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162 親に向かない者も居る(その4)
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自室から戻ってきた星来が手にしていたのは、朔夜が出てきた田舎町では見慣れ過ぎている……本来であれば、この場にあってはならない代物だった。
(拳銃の、ガンケース……?)
再び腰掛け、朔夜の前で開けられたガンケースの中には旧式の、.45口径の自動拳銃が納められていた。
『これは?』
『義弘君の……あなたの、お父さんの銃よ』
しかし、星来の手は自動拳銃ではなく、その下の方にある弾倉へと伸びていく。
『整備すれば、銃もまだ使えるらしいけれど……大事なのは、弾倉』
よく見ると、朔夜の目に弾倉として映っていたのは、それによく似せた小物入れだった。見え難いつまみを軽く押すと留め金が外れ、本来ではネジ止めされているはずの部品が外れてしまう。
弾倉型の小物入れに入っていたのはタグが付いた、一本の窪みがある鍵だった。
そして、タグの方には8桁と9桁の、二つの数字が並んでいる。それが何の数字かは、それぞれが下六桁で区切られているのを見た途端、朔夜はすぐに気付いた。
『この場所に、何があるんですか?』
それが位置情報の、南北方向と東西方向を表す数字であることを。
『隠し倉庫の一つよ。行ったことがないから、もしかしたら、お父さんが死んでからずっと放置されてたかもしれないけれど……非常用の金品や『武器商人』とかへの連絡手段みたいなのが、まだ残っているはずよ』
そして星来もまた、朔夜と同様に察しているのだろう。
非常用ということは、金品や連絡先といった情報の控えだけでなく……銃器類や偽造身分等、犯罪行為に手を染める上で必要な緊急用の道具が揃っていることを。
『私の伝手じゃ、アメリカには持っていけないし……卒業したお祝いも兼ねて、あなたに託します。使うか処分するか、もしくは換金するかは、全部任せるわね』
『いいん、ですか……?』
どう使うかは、実物を見てみなければ分からない。ただ、緊急用の道具であるならば、しばらくは食うに困らないだけの金品の類は揃っているはずだ。放置されている間に強盗にでも遭ってない限りは、まず間違いないだろう。
それを星来は、自分ではなく朔夜に全て、譲ろうとしているのだ。思わず、確認を取りたくなってしまうのも仕方がない。
しかし、星来は静かに首を振ってきた。
『彼の形見なら、他にもあるわ。あなたにだけ、何も渡さないのは不公平でしょう? それに……』
むしろ、それが本当の理由だと言わんばかりに、星来は一息吐いてから答えた。
『……これには遺された中でも、非合法の物が全て詰まっている。だから、あなたがそれを受け取らなければ、どうせ処分しなければならないの』
それでも、今後の生活の足し位にはなるはずだ。だが星来は、頑として自動拳銃と弾倉型の小物入れを中に入っていた鍵ごと、ケースに納めて押し出してきた。
『だから、あなたがどんな『考古学者』になりたいのかは分からないけれど……必要なら、使って欲しいのよ』
『……分かりました』
銃器の扱いは、星来と同居する前に散々叩き込まれている。.45口径の自動拳銃は初めてだが、肉体的な成長と鍛錬で十分対応できるだろう。
(……いや、それ以前か。使うにしても売るにしても、まずは実物を見てからだな)
父、義弘の生前の品、という時点ですでに、世代遅れの武器しか残っていないはずだ。眼前の自動拳銃のように、信頼性の高い現行型も含まれているだろうが、部品が寿命を迎えている可能性は高い。その辺りは、期待しない方が良さそうだ。
(どうせ、何をやるにも軍資金が要るんだ。だったら……まずは、そいつを元手に稼ぐか)
