上がっているところ悪いが……その製作資金も含めて、稼ぎに行くぞ」
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いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編7が完結しました!(2026.1.29)
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