中学卒業から一年もしない内に、他の『最期の世代』達はすでに、行動を開始している。それどころか、妹分が真っ先に、明確な成果を世間に刻み付けていた。
自身が、何の努力もしていないと言えば嘘になる。
けれども、まだ実行に移していないのであれば、努力なんてものはしていないも同然だ。
『じゃあ…………遠慮なく』
そして、朔夜は中身が戻されたケースを静かに閉じ、手元に引き寄せた。
「それで思い出したけど……隠し倉庫の中身は、どうだったの?」
「結構良い物が揃ってましたよ。さすがに消耗品や、時代遅れの代物が多かったですけど……金品だけでなく、宝の地図とかも残ってましたし」
その言葉通り、歴史的な価値のある芸術作品や、その手掛かりとなる品々も含めて、厳重に保管されていた。おそらくだが、秀吉との問題さえなければ……将来的に、解明しようとしていたのかもしれない。
朔夜や星来、そして……秀吉達と共に。
「とはいえ、出所探られたら面倒な物ばかりなので、今は考古学を勉強しつつ、個人の時間で地道に探していますよ」
「そう。まあ……ちゃんと大切にしてくれているのなら、良かったわ」
吸殻入れに灰の尽きた煙草を落としてから、星来は部屋へ戻ろうとしていた。
「先にお風呂、いただくわね。朔夜さんは?」
「もう少し……吸っていきます」
すでに、花火の轟音すら響かなくなっている夜空の下、星来を見送ることなく、朔夜はまた新しい煙草を抜いた。
星来がアメリカに戻る飛行機の便は、夕方に出立するはずだった。
しかし、朔夜が目を覚ました時にはすでに部屋を後にしたらしく、一枚の手紙だけがテーブルの上に置かれていた。奇しくも、そこはかつて、星来が義弘のガンケースを載せた場所でもあった。
「『墓参りしてから帰ります。お気遣いなく』……まあ、いいけど」
聞きたいことは、すでに聞いた。そもそもの話、たとえ母娘であろうとも、特に用事がないのであれば、訪問中はずっと張り付いている義務はない。それがわずか、一泊しか滞在できなくても、だ。
「…………」
むしろ、朔夜は不自然に残された、手紙の空白部分が気になって仕方がなかった。
(光に透かすと……何か書かれているな。炙り出しとかか?)
古典的だが、下手に電子機器を用いるよりも、情報の流出は避けられる。もっとも、これを見つけたのが朔夜以外だった場合は、何の意味も成さないだろうが。
(まあ、同じ部屋に居たんだ。その中で書いたなら、誰かが押し入っても私が対処するとか、思ってたんだろうな)
それでも念を入れていたのか、(朔夜にとっては)簡単な暗号で『ベッドの下』と、見えない筆跡で記されている。
そのメモの指示に従い、星来の部屋に入って調べてみると……ベッドフレームの裏に、封筒が貼り付けられていた。
(私物は渡米前に、粗方片付けていったはずだ。事前に用意して、日本に持ち込んだのか? なんでそんな面倒臭いことを……)
色合いは地味だが派手な装飾が目立つ封筒の中に入っていたのは、大小と差のある便箋だった。小さい方にはただ一言、『アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局の件は、嘘じゃないわよ』と書かれている。
(…………嘘じゃ、ない?)
それを脳で理解した途端、朔夜は残りの便箋と封筒を握ったまま、かつての私室兼作業部屋へと早足で入り込む。向かったのは一晩過ごした寝床ではなく、自前のノートPCを置いた作業机の方だった。
作業用に持ち込んでいたゲーミングチェアに腰掛けてすぐ、朔夜は手紙を一瞥した後、そのまま机下のシュレッダーを引っ張り出した。
(『朔夜さんが話していた、宝の地図の中に…………おそらくですが、第二次世界大戦時代の兵器があります』、っ!?)
単刀直入に書かれた手紙の内容に、朔夜は思わず、自身の記憶だというのに疑ってしまい、再び目を通そうとしてしまう。だが、万が一に備えてすぐ処分する為にシュレッダーの電源を入れ、いつでも裁断できるように、どうにか踏み止まれた。
そして改めて、脳裏で手紙の続きをなぞっていく。
(『生前に聞いた限りでは、『研究開始の直後に終戦となった為、お蔵入りした兵器の在処』らしいですが、詳細は分かりません。ですが、その件で聴取を受けました』か。まさか、な……)
それがまともに使えるのか、そもそも爆発物なのかどうかすらも、分からない。だからこそ、『たかが噂だ』と優先順位が低かったのだろう。
……だが、『運び屋』が暁連邦共和国相手に喧嘩を吹っ掛けたことにより、放置するのは危険だと、周囲は判断したらしい。結果、星来にまで話が及んでしまい、面倒な状況に陥ってしまったようだ。
(『余計な疑惑を生まない為に、聴取の際は伏せましたが……その地図の出所は、『運び屋』の家からです』。本気、か……まあ、そりゃ伏せるよな)
何せ、暴れている当人の実家から出てきた地図なのだ。おまけに、中身は兵器の疑いがあるとなれば、調べない方がどうかしている。だから連邦捜査局や米国国家安全保障局だけでなく、アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局も動いているのだろう。
(『何かの手掛かりになるかは分かりませんし、余計な疑惑を抱かれるかもしれません。現に今も、あちこちから探られている状態です。ただ……』)
その次に書かれていた一文は、自分を不利な状況に追い込むことになるとしても、朔夜を突き動かすには十分な内容だった。
(『その話を聞いたのは義弘君……あなたのお父さんの友人達と会った時です』、か……)
直接関わっているかは不明だが、『スミレ』という人物の情報に繋がっている可能性がある以上、無視はできない。それにもし、『兵器』もしくはその類が本当にあるのならば、それを見つけて適当な組織に渡せば、最悪の事態だけは回避できる。
そのことには、疑惑の目を向けられている星来自身も気付いているらしい。
(『調べるかどうかは、朔夜さんの判断に委ねますが……くれぐれも、扱いには気を付けて下さい。では、また会える日まで。星来』…………)
脳内に記憶した内容を読み終えた朔夜は、書かれた便箋や封筒そのものに隠されたメッセージがないことを確認してすぐ、シュレッダーで裁断した。
宝の地図は手元にない。そもそも、『超記憶力』がある朔夜には持ち出す必要がなかった。そして不幸中の幸いか、星来が来日する前に睦月が会いに来たこともあって、武器は事前に用意してある。
問題があるとすれば……今は一人しか居ない、ということだろうか。
(必要なのは面子と……時間だな)
マンションの駐車場は部屋と同様に契約したままなので、朔夜が乗ってきた車もそこに停めてある。無論、車内には持ち込んだ武器や予備の着替え……周囲には星来を尾行して来たであろう何者かが、隠れて様子を窺っていた。
(……SELECT――『宝の地図』、『武器』もしくは『兵器』。WHERE――『父親の遺産』)
自室内で確認しようとも考えたが、武器は全て車の中に残していたので、万が一の襲撃に備えて避難してきた。
そして、最低限の安全を確保してから、記憶を漁ってみたのだが……
(…………本当にあった)
目的の情報は、すぐに出てきた。
(場所は、日本の南方か。とりあえず……)
車の外から見えるよう、自動拳銃を抜いたりはしない。代わりに取り出したのは、自前のノートPCだった。電源を入れてすぐ、スマホ越しのインターネット接続を介して、秘匿回線へと接続する。
そのまま目的の人物へと、情報の盗み見を警戒しながら不正アクセスを仕掛けて、周囲に気付かれないようにメッセージを残した。
後日、二人で花火を観ていたことを聞き付けた由希奈が彩未を引き連れて、とうとう自宅にまで足を踏み入れてきてしまった。
「と、言っても……そこまでロマンチックな場所じゃないぞ? あそこに連れ込んだ奴の中には、服引ん剥いて蜂蜜ぶっかけてから、銃口突き付けた状態で穴堀らせたこともあったし。そのせいで虫が寄ってきて、最後は色々と漏らしまくって大変だったからな」
「それって、どういう拷問方法?」
思わず呆れる彩未を他所に、睦月の話を聞き終えた由希奈は台所で(手土産の)スイカを切っている姫香に、小声で話し掛けた。
「……そんな所で、花火を観てたの?」
そう問い掛けてくる由希奈に、姫香は鼻で笑うだけだった。
「まあ、花火観れることに気付いたのだって、単なる偶然……ん?」
仕事用のノートPCでメールボックスを確認していた睦月は、いつものごとく依頼が来ていないことに溜息を吐こうとしたのだが……受信の通知音が鳴り響いたことに、思わず目を見開いてしまう。
まだ精査の段階とはいえ、貴重な収入源だ。思わず前のめりになりながら、画面を注視する睦月。
(…………って、朔?)
内容を確認し、まさかの依頼人の名前を見た睦月は、目を細めつつ首を傾げた。
(拳銃の、ガンケース……?)
再び腰掛け、朔夜の前で開けられたガンケースの中には旧式の、.45口径の自動拳銃が納められていた。
『これは?』
『義弘君の……あなたの、お父さんの銃よ』
しかし、星来の手は自動拳銃ではなく、その下の方にある弾倉へと伸びていく。
『整備すれば、銃もまだ使えるらしいけれど……大事なのは、弾倉』
よく見ると、朔夜の目に弾倉として映っていたのは、それによく似せた小物入れだった。見え難いつまみを軽く押すと留め金が外れ、本来ではネジ止めされているはずの部品が外れてしまう。
弾倉型の小物入れに入っていたのはタグが付いた、一本の窪みがある鍵だった。
そして、タグの方には8桁と9桁の、二つの数字が並んでいる。それが何の数字かは、それぞれが下六桁で区切られているのを見た途端、朔夜はすぐに気付いた。
『この場所に、何があるんですか?』
それが位置情報の、南北方向と東西方向を表す数字であることを。
『隠し倉庫の一つよ。行ったことがないから、もしかしたら、お父さんが死んでからずっと放置されてたかもしれないけれど……非常用の金品や『武器商人』とかへの連絡手段みたいなのが、まだ残っているはずよ』
そして星来もまた、朔夜と同様に察しているのだろう。
非常用ということは、金品や連絡先といった情報の控えだけでなく……銃器類や偽造身分等、犯罪行為に手を染める上で必要な緊急用の道具が揃っていることを。
『私の伝手じゃ、アメリカには持っていけないし……卒業したお祝いも兼ねて、あなたに託します。使うか処分するか、もしくは換金するかは、全部任せるわね』
『いいん、ですか……?』
どう使うかは、実物を見てみなければ分からない。ただ、緊急用の道具であるならば、しばらくは食うに困らないだけの金品の類は揃っているはずだ。放置されている間に強盗にでも遭ってない限りは、まず間違いないだろう。
それを星来は、自分ではなく朔夜に全て、譲ろうとしているのだ。思わず、確認を取りたくなってしまうのも仕方がない。
しかし、星来は静かに首を振ってきた。
『彼の形見なら、他にもあるわ。あなたにだけ、何も渡さないのは不公平でしょう? それに……』
むしろ、それが本当の理由だと言わんばかりに、星来は一息吐いてから答えた。
『……これには遺された中でも、非合法の物が全て詰まっている。だから、あなたがそれを受け取らなければ、どうせ処分しなければならないの』
それでも、今後の生活の足し位にはなるはずだ。だが星来は、頑として自動拳銃と弾倉型の小物入れを中に入っていた鍵ごと、ケースに納めて押し出してきた。
『だから、あなたがどんな『考古学者』になりたいのかは分からないけれど……必要なら、使って欲しいのよ』
『……分かりました』
銃器の扱いは、星来と同居する前に散々叩き込まれている。.45口径の自動拳銃は初めてだが、肉体的な成長と鍛錬で十分対応できるだろう。
(……いや、それ以前か。使うにしても売るにしても、まずは実物を見てからだな)
父、義弘の生前の品、という時点ですでに、世代遅れの武器しか残っていないはずだ。眼前の自動拳銃のように、信頼性の高い現行型も含まれているだろうが、部品が寿命を迎えている可能性は高い。その辺りは、期待しない方が良さそうだ。
(どうせ、何をやるにも軍資金が要るんだ。だったら……まずは、そいつを元手に稼ぐか)
中学卒業から一年もしない内に、他の『最期の世代』達はすでに、行動を開始している。それどころか、妹分が真っ先に、明確な成果を世間に刻み付けていた。
自身が、何の努力もしていないと言えば嘘になる。
けれども、まだ実行に移していないのであれば、努力なんてものはしていないも同然だ。
『じゃあ…………遠慮なく』
そして、朔夜は中身が戻されたケースを静かに閉じ、手元に引き寄せた。
「それで思い出したけど……隠し倉庫の中身は、どうだったの?」
「結構良い物が揃ってましたよ。さすがに消耗品や、時代遅れの代物が多かったですけど……金品だけでなく、宝の地図とかも残ってましたし」
その言葉通り、歴史的な価値のある芸術作品や、その手掛かりとなる品々も含めて、厳重に保管されていた。おそらくだが、秀吉との問題さえなければ……将来的に、解明しようとしていたのかもしれない。
朔夜や星来、そして……秀吉達と共に。
「とはいえ、出所探られたら面倒な物ばかりなので、今は考古学を勉強しつつ、個人の時間で地道に探していますよ」
「そう。まあ……ちゃんと大切にしてくれているのなら、良かったわ」
吸殻入れに灰の尽きた煙草を落としてから、星来は部屋へ戻ろうとしていた。
「先にお風呂、いただくわね。朔夜さんは?」
「もう少し……吸っていきます」
すでに、花火の轟音すら響かなくなっている夜空の下、星来を見送ることなく、朔夜はまた新しい煙草を抜いた。
星来がアメリカに戻る飛行機の便は、夕方に出立するはずだった。
しかし、朔夜が目を覚ました時にはすでに部屋を後にしたらしく、一枚の手紙だけがテーブルの上に置かれていた。奇しくも、そこはかつて、星来が義弘のガンケースを載せた場所でもあった。
「『墓参りしてから帰ります。お気遣いなく』……まあ、いいけど」
聞きたいことは、すでに聞いた。そもそもの話、たとえ母娘であろうとも、特に用事がないのであれば、訪問中はずっと張り付いている義務はない。それがわずか、一泊しか滞在できなくても、だ。
「…………」
むしろ、朔夜は不自然に残された、手紙の空白部分が気になって仕方がなかった。
(光に透かすと……何か書かれているな。炙り出しとかか?)
古典的だが、下手に電子機器を用いるよりも、情報の流出は避けられる。もっとも、これを見つけたのが朔夜以外だった場合は、何の意味も成さないだろうが。
(まあ、同じ部屋に居たんだ。その中で書いたなら、誰かが押し入っても私が対処するとか、思ってたんだろうな)
それでも念を入れていたのか、(朔夜にとっては)簡単な暗号で『ベッドの下』と、見えない筆跡で記されている。
そのメモの指示に従い、星来の部屋に入って調べてみると……ベッドフレームの裏に、封筒が貼り付けられていた。
(私物は渡米前に、粗方片付けていったはずだ。事前に用意して、日本に持ち込んだのか? なんでそんな面倒臭いことを……)
色合いは地味だが派手な装飾が目立つ封筒の中に入っていたのは、大小と差のある便箋だった。小さい方にはただ一言、『アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局の件は、嘘じゃないわよ』と書かれている。
(…………嘘じゃ、ない?)
それを脳で理解した途端、朔夜は残りの便箋と封筒を握ったまま、かつての私室兼作業部屋へと早足で入り込む。向かったのは一晩過ごした寝床ではなく、自前のノートPCを置いた作業机の方だった。
作業用に持ち込んでいたゲーミングチェアに腰掛けてすぐ、朔夜は手紙を一瞥した後、そのまま机下のシュレッダーを引っ張り出した。
(『朔夜さんが話していた、宝の地図の中に…………おそらくですが、第二次世界大戦時代の兵器があります』、っ!?)
単刀直入に書かれた手紙の内容に、朔夜は思わず、自身の記憶だというのに疑ってしまい、再び目を通そうとしてしまう。だが、万が一に備えてすぐ処分する為にシュレッダーの電源を入れ、いつでも裁断できるように、どうにか踏み止まれた。
そして改めて、脳裏で手紙の続きをなぞっていく。
(『生前に聞いた限りでは、『研究開始の直後に終戦となった為、お蔵入りした兵器の在処』らしいですが、詳細は分かりません。ですが、その件で聴取を受けました』か。まさか、な……)
それがまともに使えるのか、そもそも爆発物なのかどうかすらも、分からない。だからこそ、『たかが噂だ』と優先順位が低かったのだろう。
……だが、『運び屋』が暁連邦共和国相手に喧嘩を吹っ掛けたことにより、放置するのは危険だと、周囲は判断したらしい。結果、星来にまで話が及んでしまい、面倒な状況に陥ってしまったようだ。
(『余計な疑惑を生まない為に、聴取の際は伏せましたが……その地図の出所は、『運び屋』の家からです』。本気、か……まあ、そりゃ伏せるよな)
何せ、暴れている当人の実家から出てきた地図なのだ。おまけに、中身は兵器の疑いがあるとなれば、調べない方がどうかしている。だから連邦捜査局や米国国家安全保障局だけでなく、アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局も動いているのだろう。
(『何かの手掛かりになるかは分かりませんし、余計な疑惑を抱かれるかもしれません。現に今も、あちこちから探られている状態です。ただ……』)
その次に書かれていた一文は、自分を不利な状況に追い込むことになるとしても、朔夜を突き動かすには十分な内容だった。
(『その話を聞いたのは義弘君……あなたのお父さんの友人達と会った時です』、か……)
直接関わっているかは不明だが、『スミレ』という人物の情報に繋がっている可能性がある以上、無視はできない。それにもし、『兵器』もしくはその類が本当にあるのならば、それを見つけて適当な組織に渡せば、最悪の事態だけは回避できる。
そのことには、疑惑の目を向けられている星来自身も気付いているらしい。
(『調べるかどうかは、朔夜さんの判断に委ねますが……くれぐれも、扱いには気を付けて下さい。では、また会える日まで。星来』…………)
脳内に記憶した内容を読み終えた朔夜は、書かれた便箋や封筒そのものに隠されたメッセージがないことを確認してすぐ、シュレッダーで裁断した。
宝の地図は手元にない。そもそも、『超記憶力』がある朔夜には持ち出す必要がなかった。そして不幸中の幸いか、星来が来日する前に睦月が会いに来たこともあって、武器は事前に用意してある。
問題があるとすれば……今は一人しか居ない、ということだろうか。
(必要なのは面子と……時間だな)
マンションの駐車場は部屋と同様に契約したままなので、朔夜が乗ってきた車もそこに停めてある。無論、車内には持ち込んだ武器や予備の着替え……周囲には星来を尾行して来たであろう何者かが、隠れて様子を窺っていた。
(……SELECT――『宝の地図』、『武器』もしくは『兵器』。WHERE――『父親の遺産』)
自室内で確認しようとも考えたが、武器は全て車の中に残していたので、万が一の襲撃に備えて避難してきた。
そして、最低限の安全を確保してから、記憶を漁ってみたのだが……
(…………本当にあった)
目的の情報は、すぐに出てきた。
(場所は、日本の南方か。とりあえず……)
車の外から見えるよう、自動拳銃を抜いたりはしない。代わりに取り出したのは、自前のノートPCだった。電源を入れてすぐ、スマホ越しのインターネット接続を介して、秘匿回線へと接続する。
そのまま目的の人物へと、情報の盗み見を警戒しながら不正アクセスを仕掛けて、周囲に気付かれないようにメッセージを残した。
後日、二人で花火を観ていたことを聞き付けた由希奈が彩未を引き連れて、とうとう自宅にまで足を踏み入れてきてしまった。
「と、言っても……そこまでロマンチックな場所じゃないぞ? あそこに連れ込んだ奴の中には、服引ん剥いて蜂蜜ぶっかけてから、銃口突き付けた状態で穴堀らせたこともあったし。そのせいで虫が寄ってきて、最後は色々と漏らしまくって大変だったからな」
「それって、どういう拷問方法?」
思わず呆れる彩未を他所に、睦月の話を聞き終えた由希奈は台所で(手土産の)スイカを切っている姫香に、小声で話し掛けた。
「……そんな所で、花火を観てたの?」
そう問い掛けてくる由希奈に、姫香は鼻で笑うだけだった。
「まあ、花火観れることに気付いたのだって、単なる偶然……ん?」
仕事用のノートPCでメールボックスを確認していた睦月は、いつものごとく依頼が来ていないことに溜息を吐こうとしたのだが……受信の通知音が鳴り響いたことに、思わず目を見開いてしまう。
まだ精査の段階とはいえ、貴重な収入源だ。思わず前のめりになりながら、画面を注視する睦月。
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